「……」
「……先に謝っておこう。君に睨まれる様な事をしてしまったこと、申し訳なく思う」
「……顔隠れてんのによく睨んでるって分かりましたね」
「君は分かりやすいからな」
「…………」
むせ返るような濃さのミアズマで溢れたラマニアンホロウのこの場所で、ファイズとイゾルデは邂逅を果たす。
「まさか……私を連れ戻しに来たのか?」
「もちろんです。言っときますけど、言い訳を聞くつもりはないですよ。そういうのは全部、オボルスの皆に説明してください」
「君はどうするつもりだ」
「俺は無理やりにでもアンタを連れ戻す。それだけです」
「…………」
ファイズの言葉に、イゾルデは少しの間押し黙ったあと……口を開く。
「私は……戻るつもりなどない」
「なんでですか。アンタはサクリファイスをけしかけてルクローを死なせ、その後にその手で自らロレンツ少将を殺した。アンタの復讐はもう……」
「そうだな……確かに復讐は終わった。しかし、それがどうしたと言うんだ? 死んだ兵士はもう蘇る事はなく、世界は依然として悪意と裏切りの連鎖に満ちている。そうだろう」
「…………」
「君のような純粋で心優しい人間も、最後には心無き者の悪意により身を滅ぼし、いずれは忘れ去られてしまう……本当にそんな世界でいいのか?」
「……サラみたいな事言いますね」
「当然だ。彼女も私と同じく、この世界に絶望した者。……君もいずれそうなる」
イゾルデの下に、讃頌会が操っていたミアズマが集まっていく。
「…………それは」
「"終域"への門は目と鼻の先だ。いずれ『始まりの主』が、理想の世界を作られることだろう」
「!! "終域って"……アンタは、まさか……!!」
イゾルデ……もとい『司教メヴォラク』は、その眼に確かな憎悪を募らせ、ミアズマを従える。
「これまで讃頌会がしでかしたことは……全部アンタの指示だったのか……!? サクリファイスもオブスキュラも……全部……!」
「否定する気は無い。これも全て……私が今まで追い求めていた正義だ」
「……!」
「君は私がこの茨の道を歩く事を愚かと思うかもしれない。だが……忘れ去られた者たちの為、私は背負い歩き続ける。
そう言いながら、イゾルデはファイズに歩み寄る。
「君が一人でここに来たのは、実に幸運だった」
「……何の話だ」
「私が君をここへ誘導したのには理由がある。今、終域の門に手をかけてこそいるが……その門を"開く"までには至っていない。始まりの主の描く世界の為、必要な事だ」
「───そのベルトを、こちらに渡してくれ」
イゾルデは手を差し出し、そう言った。
「そのベルトは……元来『戦う』ために作られたものではない。始まりの主が降り立つ
「……何を、言ってるんだ」
「君はベルトの本来の力を発揮していない。君の手には余る代物だ。だが、それを渡しさえすれば……そのベルトは役目を果たすことができる」
「…………」
「私には分かる。君はいつか、途方もない絶望に呑まれ……かつての私や鬼火の様に、自らが信じていた正義に裏切られる……そんな日が来る」
イゾルデはファイズに選択を迫る。
「さあ、選ぶんだ。この腐った世界を捨て、新たなる希望に身を委ねるか……迫り来る絶望に怯えながら、意味のない戦いを続けるか」
「…………」
ファイズはしばらく黙ったあと、口を開く。
「…………イゾルデ大佐」
「!」
「上辺だけの付き合いでも、俺が皆を捨てる選択をする奴じゃないって事は……分かってますよね」
「……そうか。そうだったな。確かに君には、彼女達がいたな」
「ならば……仕方ない」
「!! それは……!」
イゾルデは、懐からとあるものを取り出す。
かつてバレエツインズで目にした、金色のベルト。
「君の信じるその正義が……どれ程の価値を持つのか」
イゾルデは金色のベルト──オーガドライバーを装着し、オーガフォンを開く。
「いつまで君の味方をしてくれるのか」
[0・0・0]
「見物だな」
[Standing by…]
イゾルデはコードを入力した後、オーガフォンを閉じる。
「…………変身」
[Complete]
バックルにオーガフォンがセットされ……イゾルデの体は、黄金の光とフォトンストリームに包まれる。
───やがてイゾルデは、オーガに変身した。
「…………」
[Ready]
ミッションメモリーを装填し、オーガストランザーに金色の刃が顕現する。
彼女の周りにあった溢れんばかりのミアズマは、その剣に力を与えていく。
「この道に終わりはない。引き返す術も、とうに存在しない」
───────────────────────
「!? 何あれ……!!」
「そ、空が……!」
一方その頃、ミアズマの中心地帯へと向かっていたリン達は、空が赤く染まる光景を目にした。
まるで雲のように、辺り一面に広がっていく。
『クソッ、まさかミアズマが……』
「先を急ぐぞ……何やら胸騒ぎがする」
もはや一刻の猶予も許されない。
一行は全速力で目的地へと向かって行った。
───────────────────────
オーガへと変身したイゾルデを見て、ファイズは手元のファイズブラスターを構える。
「この道を選んだ事に後悔はない。私は……君を殺してでも、目的を遂げてみせる」
「それなら俺は、アンタをボコボコにしてでも連れ帰ってやる!」
[5・5・5][Standing by…]
ファイズはコードを入力した後、ファイズフォンを取り出し、ファイズブラスターに装填する。
[Awakening]
ファイズの体は赤い光に包まれ、ブラスターフォームへと変身した。
「フッ……!!」
オーガはオーガストランザーを掲げ、ファイズへと襲いかかってきた。
サイガをも超える圧倒的パワー。
それがミアズマによりさらにパワーアップしている。
「ぐっ……!」
ファイズはオーガの一撃をフォトンブレイカーで受け止めるので精一杯だった。
「っ……オラァッ!!」
全力でフォトンブレイカーを振り回し、なんとか弾く事に成功する。
しかし、剣を弾かれたオーガは涼しい顔で体制を立て直す。
(金色のベルトの力……ライカンさんから聞いてた以上だ……!!)
前にライカン達はバレエツインズで、ドッペルゲンガーのタクミが変身したオーガと対峙し、危うく全滅しかけたことがある。
その時はファイズが間一髪でオーガに一撃を与え、これを阻止した。
ただ一撃を与えた後にオーガはすぐに姿を消し、ファイズと戦うことは無かった。
故にファイズは、今回初めてオーガと戦う事になるのだが……そのパワーは、彼の想像を遥かに超えるものだった。
[5・2・1・4][Faiz Blaster, Discharge]
再び距離を詰めてくるオーガに対し、ファイズはブラッディキャノンで迎撃を試みるが、尽くかわされる。
「フッ、ハァッ!」
「ぐっ、う……!!」
接近戦では、二人の戦闘経験の差が明確に現れる。
防衛軍に所属していたこともあり、イゾルデはタクミを超える戦闘術とオーガのスーツのスペックによりファイズを圧倒する。
さらにオーガはオーガストランザーを右手に持ったままそれを使うことなく、空いた左手のみで応戦している。
残酷にも、その実力差は歴然だった。
「ハァッ!!」
「ぐわあっ!!」
オーガに殴り飛ばされ、十数メートルの距離を吹っ飛ばされる。
地面を転がったあと、ファイズは咳き込みながらゆっくりと立ち上がる。
「諦める事だ。君の選ぶ道……その先に光はない」
オーガはそう言いながら右手を掲げる。
それと同時に、大量のミアズマが彼女の周りに広がる。
「願わくば……君が早々に降参する事を祈るばかりだ」
「…………!!」
ミアズマの沼からは……防衛軍の制服を着たミアズマ兵士達が姿を現した。