「お二人の外出と通信を、作戦完了まで『制限』……!?」
イゾルデが彼女らに伝えたロレンツ少将からの伝言に、リンやオルペウス達は驚きを隠せない。
『パエトーンとファイズを我ら防衛軍の手によって閉じ込め、さらにあらゆる連絡手段を断つという事か』
「そ……それは……なんて、酷いことを……」
「なんでニヤけてるんすかトリガーさん」
「に、ニヤけてなど……」
どう考えても嬉しそうな様子のトリガーを横目に、イゾルデは話を続ける。
「彼のやり方には疑問が残るが……それでも、軍人にとって命令は絶対なのでね。二人も、どうか分かって欲しい」
「制限かぁ……師匠達とも連絡が取れなくなるってことだよね」
『ふん、命令ならば仕方あるまい。二人にはしばらくの間、大人しくしてもらう他ないな』
「そ、そうでありますね……! 命令は絶対でありますから……!」
外への連絡手段の一切を絶たれたというのに、あまり深刻な空気に見えないのは何故なのだろうか。
『本作戦において、オボルス小隊とオブシディアン大隊は最初の防衛ラインだ。讃頌会の掃討は、お前の想定以上に早く終わる事だろう』
「そ、そうですよ! 作戦が完了してしまえば、お二人は晴れて自由の身であります……」
「そうですね、彼女の言う通りです……」
なぜ今になって深刻な空気になるのだろうか。
「それでは命令に従い──位置情報追跡装置の取り付けと、所持している電子機器への一時的な通信機能制限を、技術部門へ依頼する」
これからはノックノック等で連絡を取ることも不可能となる。
せいぜい、妨害電波を貫通するH.D.Dを通して、アキラとFairyに連絡をする事ぐらいだろう。
「こうして行動を制限するやり方は、私個人としてもあまり好ましくは思わないが……先程も言ったように、命令は絶対なんだ。悪く思わないで欲しい」
「大丈夫だよ、一時的なものなんでしょ? 全然我慢できるって!」
リンの言葉に、タクミも頷く。
鬼火の言う事が本当なら、作戦完了までの時間はそう多くない。
作戦完了時にその制限が取り払われた時、大量の通知がタクミのスマホに来る──などと言うことは起こらないはずだ。多分。
と、ここでシードが提案をする。
「あ、そうだ。もうすぐオボルスの定期装備点検があるんだけど、二人も一緒に来ない?」
「え、ああー……私は見るだけでいいかな。手ぶらだし」
「ふーん、何も持ってないの? プロキシくんから、僕のよく知ってるデバイスの匂いがしたんだと思うけどな〜」
「あ、あはは……」
リンは誤魔化すように笑う。
彼女が使用しているデバイスと言うのは、まさにH.D.Dシステムのインプラントなのだが……
パエトーンの極秘情報かつ、唯一の連絡手段のため、シード相手と言えど安易に見せる気にはなれなかった。
「……まあいっか。それじゃたっくんは〜……そのベルトだね!」
「……!」
『タクミ、気持ちは分かるが警戒はせんでいい。シードが行うのは、普通の装備点検だ』
「隊長の仰る通りです! シードは技術的な事に関しては、いつも頼りになるのであります!」
「そ……それなら、分かった」
そうして始まったオボルスの定期点検。
隊員それぞれの武器や装備のチェックをした後、シードはリンの所へ来た。
「次は〜プロキシくん!」
「え……!?」
シードは『点検開始!』と言ったあと、リンの目をじっと見つめ始める。
思わず冷や汗が流れるリン。まさかインプラントの事を勘づかれているのではと考えずにはいられなかった。
そんなリンをよそに、シードは彼女から視線を外した。
「……綺麗なおめめだね! はーい、点検終わり!」
『点検? ただ見つめていただけじゃないか』
「そ、そうだね……ちょっとびっくりしちゃった」
「さてさて最後は〜たっくんの番!」
「!」
タクミは素直にファイズのベルトをアタッシュケースから取り出し、シードに渡す。
シードはファイズドライバーを、興味深そうに見つめる。
「ふむふむ……目立った外傷はなし。こっちの方は〜……」
「…………」
ファイズショットやファイズポインター、ファイズフォンを隅々まで確認したあと、シードはタクミの方に向き直る。
「……うん、点検終わり! 状態は異常なしだよ〜」
「そうか、なら良かった」
「異常なしなんだけど〜……たっくん、ちょっとお願いがあるんだ〜。
「え? 点検するだけじゃ……」
「うん、そのつもりだったんだけど……見てるうちに僕、ちょっと興味が湧いてきちゃって。分解とかはしないし、すぐ返すからさ。いいでしょ?」
「…………」
タクミは彼女の提案に悩む。
オルペウス曰く、彼女は機械類の扱いに長けているとの事だったが……
「……まあ、次ホロウに入るまでに返してくれたらいいよ」
「ホント? ありがとう〜!」
シードはファイズギアを受け取ったあと、その場をあとにした。
『……良かったのか? あれはお前の武器のようなものだろう』
「まあ、分解はしないって言ってるし、多分大丈夫だと思います」
ふと、同じく機械系に精通しているグレースならどうしただろうかという疑問が浮かぶ。
……すぐにその疑問を、頭から消し去った。
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その日の夜、兵士の目を盗み、H.D.Dを通してアキラ、Fairyと連絡を取ったリンとタクミ。
その後、テントで就寝したのだが……翌日の早朝、騒ぎを耳にし目が覚めた。
外へ出てみると……防衛軍のボンプが、ボロボロの状態でシードに抱えられている光景があった。
「シード。このボンプ、どうしたんだ?」
「うん。このボンプちゃんがいた小隊が襲撃を受けたみたいなんだ。この子から救難信号を受けて、急いで救出したんだけど……」
駆けつけた時には既にその小隊は全滅していた。ただボンプだけはまだ辛うじて作動していたので、ここまで連れてきたとの事。
『一体何者と遭遇したのか……視覚記録を観れば分かるはずだが、如何せん損傷が激しい。キャンプ内に技術スタッフはいるか?』
「私に任せて。ボンプは何度も直してきたから」
『そうか、分かった。ならばプロキシ君に任せよう』
「お願いします、プロキシ殿……!」
少しした後、リンはボンプの内部回路を正し、無事ボンプの修理を完了させた。
そしてすぐさまボンプの視覚記録をモニターへと出力した。
再生を開始してしばらくした後……小隊はミアズマから敵の出現を確認。
ただ、彼らが出くわしたのはエーテリアスでも、オルフェノクでもなかった。
その『敵』はなんと、防衛軍の制服を着ていたのだ。
小隊と同じくその身を武装で固め、銃を構え、なんの躊躇いもなく小隊へと発砲。
圧倒的な数で迫り来る戦力には為す術もなく、小隊はあっけなく全滅してしまった。
そして生き残ったボンプは、何者かが現れるのを目にする。
整列した兵士の間から出てきたのは、讃頌会の人間だった。
『やはり……やはり司教様は真実を仰っていた! ミアズマの活性化実験……死者をも蘇らせられる奇跡……! 始まりの主にかかれば造作もない事!』
男の高笑いとともに、ボンプは力尽き、視覚記録が終了した。
「……ミアズマから出てきた兵士、まるで……亡霊のようでした」
『亡霊か……あの兵士共が着ていた服装は、まだ旧都があった頃の軍装だ。もしあれが本当に亡霊だとするのならば……』
十一年前に戦場で死を遂げた亡霊は、防衛軍の同志に銃口を向けたことになる。
どちらかと言えば『悪霊』に近い類だろう。
『……我々は先日、讃頌会の人間を取り逃がすことなく、偵察任務を終えた。あの連中は、防衛軍の動向を知っていると言うのか……?』
「どうして讃頌会は、彼らの姿を作り出すことが出来たんでしょう……?」
突如となって積み重なる讃頌会の謎。
鬼火達はイゾルデに状況を報告すべく、彼女の元へと向かった。