「…………!」
適当観の道着を着ていたはずのタクミは……どういうわけか学生服を身にまとい、そこに立っていた。
「アイツ……いつの間に着替えたんだ? つーかアイツ、学ランなんて持ってたか……?」
「……ううん、そんなはずは……だってタクミは……」
学生服姿のタクミは、リン達と目が合う。
「…………」
「……あ、おい!」
しかし、彼はこちらに駆け寄ってくる事はなく、そのままどこかに消えてしまった。
「どういう事だよ……まさか、アイツも侵蝕でおかしくなっちまったんじゃ……」
「今のは……彼の"夢"が具現化したものだろう」
「!」
いつの間にかリン達の傍にいたモスがそう答える。
「具現化だと……? ソイツはどういう事だ」
「この町の住人は……かつて夢見た自分達の姿で生きている。これは侵蝕でも幻でもない。そうだな……あえて名をつけるなら、『夢縋り』と呼んだ方がいいだろう」
「夢縋り……」
パウルは子供のころに見た伏汐祭がきっかけで、道場の師範になる事に憧れていた。
ウェストもTOPSに入る前は音楽の教師になる事を夢見ていた。
彼らのあの姿は、まさしく夢縋りと呼ばれるもの。
「……それじゃ、タクミは……」
「ああ。彼は恐らく幼い頃は……学校に通い、勉強をする事が夢だったのだろう。彼の奥底に眠っていたその夢が、無意識のうちに彼の夢縋りを呼び覚ました」
「…………」
「だが、悲しむ事はない。かつての夢と向き合い、肯定し、この町で生きる……素晴らしい事だろう。真斗くん……君も、そうするべきだ」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ。てめぇらはただミアズマに侵蝕されてるだけだ」
「……真斗くんの言う通りだよ。第一、貴方も"調査員"なら分かるでしょ? いつまでもホロウにいるのは危険だって」
「そうだな。だが、"夢"を忘れない限りは、ここで生きていくことができる。俺たちは……特別なんだ」
モスはそう言うと、再びどこかへと姿を消した。
「チッ……最優先事項ができちまったな。まさかタクミのヤツがここまで早く侵蝕されちまうとはな……」
「…………」
「……リンちゃん?」
「! そ、そうだね……今はとにかく、タクミを探そう!」
───────────────────────
一方その頃。
適当観の道着を着たタクミは、引き続き町を探索していた。
住人たちに色々話を聞いていく中で、分かったことがいくつかある。
一つは町の建物の中で、『講堂』だけは絶対に入ってはいけないという事。
リュシアの言っていた通り、住人達は皆同じ事を口にしていたのだ。
もう一つは、彼らの正体について。
なんでも彼らが着ている服は、「かつて抱いていた夢が、現実で形となって現れたもの」らしく、それが彼らが町で生きる理由にもなっていた。
おおかた、ミアズマが見せる幻なのだろうが……
(…………夢か)
仮にタクミが住人と同じようになってしまったら……かつてのタクミの夢が形になって現れるという事。
だが……
(……俺の昔の夢、なんだったっけ)
自分にも昔、見ていた夢があった……はずだ。
しかし、その夢を抱いていたのも旧都陥落前の事だったため、どんな夢だったか思い出せなくなっていた。
『今』の夢に塗りつぶされてしまったのか。
忘れるくらい、どうでもいい夢だったのか。
それとも……
「…………?」
考え事をしていると……タクミは周りの様子が変わっている事に気が付いた。
「なんだ……?」
青かった空は、まるでミアズマが充満するかのように赤くなり……いつの間にか、住人達も姿を消していた。
……どこかから、鈴の音が鳴り響く。
(……まずいな、ちょっと遠くまで行き過ぎたか……?)
早いところリン達の所へ戻らなくてはいけない。
タクミは急いで、来た道を引き返そうとする。
「!!」
その時だった。
突如、背後に強烈なミアズマの気配を感じ取ったタクミ。
半ば反射的に後ろを振り向くと……
「……!! こいつは……!!」
タクミの背後に現れたのは……白いエーテリアスだった。
しかし、これまで出くわしてきたエーテリアスと、明らかに雰囲気が違う。
三メートルは優に超えるであろう巨体。
右腕はミアズマを纏った巨大なエーテルの刃となっており……エーテリアスは、タクミに向かってゆっくりと歩いて来ていた。
[5・5・5][Standing by…]
「変身っ!」
[Complete]
あらかじめ身に着けていたベルトのバックルにファイズフォンをセットし、タクミは再びファイズに変身する。
[Ready]
そしてファイズショットを装備すると同時に……そのエーテリアスは猛スピードで襲い掛かってきた。
「グォォオオオオ!!」
「……っ!!」
響き渡る咆哮。
どんなものであろうと容易く真っ二つにしかねないその刃が、ファイズ目掛け振り下ろされる。
「はっ!!」
ファイズはとっさにエーテリアスの攻撃をかわし、反撃に転じる。
ファイズショットを交えた攻撃で、エーテリアスに猛攻を仕掛ける。
「たぁッ!!」
「!!」
エーテリアスに攻撃の隙も与えず連続攻撃をお見舞いし、勢いよく蹴り飛ばす。
吹き飛ばされこそしなかったが、大きくのけぞるエーテリアス。
[Exceed Charge]
間髪入れずにフォンのENTERキーを押し、ファイズショットにフォトンブラッドエネルギーを集約させる。
「はぁああっ!!」
そしてエーテリアスに向けて、ファイズは『グランインパクト』をお見舞いしようと地面を蹴り、走り出した。
しかし──
「っ!?」
突如エーテリアスとファイズの周りを赤い霧が覆いつくす。
エーテリアスの姿が一瞬で見えなくなり、『グランインパクト』の一撃も空を切ってしまう。
「……! 消えた……!?」
ファイズは周りを見渡すが、濃くなったミアズマの霧により一切の視界を封じられる。
『タクミ!!』
「!」
しかし霧の向こうから、聞き慣れた声が飛び込んできた。
リンの声だ。
『タクミ!! 聞こえたら返事しろ!!』
『真斗くん! 無理やり中に入っちゃまずいよ……!』
真斗とリュシアの声も聞こえる。
ファイズは幻聴でない事を祈りつつ、声が聞こえた方向へと向かった。
[5・2・7・6][Faiz Shot 2, Put in to motion]
ファイズはファイズショットを新型に変形させ、エーテリアスの奇襲に最大限気を配る。
依然として濃い霧の中、ファイズは真っ直ぐ外へと走り出す。
しかし──
「!!」
白いエーテリアスがそれを許さない。
完全な死角から現れたその異形は、右腕の刃で前触れもなく突然襲い掛かってくる。
ギリギリ反応したファイズは右腕の新型ファイズショットで攻撃を防ぐ。
そして、今度は逃がさぬようにと反撃を試みるが……
「……!! クソッ、また消えやがった……!」
攻撃が届く寸前でエーテリアスは再び赤い霧に隠れ、姿をくらます。
いちいち構うのも時間の無駄だろう。
ファイズはエーテリアスは相手にせず、最優先で霧の外を目指すことにした。
障害物を避け、走るファイズ。
その間もエーテリアスはしつこく奇襲を仕掛けてくる。
「この野郎……! うっとおしいんだよ!」
ギリギリで攻撃を避けながら、なんとか霧の外へ走る。
タクミを呼ぶ真斗達の声も、次第に近くなっていく。
しかし……
「ガァアアアアア!!」
「ッ!!」
道を阻む障害物に気を取られ、ファイズはエーテリアスの奇襲を防ぎきる事が出来なかった。
そのまま突進攻撃を食らい、ファイズは吹き飛ばされてしまう。
……だが意外にも、攻撃を受けたことはファイズにとって幸運となった。
物理法則に従い吹き飛ばされるファイズの体は──
「うおっ!? タクミ!!」
「!」
そのまま運よくミアズマの霧を突き抜け、真斗達の元へ直送されたのだった。
「た、タクミ!? 大丈夫!?」
「ゲホッ、俺は大丈夫だ……それより、エーテリアスがこっちに来る! みんな気をつけろ!」
「!」
ファイズが警告した直後、霧の中からエーテリアスが飛び出し、真斗達に襲い掛かる。
しかし、エーテリアスの刃が彼らに届くことはなかった。
「え……?」
「……コイツは」
真斗達の前に割って入り、何者かがエーテリアスの攻撃を防いだ。
「…………」
その後ろ姿は……奇妙にも、
シーシィアちゃん中々良い性格してて好きです
暗くて重い過去があっても、それをダシにしてくっそ厚かましいお願いとかしてそうな図太さを感じる