ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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盤岳

 

 

 

 

 

「……そうだったんだ」

 

 

リンから告げられた事実に、柚葉は目を伏せる。

 

 

「タクミが小学校に入学する歳といやぁ……丁度旧都陥落の直後ぐらいか」

 

「うん。あの時の私達に、タクミを学校に通わせられる程のお金なんてなかったからね」

 

 

経済面の問題も理由の一つではあるが……

 

二人が師事していたカローレが、『旧都陥落の元凶』の汚名を着せられた事。

 

それにより彼女の生徒……アキラとリンに『悪魔の子』のレッテルが貼られてしまった事が、弟であるタクミを学校に通わす事のできない何よりの原因とリンは考えていた。

 

 

気休めでしかないかもしれないが、アキラとリンはタクミの為、なるべく勉強を出来る環境を整えたりもした。

 

勉強を教えたり、参考書を買ったりなど……生活するうえで支障が出ないよう、二人はタクミの『先生』代わりとなった。

 

 

だが……それでも『友達を作る事』や、『友達と交流する事』など、学校でしか出来ない事がある。

 

学校でしかできない事は……タクミが何より楽しみにしていた事なのかもしれない。

 

 

「タクミは……密かに恨んでるんじゃないかな。私とお兄ちゃんが、プロキシになった事。それで、行きたかった学校に行けなくなった事」

 

「! そんな事はないよ! 二人にはのっぴきならない理由があったんでしょ? それなら、タクミも恨んだりなんかしないはずだよ」

 

「そうッスよ。アイツがアキラくんとリンちゃんに恨み言を言ってるとこなんて見た事ねぇし……何よりタクミは、そういう陰口を言うような陰険なヤツじゃねぇ」

 

「……そうだよね」

 

 

この新エリー都では、旧都陥落の影響で学校に行けなくなった子供はさほど珍しくもない。

 

タクミ自身も、恐らく仕方ないと割り切っているはずだろう。

 

 

 

 

「ごめんね、変な事言っちゃって……話を戻そっか。どうやって講堂にいるパウルさん達を助けるか……だったよね」

 

「んー……場所さえ分かれば勝ち確って訳でもないよね……タクミが出くわしたエーテリアスもいるし、今の戦力で足りるかな?」

 

「その点は心配いらねぇんじゃねぇか? いざとなりゃポーセルメックスん時みたいに、適当観の先生達に助けを求めりゃあいい」

 

「えっと……真斗くん、その事なんだけどね。師匠達は今、用事でいないの。今適当観でホロウに入れるのは、私とタクミくらいしかいないかな」

 

「え、マジすか……ついてねぇな……こうなりゃポーセルメックスの連中にでも──って、リュシアはどこだ?」

 

 

いつの間にかいなくなっている。

 

町にいた時もそうだったが、リュシアは結構神出鬼没かつ自由奔放な性格の少女だ。

 

 

「みんな!」

 

 

探しに行こうとした時、ちょうどリュシアが戻ってきた。

 

 

「リュシア、お前どこ行ってたんだよ」

 

「タクミくんの様子を見に行こうかなって思ったの。そしたらアキラくんとタクミくんが、なんか"大きなライオン"と一緒にお話してた」

 

「?? 大きなライオン……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

「む……如何したか、童よ」

 

 

タクミは現在、気圧されていた。

 

体も十分に休めたので、アキラと一緒に奇々怪々にいる柚葉達の元へ行こうとしたら、白髪の巨大な知能構造体の男性に出くわしたからである。

 

 

二メートルはあろう体格。長い白髪。そして銀色のボディ。

 

そして胸部に位置する金色のコア。

 

 

敵意こそないが、まるでライオンと対面したような緊張を感じた。対面した事はないが。

 

 

「えっと……貴方は?」

 

「我輩は……盤岳ばんがくと申す者。この地に用があり、尋ねた次第である。おぬしらは……適当観の者か?」

 

「そうです」

 

「ならば話は早い。我輩は儀玄に請われ、適当観を訪れたのであるが……此度、雲嶽山が三人の新たな弟子を迎え入れたと聞いた。おぬしらが儀玄の言っていた弟子か?」

 

「新弟子なら、確かに僕達の事だよ。僕はアキラで、こっちは弟のタクミだ」

 

「左様であったか。では、あと一人の弟子も此処にいると言う事か」

 

「ああ。もうすぐ帰ってくると……おっ、噂をすれば」

 

 

ちょうど奇々怪々からリンが帰ってきた。

 

リンは盤岳を見て目を見開く。

 

 

「! お兄ちゃん、その人は……」

 

「お帰り、リン。この人は盤岳さんだ。僕達に用があって来たらしい」

 

「如何にも。おぬしらに会えたら、この手紙を見せるようにと儀玄から伝言を授かった」

 

「手紙?」

 

 

盤岳は一枚の手紙を差し出す。

 

 

何やら小難しい言葉遣いが並んでいたが、要するに『盤岳。適当観にいないしばらくの間、私の弟子達はお前さんに任せる』という内容だった。

 

…………裏面を見ると、リン達向けに追伸が書かれている。

 

 

 

 

 

『盤岳先生と呼んでやれ』

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、事情は分かったよ。そういう事ならよろしくね、盤岳先生!」

 

「なに、殊更にかしこまることもあるまい。我輩の事は盤岳と呼べばよい」

 

「まあまあ、良いじゃないか盤岳先生。これからお世話になるわけだしね」

 

「……まあよい。では、おぬしらが今し方見舞われている災難について。この盤岳の助けが必要であるならば、なんでも申してみよ」

 

「あ、それなら丁度頭を悩ませてることがあって……」

 

 

リンは盤岳に町の事や、夢縋りの事、そして白いエーテリアスの事についてをあらかた話した。

 

 

 

「むう……面妖なる幻、そして危うきエーテリアス。あい分かった! 悪しきものを討つ事こそ、我輩の使命! 今日はこのような時間ゆえ失礼するが……出立とあらば、いつでも声をかけよ!」

 

 

『さらば!』と言う声とともに、盤岳は適当観を後にしていった。

 

 

「盤岳先生か……リュシアの言ってた『大きなライオン』って、あの人の事だったんだね」

 

「ライオンか……確かにそういう雰囲気だったな」

 

「ひとまず、盤岳先生がいれば講堂の事は何とかなるだろう。ただ、『もう一つの問題』については僕達でどうにかしないといけないけどね……」

 

「H.D.D.の通信の事だよね……」

 

 

これまでも何度か通信が途絶えた事はあったが……今回は何かが違った。

 

機器等は正常に動作しており、通信が途絶えてしまう程エーテル活性が高い訳でもなかった。

 

 

『マスターの信号は継続して検知されており、現在位置の追跡は可能だったものの、双方向での通信が確立できませんでした。接続要求が、解析不能の情報障壁によって遮断されていた事が原因であると見られます』

 

「リン達が町にいる間、何かしらのバリアのようなものが邪魔をして通信が繋がらなかったんだ。みんなが町を出て、ようやく繋がったという訳だ」

 

「これもミアズマの性質ってわけか……」

 

 

とにかく、再び町に入る際は単独行動は極力控えた方がいいだろう。

 

盤岳や真斗、リュシアがいれば戦力的にも問題は無いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盤岳が帰った後、もう時間も遅いので、明日に備えゆっくり休むことにした三人。

 

タクミも部屋で休もうとした時……突然、リンが部屋に入ってきた。

 

 

「……? 姉ちゃん?」

 

「ごめんねタクミ、ちょっとお話してもいい?」

 

 

リンは近くの椅子に腰をかける。

 

 

「えっと……タクミにさ、聞きたい事があるんだよね。タクミの夢縋りの事なんだけど……」

 

「!」

 

「ホロウを出たあと『学生服姿のタクミ』を見たって言ったじゃん? あれがもしホントにタクミの夢縋りなら……」

 

「……あー」

 

 

タクミはリンの言いたい事が分かった。

 

 

「確かに……小さい頃は、学校に行く事が何よりも楽しみだし、夢だったな。姉ちゃんに言われてやっと思い出したよ」

 

「…………? 思い出した? ずっと夢見てたんじゃないの?」

 

「六分街に来てから、ずっと忘れてたんだよな。学校に行きたかったって事。別に今は行きたいとは思わないしな」

 

「……タクミは、私とお兄ちゃんの事、恨んでないの? 学校に行けなくなった事」

 

「う、恨む? なんで俺が二人を恨む事になるんだ?」

 

 

心底意味が分からないと言った感じで困惑するタクミ。

 

 

「だ、だって……私とお兄ちゃんが『悪魔の子』って言われて……それでプロキシになる事を選んだせいで、タクミは楽しみにしてた学校に行けなくなったんだよ?」

 

「楽しみにしてたってのは……十年以上前の事だろ? それに……その夢は、ほぼほぼ叶ったようなもんだよ」

 

「え?」

 

「だって、兄ちゃんも姉ちゃんも、俺に勉強教えてくれたじゃん。教師みたいにホワイトボードに計算式書いたりとかしてさ。映画で観た学校の生徒になってるような気分で、すげー楽しかったんだ」

 

「…………そう、だったんだ」

 

 

タクミの夢は……既に叶っていた。

 

彼自身がそう言うのなら、そうなのかもしれない。

 

 

「それに、今の俺には新しい夢がある」

 

「新しい夢?」

 

「ああ。170だ」

 

「? 何その数字」

 

「身長」

 

「………ぷっ、ふふっ……!!」

 

 

思わず吹き出しそうに……いや、吹き出してしまったリンだった。

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