隠れたリュシアの父親は、見つける事ができなかった。
その言葉が何を意味するかは、聞かなくとも理解できるだろう。
ふと目に入った彼女の笑みには、様々な感情が込められていた。
「…………」
「もし……もしもう一度おとうに会えたら、今度は『遊びたい』なんて駄々こねたりしない。ただ、きちんとお別れは言いたいかな」
「……そうか」
「……あ、そうだ! 聞きたい事があったんだけどさ、ホロウにいた時、マインドリーダーには会えた?」
「マインドリーダー……いや、会えてないな」
マインドリーダーは、その人が一番会いたいと思っている人に化け、三つまで質問に答えてくれる……と言われている。
怪啖屋のスレッドで「夜魔の語り部」ことリュシアが熱心に語っていたのでタクミもそれについては知っていた。
「あたしね、もしマインドリーダーに会ったら、おとうの事を聞くつもり。どこに行ったのかとか、いつ帰ってくるのかとかね」
「シェルターの中にいた時、イドリーさんも同じ事言ってたな。一緒に探してるんだってな」
「うん! イドちゃんも一緒なら、見つかると思うんだ! タクミくんは? もしマインドリーダーに会ったら、誰に化けて欲しい?」
「……俺は」
タクミは考えるが……すぐには思い浮かばなかった。
アキラとリンなら、恐らくカローレ先生に化けて欲しいと思うだろう。
ならタクミもそうなのかと言われたら、そうではない。
とある事情で彼女とは数えるほどしか会った事がなかったため、仕方ないと言えばそうなのかもしれない。
もちろん会えるなら会って話を聞きたい。だが、それはあくまで
タクミ個人が会いたいと思う人。
強いて言うなら、最早生死すら分からないタクミの両親だろうか。
(……)
しかし、物心ついてからは会った事も話したこともない父親と母親など、会ったところで何を話せばいいのか。
『会えないけど、会えるなら会って話をしたい人』
旧都陥落で大切な人を失った新エリー都の人々は、きっと容易く思い浮かべるだろう。
だが幸か不幸か、そう思えるような人が、タクミにはいなかった。
「……俺には、いないかな」
「そうなの?」
「ああ。俺は……運が良かったから、会いたいって思うほど大切な人は、会おうと思えばすぐに会えるんだ。今みたいにな」
「……え」
タクミには家族がいる。大切な友人たちが今も元気に過ごしている。
誰も失っていない。それがどれだけ恵まれた事かは、もちろん重々承知している。
だからこそ、その大切なものを失わないために、タクミはファイズとして戦っているのだ。
「……」
「でも、もしリュシアがマインドリーダーに会いたいってんなら、喜んで手伝うよ。確かマインドリーダーを探すのにもジンジャー糖水がいるんだろ?」
「……」
「……リュシア?」
「えっ!? あ、うん……そうだね~! 沢山あるから、好きなだけ持ってっていいよ! いや~やっぱり持つべきものはマブダチだね! マインドリーダーの話もここまで真剣に聞いてくれて……」
なぜか顔をパタパタと手で仰ぎながら、リュシアは嬉しそうな顔をする。
「あ~なんか暑くなってきたかも? 夏も終わったのに不思議だねえ」
「そうか? 普通に肌寒いけど」
「……と、とにかく! これからあたし達はエーテリアス道を往く友同士! これからは、気軽に呼び捨てでもいいかな?」
「もちろん」
「よーし! それじゃあ今から何か食べてかない? ゆっくりエーテリアスについて語り合おうよ!」
「明日は朝早いだろ? もうこの辺でお開きにしとこうぜ」
「え~?」
時刻は深夜の十二時半。
そろそろ眠たくなってきた頃だ。
「むー仕方ないなあ……なら、あたしが君がぐっすり眠れるようにお夜食片手に見張っておいてあげる!」
「逆に寝れねーよ」
───────────────────────
そして迎えた翌日の早朝。
支度を済ませ、適当観の外に出ると、照たちと捜索隊の人たちが集まっていた。
「おはよ、リンちゃん達も来たねえ。この人たちは見ての通り、各捜索隊のリーダーの人たちだよ」
「鉱員の人たちに……ポーセルメックスの人たちまで? いろんな人を集めたんだね」
「夢縋り対策に最適の人材を集めたからねえ。ミイラ取りがミイラになる、なんて事態は起こらないはずだよ」
照は改めて作戦の内容をおさらいする。
まず威力偵察担当の第一班が町に突入し、夢縋りが襲ってきた際に抑え込む役割を果たす。
その三十分後に輸送担当である第二班が突入し、スタンバイ。
そして夢縋りと第一班が交戦している最中に、リン達第三班が講堂に侵入。
繭の部屋に輝大侠を設置し、繭を消滅させることができたら作戦成功だ。
ちなみにタクミは第三班で、輝大侠の設置を妨害されないようにする役割である。
「──それとリンちゃん、盤岳先生の事なんだけど……第二班に入れちゃってもいいかな? 何かあった時の為に、二班にも腕っぷし担当を置いときたいんだよね」
「盤岳先生がいいなら、私は大丈夫だよ」
「あい分かった! 必ずや輸送部隊を守り抜き、期待に応えてしんぜよう!」
「タクミ、第三班の方はヘーキか? 戦力に不安があんなら、オレも三班の方に入るぞ」
「こっちは大丈夫だ。リュシア達もいるし、
タクミはカイザギアの入ったアタッシュケースを見せる。
『変身一発』も、念の為持ってきている。
「そうそう! リンはあたし達に任せて、真斗くんは白斗くんに負けない事だけを考えて!」
「ああ。白斗よりもお前が強いって事を証明してやるんだ」
「……そう言う事なら、分か──おい待てなんだその呼び方」
白斗の方が呼びやすくね?という単純な理由である。
と、ここでダイアリンがリンに呼びかける。
「プロキシさん! 輝大侠の事ですが、くれぐれも扱いは慎重に!」
「大丈夫! ……ちなみにだけど、万が一壊しちゃったら──」
「プロキシさん! 輝大侠の事ですが、くれぐれも扱いは慎重に!」
「あっはい! 大切にします!」
何はともあれ、準備は整った。
一行は繭救出に向けて、ついに作戦を開始した。
───────────────────────
海の底から、聞こえる声。
───真なる渇望を……受け入れよ
「…………!」
自身と同じ声。
講堂に囚われていた時も聞こえていた呪いの声は、今もなお耳鳴りとなって彼女を惑わす。
輝く水面に、手を伸ばす。
「わたしの結末は……わたしの物語は……まだ……」
───見捨ててはいけない
───足を止めて……暗闇に……その身を委ねて……
「…………」
『イドリー! いる?』
「……!」
突然、鬱陶しい耳鳴りよりも大きく響いた、ノックの音。聞き慣れた声。
シェルターで眠っていたイドリーはその音で目を覚ました。
『イドリーさん? いますか?』
『イドちゃーん! 大丈夫、ノックンじゃないから安心して!』
聞いていると安心する声が、次々と聞こえてくる。
イドリーは起き上がり、シェルターの扉を開いた。
「おはようみんな~。もうお昼だったのね……ってあら? 真斗くんと盤岳さんがいないわ。見えなくなったのかしら……」
「二人は今別行動だから、大丈夫だよ。それよりイドリー、よく休めた?」
「ええ。誰も来なかったし、ゆっくり休めたわ」
『それなら何よりだ。全員揃ったし、さっそく講堂に行こう』
「そうだな」
タクミは持ってきた変身一発を飲み、アタッシュケースからカイザギアを取り出す。
そしてベルトを腰に装着し、カイザフォンを開きコードを入力。
[9・1・3][Standing by…]
「変身!」
[Complete]
そしてカイザフォンをバックルにセットし、タクミはカイザに変身した。
「……」
今のところ、体に異常はない。
「! ファイズじゃ……ない……?」
「臨時用のスーツです。戦力的には問題ないですよ」
「イドちゃんイドちゃん、カイザすごいんだよ! 昨日聞いたんだけど、ファールバウティみたいなマシンを呼び出せるんだって!」
「この作戦では多分使わないけどな……」
繭のある部屋で輝大侠を設置するという作戦上、呼び出しても恐らく邪魔にしかならない。
「それであたし連携技考えたの! あたしの呼び出したファールバウティのデカ腕パンチと、サイドバッシャーのデカ足キックの合わせ技!」
「だから使わねぇって」
「ファールバッシャー! デカデカダブルアターック!!」
「聞けって!」