ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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残暑

 

 

 

 

 

気付けば新エリー都の夏も、終わりが近づいていた。

 

ファンタジィ・リゾートで水鉄砲を片手に海ではしゃぎまくっていたあの日。

 

あれからもう二ヶ月程は経っただろうか。

 

 

高かった気温も次第に低くなり、新エリー都の季節は涼しい秋へと移り変わる。

 

暑い暑いと唸っていた日々も、ようやく終わる。

 

 

 

 

 

 

 

……新エリー都の人々は、きっと誰しもがそう思っていただろう。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

現在の外気温、32℃。

 

秋が来るはずだった新エリー都は、しぶとい残暑に悩まされていた。

 

 

店番をする為に、定期的にRandom Playに戻ってきているタクミ。

 

衛非地区から六分街へ向かうまで、タクミは太陽光とアスファルトの熱で蒸し焼きにされそうになっていたのだ。

 

 

これから来るはずだった秋は一体どこへやら。

 

『そんな事俺が知るか!』と言わんばかりに猛烈な残暑が新エリー都の市民を苦しめる。

 

 

死にそうな気持ちでビデオ屋に入ったタクミは、トワが付けていた冷房で何とか息を吹き返した。

 

 

それ程までの暑さ。

 

タクミはもう、外に出る気はさらさら無かった。

 

 

 

(涼しい……)

 

 

半袖でも暑いと感じたタクミはすぐに着替え、タンクトップ姿になる。

 

 

人によっては熱中症になる危険性がある気温だろう。

 

 

タクミはビデオ屋を他の人が使える避暑地にする為、店の外に貼り紙を貼った。

 

 

『暑さで体調を崩した際は当店でお涼みください。なお、気を使ってのビデオのレンタル等は不要です』

 

 

これで他の人も気軽に涼みに来れるはずだ。

 

 

タクミはカウンターの席に戻り、来客を待つ。

 

 

(……この暑さじゃ、そもそも出歩いてる人もいないかもなぁ)

 

 

水を飲みながらそんな事を思っていると──

 

 

 

 

 

 

 

プチン、と。

 

 

「……ん?」

 

 

タクミの後頭部から、何かがちぎれる音が聞こえる。

 

その音が何なのかを認識する前に、今度はカタンと何かが床に落ちる音が聞こえてきた。

 

 

「うわ…………マジか」

 

 

床を見てみれば……そこにはハンバーガーの絵が描かれたヘアクリップと、ちぎれてしまったヘアゴムが落ちていた。

 

 

 

 

衛非地区に来てから一回も散髪に行っていないタクミ。

 

あそこに散髪屋が無い訳ではないが、適当観からは結構距離がある。

 

それにわざわざ髪を切りに行くのは、なんとなく億劫だったのだ。

 

 

そんなこんなで後回しにしているうちに、彼の髪は結構伸びてしまっていたのだ。

 

 

そこでタクミは、リンから使わなくなった古いヘアゴムを貰う事にした。

 

 

 

そして今日、ついにそのヘアゴムの寿命が来てしまったという訳だ。

 

床に落ちたヘアクリップとちぎれたヘアゴムを拾う。

 

 

(どうするか……新しく買いに行くか……? いやでも、このクソ暑い中外に出たくねぇな……)

 

 

だが髪をまとめた方がやはり楽なので、さっさとまとめてしまいたい。

 

自分用のヘアゴムは持っていないし、勝手にリンのものを借りるのもダメだろう。

 

輪ゴムは論外。髪を痛めてしまう。

 

 

(…………まいっか)

 

 

また今度の機会にしよう。

 

そんな先送りマインドで、タクミは現状維持を選ぶ。

 

 

 

ちょうどその時、ビデオ屋に来客が訪れた。

 

 

「はぁ〜涼しい……冷房って最高ね」

 

「邪魔をする、店長。申し訳ないがしばらくここで──」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「?」

 

 

 

暑い中、店へ涼みにやって来たアストラとイヴリン。

 

……何故か二人は、タクミを見るなり固まってしまった。

 

 

アストラはキョトンとした顔。イヴリンは目を丸くしこちらを見ている。

 

 

 

「…………あの、どうしたんすか」

 

「えっ……あっ、タクミだったのね! 一瞬誰かと思っちゃった」

 

「……ええ?」

 

 

確かにいつもと違って髪を結んでいない状態だが……分からないほどだろうか。

 

 

「イヴは分かった?」

 

「いや……分からなかった。てっきりアキラにもう一人妹が居るのかと」

 

「なんで妹なんすか。それを言うなら弟でしょ」

 

「……それは、そうなんだが」

 

 

何が言いたげな感じな様子で言葉を詰まらせるイヴリン。

 

 

「今のタクミって女の子にしか見えないのよね〜」

 

「!?!?!?」

 

「お、お嬢!」

 

ぶっちゃけるアストラ。

 

衝撃の事実にタクミは開いた口が塞がらない。

 

 

「あ、あら……ごめんなさい、気にしてたかしら?」

 

「いや……そういう訳じゃないけど……え? 俺が女の子に見える?? 冗談だろ??」

 

「冗談でこんな事は言わないわよ? タクミの顔ってアキラよりリンに似てるのよね、どっちかって言うと。そのせいかしら?」

 

「…………」

 

 

確かに『アキラよりリンに似てる』とはよく言われていたが……まさか男に見えない程とは思わなかった。

 

少し、ほんの少しだけショックだ。

 

 

「そう落ち込まないでいいわよ。貴方の魅力でもあるんだし! そういえば、いつも付けてるヘアゴムはどうしたの?」

 

「あ、ああ……さっきちょうどちぎれちゃって」

 

「ヘアゴムならあるわ! 私が結んであげる!」

 

「え? いやいいよ……」

 

「遠慮しないで、ほら後ろ向いて!」

 

 

そうしてアストラは楽しそうな様子でタクミの髪をいじり始めた。

 

 

「それにしても、最近ホント暑いわよね〜……夏は好きだけど、こうも暑いとやんなっちゃう」

 

「そうだな……半袖でも暑いって感じたぐらいだ」

 

「…………タクミ」

 

「? どうしたんすか、イヴリンさん?」

 

「君に言いたいことがもう一つあるんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───()()()()は、外ではやめておくんだ」

 

「え? 格好?」

 

 

現在タンクトップ姿のタクミ。

 

イヴリンはその事について、何が言いたいことがあるようだ。

 

 

「私やお嬢様の前では構わないが……いくら暑いとはいえ、無闇に人前でその格好をしない方がいい」

 

「……あ、すみません。この格好見苦しかったですかね……」

 

「そういう訳ではない。だが、そのような『無防備』な格好をしていると、悪質な犯罪被害に合うリスクがある」

 

「む、無防備……?」

 

 

確かに肌は露出している。

 

女性が外でこの格好をするのは些か問題だろう。

 

イヴリンはそういう『襲われる』リスクの事を言っているのだろう。

 

 

だが、タクミは男だ。

 

 

「……そんな奴いないと思うんですけど」

 

「その思い込みが一番危険なんだ。君を()()()()()で見ない人間がいないとは断言できない」

 

「ええ〜……」

 

「イヴったら過保護なんだから。前にも私に同じこと言ってたのよ?」

 

「仕方ないだろう。実際にこの街ではそういう被害が出ている。他人事だからと楽観はできない」

 

 

 

あまり腑に落ちないが……イヴリンがそう言うならそうなのだろう。

 

確かに不審者ならそういう行動に走らないとも限らない。

 

タンクトップ姿になるのは、知り合いの前だけにしておこうと考えたタクミだった。

 

 

 

……とここで、ようやくアストラがタクミの髪を結び終える。

 

 

「はい、出来たわよタクミ! 鏡見てみて!」

 

「ああ、ありがとうアストラさ───なんでツインテールなんだよ!!」

 

 

渡された手鏡で見てみると……タクミの髪型が可愛げのあるツインテールとなっていた。

 

やけに時間がかかっているな思ったらこれである。

 

 

「ツインテールじゃなくて、いつも俺がやってる奴でいいんだよ……」

 

「ええ〜? 可愛いのに……」

 

「可愛いは俺にとって褒め言葉にならないって──ちょっと待てアストラさん、今写真撮らなかったか?」

 

「リンに送っちゃお〜っと!」

 

「ちょ待って! 姉ちゃん写真拡散botに送るのはやめろ!!」

 

 

リンに送ったら間違いなく他の知り合いに向けて拡散される。

 

なんとかアストラが撮った写真を消そうとしていると……新たな来客がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すんません、ちょっとここで涼ませてもろても──うおああああっ!?

 

「?」

 

 

店に来たのは、関西弁を喋るミントグリーン色の髪をした少女。

 

照らす太陽から逃げるように店に入った彼女は……店にいるアストラもう一つの太陽を見て悲鳴を上げた。

 

 

「なっ、なな……なんでアストラさんがここにおんの……!? うっ、うわっ、うわあああ……!!」

 

「き、君……落ち着いてくれ」

 

 

限界化する少女。宥めるイヴリン。

 

 

 

タクミは彼女に見覚えがあった。

 

確か、ファンタジィ・リゾートで開催されたアストラのライブに来ていたアストラファンの少女だったはずだ。

 

 

アストラと話す時、ガチガチに緊張していたため印象に残っている。

 

 

「あの子、千夏ちゃんよね? どうして私がアストラって分かったのかしら……? 変装は完璧だったのに……」

 

「いや……やっぱりグラサン一つで『変装』は無理があるっての」

 

 

他に客がいなかった事と、イヴリンの咄嗟の対応が功を奏し、騒ぎにはならずに済んだ。

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