タクミはイドリーから、事の経緯を聞いた。
どうやらタクミは、あの時突然現れた『もう一人のタクミ』によって眠らされてしまったらしい。
「……もう一人の俺は、どこに?」
「すぐに消えてしまったわ。追いかけようともしたけれど……きみを放ってはおけなかったから、急いでシェルターまで連れて行ったの」
「イドちゃんから聞いたよ? 何しても全然起きなかったって」
「……マジか」
「不幸中の幸いだったのは、その後は何も起きなかったという事ね。体の方も確認もしたけど、どこも怪我しているところはなかったわ」
「すいません、結局心配かけちゃっ……て……」
謝るタクミの口がピタリと止まる。
いまイドリーは、何をしたと言ったのか。
「……」
「……大丈夫よ、全部は脱がせてないから」
「…………あざす」
……安否確認のため、必要な事だったのは理解している。
タクミは素直に感謝の言葉を伝えた。
「タクミよ。大事がなく何よりではあるが……今しがた体に異常などはないか?」
「俺は大丈夫です、盤岳先生。ただ……寝てる間に、変な夢を見て」
タクミはリン達に、夢で『もう一人のタクミ』と会った事を話した。
もう一人のタクミがサイガであった事も含め、話せる事はすべて話した。
「むう……もう一人のおぬしを名乗る者、か。それはまた、面妖な夢を見たものよ」
「そのタクミと、講堂前で見たタクミは同一人物なのかしら?」
「分かりません。そもそもアイツの話をどこまで信じていいのか……ただ一つ言えるのは、講堂前で見た『俺』は、夢縋りじゃなかったって事です」
「うーん……まさかとは思うけど、クローンとか……?」
「断言はできないけど、その可能性もある」
今度会った際は、縛りつけてでも話を聞き出さければならない。
「……あ、そうだ講堂! 姉ちゃん、講堂の隠し部屋に──」
「落ち着いてタクミ。話はさっきイドリーから聞いたから」
「ああ。本物のモス達の居場所が分かった以上、もう躊躇するこたぁねぇ。夢縋り共をぶっ飛ばしてでも、アイツらを助けるしかねぇ」
一行は講堂に行くため、シェルターの扉を開けた。
すると。
「みぃつけた!」
「うわっ!?」
突然、シェルターの外から聞こえた少女の声に驚くリュシア。
そこにいたのは……
「はい、あたしが見つけたから、次はこっちが隠れる番ね!」
「ま、待って! 君は……!」
「え? 誰だこの子……なんでリュシアそっくりなんだ……?」
「この子……もしかしてランタンベアラー……?」
「タクミ、イドリーさん、気ぃ付けろ! ランタンベアラーがいるっつう事は……!」
「うむ。ワンダリングハンターも、付近で身を潜めているやもしれん……!」
盤岳達は戦闘態勢に入る。
タクミもファイズに変身し、襲来に備えるが……しばらく経っても、ワンダリングハンターが姿を現すことはなかった。
ただ一人、首をかしげるランタンベアラー。
「……? みんなどうしたの?」
「あ、えっと……ワンダリングハンターは、どこにいるの?」
「わんだ……? もしかして、"おとう"の事? おとうならもうすぐ迎えにくるよ」
「……!! 今、なんて……」
彼女の口から聞こえた言葉に、思わずリュシアはうろたえる。
『君も、町の住人なのかい?』
「ううん、違うよ。あたしはおとうと一緒に、この町に遊びに来たの! あたしこの町が好きなんだ。かくれんぼをするのにぴったりだから!」
「……君は、もしかしてあたしの夢縋りなの?」
「どうしてそんな事聞くの? あたしの事は、"リュシア"が一番分かってるでしょ?」
「……分かんないよ。だってあたし、未来の事なんか想像したことないもん。いつだって、色んな人達と出会えて、色んな所を冒険できる『今』が一番良いと思ってたから……」
かつて望んでいた事。今、それが分からなくなってしまっていた。
リュシアはランタンベアラーに尋ねる。
「ねえ、教えて。どうして君は……夢縋りのあたしは、子どもの頃の姿をしてるの?」
「……うーん。多分、ちっちゃいリュシアの方が、かくれんぼに向いてるからじゃないかな? あははっ!」
「!」
「あっ、ちょっと……!」
ランタンベアラーは鈴の音とともに走りだし、あっという間に姿を消してしまった。
「ど、どうしよ……追いかけた方がいいかな……?」
「ランタンベアラーの方も、気がかりではあるけど……まずは講堂に行こ」
足止めを食らったが、今度こそ一行は町へと向かう事にした。
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そして再び講堂へと戻ってきたリン達。
講堂の中の死角に隠されていた扉を開け……繭がある部屋へと入った。
ミアズマで構成された複数の巨大な繭は、依然としてここに残っていた。
「……なんと」
「確かに……モスもパウルも中にいるな。チッ、ぶっ壊して解決すんならとっくにそうしてんだけどな……」
だが、それはできない。
繭を壊せば、中の彼らは侵蝕が進み瞬く間にエーテリアスと化してしまうだろう。
『輝磁の匣を使って、繭を壊さずにそのまま外へ運び出せば行けそうではあるけど……この人数では難しいな。そもそも匣の出力も足りていない』
輝磁の匣を繭にかざすと、繭がわずかに反応した……が、それだけだった。
やはり一度照のところに戻る必要があるようだ。
「っ!? 君達、何をしているんだ!」
「!」
声が聞こえ、振り返ると部屋の入口にモスが立っていた。
いつになく焦った表情で、こちらに詰め寄る。
「その装置はなんだ? なぜ繭が反応を……! 危険だから、こちらに渡すんだ!」
「ダメに決まってるでしょ。これは借り物なの」
「……っ、イドリー。順調にいけば、君は今頃繭の中で町の人間を導いていたはずだ。君の物語は、彼らの為に幕を閉じる運命にあった! それがなぜ……!」
「寝言を言うな。お前らの都合で、イドリーさんが苦しんでたまるか!」
「そうだよ! イドリーの物語はイドリーのもの! 結末を決める権利なんか、あんた達にはないんだから!」
「……!」
モスはイドリーを見る。
「イドリー、外の人間の余計な介入に惑わされるな。君には使命がある。どうか町の人間を守って欲しい」
「……わたしは」
イドリーは少しの間うつむいた後……顔を上げ、キッとした顔でモスを見た。
「……わたしは、リン達と約束したの。一緒にホロウを出るって。わたしの物語……筆を折るつもりなんかないわ」
「何……!」
「もちろん、繭の中の人たちを見捨てるつもりもない。わたしも彼らも、両方無事に出られる方法……リン達と一緒なら、きっと見つけられるって信じてる」
「…………っ」
モスはイドリー達を恨めしそうに見た後、ため息を吐いた。
「……敵意を見せず、少しずつ導いていけば良いと思っていたが、こうも頑なだとはな。あくまで町に危害を加えるつもりなら、こちらも容赦はしない」
「!!」
モスが合図代わりに手を叩く。
すると彼の後ろから、町の住人であるホロウレイダーたちが出てきた。
「君達を繭に入れ、俺たちの『同胞』にする。町の一員になりさえすれば……その馬鹿げた考えも改める事が出来るだろう」
ホロウレイダーはそれぞれ武器を構える。
「ハッ、ようやく本性を現したかよ。上等だコラ!」
「……皆の者、下がられよ」
盤岳が真斗達の前に出て、ホロウレイダー達を見据える。
そして。
ドゴォォォン!!
「うわぁあああっ!?」
轟音とともに吹き飛ぶ、講堂の扉。そしてホロウレイダー達。
盤岳の一撃で、彼らは講堂の外まで吹き飛ばされた。
「っ! お前らかかれ!!」
次々と襲い掛かるホロウレイダー。
扉が破壊されると同時に、戦いの火蓋は切られたのだった。