ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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水着

 

 

 

 

 

「──由々しき事態なのです」

 

 

 

少女は深刻そうな面持ちで、そう呟く。

 

机に置かれている紅茶が入れてあるカップを手に取り、口につける。

 

ひとくち飲んだあと、カップを再び机に置き──

 

 

 

「──由々しき事態なのです」

 

 

 

同じ言葉をもう一度口にする。その表情は、依然として深刻なままだった。

 

 

 

彼女の名前はビビアン。

 

自他共に認める『世界一の』パエトーン強火オタクである。

 

彼女のパエトーンへの熱意は他の者の追随を許さず、二人の為なら余裕で人生を捧げられる程の(偏)愛を持っていた。

 

そんな推してやまないパエトーン二人……アキラとリンについて、ビビアンは独自の情報網にてとある情報を入手した。

 

 

『ファンタジィリゾートの復興にアキラとリンが協力している』

 

 

情報によれば、彼らはファンタジィリゾートの来客数を増やすために、足枷となっている怪奇現象の究明や、様々なアトラクションの設立に尽力しているという。

 

ところが中にはリゾートの復興を快く思わない輩もいるらしく、あの手この手で邪魔立てをしようとする不埒者もいる。

 

 

(……まあ、既に解決なされたらしいですが。確かにこの程度、パエトーン様にとっては赤子の手を捻るようなものなのです)

 

 

……ファンタジィリゾートの復興。確かに大事な事だが、ビビアンにとっての重要な問題はそこではなかった。

 

ビビアンを悩ませている事。

 

 

 

 

 

……それは『アキラとリンが水着を着ている事』だった。

 

 

 

 

 

ファンタジィリゾートはスロノス区にある海と砂浜を拠点としたビーチリゾート。

 

復興するにあたり、当然二人は水着を着ていくことになる。

 

 

それを聞いたビビアンが大人しくしているはずもなく、すぐにモッキンバードのアジトを飛び出した。

 

一秒も早くそのご尊顔を拝みたい。その一心でビビアンはファンタジィリゾートへ着き、人目など気にせず双眼鏡で遠巻きに彼らの姿を目にした。

 

そして──

 

 

 

 

 

『お、お客様!? いかがなさいましたかお客様!!』

 

 

ビビアンは二人の水着を見た瞬間、漫画のようにぶっ飛んだ。

 

幸い気を失うまでには至らなかったものの、その破壊力はビビアンを文字通り吹き飛ばすには十分なものだった。

 

遠くからの双眼鏡でこの破壊力。間近で見たらどうなってしまうのだろう。おそらく無事ではいられない。

 

 

だがせめてもう一回、その麗しい姿を目に焼き付けておきたい。

 

そう思ったビビアンは立ち上がり、再び双眼鏡で二人の水着姿を見ようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼女は目にしてしまった。

 

二人のそばにいる、水着姿の赤髪の少女と、兎のシリオンの少女の姿を。

 

ビビアンがそれに危機感を覚えた事は最早言うまでもない。

 

 

このままでは──

 

 

「このままではっ! 我が愛しきパエトーン様が、何処の馬の骨とも分からない卑しか女に取られてしまうのです!!」

 

 

ビビアンはバンッ!と机を叩く。

 

 

「タクミ! 何度も言いますがこれは由々しき事態なのです! 早急になんとかしなくては……!!」

 

「…………ビビアン」

 

「?」

 

「お前……盗撮とかしてないだろうな」

 

「ししししてないのです」

 

 

ルミナスクエアにあるファミレスにて。

 

ビビアンの向かい側に座るタクミは、メロンソーダを飲みながら彼女を冷ややかな目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水着姿のパエトーン様……お二方の隣に並ぶには、やはりわたしも水着を着る他ないのです」

 

「まあ、そうだよな」

 

 

ルミナモールのスポーツ用品店にやって来た二人。

 

タクミも一緒に来たのは、ビビアンに水着を選ぶのを手伝って欲しいと言われたから。

 

パエトーンと一番近い距離にいる彼なら、きっと最適を選べるかもしれないからだ。

 

それともう一つ理由がある。タクミ自身の水着を買う為でもある。

 

 

 

ファンタジィリゾートの復興については、当然タクミも一緒に協力する事になったのだが……アキラとリンと違い、タクミだけ水着を着ておらず私服の状態だった。

 

柚葉がタクミに何故水着はどうしたのかと聞くと──

 

 

「着れるやつがなかった」

 

 

……と、そう答えた。

 

と言うのも、タクミが昔着ていた水着は身体の成長と共にサイズがキツくなってしまい、とても着れたものではなかったのだ。

 

 

それを聞いた柚葉が──

 

 

『むぅ……それじゃあ色々ひと段落したら、新しく水着買って着て来る事! 楽しみにしてるからね?』

 

 

そんな事を言われ、今に至る。

 

とはいえ、どんな水着にするからそこまで深く考えてはいない。

 

無難に無地の海パンで良いだろうと考えている。あまり派手すぎるのはやめておこう。

 

 

「そういやビビアン、予算とか大丈夫か?」

 

「問題はありません。例え貯金が底を尽きようとも構いません……妥協だけは絶対にしないのです!」

 

 

ビビアンはタクミにスマホを見せる。画面には、この店に売ってある水着のサンプル写真がいくつか載っていた。

 

どうやら友人のリリカが、ビビアンの為に似合うデザインをいくつか、候補として挙げてくれていたらしい。

 

 

「タクミ、貴方はどれが良いと思いますか? わたしは……このせくしーなデザインがの方いいと思うのですが」

 

「んー……悪くはないけど、ちょっと過激かもな」

 

「確かにそうですが……パエトーン様へのアプローチの為なら、このくらいの露出度が良いのでは?」

 

「今から買う水着は二人に見せるためのものだろ? あんまり直視できないほどのやつだと、却って兄ちゃんが見てくれないんじゃねぇか?」

 

「そ、それだと逆効果なのです……なるほど」

 

 

このデザインで着てきたら、リンはともかくアキラは少し狼狽えるかもしれない。

 

刺激が強すぎるのも考えものだ。

 

 

「となると……やはりこれでしょうか。わたしには少し可愛すぎる気もするのですが……」

 

「お、それ良いな。色もデザインもビビアンにピッタリだ」

 

「本当ですか?」

 

 

白と紫を基調とした、非常に可愛らしいデザイン。

 

リリカも恐らくこれが本命なのではないかと思う程には、ビビアンに似合っているデザインだった。

 

このデザインならきっと二人も親指を立てて似合うと言ってくれるはずだ。

 

そう考えていると、ビビアンが何やら深刻な表情をしていることに気がつく。

 

 

「……タクミ。パエトーン様の事なのですが……もう一つ問題があるのです」

 

「なんだ?」

 

「お二方の水着姿があまりにも麗し過ぎて……至近距離まで近づいたら血塗れになりそうなのです」

 

「おいやめろよ? せっかく来てくれたお客さんが来なくなったらどうすんだ……」

 

 

最近、ビビアンはタクミの前限定で煩悩を隠さなくなってきた気がする。何はともあれ、ビビアンにはなんとか我慢してもらうしかない。

 

流血沙汰(語弊あり)でリゾートの来客数が減ってしまっては元も子もない。

 

 

「と……とりあえず暫定このデザインとして、最後の候補を確認しましょう」

 

 

ビビアンは画面をスワイプし、次の画像を表示させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

「これは、ダメだろ……いくらなんでも」

 

「り、リリカは何を考えて……はっ! まさかパエトーン様をメロメロにする為には、このぐらいの思い切りの良さが必要という事……!?」

 

「いやダメだろビビアン、目ぇ覚ませ! こんなん着てったら間違いなく痴女扱いされるぞ!」

 

「さ、流石にそうですよね……ごめんなさいタクミ、今のは忘れて欲しいのです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会計を済ませ、店を出る二人。

 

 

「さあ、早速ファンタジィリゾートへと向かうのです! これでパエトーン様も……!」

 

「え、今から行くのか?」

 

「勿論なのです! 一秒とて時間を無駄にはできません!」

 

「そ、そっか……それなら───あ」

 

「どうかしましたか?」

 

「ごめんビビアン、先に行っててくれないか? 自分の水着買うの忘れた」

 

 

完全に頭から抜け落ちていた。

 

買わずにリゾートに戻ったら柚葉にどやされるかもしれないので、急いで店へと戻る。

 

 

「……? ビビアン、先に行ってていいって」

 

「何を言っているのですか? 貴方の分も選んであげるのです」

 

「え、いや……わざわざそんな事しなくても」

 

「わたしの水着を一緒に選んでくれたのだから、貴方の水着も一緒に選ぶのは当然の事なのです」

 

「で、でも選ぶ程の事でもないし……」

 

「つべこべ言わない! 行くと言ったら行くのです! さあレッツゴーなのです!」

 

「うわっ!? ちょっと──」

 

 

ビビアンはタクミの腕を引っ張り、再びルミナモールへと入って行った。




次回に続きます
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