ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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イドリー

 

 

 

 

 

「ん、んん……ここは……?」

 

 

ベレー帽を被った、金髪の女性。

 

彼女はファイズに支えられた状態からゆっくりと起き上がる。

 

 

「……あの、大丈夫すか」

 

「…………」

 

 

ファイズの呼びかけには応じず、ただぼんやりと周りを眺めている。

 

そして彼女の視界にリンが映る。

 

 

「きみ……すごく、綺麗な目をしているわ。わたし、まだ夢の中にいるのかしら……」

 

「ここは夢じゃなくてホロウの中だよ。というか、貴方は誰……? なんでこんな所に……」

 

「姉ちゃん、この人……夢縋りじゃないみたいだ。本物の人間だ」

 

「!」

 

 

リンを見つめ、まだぼんやりとした様子の女性。

 

すると、講堂の扉が開く音が聞こえてきた。

 

 

「物音がしたぞ、何事だ──むっ、このおなごは……!」

 

「リンちゃん、その人は……? その人も夢縋りッスか!?」

 

「ううん、違うよ……この人は本物の人間。ここで宙吊りになってたんだけど、話しかけた瞬間に落ちてきたの」

 

「無事で良かったけど……なんか不思議な感じの人だね〜」

 

「よりにもよってリュシアがそれ言うか」

 

 

 

というか、先程から気になる事がある。

 

 

「……この人、なんでさっきから姉ちゃんの方見てるんだ? 知り合いか?」

 

「……ねぇ、貴女の名前は? 私はリンって言うんだけど……私達、どこかで会ったかな?」

 

「わたし? わたしは……イドリー。きみとは……初めましてだと思うわ」

 

 

イドリーと名乗る女性は、そう答える。

 

なんとなく違和感がある。イドリーはどうも、リンにしか意識が向いていないような気がする。

 

 

と、その時。

 

 

「君たち……彼女を助けてくれたのか!」

 

「! モスさん……」

 

「何が"助けてくれたのか"だこの野郎……なんでここに人がいんだよ!」

 

「待ってくれ、これも誤解なんだ……! 彼女を捕らえていたミアズマは、俺達でも手を焼いていたんだ」

 

『……モスさん? "誤解"という言葉は、それ程便利な言葉でもないよ』

 

「本当だ、信じてくれ! 住人たちに聞いてもいい! それよりリンくん、彼女を助けたのは君か? あの束縛を解く力があるとは……」

 

「私も……何をしたのかは分かんないけど、イドリーに近づいた途端、急に目が……」

 

 

彼女に起きた異変。

 

リン曰く、突如頭の中に映像のようなものが流れ込んだと言う。

 

 

 

その映像には……一瞬ではあったが、サラの姿もあったらしい。

 

 

 

 

「リンちゃん、コイツに説明してやる必要はねぇッスよ。んな事より、イドリーさん……だったっけか? この人を安全な場所まで連れてかねぇと。歩けるか?」

 

「…………」

 

「……イドリーさん? どうしたんすか?」

 

「…………?」

 

 

リンの問いには応じたのに、真斗やタクミの声には反応する事は無かった。

 

 

「……オレ達の声、聞こえてんのか?」

 

「イドリー、歩ける? このまま一緒にホロウを出るよ」

 

「……大丈夫。自分の足で歩けるわ」

 

 

リンの声にはちゃんと反応する。

 

悪意がある訳ではなさそうだが……

 

 

「心配してくれてありがとう。でも……ごめんね。わたし、ホロウからはどうしても出られないの」

 

「え……出られない? なんで?」

 

「分からない……何度か試したんだけど、どうしても出る事が出来なかったの」

 

「まあ、ホロウはそういうものだからね……でも大丈夫! プロキシの私が、貴女をホロウから出してみせるから!」

 

「彼女を連れて行ってくれるんだな? それは助かるよ……もし医療品が必要な場合は、遠慮なく言ってくれ」

 

「……止めないんすね」

 

「止めるものか。彼女が吊るされているのを見ているだけだったのは、とても心苦しかったんだ。君達なら、彼女を守ってくれるだろう」

 

 

 

一行はイドリーを連れ、講堂を出る。

 

モスは彼らをそのまま見送り、止める素振りすら見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホロウの出口を目的地に、町を歩く。

 

見張りを含めた町の住人達は、モスと同じように敵意はなく、ただ彼らを見送るのみ。

 

 

「出口は町を出た先にあるよ。話は澄輝坪で聞かせてもらうね」

 

「うん。でも……」

 

「? でも?」

 

「……ううん、なにも」

 

 

イドリーは何が言いたげな様子だったが、口を噤む。

 

 

「そういえばさ……イドリーは、サラとは知り合いなの?」

 

「ええ、わたしを閉じ込めたのは彼女だから……あなたも知り合いなの?」

 

「……そうとも言えるね」

 

 

 

そのまま何事もなく進んでいき……一行は町の出口に到着した。

 

 

 

「ワンダリングなんちゃらやら、あの白いクソ野郎やらが出てくるかと思ったが……杞憂だったみてぇだな」

 

「ああ、俺の夢縋りも結局出てこなかったしな……」

 

「じゃあイドリー、行こっか」

 

「…………」

 

「イドリー?」

 

 

イドリーは突然、出口の前で立ち止まる。

 

彼女の表情は……何かを恐れているような、そんな顔をしていた。

 

 

「どしたの、イドちゃん。出口はすぐそこだよ?」

 

「…………」

 

「イドリー? どうしたの?」

 

「……できない」

 

「え?」

 

「出来ないの。わたしには……ここを出る事は出来ない。見えるの……この出口の先に、果てしない暗闇があるのが……全てを呑み込む暗闇があるのが……!」

 

「裂け目の事? いやでも、ここにはないし……」

 

『まずいな……侵蝕で幻覚を見ているのかもしれない。多少強引にでも、急いで連れ出そう』

 

「ほらイドリー、行こっ!」

 

「っ! ちょっと待って──!」

 

 

リンはイドリーの手を握り、そのまま出口の門にある裂け目をくぐった。

 

 

 

 

「…………行けたか?」

 

「戻って来ねぇって事は、そういう事だろ。オレ達も行こうぜ」

 

 

ファイズ達も、二人の後に続こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!!」

 

「?」

 

 

だがその直後、同じ裂け目から何故かリンとイドリーが飛び出てきた。

 

 

 

「…………今、のは……」

 

「……やっぱり、無理なの」

 

「? 二人とも、どうしたの? なんで戻ってきたの?」

 

『ルートが間違っていたのか? けど、確かにこの裂け目の先はホロウの出口で……』

 

『報告。マスターの座標は、この十数秒間でラマニアンホロウの各所に出現していました』

 

「は!?」

 

 

Fairyから告げられるとんでもない事実。

 

いくら空間が不安定であっても、そのような事は滅多に起こらないはずだ。

 

プロキシが算出したルートでは尚更起こりえない。

 

 

「……今回もダメだった。これは……ホロウがわたしにかけた呪いなの」

 

『今観測データを見たけど……二人が裂け目に入った瞬間、そこのエーテルがほぼ再構築で乱れ出していた。偶然にしても、こんな事は今まで起こった事が無かった……』

 

「イドリーを連れていくと……出口が消えちゃうって事?」

 

「そうなの。だからお願い……どうかわたしを置いていって。わたしの為に、きみが苦しむことなんてないわ」

 

「そういう訳にもいかねぇだろ……出られねぇなら出られねぇで、ひとまずは安全な場所を探さねぇとな」

 

 

確かに、イドリーが戦えるとしてもホロウに長時間野放しにしておくには危険だ。

 

「どこかに安全な場所があればいいけど……」

 

「安全な場所……あ、それなら……近くにシェルターがあるわ!」

 

「イドリー、知ってるの?」

 

「うん。実は……わたしもプロキシなの。ホロウに入る時に周辺のルートを調べておいたから。最終的には捕まって出られなくなっちゃったけど……」

 

「よし……それなら、まずはそこに行こう!」

 

 

一行はイドリーの案内のもと、シェルターがあると言う場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シェルターまでの道中、ミアズマによる障害物やエーテリアスを片付けながら、先へ進む。

 

イドリーはプロキシでありながら、エーテリアスとも戦う事ができるらしい。

 

おもむろにハンマーを取り出した時は流石のファイズもビビった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして無事に、シェルターへとたどり着いた。

 

 

「イドリーさんの言う通り、マジにシェルターみてぇだな」

 

「保存状態は良好……造形から推測するに、恐らく旧都時代に造られたものだろう」

 

 

シェルターには他に誰か来ている訳でもないようだ。

 

 

「ここでなら、侵蝕の危険性も低いし、安心して休む事が──あら?」

 

「?」

 

「……! き、きみは……」

 

「え?」

 

 

イドリーは目を丸くし、珍しいものを見たかのような表情をする。

 

 

その目線は……ファイズに向けられていた。

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