『この先にある"町"に俺達の拠点があるんだ。着いてきてくれ』
モスはそう言ったあと、まるで家に帰るかのように迷わずホロウの奥へと進んで行ってしまった。
「パウルといいモスといい、さっきから何が起きてやがる……」
「……真斗くん、どうする?」
「仕方ねぇ……元より探索だけをするつもりだったんスけどね……変な事に巻き込んじまってスミマセン。ひとまず、アイツらに着いて行きましょう」
少なくとも目的の一つとしてパウルを連れ戻さなければいけないのもある。
怪しさ満点だったが、真斗達はモスに着いていくことにした。
調査員の服を身にまとったモスは「町」の方へと歩いていく。
「見ない間に随分と大きくなったなぁ、真斗くん」
「……ソッチこそ、二年の間に随分と様変わりしてるみてぇだがな」
「ははっ。この二年間弱、俺は夢を実現するために時間を費やしてきた。そしてついに……それが叶ったというわけさ」
突然後ろを向き、真斗を見るモス。
「君は……あの頃言っていた夢は叶ったのか? その姿を見るに……君の言っていた夢とは随分かけ離れているように見えるが」
「……なんだよ急に、探るようなマネしやがって」
「…………タクミ」
「なんだリュシア……いや、今はいいから。ジンジャー糖水を渡そうとしなくていいから」
ペットボトルを渡そうとしてくるリュシアの協力を丁重にお断りしていると──
「ガァァアアアア!!」
「!」
進行方向に立ちはだかるように上級エーテリアスが出現。
一行は戦闘態勢に入る。
「タクミ、リュシア。オマエらはリンちゃん達を守れ。コイツはオレに任せろ」
そう言うと真斗は大剣を構え、エーテリアスに攻撃を仕掛ける。
「あ、アニキ! 俺も加勢します!」
「必要ねぇ、たかが一匹だろ!」
「パウルくん、彼の好きにさせてやれ。彼は昔から自分の戦いに水を差されることを好まないんだ」
「…………」
エーテリアスを討伐した後、モスの案内で先へと進んでいく。
そして……
「よし、"町"に着いたぞ!」
「……え? 着いた?」
ファイズは素っ頓狂な声を上げる。
無理もないだろう。
今彼らがいる場所……そこには無数のミアズマのコブと、明らかに使われていない廃屋が複数あるのみだった。
「……どういう事? ここが町なの……?」
「そうだとも。ここまで来れば、もう安全だろう……歓迎するよ、みんな」
「歓迎ってお前……こんなとこに住めるわけがねぇだろ」
「そうでもない。ここは俺達にとって、夢のオアシスのような場所。長い時間をかけ、ようやく見つけたものなんだ」
「パウル! 戻りましたか」
男性の声が聞こえる。
遠くから、スーツ姿の男性が走ってくるのが見えた。
彼は……確か澄輝坪でパウルと言い争っていた、ポーセルメックスの社員だったはずだ。
「無事で何よりです。どうですか、首尾は?」
「おお、ウェスト先生! お陰様で順調だ!」
「おや、君は……確か澄輝坪でお会いした方ですね。私はウェストと申します」
「てめぇはポーセルメックスの……今度は何を企んでんだ……?」
「まあまあ、アニキ。澄輝坪での事は誤解だったんですよ。実の所、彼は尊敬に値する人物なんです」
「……確かに、澄輝坪での私の物言いは、教師として些か不適切でしたね。この場を借りて、お詫び申し上げます」
ウェストという男は、ポーセルメックスの社員ではなく教師となっているようだ。
「……真斗、早くこの三人を連れてホロウを出よう」
「そうだな。なんの幻を見てるかは知らねぇが、ホロウから出りゃあ全部解決するだろ。おら、お前ら行くぞ」
「? 行くってどこに……? 帰ってきたばかりですよ」
「帰ってねぇよ。お前らが帰る場所は澄輝坪だ」
「そんな訳ないでしょう。僕達が帰るべき場所は、まさにここなんですから。それよりパウル、少し時間を取れますか? 講堂の演台が傷んでいまして……補修を手伝って欲しいのですが」
「任してください!」
パウルとウェストはそのまま、講堂……があるらしい場所へと向かって行った。
「マジでどうなってやがんだ……? これもミアズマの侵蝕のせいって事か?」
「Fairy、この場所一帯をスキャンしてくれる?」
リンはFairyに呼びかける……が、何故かうんともすんとも言わない。
「ン、ンナナ……」
「……イアス? なんで感覚同期が解除されてるんだ?」
「まさか……"町"に入ったせいで、通信が途切れちゃったって事?」
辺りを見回す。
リュシアはもう既に探索を始めているようだ。
すぐに侵蝕されそうな危険な雰囲気ではないが……警戒は解くべきではないだろう。
「……君達が何を警戒しているのかは知らないが、一つ言えるのは、こちらに敵意は一切ない……という事だけだ」
「どうだかな。アンタに敵意がなくても、アンタを操ってるヤツはそうとも限らねぇだろ」
「見当違いだな。この町に住む者は誰一人として操られていない。皆望んでこの町に身を置いているんだ……この夢のオアシスにな」
「町」の皆は、どうやらテコで動かしても帰るつもりはないらしい。
仕方ないので、情報を集める為に各自「町」を散策する事にした。
(……そういやウェストさんとパウルさんが講堂に行くとか行ってたな)
タクミは周りを見渡す。
(……あそこのデカい建物か?)
ひとまずあそこに行ってみようと、タクミは歩き出す。
「コラ、何をしている」
「!」
しかし、いつの間にか近くにいたモスに呼び止められてしまう。
「タクミくんと言ったな。君、講堂に行くつもりだったのか?」
「は、はい……何があるのか気になって」
「……あそこに行ってはダメだ。第一、入ったとしても大した収穫は得られない」
「……講堂に何があるんですか?」
「知る必要はない。強いて言うなら……あそこにあるのは俺達、しいては町にとって大事なものだ。とにかく、講堂は立ち入り禁止だ。いいな?」
……どうやら強行突破は難しそうだ。
タクミは諦めて引き返した。
「あー、タクミくんもダメだったんだね」
「リュシア。お前も講堂に行こうとしたのか?」
「うん。町の人は、みーんな口を揃えて『講堂に入っちゃダメだ』って言うんだよね。でも、ダメって言われると入りたくなるのが人の性じゃん?」
「だからこっそり入ろうとして……止められたと」
「そう……ただ、耳寄りな情報も聞けたよ! なんでもこの町には、あたしと同じエーテリアスに詳しい子がいるんだって!」
どうやら今度は、リュシアその『同類』の顔を人目見ようとしているようだ。
「願わくば、その子と仲良くなれたらなって!」
「……でも、その子が"町"の人間なら、話が通じるかさえも分かんないぞ」
「大丈夫だって、エーテリアス好きに悪い人なんていないし!」
そう言うとリュシアは目にも止まらぬ早さで、どこかへ行ってしまった。
「うーん……まだ繋がらないなぁ」
リンは自動待機モードのイアスを見つめながら、そうつぶやく。
先程からH.D.D.への接続を試みているが……ここ数分ずっと、なんの反応も示さなかった。
「リンちゃん……やっぱダメそうッスか?」
「うん……やっぱり"町"を出るしか方法はないみたい」
「つってもなぁ……モス達をほっといてここを出る訳にもいかねぇからなぁ……」
なんとかいい案がないかを考えていると……
「……ん?」
「どうしたの、真斗くん」
「……あれ、見てくださいッス」
真斗の指さす先。
「…………え?」
「…………」
遠くに見えるのは、普段毎日のように見ている顔。
町を散策しているはずのタクミが……