その後、テント内にて。
リンは兵士の目を盗み、H.D.DでアキラとFairyに繋げる。
「Fairy、どう? ラマニアンのエーテルが一番活発なところ……『盲点』の座標は判明した?」
『肯定。H.D.Dのデータ同期が完了しました。イアスのキャロットモジュールにデータを送信中です』
『はぁ、ようやく繋がったか……正確な座標は既に割り出してある。後はオボルス小隊のメンバーの準備さえ出来れば、いつでもいけるよ』
「あー……実はね、お兄ちゃん。今ロレンツ少将の部隊は今動けない状態で、オボルス小隊も勝手にはホロウに入れなくなってるの」
『なんだって?』
讃頌会がいつ行動を始めるかも分からない状況で、いつまでも待ってはいられない。
こうなってはH.D.Dを通じて、雲嶽山に助けを求めるしかないだろう。
「師匠に……あーやっぱり、福福先輩にメッセージを送ってくれる? 多分そっちの方が反応早そうだから」
『分かったよ』
「ありがと。メッセージは"妹弟子よりヘルプ要請。ことは重大、師匠は至急出陣されたし。追伸、防衛軍には内密で"──」
『"緊急事態! あなたの可愛い妹弟子と弟弟子が防衛軍の非人道的な拷問を受けている! 手遅れになる前に、大至急師匠の派遣を求む!追伸、防衛軍との全面戦争を避けるため、くれぐれも隠密に行動されたし! " …………よし送った』
「ちょっとお兄ちゃん!? いくらなんでも大袈裟すぎじゃ……まあいっか」
「おいこれ俺が突っ込むべきなのか」
いくら衛非地区の為とはいえ、あまりにも誇張表現過ぎるメッセージである。
実際はただ行動制限を受けているのみだ。それが問題ではあるのだが。
『衛非地区の安全のためなら、これぐらい大袈裟なくらいが丁度いい。これなら雲嶽山もすぐに動いてくれるはずだ』
「そうだね……福福先輩、メッセージ見てくれるといいけど……」
物事が順調に運ぶのを祈りつつ、リンはH.D.Dの通信を切った。
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───夢の中で、声が聞こえる。
『タクミ』
「…………」
聞き覚えのある、懐かしい"友達"の声。
『君は……いつまで、"人間"なんて肩書きに拘っているんだい?』
「…………」
声が出ない。
夢の中だからだ。
"友達"はそんなタクミに構わず、話し続ける。
『本当は分かっているんだろう? ……自分が化け物だって。"分からない"ふりをしているだけだって』
『わざわざ遠回りなんかしなくても、真実はずっと君のそばにいた。本当は分かっていたはずだよ』
『人間であろうとするから辛いんだ。大丈夫だよタクミ……化け物である事を認めさえすれば、君は悪夢から解放される。意味の無い痛みを伴う事もない』
『大丈夫、怖くない。化け物である事を認め、楽になるんだ。でないと──』
───君の大事な人を、守れなくなるかもよ?
「タクミ殿ぉ!!」
「オワーーーーーーッ」
オルペウスの大声により一瞬で意識が呼び戻される。
目が覚めると、そこには切羽詰まった表情のオボルス小隊の面々がいた。
『体温、脈拍、その他以上なし……よし、タクミは問題はないようだ』
「えっ……お、おはようございます……?」
『まだそんな時間じゃないが……緊急事態だ!』
「え!?」
「リン殿が……雲嶽山に拉致されてしまったのであります!」
「!!」
拉致とはどういう事だろう。
鬼火曰く、儀玄のもとの青溟鳥がリンを連れ去ってしまったらしい。
確かに同じテントで寝ていたはずのリンがいないが、まさか例のメッセージを既に見たのだろうか。
『至急適当観へ向かうぞ! 奴ら、軍の機密を聞きだすためにプロキシ君を連れ去ったのだ……!』
「タクミ殿もご一緒に!」
「あっ、ちょ……」
タクミは寝巻のまま寝癖を直すこともできず、オボルス小隊と共に適当観へと向かうのだった。
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「貴方たちですねっ!? お二人を閉じ込めた悪い兵隊さん達は!」
適当観に到着後、正門前にて対面する雲嶽山とオボルス小隊。
オルペウスの後ろには先程まで寝ていたタクミがいる。
「そ、それはこちらの台詞であります! プロキシ殿に、どんな非人道的拷問を……!」
「拷問なんてしてませんよっ! ああっ、タクミくん……こんなに髪をボサボサにして……きっと寒い場所で過ごしてたんですよね?」
「寝癖です」
「そうです彼のこれは寝癖であります! 自分が見た限り、タクミ殿はすやすやと可愛い寝顔でお休みになっておられました!」
「一言余計だよオルペウス」
「あっ、言われてみれば確かに……た、タクミくんはどんな寝顔でした?」
「もういいだろ俺の睡眠の話は!」
話を戻す。
『……我々の要求はただ一つだ。そちらにいるパエトーンを引き渡してもらいたい。彼女は我々の保護対象だ』
「保護対象? 自由を奪い、行動を制限する事がお前さんらの"保護"の仕方だと言うのか?」
『これはあくまで軍の機密、そして何より二人の安全を守るためだ。我々のやり方にケチをつける気か?』
「少なくとも快くは思っていないな。それに安全面の話なら、そこにいるタクミ含め、私の元にいたほうがより安全だと思うが」
「ふ……二人とも、ちょっと待って! 安全の話より、もっと大事な事があるから!」
「あ、姉ちゃん」
と、ここで混乱の元凶であるリンが姿を見せる。
「あれ? プロキシ君、拷問されてた訳じゃなかったんだね〜」
『……! 軍の機密を聞き出すため、連れ出された訳ではなかったのか……誤解していた。……ならばなぜ、雲嶽山と連絡を取ったのだ? 軍令に背いてまで……』
「えっとね……」
リンは儀玄と鬼火に全て説明する。
『……"盲点"、か。讃頌会の真の本拠地がまだホロウの中に隠されていると、お前はそう確信しているんだな?』
「ほぼね。けど、やっぱり実際に行ってみるまでは分からない。でも、防衛軍にしても雲嶽山にしても、この問題はみて見ぬふりはできないはずだよ」
『マスター。ホロウ観測データによると、現在進行形でラマニアンホロウ全域のエーテル活性が急上昇中。上昇速度は、過去に観測されたピーク値に近づいています』
Fairy曰く、現在の拡張速度から計算するとおよそ1027時間後に、17.2%の確率で『ゼンレス限界』を迎えると言う。
つまりどういう事か。
「……つまり、ほっといたらラマニアンがボン!って事だね」
「讃頌会は今、ミアズマの活性化の為の大規模実験をやってる。ホロウのエーテル活性が急上昇してるのは、アイツらが何度か口にしてる『最後の牲祭』っていうやつの影響なんじゃないかって思ってる」
讃頌会がラマニアンホロウにあるミアズマの集中地帯をほぼ全て把握していることから、その可能性は限りなく高いだろう。
「お前さんの推論が正しいとするならば、この"盲点"だった拠点が、その牲祭とやらの要という訳だ」
「うん。ここを潰しさえすれば、アイツらは実験も何も出来なくなる。ホロウの活性化も、食い止められるはずだよ」
『ちっ……つまりはこういう事だな? あのクズどもが騒ぎを起こしてないかこの目で確かめ、まとめて焼き払えば潜在的なリスクを消せると』
鬼火はその銃口からため息を吐き、オボルス小隊のメンバーの方を向く。
『オボルス小隊! 衛非地区を蝕む影を潰すため、出撃するぞ!』
「あ、あれ? 良いのでありますか?」
「普段は命令違反許すまじ!って言ってるのにね〜」
『命令違反などではない。軍事機密を持ち逃げしたパエトーンを追っていたら、たまたまホロウにいただけだ!』
「讃頌会の掃討……雲嶽山に任せておくという選択肢もあるぞ?」
『不要だ。掃討は我々防衛軍の仕事。……とは言え、上の連中が職務を果たさないのならば、そのツケは私が払う。衛非地区に点在するオブスキュラの調査もまだ終わってはいないんだ』
「ふむ……ならば私と弟子たちは市民の安全のため、澄輝坪に留まるとしよう」
『そうしてくれ。……はぁ、明日は長い一日になるぞ……』
一口に出撃と言っても、軍の上層部にバレないよう、タイミングを図らなければならない。
作戦の決行は明日の朝。
適切かつ迅速な判断が、何よりも作戦の成否を分ける要素となるだろう。
来週の月水金、投稿をお休みするかもしれないし、しないかもしれません
とりあえず、良いお年を!