翌朝、支度を済ませたリンたちは澄輝坪にいるイゾルデ大佐オボルス小隊や他防衛軍の兵士たちと合流。
予定通り全員が集まり、イゾルデは作戦について話し始めた。
「現在調査中のオブスキュラは、ポーセルメックスと讃頌会によってホロウと衛非地区にかなりの量が設置されている。オブスキュラにはサクリファイスを収容し成長させるという特性がある──現時点で判明しているのは、オボルス小隊が発見したこの一つのみだ」
現在、オブスキュラの中からサクリファイスが出てきたのが確認されたのはホロウ内でのみ。
ホロウ外でサクリファイスに遭遇したという情報はないが……近いうちにそうなる可能性は決してゼロではない。
「──従って、この未知のリスクをはらんだ"ホロウ災害"に対処すべく、澄輝坪市民の避難誘導を開始する。オブスキュラをすべて排除するまで、市民たちには都市部まで避難してもらう」
避難誘導はロレンツ少将直属の主力部隊が行う。
オボルス小隊のメンバーは緊急時にいつでも迅速な対応が出来るよう、待機することになっている。
『要するに遊撃部隊、ということか』
「確かにそうだが……何も好き勝手自由に動いていいというわけではないからな。あくまでいつでも出撃できるよう、万全の状態でスタンバイしておけということだ」
『ハッ、リョウカイデアリマスタイサァ!』
「鬼火隊長……?」
「……やれやれ」
急に投げやりになった鬼火に、イゾルデは小さくため息をつく。
「大丈夫だよイゾルデ大佐。オボルス小隊が"自由行動"しちゃわないよう、私からも目を光らせておくから!」
「……何やら君たちの言葉に含みを感じるが……まあいい。くれぐれも独断では動かないように。鬼火隊長も、プロキシ君の安全を最優先に考えるんだ」
『言われなくとも分かっている! 彼らは我々の"VIP様"だからな。そうだろう?』
「そうだ、"VIP"と言えば……ロレンツ少将、ルクロー氏を筆頭としたポーセルメックス上層部も、市民とともに衛非地区から避難する」
『お偉いさんは今にも逃げ出したくて堪らないといったご様子だな……フン、結構なことだ』
「それだけサクリファイスがもたらす脅威を恐れているということだろう。さて、私はそんな"お偉いさん"のため、避難誘導に動くとしよう。オボルス小隊は解散してよし」
『…………』
「……鬼火隊長、まだ何か?」
『……一つ、聞きたいことがある』
いつになく控えめな様子で、鬼火はイゾルデに尋ねる。
『もし……もしお前の命令に背くようなことがあれば……お前はこの銃を、許してくれるだろうか……?』
「……少なくとも、隊員の前でする話ではないな。だが君ほどの兵士がそのような決断をするのには、きっと『納得のいく理由』があるものだと信じている」
「おっしゃる通り、隊長には隊長なりの理由がきっとあるはずであります! 自分も同じように、そう信じているであります──」
「オルペウス隊員……隊長とともに命令に違反する気は満々のようだな?」
「──昨晩タクミ殿がそう仰っておりました」
「オルペウス??」
『こほん……何を企てていようと関係ない。この小僧が命令違反をすることがないよう、私が目を光らせておくとする』
「鬼火隊長???」
急に密かに軍律違反を目論む悪者みたいな扱いになってしまった。
一応タクミも『市政からの特使』という立場である以上、割としゃれにならないのでやめてほしい。イゾルデが相手だからまだよかったが。
「まあ、何はともあれ……私たちは道をともに歩む『戦友』だ。……道を違えることのないよう、祈っている」
『……ああ。分かっている』
突然の避難勧告を受け、澄輝坪の市民は案の定混乱に陥っていた。
『家業を捨てたくない』と避難を渋る市民や、我先にと避難の列を押しのけて防衛軍の兵士に止められる市民の姿も見受けられる。
その騒ぎに紛れ、リンとタクミはロープウェイ駅で密かにオボルス小隊と再び合流した。
『……二人とも、先ほどのイゾルデ大佐の話は聞いたな? 我々オボルス小隊に課せられた任務は"不動の待機"だ』
「澄輝坪は、案の定混乱状態であります……この騒ぎに乗じれば、だれにも気づかれずホロウに入ることができるのであります!」
『言い方を変えろオルペウス。市民の安全のため、秘密裏にホロウで調査を行うというだけだ!』
なんにせよ、ホロウに突入するなら今が絶好のタイミングだろう。
人目を盗み、一行はロープウェイでラマニアンホロウへと向かった。
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ホロウに突入した一行は、H.D.D.が定めた讃頌会の隠された拠点の座標の場所へとたどり着いた。
その場所は──
『……ここは、以前我々が訪れた拠点ではないか』
昨日の強襲作戦の際に突入し、ロレンツとルクローに出くわした場所だった。
「あれ……隠し拠点を探していたんでありますよね? どうしてまたここに……」
「うん、実はね……Fairyの計算によれば、隠し拠点に通じる裂け目がここのすぐ近くにあるみたいなの」
「つまり、俺たちは讃頌会を掃討できるチャンスをみすみす見逃してたってわけか……」
『チッ……ロレンツとルクローに鉢合わせてさえいなければ、とっくに気づけていたものを……』
Fairyが分かるのは、あくまで『この近くに裂け目がある』ということのみ。
一行は裂け目を探すため、行動を開始した。
リンが近くのデバイスの『マルセルアーカイブ』で裂け目の正確な座標の特定に努めているあいだ、オボルス小隊とファイズは現れたエーテリアスとの戦闘に臨む。
「…………」
ファイズはファイズフォンを取り出し、コードを入力する。
ロープウェイで向かう途中、シードに教えてもらったもうひとつの『新機能』だ。
[5・5・7・6]
[Faiz Edge 2, Put in to Motion]
「!!」
コード入力後、ファイズの両手首に二本のファイズエッジが顕現。
鋭いフォトンブラッドの赤い刃を伸ばし、まるで手甲剣のような形状となった。
「グウウゥゥゥウ……!!」
「……!」
と、ここでミアズマを纏ったエーテリアスの群れがファイズを囲む。
ある意味ではタイミングが良いというべきだろうか。
「ガアァッ!!」
そんなことを考える暇も与えず、エーテリアスは一斉に襲い掛かってきた。
「はあっ!」
ファイズはエーテリアスの攻撃に対し、両手についた新型ファイズエッジを振りかざす。
……その切れ味は予想以上のものだった。
「ガアアアア!!」
まるでバターを切るかのように、いとも容易くエーテリアスが真っ二つになっていく。
ファイズエッジの刃と手首のフォトンストリームが直接繋がっているからか、通常のエッジと比べ非常に高出力かつ高威力なものとなっていた。
すでに敵を掃討したシード達は、介入すべきではないと判断したのか、ただただファイズの戦いの様子を見守っていた。
「ふふん、"新機能その2"、思った通りのパワーアップだったね~」
「あっという間に敵の数が減っていくであります……鬼火隊長、自分あの武器がちょっと羨ましいであります」
『おいやめろ……お前にはまだ早い』
エーテリアスの数も片手で数えるくらいになり、ファイズはファイズフォンのENTERキーを押す。
[Exceed Charge]
「はあぁッ!!」
ファイズエッジを構え……超高出力の『スパークルカット』による回転斬撃を繰り出す。
大量のエーテリアスは……一分もかからずに全滅した。
「みんな! "盲点"の座標をみつけたよ!」
ここで折よく、リンの仕事も完了。
あとはその裂け目へと向かうのみだ。
…………そんな時だった。
「おい! そこの部隊!」
「!」
『……おいおい、こいつは』
つい先日見たばかりの顔ぶれ。
ロレンツ少将直属の部隊と、運悪く鉢合わせてしまった。
新型ファイズエッジ、ファイズショットと同じくSICのやつが元ネタです
ただ取り付けるタイプではなく、手首から剣が直接生えているような感じです