「讃頌会が、既に掃討作戦の事を……?」
鬼火から視覚記録についての報告を受けたイゾルデは、眉をしかめる。
「讃頌会との衝突は、あくまでオボルス小隊による偵察任務でのみ。映像の件は、不幸にもそのミアズマから生み出された兵士達と『偶然』遭遇してしまったと考えるべきか」
『我らオボルスの動きは完璧だった。外部に計画など漏れるはずが……』
「讃頌会の中に、我々の想定以上の洞察力を持った人間がいたか、もしくは私の与り知らぬところで動いていた部隊がいたのか……そのどちらかだろう」
『……だが、ロレンツから作戦の全指揮権を任されたのは、お前だったはずだ』
イゾルデの指揮下にある以上、勝手にその部隊は動くことなどできない。
となると……
「……上官のロレンツ少将が、イゾルデ大佐に内緒で部隊を動かしてた可能性があるって事?」
「その可能性も否定はできないな」
「酷い上官であります! 自分の上官よりも数段厄介でありますよ!」
『おい、誰の事を言ってるんだオルペウス!』
「……何はともあれ、こうなってしまった以上、彼にあれこれ言っても仕方がない」
讃頌会拠点への強襲作戦を成功させるには、向こうの対応しうる以上のスピードで攻め込むしかない。
「"その疾きこと風の如し、侵掠すること火の如し、知り難きこと陰の如く"──雲嶽山に伝わる書物にあった言葉だ。強襲作戦には、この言葉が要となる」
『…………』
「讃頌会がこちらの動向を把握している……その事を早い段階で気づけたのは幸運と言える。向こうの準備が整う前に、一気に叩く」
『よし……オボルス! 戦闘準備だ!』
「はっ!」
善は急げ。
タクミは早速ホロウへ向かうための準備をする──
「たっくん!」
「シード?」
と、ここでシードがタクミを呼び止める。
「昨日はありがとね。ベルトのしくみが色々分かって面白かったよ〜。はいこれ!」
「!」
シードはタクミにアタッシュケースを手渡す。タクミはそれを見て、昨日シードにファイズのベルトを貸していた事を思い出した。
「あ、そうだ。僕ね、昨日そのベルトに、ちょっとした『新機能』を追加したんだ〜」
「え、新機能? どんな?」
「ふふん、それはあとのお楽しみだよ〜」
アップデートを施した、という事だろうか。まさかそんな事が出来るとは思いもしなかった。
驚くタクミをよそに、シードはご機嫌な様子でその場を後にした。
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準備を整えたあと、一行は再びラマニアンホロウへと突入した。
今回の作戦目標は二つ。
『ミアズマ兵士』に関する情報の入手。
そして讃頌会の重要拠点の掃討だ。
本作戦はイゾルデも言っていたように、スピードが成否を決めるカギとなる。
『讃頌会はすっかり警戒態勢だ。この影響で、奴らをまとめている頭をみすみす取り逃がす訳にはいかん』
「現時点の情報によれば、今回の作戦目標となる拠点には、讃頌会の本拠地である可能性が高いのであります!」
「…………」
「? どうかいたしましたか、プロキシさん」
「あ、えっとね……イゾルデさんの情報を疑ってるわけじゃないんだけどね。ただ、何度も姿をくらましてきた讃頌会の事だから、そのつかんだ情報が本当かどうかが気になって」
『お前の懸念は分かる。だが、イゾルデの情報の信頼性は確かだ。断言しても良い』
鬼火曰く、イゾルデによる指揮と彼女がもたらす情報は、何度も防衛軍を勝利に導いてきたのだそうだ。
「そっか……鬼火隊長はイゾルデ大佐を信頼してるんだね」
『ああ。イゾルデは長年に渡る戦友であり、先輩であり、上官だからな。彼女の協力なくして、オボルス小隊は存在し得なかっただろう』
「大佐以上に、隊長が信頼されている人物はオブシディアン大隊には居ないほどでありますからねぇ……」
『……フン』
作戦開始後、拠点を目指して進む一行。
道中、見慣れた装いを纏った男達と出くわした。
「……! 何者だ!!」
「前方、讃頌会の一員を発見!」
『各自、戦闘態勢! 邪魔をするなら容赦はせん!』
[Ready]
襲いかかる讃頌会の教徒。
ファイズもオボルスの面々に続き戦闘態勢に入り、ファイズショットを装備する。
するとその時、シードが声をかけてくる。
「ねぇ、たっくん」
「ん?」
「ケータイで、『5・2・7・6』って押してみて?」
「……5276?」
ファイズフォンを取り出し、言われた通りに番号を入力する。
[5・2・7・6]
[Faiz Shot 2, Put in to motion]
「……え!?」
ファイズの右手に装備されていたファイズショットが、突如変形。
ファイズショットは形を変え、大きさを変え……通常の何倍ものサイズを誇る巨大なガントレットへと姿を変えた。
「じゃじゃーん! 新機能その1、新型ファイズショット〜! どう? ビッグ・シードみたいにおっきいでしょ?」
「す、すげぇ……どうやって作ったんだこんなの」
「えっとね、ガシャガシャってやって、ぐいーってやって、カチャンってやったら出来たよ」
「…………」
機械系にそこまで詳しくない彼の為に、きっとシードは分かりやすく説明したのだろう。
確かに専門用語を並べられても分からないので、有難く理解させていただくことにする。
「始まりの主の意思に抗う痴れ者が……神罰を与える!」
「!!」
讃頌会の教徒の一人である大柄な男が、ミアズマを纏った大鎌を構え、ファイズを襲ってきた。
「フッ!!」
振り抜かれた大鎌目掛け、ファイズは右腕の新型ファイズショットを勢いよく突き出す。
「なっ……!?」
大鎌は、何も切り裂くことはなく……鋼鉄の拳を前に、あっけなく刀身は折れてしまう。
「タクミ……!? その腕のやつ何!?」
「え? ええっ……!? タクミ殿、なんでありますかソレ!」
『っ!? おいオルペウス、戦闘に集中しろ!』
驚くオルペウス達をよそに、ファイズは教徒へ追撃を加える。
旧型と違い鈍重ではあるが、それを補ってあまりあるパワーを持ち、その巨体相手さえも拳一つでいとも容易く吹き飛ばしてみせた。
「ぐぅ……っ、貴様……!!」
吹き飛ばされた教徒は歯噛みしながらファイズを睨み、ミアズマからバニーレックを召喚。
[Exceed Charge]
ファイズはフォンのENTERキーを押し、新型ファイズショットにフォトンブラッドエネルギーを集中させる。
「ガァァッ!!」
「っ、ハァァアッ!!」
上空から襲いかかるバニーレック目掛け、渾身の『グランインパクト』による迎撃をお見舞いした。
「ぐぁぁあああっ!?」
まるでサッカーボールのように打ち返されたバニーレックのまるい巨体は、教徒に見事に直撃。
断末魔の後にズシンと地面に倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
襲ってきた讃頌会の人間を返り討ちにしたあと、リンは近くの端末から、『ミアズマ兵士』の情報の一部を入手した。
内部のテキストファイルには、こう書かれていた。
───司教の呼び声に応え、非業の死を遂げた兵士たちが冥府から蘇り、復讐の炎を纏って帰ってきた
───防衛軍の兵士が我々の為に戦う理由について、司教様は言葉を濁していた……恐らく、彼らも冥府で始まりの主のお姿を拝見できたのであろう
文章を見た鬼火が声を荒らげる。
『非業の死だと……? 視覚記録のミアズマの兵士は十一年前の制服を着ていた。彼らは新エリー都の為、勇敢に戦ったはずだ! 街に害を成すだけでは飽き足らず、兵士の名誉まで侮辱する気か……!!』
「お、鬼火隊長! お気持ちは分かりますが、落ち着いて──」
「……! 隊長、北西方向から何者かがこちらへ接近中!」
「!!」
トリガーの声で、オルペウス達の表情に緊張が走る。
近づいてくる足音。やがて姿を見せたのは……
『……? お前達、どこの所属だ?』
制服を身にまとった、同じ防衛軍の兵士だった。
新型ファイズショット
イメージはS.I.C.のファイズが装備してたクソデカファイズショットみたいな感じです