ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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戦友と

 

 

 

 

 

ミアズマに侵され、消滅したイゾルデ。

 

鬼火とオルペウスは、彼女の最期を見届けた。

 

 

 

彼女達の胸中は……依然として複雑なままだった。

 

 

 

『……イゾルデは、許されない罪を犯した。だが、私はそれでも……アイツの同志でありたかった。アイツも……恐らくだが、それを望んでいたはずだ』

 

「……鬼火隊長」

 

『どれだけ遠い道のりになろうとも、私はイゾルデの過ちを償っていくつもりだ』

 

「隊長、自分も一緒に償うであります! 隊長一人に背負わせませんっ!」

 

『…………ああ』

 

 

 

タクミは彼女達の様子を見守る。

 

鬼火達にはオボルスの仲間もいる。二人なら、必ずやり遂げられるだろう。

 

 

 

「───あ、そうだ! タクミ、怪我は大丈夫でありますか!? 下手に動いてはダメでありますよ!」

 

「……俺は大丈夫だ、オルペウス。実のところ、そんなに酷い怪我じゃなかったからな」

 

『本当か? なら頭から血が流れているのは、私の視覚センサーに異常が起きているだけという事か?』

 

「…………うわホントだ」

 

「タクミ??」

 

「だ、大丈夫だってオルペウス……そんな怖い顔やめてくれ……」

 

 

しかし実際タクミの言う通り、見た目の割に軽傷ではあるのだ。

 

 

恐らくだが……イゾルデは手加減してくれていたのだろう。

 

故に、致命傷になることは無かった。

 

 

ただ裏を返せば、その手加減がなければタクミは死んでいたかもしれないという事でもある。

 

手加減ありでもファイズはオーガに敵わなかったのだから、相当の実力差があった。

 

 

 

「……見たところ、確かに怪我は軽そうだが……念には念だ。ホロウを出たらすぐに病院に行け」

 

「病院? でも師匠、これくらいならガーゼを貼っとけば──」

 

「タクミ??」

 

「謹んで、行かせていただきます」

 

「たっくん、お姉ちゃんに怒られる弟くんみたいだね〜」

 

 

 

オルペウスの圧が怖い。

 

いつの間にか『殿』がつかない呼び捨てになったせいか、余計にそう感じる。

 

まるでアキラかリンに怒られている時のような、そんな緊張感があった。

 

 

と、その時。

 

 

『マスター。付近に異常なエーテル波動信号を検出しました』

 

「え? エーテル波動?」

 

「ミアズマの波動だな……パッと見、敵意はなさそうだが」

 

 

儀玄の指差す先。

 

そこには、ミアズマで構成された怪しい物体があった。

 

 

「…………」

 

 

リンは恐る恐る、それに近づく。

 

 

 

 

 

すると──

 

 

「っ!!」

 

 

突然、その物体が赤く輝き……何かを形作り始めた。

 

 

「な、何これ……私と、共鳴してる……?」

 

「リン殿、気をつけてください!」

 

 

侵蝕されるような感覚はなかったが……目の前の物体は、まるでリンに見せるためと言わんばかりに……とある人物の幻影を映し出した。

 

 

 

 

「…………あれは」

 

「か、カローレ先生……!?」

 

 

ヘーリオス研究所にいた頃の、リンとアキラの恩師。

 

タクミ自身も、面識こそ少ないが彼女の姿には見覚えがあった。

 

 

『…………リン、アキラ』

 

「!」

 

『もう傍にはいられないけど……あなた達の勇気と才能は、他のヘーリオスの誰にも負けない。まだ小さい()()()の事も……二人なら必ず守ることができると信じている』

 

「これは……先生と離れ離れになった時の……」

 

『どうか力を合わせて……ヘーリオスの火種を──』

 

「…………先生」

 

 

カローレがそう言い終えた時、幻影にノイズが走る。

 

そしてその幻影は、別の会話をし始めた。

 

 

 

『───教えて。貴方の言う、"始まりの主"とは一体……?』

 

「……え? 始まりの、主? 先生、一体誰と話してるの……!?」

 

 

リンの問いは当然幻影には聞こえない。

 

カローレは何者かとの話を続ける。

 

 

『零号ホロウ……そこに、"終域"の門はあるのね? 声高に賛美するに値するその秘密が……門の向こうにあると?』

 

(終域の門……カローレ先生は、讃頌会と関わりがあったのか?)

 

『…………分かったわ。謁見の道を切り開きましょう。その道の果てにきっと、私の探しているものが……』

 

「先生……一体何を探して……」

 

 

 

 

───どんな代償を払ってでも……

 

 

───どんな罪を犯してでも……

 

 

 

 

 

 

『……私は信じている。先の見えない未来でも……あの二人は……眩い"パエトーン"なのだから』

 

 

 

その言葉を最後に、カローレの幻は消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

 

衛非地区でのオブスキュラ騒動は鳴りを潜め、安全が確保された衛非地区にも、徐々に避難した人々が戻り始めた。

 

 

事件を解決してから今に至るまで、TOPSも防衛軍もしばらくは大混乱だったそうだ。

 

それも当然だろう。

 

 

ルクローとロレンツの賄賂の件や、イゾルデが讃頌会と繋がっていた事など……混乱の元は上げればキリがない。

 

 

 

また、イゾルデが使っていたオーガのベルトだが……回収後、乾に預ける事にした。

 

タクミが持っていても持て余すだけだろうと考えたからだ。

 

いつ何者かに奪われるかも分からない。彼に預けた方が安全だろう。

 

 

 

それとホロウでタクミと分断されてしまった釈淵だが……実は今に至るまで、まだ見つかっていない。

 

儀玄がラマニアンホロウ中を探したが、依然としてその行方は掴めなかった。

 

釈淵が雲嶽山でも指折りの実力者だとは言え、安心はできない状況にある。

 

 

 

そして……イゾルデとの戦いの途中で発現した謎の力。

 

あの後、こっそりホロウでもう一度使おうと試みたが……何度やっても再現できなかった。

 

 

ミアズマを『操った』あの感覚。

 

十中八九、オルフェノクの力だろうが……

 

 

(……もう、怖がってる場合じゃないな)

 

 

タクミはベッドに横になりながら、そう考える。

 

オーガに手も足も出せずやられてから、己の実力がまだ十分でない事を痛感した。

 

 

 

(……もっと強くならないとダメだ。こうなりゃオルフェノクの力だろうが、使えるものはなんでも使わないと)

 

 

 

 

例え『化け物』と拒絶されようが、それでも構わない。

 

大事な人を守れるなら、安いものだろう。

 

 

 

 

とは言え、まずは地力を鍛えなければどうにもならない。

 

 

(……思い立ったが吉日だな。早速福福先輩に稽古をつけてもらおう……!)

 

 

タクミはベッドから起き上がり、支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、適当観の中庭。

 

アキラとリンは訪れたオボルス小隊と談笑していた。

 

 

 

 

ここ一週間、終わりのない後始末の書類の作業に追われていたオボルス小隊。

 

しかし長い作業の末ようやく長期休暇が取れたことなど、悪い事ばかりではないようだ。

 

 

 

アガムメノン小隊を陥れたルクローとロレンツの行いは、その後防衛軍により徹底的に調査され、賄賂の証拠も押さえられた。

 

 

 

 

「……そっか。隊長やイゾルデ大佐の思いも、無駄じゃなかったんだね」

 

『……ああ。とはいえ、あの二人は死んでしまったからその公判は先延ばしになったがな』

 

 

ただ、ルクローとロレンツには然るべき罰は与えられた……そう考えていいだろう。

 

 

『これもイゾルデが生前、集めてくれた情報のおかげだ。アイツの動機はどうあれ、有耶無耶になっていた数々の罪が公になった』

 

「まあ、それでも讃頌会と関わってたって事実は無視できないけどね……」

 

『ふん、まさにその通りだ。イゾルデは何もかもを一人で抱え込んだ末、あんな悪行をしでかした。馬鹿なやつだ……アイツは』

 

「! そういう鬼火隊長だって、自分達を置いて一人で突っ走っていたでありますよ! 約束してください、今後はもう隊長一人で抱え込んだりしないって!」

 

『はあ!? あのな、私は───分かったよ、約束するさ。ったく……』

 

「あ……そういえば、軍規違反についてはどうなっなの? やっぱり、お咎めなしじゃ済まなかった?」

 

『ああ、私もそれを覚悟していたが……そうはならなかったようだ』

 

 

命令を無視し、独断で行動をした鬼火率いるオボルス小隊だが……讃頌会を撲滅し、市民の安全に貢献したことから勲章を授かったらしい。

 

 

「そっか……結果オーライって感じだね」

 

『ああ。この一週間、ゴタゴタ続きで流石にくたびれた。長期休暇を使って、隊員達と羽を伸ばすつもりだ』

 

「そ、そういえばリン殿、タクミは今どこにいるんでしょうか? 彼とも話をしたいのでありますが……」

 

『……何が"そういえば"だオルペウス。お前がここに来た理由の半分はアイツに会うためだろ』

 

「ふぇっ!? い、いや……そんな事は───」

 

 

 

 

「ぐわぁぁあああ!!」

 

 

 

「!!」

 

「……え?」

 

 

突如、適当観に響く悲鳴。

 

その悲鳴の主は、聞き間違いでなければ───

 

 

 

「っ!!」

 

「オルペウス!?」

 

 

オルペウスは走り出し、タクミがいる部屋へと向かう。

 

ノックもせず、彼女は部屋の扉を開けた。

 

 

「タクミ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴の声の主であるタクミは右腰を押さえ、蹲っていた。

 

 

「……」

 

『……タクミ? 何やってるんだ、お前』

 

「…………いやその、部屋を出ようとしたら……机の角に、腰をぶつけちゃって」

 

 

 

 

「…………」

 

「? オルペウス……?」

 

 

 

 

オルペウスは何も言わず、タクミを支え立ち上がらせる。

 

そして──

 

 

 

「…………にゃにをしゅるんだ」

 

「ふんであります! これは心配ばっかりかけるタクミへのお仕置きです! 甘んじて受け入れてください!」

 

「おりゅへうすぅ……」

 

 

タクミはしばらく『戦術プラン:ほっぺむにむに』から抜け出す事ができなかった。




次回から番外編を挟んで2-4章に移ります!
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