ある日の事。
オルフェノクについての情報を集めていた乾のもとに、一通のメールが届いた。
「…………?」
乾はメールの内容を見て、眉をしかめる。
メールには、たったの一文しか書かれていなかったのである。
『零号ホロウにて、オルフェノクの存在を確認』
「…………なんだこれ」
文を見て、真っ先に出た言葉がそれだった。
さらに送り主は恐らく使い捨てメールアドレスでこの文を送ってきている。
普段ならスパムとしてゴミ箱送りにしていたのだが……メールに書かれた単語二つが、それを躊躇わせていた。
(……よりによって零号ホロウかよ)
メールにはご丁寧にオルフェノクが写った写真と、キャロットのデータまで添付されている。
正体不明のメールの送り主の意図がなんであれ、乾はメールの内容をあえて真に受け、零号ホロウへと行かなければならない。
ただでさえ情報の少ないオルフェノクの居場所を知る者が現れたのだ。
オルフェノクの情報が本当である可能性が一パーセントでもあるのなら、ひとまずは行くべきだと乾は考えていた。
仮にメールが嘘や罠だったりしても、徒労に終わるだけなら安いものだ。
なぜ送り主はオルフェノクのことを知っているのか、疑問がないわけではないが。
「おい、行くぞ」
「ンナナ?」
乾は支度を済ませ、椅子でくつろいでいる狼姿のボンプに声をかける。
このオオカミボンプは、乾がホロウを探査中に拾った野良ボンプだ。
ホロウを出られず右往左往していた所を見つけ、連れて帰ることにした。
記憶媒体が故障しており、以前の名前が思い出せないらしかったので、適当に『ヒヤジル』と名付けたら非常に不満げな様子だった。
仕方ないので体が灰色なことから『アッシュ』と名付け、行動を共にする事にしたのだ。
そのアッシュは乾の呼びかけに元気よく応じ、トテトテと乾に着いていく。
こうして一人と一匹は、零号ホロウへと向かった。
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「……っ、相変わらずすげぇ所だな……ここは」
「ンナーナ!」
他の原生ホロウの比ではない程のとてつもないエーテル活性。
できれば、このような危険な場所へは足を踏み入れたくはなかったが……ここにオルフェノクがいる可能性がある以上、放ってはおけない。
乾はデルタドライバーを取り出し、腰に装着する。
「変身」
[Standing by…]
[Complete]
デルタフォンに音声入力をし、ベルト右部にあるデルタムーバーへとセット。
青白い光に包まれ、乾はデルタへと変身した。
キャロットのデータに頼り、オルフェノクが現れたという場所を目指して歩くデルタ。
立ちはだかるエーテリアスをなぎ倒しながら、特にアクシデントもなく、デルタは裂け目を通じて目的の場所へと辿り着いた。
「…………」
ここに例のオルフェノクがいる。
デルタは奇襲に最大限警戒しながら、辺りを見回す。
そして────デルタは目にした。
「!!」
大きな翼を広げた
「ンナ……!(相棒……!)」
「下がってろ」
[Ready]
ブラスターモードのデルタムーバーを取り外し、音声入力をする。
「ファイア」
[Burst Mode]
銃を構え、飛行物体を撃ち落とすべくバースト射撃を試みる。
飛行物体は、飛んでくる弾を翼をはためかせて綺麗に交わしていく。
そして鷲の姿をしたオルフェノク……イーグルオルフェノクは地面にいるデルタ目掛けて、まるでジェット機と見紛うほどのスピードで襲いかかってきた。
「っ!!」
間一髪で反応したデルタは、横方向にロールする事で突進を避けた。
……が、イーグルオルフェノクは休息も許さず上空から追撃を仕掛けてくる。
「ぐっ、くっ……!!」
デルタは攻撃を防御し、反撃に出ようとするが……オルフェノク側は攻撃した後すぐに上空に逃げる戦法を取っていたため、手も足も出ない状況だった。
デルタはそれに若干のイラつきを覚え、デルタムーバーを口元に近づける。
「スリーエイトツーワン!」
[Jet Sliger, Come closer]
銃撃で牽制しながら呼び出したジェットスライガーに乗り込み、空中戦に持ち込む。
ホロウの上空で、デルタはイーグルオルフェノクを追跡する。
イーグルオルフェノクは逃げながら、追ってくるデルタ目掛けてエーテル弾を発射する。
「……っ、この……!」
デルタはハンドルを操作し、旋回しながら弾をかわし、お返しに数発のミサイルを発射。
「ッ!? グァアアアア!!」
爆発とともに響く悲鳴。
そのままイーグルオルフェノクは自由落下し、地面へと叩きつけられた。
ジェットスライガーから飛び降りたデルタは、イーグルオルフェノクの姿を確認する。
「グゥウウウ……!!」
イーグルオルフェノクは満身創痍の状態で、こちらを睨みながら獣のような声を出していた。
(……コイツも喋らねぇタイプか)
現在確認されたオルフェノクのほとんどは喋る事ができなかった。
もし喋る事ができるタイプなら、色々な情報を聞き出せたのだが……致し方ないだろう。
「チェック」
[Exceed Charge]
音声入力後、デルタムーバーの銃口に集束していく銀色のフォトンブラッドエネルギー。
デルタはトリガーを引き、イーグルオルフェノク目掛けてポインティングマーカーを発射した。
動きが封じられるオルフェノク。デルタはそのまま走り出し、大きく飛び上がる──
「やぁぁあああああ!!」
空中で両足を突き出し、デルタはイーグルオルフェノクに『ルシファーズハンマー』をお見舞いした。
『Δ』マークとともに為す術なく灰と化すイーグルオルフェノク。
「ンナナ! ンナ!(やったな! 相棒!)」
「油断はすんな。あと俺を相棒って言うな」
戦いを見守っていたアッシュが、デルタの元へと駆け寄る。
すると。
「グォォオオオオ!!」
今まで息を潜めていたのか、咆哮とともに一斉に無数のエーテリアスが姿を現した。
やはり零号ホロウは油断ならない。デルタとアッシュは、戦闘態勢に入る──
「一刀、両断」
その瞬間、凛とした声がデルタの耳に入ってきた。
それが声だと認識する前に、周りの全てのエーテリアスが斬撃によって真っ二つとなってしまった。
この間、わずか一秒にも満たなかった。
「──お前が乾巧か」
「!」
声がした方を振り返ると、そこには刀を携えた狐のシリオンの少女の姿があった。
乾は彼女の姿に……いや、乾だけではないだろう。
恐らく新エリー都の市民ほとんどが、彼女が何者なのかを知っているはずだ。
「アンタは……星見雅か」
「乾巧。お前ならばここに辿り着くと思っていた」
「! もしかして、アンタがメールを……」
「そうだ。"めーる"を送ったのは悠真だがな」
「オルフェノクの存在を利用して、俺をここにおびき寄せたって訳か……アンタ程の人間が、俺に何の用だ」
「単刀直入に言う」
「お前が欲しい」
「……???」
雅は依然変わらない表情で、そう言ってのける。
言葉の意味を、彼女は理解しているのだろうか。
「あー……課長が言いたいのは、対ホロウ六課と協力関係を結びませんかって事ね」
「!! アンタは……」
「ども。僕の名前も知ってるよね? 多分」
雅の他にもう一人。黄色いハチマキを巻いた青年、悠真がいつの間にか場にいた。
「悠真か。遅かったな」
「いや、何度も言ってますけど課長が速すぎるんですって。まあそれで、話を戻すけど……要するに乾さんも僕たちも、オルフェノクを調査するって目的は同じだから、是非協力しませんかって話」
「協力……? 俺としちゃ願ってもないが、アンタらH.A.N.D.の人間だろ。俺はこれでも一応ホロウレイダーだぞ。勝手にそんな事していいのかよ」
「問題ない。責任は全て私が負う……それに、既に腕の立つホロウレイダーと協力関係を結んでいる。そのホロウレイダーが誰なのか、お前ならよく知っているだろう」
「…………」
雅曰く、既に零号ホロウには数体のオルフェノクの存在が確認されているらしい。
いち早く元凶を見つけ、討伐しなければ……零号ホロウに悪影響を及ぼす可能性も否定できない。
「…………分かった。アンタらが良いなら協力する。ただ、気が変わって俺を逮捕するような事はすんなよ」
「心配するな。……ところで、お前に兼ねてより聞きたかった事がある」
「? なんだ」
「取るに足らない、些細な疑問だ。お前が出会ってきたオルフェノクの中に、メロンのオルフェノクはいたか?」
「は?」
「課長の