イゾルデがホロウへ逃走し間もない頃だった。
突如ラマニアンホロウのエーテル活性が急上昇し、もはや一刻の猶予も許されない状況となった。
Fairyからの警告を聞き、リンは表情を曇らせる。
「ラマニアンホロウのミアズマが……よりによってこんな時に……!」
『……讃頌会がまた動きだしたんだな? 最後の牲祭とか言っていたな……やれやれ、こっちはそれどころではないと言うのに』
「鬼火隊長……」
『考えもしなかった。イゾルデが今日の今日まで、あのような計画を企んでいたとは……私は今まで、本当のアイツを知らなかった……いや、知ろうともしなかった』
もちろん、彼女の行動を不自然に思わないわけではなかった。
しかし、それでも彼女は防衛軍の人間として新エリー都を守るために戦っていたのだと、そう信じたかった。
『……讃頌会、サクリファイス、オブスキュラ、そしてラマニアンホロウの異変……そのすべての存在が"偶然"、イゾルデの復讐に都合のいいように動いた』
「ホロウの危機を止めるためにも、イゾルデ大佐に事情を問いただすためにも……自分たちは再び、出撃しなければならないであります!」
『ああ。イゾルデの奴が軍人の原則に反することをしたのならば……私はアイツを決して許さない』
イゾルデの心情がどうあれ、彼女を野放しにしておくわけにはいかない。
「ここからは我ら雲嶽山も加勢しよう。ラマニアンホロウがここまでヤバくなった以上、黙って見ているわけにもいかん」
「僕も師匠と共に加勢します。皆さんを支援させてください」
「兄弟子と師匠も来てくれるの?」
「当然だ。今あそこに渦巻いているエネルギーは尋常じゃない。お前さん達だけでは、手に負えない可能性もある」
『"手に負えない"、か。旧都陥落の時も、そんな危機から雲嶽山の宗主を名乗る者が私達を救ってくれた。だが儀玄、今私達はともに救う立場にある』
「……ああ、そうだな。彼女もきっと喜ぶさ」
衛非地区の危機を救うため、一行は再びラマニアンホロウへと向かった。
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豪雨が降りしきるラマニアンホロウの内部。
予想とは反し、周辺のミアズマはそれ程濃いものではなかった。
しかし──
「辺りのミアズマが、全部あの塔に集まってる……」
『あれを放っておけば、悲惨な結果になる事は目に見えているな』
現在いる場所から見える、ほかの建物よりも遥かに大きい建造物。
イゾルデの行方は未だ不明だが、ホロウの異変の原因はあの塔で間違いないだろう。
『警告。ホロウ全域のエーテル活性が、過去の観測記録における最大値を突破しました。活性上昇速度は、今もなお加速中』
「これを止めないと……いずれ"なんとか限界"を突破してしまう……ということでありますよね?」
「"ゼンレス限界"か」
「そ、それであります!」
『現在の拡大速度から計算すると──およそ七時間後に、ラマニアンホロウがゼンレス限界を突破すると予想されます』
「急がないとホロウが風船みたいに破裂しちゃうね~」
今回の戦いがラストチャンス。
再び元凶を取り逃がしてしまえば、衛非地区は間違いなくラマニアンホロウに吞まれてしまうだろう。
「これで決着だ……決して逃がしはせん」
『イゾルデめ……ホロウでいったい何をするつもりだ』
「それじゃあ行こう。最悪の事態になる前に!」
一行はあの塔を目標に、足を進めた。
塔へ向かう道中、リン達はサラがいた場所でも目にしたミアズマを制御する装置を発見。
ただすでに装置には途轍もない量のミアズマが集まっており、儀玄の手を以ってしても装置を止めることはできない。
本拠地に行って元凶を止めた方が早いと判断し、先を急ぐことにした。
「……この気。イゾルデ大佐のものだな」
『! 近くにいるのか?』
「ああ。どうやら私達が向かう先にいるようだ」
「え……? どうして讃頌会のいる方に……」
「さあな。讃頌会を隠れ蓑にしようとしているのか……どれにしろ好都合だ」
阻む仕掛けやサクリファイス、讃頌会の手下を片付けながら進んでいく。
そして……
「! 前方にサラと讃頌会の人間を発見!」
『あの女……装置を起動させようとしているぞ!』
「させるか……!!」
[1・0・3][Single Mode]
ファイズは装置を操作する導師の手元目掛け、迷わずフォンブラスターで銃撃。
痛む手を抑える導師は意に介さず、サラはこちらの方へと向く。
「あら……もう勝機はないのに、なぜわざわざここに来たのかしら。もしかして、もう無駄だと分かっているから、その身を捧げに来たのかしら?」
「そんな訳ねぇだろ。始まりの主とかいうよくわからん奴の為に、新エリー都をめちゃくちゃにされてたまるか!」
「ヒーロー気取りも大概にしなさい。 貴方の存在が、世界を正しい方向に導くとは限らない。希望の主は正しい世界を実現してくれる……それには数多なる犠牲が不可欠なの」
「犠牲って……人の幸せを奪うことが大義だと言うんですか!? そんな事をして、何の希望が……!」
『タクミ、オルペウス。こいつとは話をするだけ無駄だ。犠牲が必要と言うなら……まずは貴様がなればいいだろう、サラ』
「前にも言ったでしょう。司教様は既に"終域"の門に手をかけてらっしゃると……そして、あなた達の悪あがきはもう無意味だと……!!」
サラはそう言うと、素早い動きで近くにある裂け目へと逃走した。
「くそ……!また逃げる気か!」
「皆さんは先に進んでください、ここは僕にお任せを」
「! 釈淵さんが?」
『一人で行く気か? あの女……相当狡猾だぞ』
「…………そうですね、確かに戦力は多いに越したことはない」
「──タクミ君。申し訳ありませんが、ご同行願えますか?」
「!」
釈淵は同行者としてファイズを指名した。
「一人でもなんとかはなりますが……この状況ですから。最近姿を現さないオルフェノクの方も、いつ出くわすは分かりません」
「……分かりました。じゃあ一緒に行きます」
「タクミ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ姉ちゃん。今回は釈淵さんもいるしな」
「ありがとうございます。それでは皆さん、後はお願いします」
「ああ、任せておけ」
「それでは行きましょう、タクミ君」
釈淵の言葉にファイズは頷く。
二人はサラが逃げ込んだ裂け目へと入っていった。
「…………」
「……オルペウス。あの二人なら心配は要らん。二人とも、私の自慢の弟子だからな」
「そ、そうでありますよね……!」
『よし、引き続き前進だ。目標はミアズマが集まる中心地帯、そしてイゾルデがいる場所だ!』
残りのメンバーはミアズマを止めるために、再び先へと進んだ。
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「待てっ!!」
裂け目の先にて。
ファイズと釈淵は、逃走するサラを追う。
「タクミくん、挟み撃ちにしましょう。僕は向こうからサラを迎え撃ちます」
「はい!」
二手に分かれ、ファイズは引き続きサラを追いかける。
サラは意外にも身体能力が高いのか、それなりに速いスピード走っている。
……が、生身で逃げる彼女に、ファイズが追い付けないはずもなく。
(もう少しだ……!!)
ファイズとサラの距離はどんどん縮まっていく。
やがて追い付き、彼の手がサラの肩に触れる──
──事はなかった。
「…………!!」
まるで示し合わせたかのように、ファイズの目の前に裂け目が出現。
避けることなどできるはずもない。
ファイズはサラを捕まえられず、そのまま裂け目へと吸い込まれてしまった。
「…………」
「ゲホッ……ぐ……」
裂け目から吐き出され、地面を転がるファイズ。
起き上がりながら悪態をつく。
(してやられた……あの野郎の罠だったってことか)
離れ離れになってしまった釈淵の無事が気にかかるが……今は自分の心配をするべきだろう。
「…………」
周りを見渡す。
見覚えのない場所だが……ここがリン達の目的地であるミアズマの中心部であることはすぐに分かった。
と言うのも……ここは今までいたどの場所よりもミアズマの濃度が高かったのだ。
どうせ何かが出るだろうと、ファイズは武器を構える。
すると後ろからコツン、と足音が聞こえる。
「よく来たな」
「!」
その顔を、タクミは何度も見てきた。
「…………イゾルデ大佐」
「タクミくん……いや、