「……っ!!」
『……? リン?』
ラマニアンホロウに入った一行は、何事もなくシェルターに到着。
だがシェルターを開けようと、リンが扉に触れようとしたその瞬間……またしても彼女に異変が起きた。
「い、今のは……」
「リンちゃん……大丈夫っスか?」
「……今、シェルターを開けようとしたら、頭の中に映像が流れてきた……!」
『映像?』
様々な記憶が、講堂でイドリーを見つけた時と同じようにリンの頭の中に流れ込んできた。
目まぐるしく変わるその映像の中には、サラの姿も。
「イドリー目線で、一瞬のうちに記憶を追体験したみたいな……そんな感じだった」
『ドアノブ付近に不安定なエーテルの残留を検知。マスターが接触した際に、水晶体に強いエーテル反応が確認されました』
「ふむ……おぬしの瞳には、何やら未知なる力が眠っているようだ」
「未知なる力……かぁ。今までも不思議な事はちょくちょく起こってたけど──ってそんな事より、早くシェルターを開けないと……」
リンは再び、ドアノブに手をかける。
……が、なぜか扉はうんともすんとも言えなかった。
「あ、あれ……? 鍵がかかってる……」
『引き戸なんじゃないか?』
「いや、今引いたよ。でも動かなくて……」
「そこに誰かいるの……?」
「!!」
シェルターの中から聞こえる、聞き慣れた声。
どうやら、イドリーがシェルターの扉の鍵を閉めたらしい。
「イドリー、私だよ!」
「……その声、リン?」
「そう! 待たせちゃってごめんね」
「…………」
直後、鍵が開く音がし、扉が『少しだけ』開いた。
小さい隙間からイドリーが顔を出し、リンの顔をじっと見つめる。
「……」
「……?」
リンの眼を見たイドリーは、安心したような笑みを浮かべた。
「……本物のリンね。さあ、入って」
「あ、うん。ありがとう」
そのままシェルターに入る一行。
「イドちゃん、なんかやけに警戒深かったね」
「シェルターの中っつっても、一晩もホロウにいたんだ。警戒するのが普通だろ」
「ごめんなさい、疑うような真似しちゃって。こうでもしないと、いつ危害が加わるか分からないから……」
「それは気にしてないけど……危害って?」
「…………」
「?」
イドリーは質問には答えず、代わりに部屋の隅に視線を移した。
「…………!!」
そこにはマットの上で静かに、力なく横たわるタクミの姿があった。
───────────────────────
…………
……? ここは?
どこだ、ここ……体が……動かない
「あ、気が付いた?」
!!
「そんな慌てないでよ。今の君は今喋ることぐらいしかできないんだから」
……誰なんだ、お前
「"誰なんだ"? ……んー、見て分からない?」
「僕はタクミだよ。君と同じ、
……本物だと?
「そうだよ? ほら見て、どこをどう見ても、本物でしょ」
……眠たいこと言うなよ。本物が二人もいるわけ
「あるんだなあこれが。君も見たはずだよ。正真正銘、タクミそのものだ」
…………
「……あれ、あんま驚かないんだね」
当たり前だろ
お前だな。覚えのないくだらない記憶を夢で見せて、俺と同じ声で囁き続けて……連夜俺を寝不足にしやがったのは
「くだらないなんて、ひどいなあ。まあ確かに、君の記憶じゃないんだけど」
いい加減、ここが何処かなのかを聞かせろ。あの時、俺に何をした? なんで俺の体は動かない
「ここは君の夢だよ。今君は、眠ってるんだ。この夢の中に、君の体はない。だから動かそうと思っても動かせないんだよね」
夢……? なら、さっさと起こせ
「まあまあ、少しくらいいいじゃん。せっかくこうして話ができるようになったんだし。長年の僕のたゆまぬ努力のおかげで、離れ離れだった君の精神にここまで近づけた」
……精神?
「うん。最初は生かさず殺さずで、無理やり連れ去っちゃおうかなあなんて思ってたけど、君がファイズのベルトを手にしたせいで、かなり手こずっちゃったんだ」
……お前、まさか
「お、気づいたね。君も君のお仲間もなかなかしぶとかったからさあ……でも、苦労した甲斐はあったね。君と戦って、君に近づけたから」
お前は……何が目的だ
「んー……ぶっちゃけても良いんだけど、まずは昔話させてよ」
……は?
「僕たちはね……最初は一つだったんだ。けど……『この世界』に生まれ落ちてから、それが二つに分断してしまった」
「君は病院で生まれ、僕はホロウの片隅で生まれた。悲しいね……生まれた瞬間から、僕達は生き別れてしまったんだ」
「でも君の居場所はすぐに分かったよ。そこからは、随分と模索したもんさ。どうやったら一つに戻れるかをね」
「そこで気がついたんだ。君の精神に近づくには……ミアズマの力が最適だって」
…………
「実験がてら、探り探り試したよ。ミアズマを使って、リモート接続的な感覚で君の夢や記憶を改造したりしてね」
どうやってそんな事を……
「さっきも言ったじゃん、僕は君と同じだって。それでその後、讃頌会って言う不思議ちゃん達が集まるクラブ活動にも入って、ミアズマの使い方を色々教わった」
「それでようやく分かったんだ、君と僕が……再び一つになれる方法が──」
……おい
「うん?」
話が見えてこないぞ
一つだとか二つだとか生き別れだとか……お前は俺のなんなんだ?
「うーん、それなら質問を変えた方がいいんじゃないかな? "俺は何者なんだ"ってね。だって僕の正体も君の正体も、同じものなんだから」
…………
「まあ、君はもう気づいてるみたいだけど。とにかく、こうして僕は果てしない努力の末、君とお話する事ができるようになったのでした。めでたしめでたし〜!」
……そろそろ言え
「何が?」
お前の目的だよ
「あ、ごめんごめん……忘れてた。僕がここに来た理由は一つだよ」
「僕と一緒に、世界を支配しない?」
断る
「んー……分かってたけど、手厳しいね」
俺の顔で古典的な悪役の台詞なんか吐きやがって……誰がお前の案なんか乗るか
「でもさ……このまま彼らと一緒に過ごす事なんて出来やしないよ? 君はいつか見放され孤立する」
知った風な事をよく言えるな
「言えるよ。僕達は"そういう存在"なんだから。君の精神にはもう手が触れるか触れないかの距離まで近づいている。後は、君が受け入れさえすればいい」
尚の事従えねーな
「君の大切な人たちが、君を拒絶しないとでも?」
するかしないかの問題じゃない
俺はもう、一緒にいるって決めたんだ
お前のその浅い言葉は、響かない
「…………」
……おい、どこに行くんだ
「別に。君って思ったよりつまらないんだね」
勝手に言ってろ
お前に従うくらいならつまらなくていい
「……まあいっか。どうせすぐに心変わりするよ。だって僕と君は同じだから」
……っ!? なんだ、この光……!
「やれやれ、この場所で話せるのはここまでみたいだ。でも寂しがらなくていいよ? またすぐ会えるからね……それじゃ」
おい、待て……! まだ聞きたい事が───!
───────────────────────
視界の全てを覆い尽くす程の、眩しい光。
やがてそれはなりを潜め……気づけば、先程いたもう一人のタクミは姿を消していた。
「…………?」
代わりにタクミの視界いっぱいに現れた謎の物体。
天井が半分しか見えなかった。
「……あっ、起きた……!」
「タクミ!!」
「……え?」
聞き覚えのある声。
すぐ横から、リンの声がした。
「良かったぁ〜、やっと目が覚めた!」
「ったくよ……テメェはいつも心配をかけさせやがる」
「……姉ちゃん。真斗達も」
「タクミ。体はなんともないの?」
「イドリーさん?」
視界を覆う物体の向こう側からイドリーの声がする。
寝起きで頭が覚醒しない中、理解したのはイドリーに仰向けで膝枕されている、という事ぐらいだった。
寝ぼけ眼で、ゆっくりと起き上がる。
「俺は大丈夫……です。けど、なんで俺寝てたん──だぁあッ!?」
「!?」
立ち上がるなり何かが足に絡まり、すっ転ぶタクミ。
その原因がイドリーのタコ足と知るのは、少し後になってからだった。