───こんな噂を知っているかい?
六分街にあるビデオ屋、Random Play。
そこにはごく稀に、謎のヒーローが出没すると言われている。
その者はサングラスと黒いマスク、赤いマントを身にまとい、『MOVIE』という文字を帽子に刻み込んでおり。
その者は自身を『映画を紹介するために生まれてきた』と豪語し。
その者は自身を『Random Play』の使者だと名乗っている……。
ただ、彼は常連ですらめったにお目にかかれない程には姿を表す機会が少なく、その目で見た者も片手で数える程しかいないという。
そんな彼は姿を現した際に、必ずこう叫ぶ。
"俺はRandom Playの使者……ムービー仮面!!"
『───なんだそれは……』
アキラから話を聞いた鬼火は、呆れながらそう言った。
とある日のRandom Play。
ビデオ屋にやって来たオルペウスと鬼火は、雑談がてらその『ムービー仮面』なる存在の事を耳にした。
『なんだ"Random Playの使者"って。ソイツただの不審者じゃないのか』
「不審者じゃないよ、ちゃんと公認さ。彼は時々現れては、ビデオ屋のプロモーションに貢献してくれるんだ」
「あっ、もしかしてイメージキャラクター的な感じでありますか?」
「違うよ」
「違うんですか!?」
ムービー仮面の正体は誰にも分からない。
そう、彼は店長であるアキラとリンにさえも、その正体を明かしていないのだ。
『聞けば聞くほど胡散臭いぞ……やはり広告塔を装った強盗か何かじゃないのか?』
「別に悪い事をしてる訳じゃないんだよ? ただ純粋にその人にあった映画をオススメして、そのまま消えてく謎のヒーローなの」
「へぇ……タクミは知っているでありますか?」
「……知ってるけど、見た事はない」
カウンターの席に座っていたタクミは興味無さそうに答える。
「そういえばそのムービー仮面も、かれこれ数ヶ月くらいは姿を見せてないんだよねぇ」
「…………」
タクミはおもむろに立ち上がり、二階へと向かう。
「あれ? タクミ、どこに行くんですか?」
「ムービー仮面に会いたくなっちゃった?」
「そんな訳ねーだろ……第一なんだよムービー仮面って、名前ダサすぎだろ」
「え〜? いいじゃんムービー仮面」
「ないね。安直過ぎ」
タクミはそう言いながら、二階へと行ってしまった。
「タクミは、あまり興味がないようでありますね?」
「うーん、そうだね~」
『なぜ他人事なんだ……というかアイツは二階に何をしに──』
ドタタタタ!!
『?』
階段を駆け下りるような音が聞こえる。
タクミが二階から戻ってきたのだろうか──
「映画を求める声!! それ即ち俺を呼び求める声!!」
「『!?!?』」
階段から姿を現したのはタクミではなく、黒いマスクとサングラス姿の不審者だった。
「ムービー仮面! 来てくれたのか!」
「会いたかった~!」
「えっえっ」
不審者を歓迎するアキラとリン。
謎の光景に、オルペウスと鬼火はただただ困惑するしかなかった。
「映画あるところにこの俺あり! 俺こそがRandom Playの使者──人呼んでムービー仮面!!」
『…………』
"MOVIE"と書かれた帽子をかぶり、決めポーズを取るムービー仮面。
彼はどう見ても……
『……おい。こいつタクミだよな?』
「タクミじゃないよ? ムービー仮面だよ?」
『どう見てもアイツだろ! 服がさっきと変わってないじゃないか!』
「嫌だな鬼火隊長、タクミがこんな変なノリするわけないだろう?」
『もう"変なノリ"って言っちゃってるしな! なんだこの茶番!』
ツッコむ鬼火隊長をよそに、ムービー仮面はこちらへとやって来る。
「アキラ、リン。俺を呼んだ迷いし者はこの二人か?」
『呼んでないぞ』
「そうだよ、ムービー仮面。鬼火隊長とオルペウスは、どんな映画を借りるか悩んでるんだって」
「ようし良いだろう!」
「ひゃっ!? ちちち、近いでありますよ!」
オルペウスの肩に手をまわし、サングラスをくいっと上げる。
キャラが違いすぎる。やはりタクミではないのかもしれない。
「映画を求めしアーミーガールズよ! 今日、君たちにぴったりの映画を、このムービー仮面がピックしてやろう!」
「へっ? お、お願いします……?」
『おいガールズってなんだ! 私は"ガール"じゃないぞ!』
工房にて。
「よし、それじゃあどんなジャンルが見たいのか、聞かせてもらおう」
『はぁ……ムービー仮面とやらよ。お前の助けは不要だ。なぜならもう、借りる映画は既に決まっているからだ』
「ほう、何を観るんだ?」
『"エーテリアス・獣たちの都市"だ』
「………………」
エーテリアス・獣たちの都市。
ホラー映画でこそないが、ひっきりなしにスクリーンに映る怪物がジャンプスケアを仕掛けてくるため、かなり怖い映画として有名だ。
「………………」
ムービー仮面はその映画のタイトルを聞いた途端、天井を見上げ黙ってしまった。
「む、ムービー仮面殿? どうしたのでありますか?」
『なぜ急に押し黙るんだ』
「……キャプテン・オニビよ」
『妙な呼び方をするな!』
「確かに貴女が観たいのはその映画なのかもしれない。だが!」
帽子をかぶり直し、びしっと鬼火を指さす。
「借りる映画は
「!!」
ムービー仮面は心優しき男。
ホラー映画やジャンプスケア映画が苦手な人間の気持ちを、誰よりも分かっているのだ。
「現に……彼女は先ほどから嫌な顔をしている! オルペウス隊員の意見も聞いてやってはどうだろうか!」
『……あのな。私がこの映画を借りるのは、所謂特訓の一環だ。そもそもここに来る前に、オルペウスにそう話して──』
「鬼火姉さん!! ムービー仮面殿の仰る事は確かであります!!」
『オイ!』
ずっと困惑気味だったオルペウスが、急に手のひらを返しムービー仮面に同調しだした。
「今日は非番であります! わざわざそんな日にまで訓練をする必要はないと自分は考えているであります!」
「よく言ったオルペウス隊員! 君が本当に観たい映画はなんだ!」
「こっ、コメディ映画! コメディ映画が観たいであります!!」
「よく言った!!」
『コイツら……』
二人を睨む鬼火。
やがてため息をつき、観念したように口を開く。
『はぁ……分かった。今日ぐらいは良いだろう』
「やったあ! ありがとうございます、ムービー仮面殿!」
「当然の事をしたまでさ……」
『なぜそっちに礼を言うんだ、お前は』
鬼火はムービー仮面とオルペウスに聞こえないように、アキラとリンに話しかける。
『…………プロキシ君。"エーテリアス・獣たちの都市"についてだが……すまないが取り置きをしておいてくれ』
「え? いいけど……なんで?」
『特訓は中止じゃない、あくまで延期だ。日を改め、じっくりその映画をオルペウスと楽しむことにする……当然、タクミも誘ってな』
「……あはは」
気まずそうに笑う二人。
「さて……お別れの時間のようだな」
「えっ、もう行ってしまうのでありますか?」
「心配はいらない。再び観るべき映画に悩んだ時、俺は君の元に現れる!」
ムービー仮面は再び決めポーズを取る。
「ではまた逢う日まで……さらばっ!!」
そう言うと彼は、店内の階段を駆け上がっていった。
一分後、二階から誰かが降りてくる。
「あ、タクミ。二階で何してたの?」
「寝てた」
『…………』
「タクミ。さっき、ムービー仮面がここに来ていたよ」
「あー……来てたのか、ムービーなんとかさん」
『…………』
ビデオ屋のプロモーション活動をする上で、タクミはなかなかのプロ根性を持っているなと、鬼火は逆に感心した。
なんだコイツ……(困惑)
次回から2-4章です!