「…………」
エーテリアスの攻撃を軽々と止めた、もう一人の真斗。
服装は本人と違い白いジャケットを身に着けており、髪も赤ではなく白色だったが……顔立ちや体格はまさしく彼のソレであった。
攻撃を止められたエーテリアスは、これ以上追撃をする事はなく、そのまま赤い霧の中へと消えていった。
やがて『もう一人の真斗』はゆっくりとこちらを振り向く。
「……よぉ。やっと会えたなぁ」
「……!!」
白い前髪から覗く青い瞳は、本物の真斗を見ていた。
「何モンだ、テメェは……!」
「"何モン"だぁ? どう見ても"狛野真斗"そのものだろーが。テメェの顔も、夢と一緒に忘れちまったんじゃねぇだろうな、ああ?」
口調こそ荒いがリン達に対しては物腰が柔らかい真斗と違い、目の前にいる白い真斗は非常に気性が荒いイメージを受ける。
「オレらは初めましてってわけじゃねぇ。クソガキの頃に会ったのを忘れたのかよ」
「すごい……ところどころ違うとこはあるけど、真斗くんと瓜二つだよ!」
「……"狛野真斗"っつったな。テメェ、どこから来やがったんだ。そのナリは何のおふざけだコラ」
「マジに理解んねぇのか? えらく察しが悪いじゃねぇか」
真斗を睨む白い真斗。
……と、その時。ここに来てようやくH.D.D.の接続が回復し、イアスからアキラの声が聞こえた。
『皆、聞こえるかい!? ようやく接続が──って、これは……!? どうして真斗くんが二人いるんだ……!?』
「さっきいきなり出てきたんだ……多分だけど、白い方の真斗は偽者なんじゃねぇか」
『偽者……ミアズマの幻、という事かい?』
「……大方そうだと思うッスよ。いい加減気味がわりぃ、さっさとホロウを出たい気分だぜ」
「オイオイ、またシッポ巻いて逃げんのかテメェは……? いつまでテメェの夢から逃げ続けるつもりだ」
「夢だと……? まさかテメェは」
「やっと気づいたかよ」
白い真斗は大剣を掲げる。
「そうだ。オレはテメェが捨てたと思い込んでた、"夢そのもの"だ。いくらあがこうとも消すことのできねぇ、テメェの夢だ」
「…………!」
「……『真斗』。テメェがガキの頃掲げてたあの夢はどうしちまったんだよ。何がテメェをそこまで腑抜けにさせやがったんだ?」
「真斗くんの夢……って事は、この真斗くんはモスさんが言ってた"夢縋り"って事……?」
「へぇ、あの野郎はそう言ってたのか。夢縋りねぇ……ちったぁ的を得た名前じゃねぇか」
『夢縋り……? 皆、何の話をしているんだ? そもそもどうして真斗くんは二人いるんだ?』
『ターゲットの組成を分析中……生命反応はなし。白い服を着た狛野真斗は、ミアズマによる構成物だと推測されます』
町にあるミアズマは、どういう訳か真斗がかつて見ていた夢を幻として作り上げていた。
……だが、その幻に敵意は見られない。
真斗本人に対して毒を吐きまくっているだけで、エーテリアスのように襲ってくる気配はなかった。
「真斗……お前大丈夫か? 侵蝕されてんじゃ……」
「……なんてこたぁねぇよ、オレは平気だ。つーかそれより、お前の方こそ大丈夫なのかよ! エーテリアスに襲われてただろ? それに──」
「ハッ、いっちょ前に他人に気ぃ使ってる場合かよ。そんなに心配なら、さっさとここを出ろよ。だが、ホロウを出たところでオレから逃げられると思うなよ」
「……チッ、言われなくてもそうしてやるよ。おらタクミ、行くぞ!」
「は? えっ、ちょ──」
真斗はファイズを軽々と担ぎ上げる。
そしてそのまま、困惑の声を上げるファイズには耳も貸さず、リンとリュシアとともにホロウの出口へと向かった。
夢縋りの真斗は追いかけることはせず、ただ彼女たちの背中を見送るのみだった。
「…………」
そしてラマニアンホロウの出口付近。
変身を解除させられ、タクミは強制的に座らされる。
「タクミ、どこもケガしてない!? 具合は!?」
「えっ、だ……大丈夫だけど……なんで皆焦ってるんだ?」
「なんでってお前……さっきエーテリアスに派手に吹っ飛ばされてただろーが……!」
「うんうん。しかも真斗くんとリンちゃん、タクミくんが学生服を着た夢縋りに変えられちゃったって言ってたよ?」
「そうだよ! タクミが侵蝕されたかもって、急いで外に出たんだよ?」
「は? 侵蝕? 学生服?」
何の話をしているのか分からない。
怪我に関してはただ吹っ飛ばされただけなので無傷ではあるが……
「……霧の中にいた時は、変身してたから別に侵蝕はしてないぞ。てか学生服って何のことだ」
「お前、別行動してた時に学ラン着ていきなりオレ達の前に出てきたじゃねぇか。覚えてねぇのかよ」
「現れたと思ったらすぐ消えちゃったし……リュシアとも一緒に探してたらなんかエーテリアスに襲われてたし……」
「……?? ちょっと待て、俺は学ランなんか一秒だって着てないぞ。着てたのは適当観の道着だけだ」
記憶が抜け落ちているわけでもない。
先ほど町にいた時のことはしっかり覚えている。
『マスター、助手三号のバイタルは極めて安定しております。侵蝕症状も、現時点では兆候すら見られません』
「え……って事は、あのタクミは幻だったって事?」
「……ひとまず、帰って情報を整理するしかないっスね。夢縋りのオレと言い、さっきから奇妙なことばっかり起きてやがる」
「そうだね~。あたしのメモ帳も、もう十ページは埋まったもん!」
「リュシアお前、ずっと怪談のネタメモしてたのか……」
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澄輝坪に戻ったあと、奇々怪々で店番をしていた柚葉に事の経緯を伝えた。
タクミはエーテリアスとの戦闘で疲れたため、適当観の部屋で休んでいる。
「……ふーん、そんな事が」
「ミアズマは、触れた人の記憶をもとに幻を作り出す習性がある。子どもの頃の夢だって、例外じゃないだろうね」
「って事は、侵蝕されちゃうとその夢縋りに変えられるって事?」
「私もそう思ったんだけど……モスさん達と違って、真斗とタクミの夢縋りは本人とは別で出てきたんだよね。夢縋りにも種類があるのかな」
「もしくは、本体はいるけどどこかに隠れてるって可能性もあるよ。ジェムゴーレムみたいにね!」
「本体か……」
確かにその説なら辻褄が合う。
ホロウで見た彼らは全員、本人ではなく幻だった……という事なのか。
「……もしそうなら、本物のパウル達はどこにいるってんだ?」
「考えたくはないけど……町の何処かに閉じ込められてる可能性もあるね」
「"何処か"か……あ、まさか……講堂か!」
「!」
「それだ……! モスさん達は皆口を揃えて『講堂には入るな』って言ってた……!」
さらにモスは講堂には『大事なもの』があるとも言っていた。
恐らくだが、あそこに本物のモスたちがいるはずだ。
「……ねぇ、リンちゃん」
「? どうしたの、柚葉」
「話、変わるんだけどさ……タクミの夢縋りは、学生服を着てたんだよね? って事は、タクミの小さい頃の夢って、学校に通うことだったの?」
「!」
「あー……それ、ジブンも気になってたッス。いやあの、無理に答えなくてはいいんスけど」
「…………」
リンは少しの沈黙のあと、口を開く。
「……タクミの夢がなんなのかは、私にもわかんない。タクミはああ見えて、自分自身の事はほとんど話さないから。でも、もしあれがタクミの
「……それって」
「うん」
「だってタクミは、学校に通ったことが一度もなかったから」