ラーメン少女
とある日の午後、タクミの部屋。
「──よっしゃ!三十連勝!!」
タクミは部屋で格闘ゲームのランクマッチに勤しんでいた。頭には包帯が巻かれている。
例のヴィジョンの事件から少し経った後。
怪我が良くなるまでしばらく安静にしてなさい、という事で外出禁止令をくらい、タクミはビデオ屋から一歩も外に出る事が出来ずにいた。
しかし昨日から、六分街の範囲までなら一人で出歩いても良い事になった。
だがあくまで六分街まで。ルミナスクエアまで行くには兄か姉の同行が必須となる。
あまりの過保護っぷりに辟易してしまうが、これもタクミを思ってのことらしいので何も言えない。
(……あー)
そんなわけでゲームセンター『GOD FINGER』でスネークデュエルのスコアアタックにチャレンジしたり、家で格闘ゲームをやるなどして暇潰しをしていた訳だが。
(……暇だな)
一日中そればかりやっていては、さすがに飽きが来る。ゲーム機の電源を落とし、ベッドに転がりながら、スマホで動画を見漁る。
アキラとリンは『とある用事』で今手が離せない状態だ。
ふと、窓の外を見る。
「……もうこんな時間かよ」
暇とは言っても、ゲームをしていればあっという間に時間は過ぎるものだ。
(腹減ったなぁ……)
何を食べようかなと悩んでいる時に見ていた動画サイトでラーメンのレビュー動画を見つけた。
(ラーメンか……いいなラーメン)
最寄りのラーメン屋と言えばあそこしかない。タクミは早速支度をし、出掛けることにした。
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六分街のラーメン屋、『麺屋錦鯉』。
「チョップ大将、来たよ」
「おうタクミか!いらっしゃい!」
ラーメン屋の店主、チョップ大将がのれんの奥から出てきた。
「随分久しぶりに見た気がするな、お前さんの顔」
「まあしばらく外出禁止令食らってたからな……」
「なるほどなぁ。頭の怪我はどうだ?」
「順調に回復してるよ」
「そうかそうか!ソイツは何よりだ!」
チョップ大将はガッハッハと笑う。彼とも割と長い付き合いだ。
「──それで、ラーメンを食いに来たんだろ?何にする?」
タクミはメニュー表を見る。
(どーすっかな……燻製チャーシュー麺黒鉢か、白鉢かぼちゃラーメンか……いやでも辛いのも良いな……)
そうして数十秒悩んで、タクミは注文をした。
「黒鉢赤辛──」
「黒鉢赤辛鳥白湯ラーメンを一つ。辛さ二倍」
(──ん?)
声がした方を向くと、隣には見知らぬ少女が座っていた。注文に悩んでいる間に来ていたみたいだ。
白い髪に、黄色いゴーグル。背中には背負っているのは何かの装置……のように見える。
(ここの人、じゃなさそうだな……)
タクミが引きこもっている間に六分街に越してきたのだろうか。
「──お嬢ちゃんは黒鉢赤辛鳥白湯ラーメンね。んでタクミ、お前さんは?」
「え?あ、えっと、同じので」
「あいよ!」
そう言ってチョップ大将は準備に取り掛かった。
ラーメンが出来上がるのを待っていると隣に座っている少女がこちらに気づく……が、特に何も喋らずに向こうを向いた。
「……」
「……」
「ほらよ、二人ともお待たせ!黒鉢赤辛鳥白湯ラーメンだ!」
タクミと少女の前に注文したラーメンが置かれる。タクミは待ってましたと言わんばかりに箸入れから箸を取る。
「「いただきます」」
タクミは早速ラーメンを食べる……自身が猫舌だという事も忘れて。
「あっっっっつ!!」
息を吹いて冷ますのも忘れて麺を口に入れ、タクミは口の中をやけどしてしまった。
「そんなに腹減ってたのか?慌てずに食えよ」
チョップ大将に呆れられてしまった。すると──
「大丈夫?」
隣の少女がタクミに話しかけてきた。
「あ……平気です。すいません食事中に……」
「私は大丈夫よ。それよりも気を付けて。スープの油膜をしっかり冷まさないと、口の中を火傷してしまうわ」
「あっはい」
めちゃくちゃ当たり前の事を諭されてしまうタクミ。
火傷の熱さも忘れてしまう程に、情けなさでいっぱいだった。
お冷で舌を冷やし、今度はしっかりスープを冷ましてラーメンを食べる。
「あー、やっぱうまいなぁ……」
「……貴方もこのラーメンが好きなの?」
少女がタクミにそう聞いてくる。
「この店のラーメンは全部好きっすけど、一番のお気に入りはこれなんですよね」
「おっ!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
チョップ大将はご機嫌な様子だ。ちなみにタクミはお世辞で言っているのではなく、本当にここのラーメンは全て美味しいと思っている。
故に猫舌にも関わらず頻繁にここへ来る。
さらにタクミは辛いもの好きのため、『黒鉢赤辛鳥白湯ラーメン』は一番のお気に入りメニューなのだ。
「……そうなのね」
「この辺りに住んでるんですか?」
「いいえ。でも、私もこのラーメンはお気に入りよ。仕事の帰りに毎回食べるくらいにはね」
「仕事、ですか?何の仕事を?」
「……詳しくは言えないわ」
……まあ、そこら辺詳しく言えないのは理解できる。タクミはこれ以上追及しないことにした。
そして激辛ラーメンをまた一口食べる。刺激的な辛さがやみつきになる。
「……その、失礼だけど、その包帯は?」
「……あー、これっすか?実は散歩中に植木鉢が三階から頭に落ちて来たんですよね」
勿論包帯の原因は別にあるのだが、『散歩中に植木鉢が三階から頭に落ちて来た』経験自体はある。四回ほど。
「……いち早く回復する事を祈っているわ」
「あざっす」
話をしているうちに二人はスープまで飲み干して完食した。
「「ご馳走様でした」」
「おう!また来いよ!」
二人は店を後にした。
「──今日はありがとう。短い間だったけど、おかげで楽しい時間を過ごせた」
「こっちこそありがとうございます──あ、そうだ」
タクミは鞄からチラシを取り出す。Random Playの広告チラシだ。
「俺ん家、ビデオ屋やってるんですよ。良かったら来てください」
「……ありがとう。機会があれば立ち寄ってみるわ」
そう言って少女はニコリと微笑み、その場を去ってく。
去る最中、少女の頭の中には疑問が浮かぶ。
(──あの少年の顔、見覚えがあるような……誰かに似ている……?)
しかし、自分の気の所為だろうと少女は疑問を頭の片隅に追いやり、帰路へついた。
この話の時系列は11号エージェント秘話の後です