身長
今日も今日とてルミナスクエアへやって来たタクミ。
そこで彼は、見知った顔と出会った。
「おう、タクミじゃねぇか!」
「アンドーさん、それにベンさんも」
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
今日は土曜日。
アンドーとベンはファミレスで昼食を食べにルミナスクエアへと訪れていた。
「タクミも飯か? お前さえ良けりゃ一緒にどうだ?」
「え、いいのか?」
「勿論だ! んで、その後は一緒にランニングに付き合って欲しいんだけどよ……」
「ランニング?」
「ああ、休日出勤は社長が許してくれなかったからな……どうだ? "ルミナスクエア十週"!」
「…………」
「おいアンドー……無理にタクミくんを巻き込むんじゃない。と言うかルミナスクエア十週はいくらお前でも無理だろう」
「んなこたぁねぇぞ。見ろ、兄弟も体を動かしたくてウズウズしてんだ!」
「──ん? タクミくん、どうかしたか?」
「…………」
タクミはアンドーとベンを見つめたまま、ぼーっとしていた。
「タクミ? オレの顔になんか付いてんのか?」
「……あ、いや、なんでもない……」
(…………)
別の日。
「おや、今日は君が店番をしていたのか」
「ヒューゴさん」
ビデオ屋で店番をしていると、ヒューゴが店にやってきた。
「しばらくぶりだな。衛非地区に行ったと聞いていたが……壮健そうで何よりだ」
「今日はビデオを借りに?」
「うむ、それもあるが……せっかくの機会だ。衛非地区での事で色々と君から話を──」
「店長様、いらっしゃますでしょうか」
「…………」
ちょうどのタイミングで、ライカンが店へとやってきた。
彼の姿を見たヒューゴは分かりやすく不機嫌になる。
「ん……? ヒューゴ、お前もいたのか」
「……親愛なる友と久方ぶりの再会を果たし、今日は良い一日になると思っていたのだがな。たった今貴様のせいで台無しになった」
「は? 何を言っているんだ」
「分からんとは言わせんぞ。よりにもよってこのタイミングで貴様と鉢合わせるとは……よもや着けて来たのではあるまいな」
「言いがかりはよせ。普通にビデオをお借りしに来ただけだ」
相変わらずの仲の悪さである。
ライカンはヒューゴからタクミに視線を移し、棚から取ったビデオをレジカウンターに置く。
「タクミ様、ご機嫌麗しゅうございます。本日はこのビデオをお借りしに参りました」
「…………」
「……タクミ様? 如何なさいましたか」
タクミはヒューゴとライカンを見つめたまま、ぼーっとしていた。
「……? 何を見ているのだね?」
「…………あっ、いや……なんでもないっす」
(…………)
また別の日。
「───あら? 噂をすればなんとやら、ね」
「……えっ、タクミくん!? いたんですか!?」
ポート・エルピスのやたらと美味いフライドポテトを食べに来たタクミは、偶然朱鳶とジェーンに出くわした。
二人は何かを話していたようだ。
タクミを見た朱鳶はやけに慌てた顔をしていた。
「噂? 噂ってなんの事ですか?」
「ふふ、聞きたい? 実は朱鳶ちゃん、さっきまでたっくんの話をしてたの」
「俺の?」
「い、いえその……話の流れで、たまたま貴方の話が出ただけですよ。タイミングが良かったんですね……」
「たまたま、ねぇ? アタイの記憶違いじゃなければ三十分くらいこの子の話を──」
「ジェーン!!」
顔を真っ赤にしながらジェーンを止める朱鳶。
それを見てジェーンはくすくすと笑っている。
タクミはそんな二人の様子をただ眺めていた。
「じゃあたっくん、折角だし一緒にポテト食べる? アタイがあーんってしてあげる」
「じぇ、ジェーン……! 彼を困らせないで……!」
「…………」
「……タクミくん? どうしましたか?」
タクミは朱鳶とジェーンを見つめたまま、ぼーっとしていた。
「何よ、ぼーっとしちゃって……見とれちゃった?」
「…………」
「た、タクミくん? どうしてそんなに見つめて……」
「朱鳶さん、ジェーンさん」
「「?」」
「どうしたら身長って伸びますか?」
「…………はい?」
───────────────────────
最近……いや、もうだいぶ前からだろう。
タクミには、悩み事があった。
それは身長の事である。
タクミの身長は、実のところまだ170cmを超えていない。
160cm代で、ぎりぎりニコより高いぐらいだ。
十六歳のタクミなら、割と平均的身長なのでは?と思うかもしれない。
何もタクミは、自分の身長が160cm代である事自体に悩んでいるわけではない。
「───それでアイツはあんなにぐったりしているわけか?」
「そうみたい……」
適当観の中庭の縁側。
タクミは空を見上げながら、ぼーっと仰向けに寝転がっていた。
(みんな背ぇ高いなぁ……)
最近会った人は、皆タクミより身長が高かった。
タクミは何も、彼らにコンプレックスを抱いている訳ではない。
彼らはタクミと違いもう成人済み。タクミより背が高いのは普通に納得できる。
ただ、このまま将来、自分の身長は彼らと同じように170cmを超えてくれるのだろうか……と不安になったのだ。
「タクミ、気にする事はないんじゃないかい? 今は成長期なんだ。近いうち、君の身長だって伸びてくれるさ」
「そうかな……もう一年近く伸びてないんだ」
もう成長が止まってしまったのでは? と思うのもやむなしである。
「師匠、身長を伸ばす術法ってないですよね」
「あいにくだが、雲嶽山にそんな人体改造を施す術法はない。私から言えるのは……生活習慣を乱すことなく健康な日々を過ごせ、という事だけだ」
「お師さんの言う通りだ! よく寝て、よく食って、よく動けば、背なんてすぐ伸びるとも! てな訳だ、早速飯にするぞ!」
食堂にて、潘の作った昼食を食べる。
ちなみに補足しておくが、タクミに好き嫌いはない。
「でも……タクミくんの悩み、あたしはすっごく分かりますっ!」
「福福先輩……」
「虎のシリオンのあたしも、お師匠さまとおんなじくらいの背の高さだったら、きっと皆に恐れられてたはずですっ!」
福福が門下生に可愛がられている理由は、きっと背だけはない。
タクミ以外の全員がそう思ったが、言わないことにした。
「うーん、今のタクミの身長はお兄ちゃんよりも低いからね……お兄ちゃんや師匠よりも身長が高いタクミ……」
「…………」
「…………想像できないなぁ」
「おい」
「あ、ファイズに変身したら170超えるんじゃない? スーツのアンテナのやつで」
「それで170超えても嬉しくねーよ……」
儀玄よりも背の高いタクミは、この場の誰も想像できなかったようだ。
「年頃の悩みだ、下手に口出しするつもりはないが……あまり思い悩まなくてもいい。背丈が高かろうが低かろうが、私の中でのお前さんの印象が変わる訳でもない。それは他の者とて同じだろう」
「んー……そうっすよね」
確かに、気にしない……という事はできないかもしれないが、儀玄の言う通り思い詰めるほどに悩む必要はないのかもしれない。
昼食を食べた後、タクミはリンと一緒に買い物に出かける。
「タクミ、なんか食べたいおやつとかある?」
「え? ああー……、俺は──」
「ん? リンちゃん、タクミ、奇遇っすね」
「あ、真斗く──」
「か は あ ッ ! !」
「!?!?」
「タクミーーーーーッ!!」
タクミは偶然会った彼の姿を見て吐血する。
『身長198cm』の『同年代』である真斗の身長は、タクミに嫌でもコンプレックスを抱かさせざるを得なかった。
雅「私の身長か? わざわざ吹聴するつもりはないが170センチだ、お前より高い」
タクミ「嘘つけェ!!」