昼頃、ラマニアンホロウを出て澄輝坪へと戻ってきた一行。
タクミに関しては実に一日ぶりの帰還となる。
シェルターの中にいたとは言え、ホロウで一日過ごしたタクミの体力の消耗は馬鹿にならなかった。
だが行方不明者の所在も明らかになったので、結果オーライと言える。
適当観に戻ってきたタクミは、できるだけ部屋で体を休めることにした。
そして気づけば、午後七時。
「…………」
きっと自分の想像以上に疲れが溜まっていたのだろう。
昼過ぎから今になるまで数時間も部屋で爆睡してしまっていた。
寝ぼけ眼を擦り、タクミは部屋を出る。
「む、起きたか」
中庭には盤岳達が既に集まっていた。
ここに来る予定の照は……まだ姿は見えないようだ。
「よく眠れた?」
「眠れたよ……でもほんとは一時間だけ休むつもりだったんだ」
「それだけ疲れていたという事さ。もう休まなくてもいいのかい?」
「あんだけ眠れば大丈夫だって……」
なんなら夜眠れなくなってしまうのではと言う心配がある。
「てか真斗、怪我は平気なのか?」
「あ? ああ……心配してくれんのはありがてぇが、オレはヘーキだ。実際はかすり傷みてーなもんだしな」
「うーん……ねえ」
「? なんだよリュシア」
「最初に真斗くんの夢縋りに会った時から思ってたんだけど……どうして本物の真斗くんと違って白い髪なのかな?」
「……あー」
真斗はその理由を少し言いずらそうにしていたが……やがて口を開き、話し始めた。
「旧都陥落の時だ。オレがまだ八つかそこらの時だったな……行く宛てもなかった時に、『ホワイトハーツ』っつー白い特服を来た連中に出くわしたんだ」
当時の真斗はその『ホワイトハーツ』に憧れ、なんとか入団しようとホロウでの雑用や鉄砲玉となり、体を張ってきた。
だがある日。拠点であるホロウの環境が悪化すると、ホワイトハーツの頭領はあっけなくトップの座を降りてしまった。
「その後は……オレは用済みになって、『穀つぶし』だの『役立たず』だの散々言われて、そこを追い出されたんだ。……いや、追い出されたんじゃねぇな。オレは元々、頭数にも入ってなかったんだ」
「……利用されるだけされたって事?」
「ま、そうなるっスね。オレとしてもそれが気に食わなかったんで、歯ァ折られてでも、タダで放られてやるかよって、躍起になってました」
その時の真斗の心境は、まさに夢縋りのそれと同じだった。
ダチも、家族も必要ない。
自分のため、ただそれだけの為に剣を振るうと、固く誓った。
「……その時の真斗くんの理想が、夢縋りになって現れたんだね」
「ああ。あのツラ見た瞬間、理解した。あれがオレがかつて目指してた姿そのものだってな。あの子達に出会ってなきゃ、今頃オレはアイツみたくなってた」
その後、真斗は今の家族ともいえる存在……アオとツキに出会う。
「今も昔も『兄貴』って呼ばれてるのは変わんねぇが……昔と比べちゃ、その重みってモンが違ぇ。血は繋がってねぇが、アイツらは本当の家族みたいに思ってる」
彼らの存在が、今の真斗を形作っていた。
「……リンちゃん。勝手な頼みってのは分かってるんスけど……明日またホロウに行く時は、一人で動いても良いスか?」
「! それってもしかして……」
「……家族、そして『ダチ』なる者の為に、もう一人の己と決着をつけるのだな? 真斗殿」
盤岳の言葉に、真斗は無言でうなずく。
「……分かった。そう言う事なら止めないよ。絶対勝ってね?」
「あざす……! アイツと違ってオレには家族がいるんだ、負けるわけにはいかねぇ」
真斗が拳を固めそういった直後、適当観の門が叩かれる音がした。
「……っと、昔話はここまでだな。照ちゃんが来たみてぇだ」
「そうだね。待って、今開けるよ!」
リンが適当観の門を開け、迎え入れる。
やって来たのは照と……見知らぬ顔の少女だった。
「こんばんは~、ザオちゃん達が来たよお。状況はもうあらかた聞いたから、さっそく本題に入ろっか」
「捜索隊の編成はもう済んでるんですか?」
「うん、バッチリ! キミたちの情報のおかげで、無駄足が大分減っちゃった! それで、明日決行予定の作戦についてなんだけどお……」
作戦のプランは二つある。
そのうちの一つ『プランA』は、夢縋りを無力化させ、戦力を抑えたうえで繭ごとホロウから運び出すというもの。
だが、夢縋りは倒しても再生する。
そのしぶとさに加え、ワンダリングハンターの乱入の可能性を考えると、あまり良いプランとは言えない。
ではもう一つの『プランB』はと言うと……
「名付けて~……『繭を消滅させちゃおう作戦』です!」
照の隣にいた少女が元気よくそう言った。
「……照さん、この人は」
「おっと、申し遅れました! あたしはダイアリン、黒枝の一員で……照ちゃん先輩のかわいい後輩です!」
ダイアリンと名乗るツインテールの少女。
タクミは彼女を見て、ふと思う。
(……黒枝の人、もっと厳格なおっさんとかがいると思ってたな)
「まあ普通の人ならダミっちみたいな人を思い浮かべるよねえ。見ての通り、黒枝は個性派揃いだから」
「俺なんも言ってないです」
「すぅ~~~ごく分かりやすく顔に書いてあったよお? キミは表情筋が素直な子って聞いたけど、想像以上に想像以上だったねえ」
「…………」
後ろで頷くリン達。
照の後ろで笑いをこらえるダイアリン。失礼である。
「……ま、話を続けますとですね~、プランBのカギとなるのは、なんと言っても繭そのものなんです。その場で繭を消滅させてしまえば、制圧と搬送にかかる時間を、七割は削減できるんですよ!」
「消滅……どうやって? と言うか、繭を消しちゃったら中の人が……」
「ふふん、そうならない為にプランBではコレを使うんです!」
そう言うとダイアリンは容器のようなものを取り出した。
「前に『輝磁の匣』をあげたでしょ? 携帯用に出力を落とした試作品だったんだけど……こっちはそのオリジナル版なの。名前は高周波──」
「ちょちょちょ!? ストップです照ちゃん先輩! 黒枝の秘密兵器なんですよ、ボスがその名前を口に出すなって念を押してたじゃないですか!」
「……秘密兵器?」
「え、あ、いや~……今のは聞かなかった事に! えーと、この装置の名前は、『輝大侠』です! そういう事にしてください!」
聞きたい事がいくつか増えたが、今は追及しないことにする。
「とにかく、この装置は凄いんです! なんと出力は以前お試しいただいた輝磁の匣の数十倍! これを使えば、部屋一つ分のミアズマをあっという間に吸収できるんですよ!」
「簡易的なシェルターが作れる……って事だね」
「ご名答! これで繭が消えても中の人がエーテリアスになる心配はありません!」
繭からの救出にさえ成功すれば、あとはそのままホロウの外まで向かうだけ。
これがプランBの内容だ。
「ですが……ちょーっとだけ懸念点がありまして」
「懸念点?」
「実は輝大侠って少しわがままなとこがあって……起動前にどっかにぶつけたりしちゃうと、装置からエネルギーがドバーッて溢れちゃうんですよね」
もしそうなれば、輝大侠は最大出力を発揮することができず、ミアズマの吸収も上手くいかなくなってしまうらしい。
扱いには、十分に気をつけなければならない。
「まあ、それでも試してみる価値はあると思うよお。それじゃ、明日の作戦なんだけど……二手に分かれる作戦で行こうと思ってるよ」
共同捜索隊が正面から突撃。
その隙にリン達で講堂の繭のある部屋に直行し、輝大侠を使って繭を消滅させる。
上手くいけば、繭に囚われた人たちを無傷で助け出すことができるだろう。
「作戦の決行は明日の早朝。皆、遅れずに来てね~」
「分かった。おやすみ、二人とも」
リン達は解散し、明日に向けて体を休めに部屋に戻る。
タクミも部屋に戻ろうとしたのだが──
「あ、タクミくん。ちょいとお待ちを~」
「?」
適当観に残っていたダイアリンに呼び止められる。
「どうしたんすか」
「いや~すみません。タクミくんの方には別件でお話ししたい事がありまして」
「話?」
「そです。お願い事があるんですが──」
「しばらくの間、ファイズのベルトを黒枝に預けていただけませんか?」
「…………え?」