鬼火と共にイゾルデから真実を聞かされたオルペウスは狼狽える。
「イゾルデ大佐……まさか、ロレンツ少将が……? どうしましょう、隊長……!」
『チッ……ロレンツを見つけ、問い質すしかないな……!』
「待って鬼火隊長! まだ十分に証拠が揃ったわけじゃないんでしょ? イゾルデ大佐の言った事だって、本当に正しいかは分かんないよ!」
『証拠だと……? この期に及んで、証拠がもたらす"正義"などを信用しているのか!? そんなものが存在するなら、十一年前に戦友が無駄死にすることはなかった!!』
鬼火隊長は完全に冷静さを失っている。
今にもオルペウスを無理やり引っ張って行きそうな程に、彼への怒りを大きくさせていた。
「鬼火隊長の気持ちも分かるよ。けど、イゾルデ大佐が任務中のこのタイミングでわざわざ真相を話して、隊長を焚き付けた事には何か理由がある気がするんだ」
『そんなもの単純だろう。イゾルデは私が復讐に加担する事を望んでいる……アイツの言う事は正しい。私達は、同じ道を歩むただ一人の同志なのだ』
「…………ただ、一人の?」
「……? オルペウス?」
オルペウスが小さな声で何かを呟いた。
ファイズが聞き返そうとした時、トリガーが鬼火に反論をする。
「……隊長。その発言には些か同意しかねます。私がオボルスに入隊する事を決意したのは、我々が同じ境遇や思いを抱えていたからです……あの時隊長が私にかけて下さった言葉を、一時も忘れた事はありません」
「私もトリガーに同意するわ。……私達は、今までお互いの事を、貴女の言う"同じ道を歩む同志"だと思っていた……今だってそう。けど、隊長……貴女にとっては違うの?」
「僕は別に隊長が望むなら、隊長の嫌いな奴を懲らしめてもいいと思ってるけど〜……ビッグ・シードなら、多分止めてくるんじゃないかなぁ」
『…………』
鬼火隊長は彼女達の言葉を聞き、しばらく俯く。
『……お前たちには、理解できないだろう。私が、どんな思いで──』
「いい加減にしてくださいっ!!」
『!?』
「!?」
突然響いた怒号に、鬼火は狼狽える。
一番近くにいたファイズもビビった。
鬼火の言葉を遮ったのは……他でもない、オルペウスだった。
「同じ道を歩む同志? 貴女がどんな道を歩もうと、実際にこの足で歩いているのは自分であります! それを言うなら、私達こそがただ一人の"同士"になってしまうであります!!」
『…………!』
「オボルス小隊が今有るのは、鬼火隊長が皆さんの辛さや苦しみを理解し、救い、束ねたからであります! そして今日まで! プロキシ殿達と一緒に、我々はここまで歩いてきました!!」
「お、オルペウス!」
「今の貴女を"理解できない"なんて、当たり前でありますよ!! 歩むべき同志を突っぱねて、一人で抱えて戦おうとするなど──」
「オルペウスってば……!」
「───……あっ」
ファイズの声で、オルペウスは冷静さを取り戻す。
鬼火は、ぽかんとした顔でオルペウスを見つめていた。
「あ……も、申し訳ありません隊長! つい、自分を抑えきれず……」
『い、いや……いい。気にするな』
「……個人の問題は、道徳だの常識だので解決出来るものじゃないけど……少なくとも今優先するべき事は、分かってるでしょ?」
『も、勿論だ……引き続き前進し、逃げ遅れた市民を救助する。戦闘準備だ』
残っているオブスキュラとサクリファイスを片付けるため、一行は引き続き先を急いだ。
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リンの術法を使って、オブスキュラの中にあるミアズマを除去していく。
サクリファイスも次々と倒し、ロレンツが向かった先へと急ぐ。
その道中……傍らに誰かが倒れているのを発見した。
既に息絶えたその顔には、見覚えがあった。
「この人……ポーセルメックスのルクローだ……!」
「……イゾルデ大佐の言ってた事は出まかせじゃなかったか」
「そ、それじゃあ少将も……」
『急ぐぞ……! 作戦失敗した挙句、報告書であれこれ弁明するのはごめんだ!』
さらに進んだ先で、一行はサクリファイスの襲撃から逃げ遅れた子供を発見。
群がっていたサクリファイスを倒し、救助する。
タクミとリンにとって、この少年の顔もまた見覚えがあった。
「ダンテ、 無事か!」
「えっ、その声……タクミ兄ちゃん? 何そのカッコ、すごいカッコいいじゃん!!」
「こ、これは……その、防衛軍から貸与されたパワードスーツだ。それよりお前、怪我とかしてないか? 一人でここに来たのか?」
「ううん、メローや月とかくれんぼして遊んでたんだ。僕は通りから離れた雑貨店に隠れてたんだけど……」
遊んでいる途中、オブスキュラから出てきたサクリファイスに出くわし、一人でここに逃げてきたのだそうだ。
メローと月は無事に泅瓏囲まで逃げきれたが、ダンテだけは隠れるしかなかったらしい。
「とりあえず、怪我はないみたいだな……良かった。防衛軍の人達が助けに来たから、もう安全だ」
「タクミ殿、この子とお知り合いでありますか?」
「この子は泅瓏囲に住んでるダンテだ。そんでダンテの叔父さんは、防衛軍の兵士だったんだ。みんなと同じな」
『そう、か。戦友達の……親族だったか』
「……その、鉄砲の……お姉ちゃんは、叔父さんと"戦友"だったの?」
『……ああ。坊やの叔父上と私は……戦友だった』
「そうだったんだ……叔父さんもね、さっき怪物と戦ってたお姉ちゃん達みたいに、すごい兵士だったんだ! ……でも、帰ってこなかった」
『…………』
鬼火は押し黙る。
大切な人を失った目の前に少年にかける言葉を探しているのか、それとも少年からの非難をただ待っているのか。
自分でも分からなかった。
「でも、お姉ちゃん達は……ちゃんとお家に帰ってね! 帰りを待ってる人が、いるはずだから!」
『…………!』
ダンテの口から出てきた言葉は……鬼火の想定外のものだった。
『……ダンテ君』
「?」
『もし、叔父上の仇を取ることができるなら……お前はどうする? 喜んでそうするか?』
「えっ……かたき? 叔父さんが死んだのは、みんなを守るためだったんでしょ?」
『……例えばの話だ。叔父上を死なせた悪、怪物が存在するとして……そしてソイツを倒せるとして……お前にとってそれは、慰めになるのか?』
「…………」
ダンテは鬼火の問いに少し戸惑っていたが……すぐに答えを出した。
「そりゃ、怪物だったらやっつけてやりたいけど……やっつけても、叔父さんは戻って来ないでしょ? 叔父さんはきっと、怖い怪物と戦ってでも皆を守りたかったんだと思うんだ」
『……守る、ため』
「うん。だから僕、叔父さんみたいに皆を守りたい! 母さんを悲しませない男になりたいんだ!」
『…………』
「えっと……だからお姉ちゃん達も、家族の人達を、泣かせちゃダメだよ?」
『……そう、だな。ダンテ君も早く家に帰るんだ……お前の母親が、家で心配しているだろうからな』
「大丈夫でありますよ、ダンテ君! 貴方も、貴方のお母さんも、雲嶽山と防衛軍のお兄ちゃんお姉ちゃんが守ってくれますから!」
「うん!」
数分後、駆けつけた援軍の兵士がダンテを泅瓏囲まで送っていった。
「ふふ……ダンテ君、とってもいい子ですね。純粋で可愛らしい所がタクミ殿そっくりであります」
「おい待てェ」
『そうだな……そんな子の家族を、ロレンツのゲス野郎は何人死地へ送ってきたんだろうな』
「鬼火隊長……」
『目標は奴だ。引き続き進むぞ』
山道のオブスキュラとサクリファイスの数も、片手で数える程になってきた。
鬼火は一行を引き連れ、目標地点へと向かった。