「ふむふむ。町には夢縋りしかいなくて、どこを探しても本体の方はいなかった……そして講堂ではイドリーって人が捕まってたんだねえ。おまけにランタンベアラーの顔がリュシアちゃんそっくりだった、と」
もう夜も更けてきた頃。
ようやく澄輝坪に戻ってきたリン達は、飲茶仙にて照に町での事を詳細に伝えた。
「んー……行方不明者の手がかりがここまでないんじゃ、救助のほうもちょっと骨が折れるかも……」
「照殿。町にいた夢縋りの容貌は、我輩が一人残らずこの目で記憶しておいた。必要とあらば、行動記録を抽出し確認するとよい」
「……いいの? 行動記録を観るってことは、プライベートなとこも含めた盤岳先生の記憶をぜんぶ観るって事になっちゃうけど……」
「構わぬ。苦しむ人々を救うためなのだ。なにゆえ、己のぷらいべーとなどを気にしていられようか」
「……分かったよ。それなら有難く確認させてもらうねえ」
行方不明者の姿形を模した夢縋り。
その視覚記録さえあれば、捜索の手も広がる事だろう。
「それじゃ次はイドリーの事だけど……アキラくんから事情は聴いたから、ほらこの通り! あるだけの匣を持って来たんだあ」
「ありがとう照! これだけあれば、イドリーをホロウから出せるかも!」
「お安い御用だよお。あ、でもなるべく壊さないようにね? 書くレポートが倍になっちゃうからねえ」
「分かった、気を付ける!」
「…………」
「……あん? リュシア、何見てんだ?」
先程から何か熱心に見ているリュシア。
彼女の視線の先は、分厚いメモ帳。
そこには、リュシアが描いたワンダリングハンターとランタンベアラーの姿があった。
「それが例のエーテリアスだねえ。確か、ランタンベアラーの顔がリュシアちゃんそっくりだったんだよね」
「うん。なんであたしそっくりなのかは分かんないけど……もしもう一度会ったら、お友達になってみたい!」
「友達ぃ? マジで言ってんのか?」
「だっておばあが言ってたもん。『自分にそっくりな人と会った時は、友達になる方法を探しなさい』って」
「だからってよ……アイツ、夢縋りかもしれねぇんだぞ?」
「それでもだよ! なーんか仲良くなれそうな気がするんだよね! ワンダリングハンターの方も、もしかしたらワンチャン……」
「ええ……」
さすがに夢を見すぎだとは思うが、何故かリュシアがエーテリアス達と仲良くしている光景が容易に想像できてしまった。
「ともかく、匣ありがとうね、照! それじゃあ早速……!」
「んー? ちょっと待ってリンちゃん。今から行くのはさすがにやめた方がいいんじゃない?」
「え、でもイドリーをホロウから出さないと……あそこにはまだタクミもいるし」
「もう日付も変わっちゃってるよ? 今から行ったとしても、すぐ帰れるかは分かんないと思うなあ」
「リン、照の言う通りだ。心配な気持ちも分かるけど、今は明日に備えて体力を回復させる事を優先した方がいい」
ホロウの中ではあるが、シェルターの中でなら一晩程度は大丈夫だろう。
それに疲れ切った状態でホロウに行くのも危険だろう。
「……それもそっか。それじゃ、今日は早めに寝ないとね」
「それが一番っス。タクミにはイドリーさんがついてんだ、心配無用っスよ」
「そうだね」
「……うん? ちょっと待って狛野っち、逆じゃない?」
「「…………」」
「…………うん?」
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「よく来たなモス。さっさと帰れ」
「……は、はは……これはまた、随分手厚い歓迎だ」
シェルターにやって来て、イドリーに町へ戻ろうと提案したモス。
あらかじめ物陰に身を潜めていたファイズは、モスの背後を取ってファイズエッジで脅しをかけた。
「やっぱりアンタらだったのか。イドリーさんを町に連れ戻してたのは……」
「ぐ……君は、誤解している。俺たちは、何も強制している訳じゃないんだ。先程言ったように、彼女は無意識のうちに、ホロウから出る事を拒んでいるんだ」
「嘘をつくな」
「噓じゃないさ。疑うなら、君もイドリーと一緒に町に来てみるといい。アレをみれば、きっと嫌でも信じるはずさ」
「…………アレ?」
「ああ。町で一番大切なものだ。真実を知ったうえで、それでもホロウを出たいなら……ここに戻ってくればいい。俺たちは強制しない」
(……大切なもの? イドリーさんの事じゃなかったのか?)
話を聞いたファイズとイドリーは、顔を見合わせる。
ファイズは手を離し、モスを解放する。
「ふう……俺は外で待っている。二人でゆっくり話し合ってくれ」
そう言って、モスはシェルターの外へと出ていった。
「イドリーさん、アイツの話……」
「わたしも、半信半疑だけど……もし彼の言う事が本当なら、ホロウを出るための手がかりになるかもしれないわ」
「なるほど……」
時刻は十二時過ぎ。
きっとリン達は今頃体を休めている頃だろう。今シェルターで待っていても、今日はもう来ないはずだ。
「……じゃあ一緒に行きましょう。もし何かあったらすぐ逃げますよ」
「ええ。その時はプロキシとして、きみをシェルターまで連れて行くわね」
ひとまずの行動方針を固めた二人は、町に行くためにモスについて行くことにした。
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しばらくした後。
モスの案内で、二人はまた町へと戻ってきた。
講堂へ向かう三人を見つめる住人達。
敵意があるかも分からない彼らの視線の気味の悪さも、もう慣れたものだ。
「……モスさん。さっき言ってた、『大切なもの』って、一体なんなんですか」
「町の存続に欠かすことのできないものさ。それを俺たちは、『ゆりかご』と呼んでいる」
「ゆりかご……」
静かなホロウに響く三つの足音。
イドリーとファイズは、慎重に歩を進める。
「さあ、講堂に着いた。この中に、その『ゆりかご』がある」
「……どういう事? ここには、囚われていたわたし以外、何も……」
「君達はまだ、講堂に隠されたもう一つの部屋を知らない。そこへ案内しよう」
モスは講堂の扉を開き、ある方向を指差した。
講堂に入ってすぐには見えない場所。
まさに死角ともいうべき場所に、無機質な一つの扉があったのだ。
(あんなすぐ近くに隠し部屋が……あの時、イドリーさんを助けるのに気を取られて、気づけなかったのか……!)
「ゆりかごは、あの部屋の中だ。足元には気を付けてくれ」
「…………」
そう言ってモスは階段を降り、その扉の方へと歩いていく。
ふと隣のイドリーを見ると……彼女は不安な面持ちをしていた。
心なしか、顔色も悪い。
「……イドリーさん、無理はダメですよ」
「わたしは平気よ、ありがとう……それに」
イドリーは呼吸を整える。
「知っておかなきゃ……いけない気がするの」
「イドリーさん……」
ファイズは周りに最大限気を配る。
いざとなったら、無理やりにでもイドリーをシェルターに連れ戻すしかない。
そしてモスは、隠し扉を開いた。
「ようこそ、ゆりかごへ。歓迎するよ」
「……なんだ、これ……!!」
『ゆりかご』があると言う部屋に入り、目にしたのは──ミアズマで構成された、禍々しい巨大な"繭"だった。
「これが……ゆりかご?」
「そうだ。これこそ、町にとっての『大切なもの』。そしてイドリー……君にとって切り離すことのできない存在だ」
「この繭とわたしに、何の関係が……?」
イドリーがそう聞こうとした時だった。
「っ!! これは……!!」
「……? どうしたの、タクミ?」
突然、ファイズが大きな声を上げる。
「おいモス、どういう事だ……!!」
「なんで繭の中に、人が閉じ込められてるんだ!!」
「…………」
夢縋りに姿を模され、行方不明となった人達。
その彼らが、あろうことかミアズマの繭の中で眠っていたのだ。
その中には……本物のモスもいた。