照から匣を借りに澄輝坪へ戻るため、シェルターを出たリン達。
ファイズとイドリーは彼女達が戻ってくるのを、シェルターの中で待っていた。
「……エーテリアスは来てない。町の人間も……来てないみたいですね」
「ねえ」
「どうしました?」
「そんなに気を張り詰めないでいいのよ。きみもどうか休んで」
「でも……」
「それに……その仮面の下の、きみの顔も見ておきたいし」
「……」
町に入ってからはずっと変身していたタクミ。
気の抜けない状況だったので、ずっと変身したままでいたが……
確かに、安全なシェルターの中にいる今くらいなら変身は解除してもいいかもしれない。
ファイズフォンの通話終了ボタンを押し、変身を解除する。
「わあ……きみの顔、リンとそっくりなのね。眼は……少し違うけど」
「そうですか? まあ確かに姉ちゃんの眼は──……っ」
「?」
「い、いや……なんでもないっす」
危うく機密情報を漏らすところだった。
ところで。
「…………」
「……どうしたんですか、俺の顔見て」
「うーん……きみの顔、どこかで見たような気がするのよね……」
「え……どっかで会いましたっけ」
「わたしの記憶が確かなら、確かに──……あ、思い出したわ。少し前に、ホロウできみに会ったの」
「ホロウ? ラマニアンホロウですか?」
「ええ。サラに捕まる前に、一度だけラマニアンホロウに行ったことがあって。その時どういう訳か、講堂の時のリンと同じように、きみの顔がはっきりと見えていたの」
『あくまで見かけただけだけどね』と、イドリーは付け加える。
それを聞いたタクミは、思わず眉をひそめた。
タクミは基本、変身しないまま生身でホロウに入る事はない。
その為余程の事がない限り、ホロウの中で顔が割れる事はないはずだ。
『余程の事』と言うのは、ファイズが強敵との戦闘中に攻撃を食らい、変身が解除されてしまった時。
もしイドリーがその場面に出くわしたと言うなら……彼女ならまず助けに行くだろう。
(サラに捕まる前……って事は、町に入って俺の夢縋りに会ったわけでもなさそうだな)
そもそもなぜイドリーがあの時、リンの顔のみを視認できたのかがまだよく分かっていない。
タクミはリンの眼にあるインプラントが要因だと思っていたが……
(俺の顔が見えたって事はそうじゃないのか? でもシェルターに入るまでは、イドリーさんは俺の事は認識してなかったよな……いや、そもそもイドリーさんが会ったのって本当に俺なん──)
にゅるん
「ウアアア!!」
頭の中の考え事を全て消し飛ばしてしまうほどの不気味な冷たさが、タクミの首筋を襲う。
「なっ、なんだ!? マインドリーダーか!?」
「ご……ごめんなさい! この子たち、きみに興味を持っちゃったみたいで……」
「…………!?」
謝るイドリーの後ろ側から伸びる、紫色の細長い物体。
タクミにえも言えぬ感触を与えたのは、イドリーの意思に関わらずうにょうにょと動く、タコの触手だった。
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一方その頃。
『ガァァァアアア!!』
「むうっ、こやつ……なかなかの強者であるな……!!」
「盤岳先生!」
耳をつんざく程の咆哮。
絶え間なく響く重厚な金属音。
そして……どこかから聞こえてくる鈴の音。
シェルターを出て、澄輝坪に戻るはずだったリン達だったが……
その道中、運悪く白いエーテリアス──ワンダリングハンターに出くわしてしまった。
ワンダリングハンターの近くには……鈴を鳴らすフードを被った小柄な少女、ランタンベアラーもいる。
彼女は戦いには参加せず、ただ見ているのみだった。
「すごい……見た事ない造形もさることながら、洗練されたファイトスタイル……!! やばい、スケッチを描く手が止まらないよ!」
「こんな時までエーテリアスマニア出してんじゃねぇ! 盤岳先生、手伝うッス!」
「感謝……だが無用! おぬしらはリン殿を護る事に注力されよ!」
ワンダリングハンターの巨大なエーテルの刃と、盤岳の鋼鉄の剛腕と拳。
互いの攻撃がぶつかり合う音が、幾度となく聞こえてきた。
両者の戦いを見る限り……盤岳はワンダリングハンターの攻撃に押されつつあり、若干劣勢だった。
「やばい……盤岳先生でもジリ貧な感じするよ……!」
「ワンダリングハンターとランタンベアラーは二人一組なのかな? もしかして、ランタンベアラーの指示でアイツが動いてるとか……」
「それなら、ランタンベアラーの方をなんとかすれば、戦いを止められる……?」
「よし、やってみるね!」
メモ帳を閉じたリュシアは、勢いよく駆け出す。
一直線に、ランタンベアラーの元へ突っ走り──
「!」
「さあ、君の正体……見せちゃって!」
有無を言わさず、持っていた杖でランタンベアラーのフードを捲り上げた。
「…………」
「え……?」
フードが捲り上げられ、ランタンベアラーの顔が明らかとなる。
その顔は……別人と言うには、あまりにリュシアとそっくりだった。
ランタンベアラーはリュシアを見ると、にこりと可愛らしい笑みを浮かべる。
「リュシア殿!」
「!!」
後ろから聞こえる盤岳の声。
事態を飲み込む間もなく、先程盤岳と戦っていたワンダリングハンターが、ランタンベアラーの元へと飛んできた。
「…………」
だが奇妙なことに、ワンダリングハンターがリュシアに襲い掛かる事はなかった。
ワンダリングハンターはランタンベアラーを抱え、高く飛び上がる。
「アイツ……」
崖の上に着地した後、二体は何もすることなく、そのまま姿を消した。
「遁走を許したか。突然攻撃を止めたかと思えば……全く、面妖なエーテリアスもいたものよ」
「今までにないタイプのエーテリアスだったね……この前も、襲ってくるかと思ったら突然消えちゃったし」
『みんな……僕の気のせいじゃなければ、ランタンベアラーの顔は……』
「……リュシアにそっくりだったッスね。背丈はちっこかったけどよ」
「確かに、あたしもあの子は他人って気はしなかったなぁ。妹なんていないはずなんだけどなぁ……」
ワンダリングハンターが消えた以上、今考えても仕方がない。
一行は今度こそ、ラマニアンホロウの出口へと向かうのだった。
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ちょうどその頃、シェルターにて。
リン達を待つイドリーのもとに、来客が訪れた。
「イドリー……やはりここにいたか」
「……あら、きみだったの」
シェルターにやって来たのは……モス。イドリーは彼を若干冷めた目で見る。
「迎えに来た。さあ、一緒に町へと帰ろう」
「あそこには、帰らないわ。リン達と待ち合わせをしているから」
「前にも言ったはずだ。君は町にとって、切ろうとしても切り離すことのできない存在だと。君はホロウから出ようとしたが、幾度も失敗してきた。その原因は……君自身だ」
「……わたし自身?」
「ああ。ミアズマや、町の住人のせいなどではない。君の存在そのものが、ホロウから出る事を妨げているんだ」
「……どういう事か、説明して」
わずかに顔をしかめるイドリー。
モスはそれに対し、あくまで『敵意はない』と言った感じで振る舞う。
「そう警戒しないでくれ。説明ならするとも。だが……そのためにも、一度町へ戻って来て欲しいんだ」
「…………」
「いや、モス。
「!? なっ……!!」
モスの首元に伸びる、赤く輝く刀身。
いつの間にかモスの背後にいたファイズが、ファイズエッジの刀身を彼の首にあてがっていた。