イゾルデが召喚したミアズマ兵士達。
ミアズマから生み出された彼らが着ていたのは、以前駐屯地で見た視覚記録のものと同じ、旧都健在の頃の防衛軍の制服だった。
「無念の死を遂げた戦友達の怨嗟の声……君もその耳で聞くといい」
「……っ!」
規律の取れた動きで、ミアズマ兵士たちはファイズへと襲いかかる。
フォトンブレイカーで迎撃をするが……一人一人が旧都時代の訓練された兵士であるミアズマ軍隊達は、一筋縄では行かない。
「くっ……!!」
さらにいくら斬り伏せても、ミアズマからはとめどなく次の兵士が現れては、ファイズに攻撃をする。
いくらブラスターフォームとて、これほどの数を相手取るのは厳しい。
そして相手はミアズマ兵士だけではない。
「!!」
「遅いぞっ!!」
オーガ自身もその剣を片手にファイズへ攻撃を仕掛ける。
兵士の援護射撃とオーガの攻撃に対し、ファイズは為す術もなかった。
ミアズマ……そしてオーガのパワー全てが、ファイズを一気に追い詰めていく。
多勢に無勢という言い方もできるが……イゾルデとの戦いは、今までの戦闘経験がまるで通用しなかった。
「フッ!!」
「ぐわあっ!!」
オーガストランザーの斬撃により、ついにファイズは変身が解除されてしまう。
弾き飛ばされ、地面に転がるファイズのベルト。
「……力の差は歴然だ。君に私を止めることはできない」
「……っ」
「仮に私と互角だったとしても……君の負けは変わらなかっただろう。君は私を殺す気がない……拳銃があっても、引き金を引く覚悟がない。鬼火と同じようにな」
そう言うとイゾルデは、再び右手を掲げる。その合図で、ミアズマ兵士達は武器を構える。
「…………」
無数の銃口が、タクミへと向く。
そして───
「…………何?」
突然の光景に、オーガは仮面の下で目を見開く。
兵士が消えたのは、彼女が消したからではない。
「……まさか」
「…………」
蜂の巣になるはずだったその少年の目は、イゾルデに向いている。
「っ、撃て!!」
イゾルデは再び、ミアズマ兵士達に命令を下す。
即座に銃を構え、一斉射撃を試みる。
しかし。
「─────」
立ち上がったタクミが、その手をかざすと……先程と同じようにミアズマ兵士が跡形もなく消滅する。
一人、五人、十人、二十人と……『ミアズマの構造物』である兵士が次々と消えていく。
放たれた銃弾も、まるで手品のように消え、タクミに当たることはなかった。
「これは……」
予想だにしなかった光景に、流石のイゾルデも面食らう。
「……なるほど。これが例の……」
あっという間にミアズマ兵士を全滅させたタクミ。
オーガは剣を構え直し、彼との距離を詰める。
「────」
その時だった。
「!!」
突如、オーガの周りの地面からミアズマが飛び出し、彼女の動きを封じたのだ。
「なっ……! 馬鹿な……ここにあるミアズマは全て……」
オーガのパワーですら振りほどけない程のエネルギーで、彼女を縛り上げる。
「────」
身動きが取れなくなったオーガの元へ、タクミは一歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる。
オーガは抵抗もままならないまま、至近距離まで接近を許してしまう。
「……っ!」
タクミは色のない瞳で彼女を見つめながら、その手を振りかざした。
───だが、その手が彼女目掛け振り下ろされる事はなかった。
「く……っ」
タクミは突然膝をつき、先程までの様子が嘘だったかのように、息を切らし始める。
それと同時にオーガの動きを封じていたミアズマも消え、拘束から開放される。
「…………これは」
オーガはタクミを見下ろす。
彼女を見上げる彼の目は、先程の灰色に濁ったものではなくなっており、代わりに体力切れを暗に告げるかのような、そんな疲労の色を灯していた。
「はぁ……はぁ……」
「…………力を使い切ったのか」
倒れないようにするだけでも精一杯のタクミには、抵抗する気力さえも残っていなかった。
「……君はつくづく、不幸な人間だな」
「…………」
「だが、これで分かっただろう。復讐の道に……本当の意味で終わりが来ることはないと。君の試みは、最初から不可能だった」
「…………イゾルデ、大佐」
「創世の為の、尊い犠牲者。君の名を……私は決して忘れない」
オーガはオーガストランザーを構え……タクミ目掛け振り下ろす。
──その刃を、炎のレーザーが撃ち抜いた。
「!!」
突然の奇襲に、オーガは咄嗟に後ろへと身を引く。
「……鬼火。来たか」
オーガがその名をつぶやくと同時に、リンと儀玄、オボルス小隊のメンバーがこの場へ到着した。
「……!! タクミっ!!」
既にボロボロの状態だったタクミを見て、オルペウスは悲鳴にも近い声を上げた。
すぐさま駆け寄り、今にも倒れそうになっているタクミを支える。
「ぐ……おる、ぺうす……」
「大丈夫でありますか!? しっかりしてください……!!」
「だ……大丈夫だ……それよりも──」
『傷が開く……下手に口を開くんじゃない。アイツは我々に任せろ』
「ど、どうしてタクミがここに……!? 釈淵さんと一緒にサラを追ってたはずじゃ……」
「私が彼をここへ呼び寄せたのだ」
『!!』
タクミの怪我をチェックしていた鬼火は、オーガの方を向く。
『…………お前、その声はまさか』
「そうだ……私だ。甘さゆえに引き金を引けなかった、弱い君の……かつての戦友だ」
『……!』
「イゾルデ大佐……タクミを呼び寄せたって、どういう事?」
「……言葉通りだ。私には、彼が持っていたベルトが必要だった。全ては……『最後の牲祭』の為に」
「『最後の牲祭』だと……? まさか讃頌会を仕切っていたメヴォラクと言うのは……お前さんだったのか」
「そ、そんな……イゾルデ大佐……!」
「察しが良いな……雲嶽山の宗主。だが、知ったところで止める事はできない」
鬼火は悲しみと怒りを露わにし、イゾルデに叫ぶ。
『イゾルデ……! 何故こんなことを……!!』
「……鬼火。君は先程私に対して、いとも容易く引き金を引いたな。なぜそれを、ロレンツに対しても同じようにできなかった?」
『…………!』
「鬼火……君は、あの時引き金を引けなかった。私は、君の弱さに裏切られたんだ。もう、同じ道を歩むことはない」
明確な失望の表情。
イゾルデの言葉に、鬼火は押し黙る。
「最後に一つ、答えろ。君と私は、同じ道を歩む同志だったはずだ。同じ感情を持っていたはずだ。何故、その怒りを引き金に込めなかった」
『………私は、オブシディアン大隊の兵士だ。それが"敵"でない限り、撃つことはできない』
「…………」
『お前の言う通り、私とお前は同じ志、感情を持っていた。命を散らした戦友達の仇に、必ず報いてやると……そう誓った。その仇であるロレンツに対して殺意を抱いた事も、嘘では無い』
「……ならばなぜ」
『私達は……もう一人ではないからだ。新エリー都の法云々を抜きにしても、私達の後ろにはオボルス小隊の皆がいる。一時の感情で、コイツらを巻き込む訳にはいかない』
「…………そう、か」
鬼火の答えに対して、オーガは納得したかのように俯く。
「そうだったな。もう、一人ではなかったのだな」
『ああ。だから戻って来てくれ、イゾルデ』
「……鬼火。君の答えだが、一つ訂正してもらおう」
「勘違いするな。
『!』
オーガは再びその憎しみの感情を、ミアズマとともに剣に込める。
「君が復讐の道から外れたなら……誰が忘れ去られた魂を、安寧に導けると言うんだ」
『イゾルデ……!!』
「っ、ミアズマがどんどん濃くなってる……!」
「君の元に戻ることは出来ない。見届けるがいい……牲祭の始まりを……創世を」