任務
ある日の朝。
リンに叩き起されたタクミは、『メイフラワー市長から連絡があった』と言われ、寝癖も直せないままリンの部屋にある映像機器の前まで連れてこられた。
リンの部屋には既にアキラがおり、三人揃ったところで彼女は通信機器を操作し、市長へと通話を繋ぎ始める。
少しした後、機器から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『子供達よ、また君達と言葉を交わせて嬉しい限りだ。そちらでは、変わりはなかったかね?』
「おかげさまで! 衛非地区でも元気ですよ!」
『それは何よりだ。今日、君達に連絡を取ることにしたのは……他でもない、ミアズマと讃頌会についてだ』
讃頌会はサクリファイスの研究、そして製造の為、ラマニアンホロウ内に特殊なエーテル──ミアズマを異常発生させていた。
雲嶽山、そして柚葉達の協力により讃頌会が及ぼす衛非地区への悪影響は大きく削がれた……はずだった。
未だミアズマは消滅せず、それによる侵蝕を受けた労働者達も後を絶たないのが現状だった。
『更にはラマニアンと零号ホロウ……その二つでオルフェノクの存在が数体、確認されている』
「……!」
『零号ホロウでは対ホロウ六課が率先して発見次第、討伐に当たっている。ラマニアンホロウでは、君が讃頌会の研究所でオルフェノクのうち一体を倒して以降は、未だ新しいオルフェノクの姿は確認されていない』
「……被害者はどのくらい?」
『幸い、ここ一週間の間での新しい犠牲者はいない。とはいえ、オルフェノクがオルフェノクを生み出すという特性上、いち早く根源を絶たなければならないことに変わりは無い』
乾曰く、『オリジナル』のオルフェノクと『使徒再生』により生み出されたオルフェノクでは、能力に差があるらしい。
今まで出会ってきたオルフェノクは、ほとんどが対話もままならない種類ばかりだった。
『オリジナル』であろうサイガの変身者と違い、タクミが出会ったオルフェノクは全て『使徒再生』によって生み出されたオルフェノクなのだろう。
新しいオルフェノクの出現ペースが非常に遅い事を考えると、『使徒再生』によって生み出されたオルフェノクは、新たな同類を生み出す程の力はないと考えられる。
つまり点在しているオルフェノクの元凶はサイガ含め一、二体である事が推測される。
『サイガの変身者は讃頌会と少なからず関わりがある。身元や彼らとの関係は依然不明のままだが、讃頌会の陰謀を暴けば、自ずとその詳細も分かるはずだ』
「ですが……讃頌会の拠点すら分からない今の状況でそんな事ができるかは……」
『ああ、今までならそうだった。だが、災禍の元を根絶するチャンスが訪れたのだ』
「チャンス?」
『うむ。ポーセルメックスの共同CEOフェロクス氏の失脚により、衛非地区における同社の影響力と権能の及ぶ範囲が大幅に制限されたのは知っての通りだ』
讃頌会と結託していた事が公になり、ポーセルメックスは一歩引かざるを得ない状況に陥った。
これで市政側は衛非地区の調査をスムーズに行えるようになった……かと思いきや、今度は別の問題がやってきた。
『数日前、防衛軍所属のロレンツ少将率いる部隊が衛非地区に次々と駐留を始め……ポーセルメックスに対する査問、及び讃頌会の鎮圧を名目に、衛非地区に一時的な軍事管制を敷いたのだ』
「防衛軍……? 何でこのタイミングで、衛非地区の問題に関わるようになったんだろ……」
『衛非地区は輝磁の主要な産地だ。『都市を守る』という大義名分で、その土地を我がものと出来るなら……防衛軍とて黙ってはいないだろう』
市長曰く、ロレンツ少将は『目的のためなら手段をも選ばない』と評されるほどの冷酷な人物らしく、さらにポーセルメックスのもう一人のCEOであるルクローと協力関係にあるらしい。
フェロクスの失脚を機に、衛非地区の利益をロレンツと山分けにするつもりだろう。
防衛軍の後ろ盾さえあれば、TOPSとしての彼の地位も確固たるものになる。
「TOPSと防衛軍の裏事情は分かりましたが……これのどこが、讃頌会を撲滅するチャンスなんです?」
『防衛軍の提出した行動計画書において、"讃頌会の撲滅"は最重要項目として挙げられていた……衛非地区に駐留する理由としては、最も正当なものになるだろう』
市民の安全のため、市政も『讃頌会の撲滅作戦』には協力は惜しまないつもりだった。
だがTOPSと防衛軍がいるこの混沌とした状況に介入するとなれば、余計な混乱を招きかねない。
当然、メイフラワーと関わりのある雲嶽山も下手に関わることはできない。
「ははーん、つまり私達の出番って事ですね!? この最強のパエトーンの力がいると!」
「……リン? どうしたんだい急に……」
「昨日俺にテト〇スで五連勝して、調子に乗りまくってんだよな姉ちゃんは」
「はいそこうるさい!」
『はっはっは……とは言え、間違ってはいない。この状況において、君達を置いて適任はいない。防衛軍の部隊一覧には、"オボルス小隊"の名があった。きっと頼もしい味方になってくれるはずだ』
さらに、今回の掃討作戦はかつてフェロクス打倒に協力したイゾルデ大佐が指揮を執るとの事だ。
リン達は、『特任ホロウ技術顧問』兼『市長付き軍事行動特派員』として本作戦に参加する事になる。
『それでは、政務が立て込んでいるゆえ、これにて失礼する。幸運を祈っているよ』
その言葉を最後に、市長との通話は終了した。
「オボルス小隊かぁ。11号やトリガー達が一緒なら安心だね」
「あ……そういえばさ。11号は二人が『パエトーン』だって事、そろそろ信じて貰えたのか?」
「「…………」」
タクミの問いに対し、二人は押し黙る。その沈黙が、何よりの答えだった。
「……実はまだなんだ。彼女は未だに、僕らの事を『パエトーンに憧れる一般プロキシ』だと思っている」
「タクミの時はすんなり信じてたのになんで私達だけ〜……」
「はは……」
項垂れる二人を見てタクミは苦笑する。
実はタクミが入院していた時、オボルス小隊のメンバーがお見舞いに来たことがある。
タクミは今まで11号に自身がファイズである事は言った事がなかった。共に戦う機会がほとんどなかったため、当然と言えば当然だ。
故に今回の件で、11号はタクミがファイズである事……そして『クリムゾン・アイズ・ハーミット』と彼が姉弟である事を知った。
それを知った11号は……
『なるほど……合点がいったわ。前から、貴方と彼女は似ていると思っていたの。それに、まさか貴方がかのパエトーンの右腕なんて……世も末とはこの事ね』
『11号、実はな。兄ちゃんと姉ちゃんは本当にパエトーンなん──』
『皆まで言わなくてもいいわ。ファイズという存在がこれほど近くにいるもの。プロキシの身である以上、あの二人がパエトーンに憧れるのは当然ね』
『えっ』
11号はタクミがファイズである事はすんなり受け入れたが、何故かアキラとリンがパエトーンであるということは微塵も思っていなかったようだ。
一応彼女は以前、リン達と一緒に何回か協力したのだが……名前すら覚えてもらっていない。
「まあ、何はともあれ……明日からは忙しくなる。H.D.Dの調整をした後は、作戦に備えてゆっくり身体を休めよう」
「そだね。ねぇタクミ、またテ〇リスやろーよ!」
「待て、今度はぷよぷ〇で勝負だ。〇よぷよなら負けねーから」
「ふふん、パズルゲームでお姉ちゃんに勝とうなんて百年早いんだから!」
「……夜更かしはしないようにね、二人とも」