ランタンベアラーが忽然と姿を消した後、どこからともなく聞こえてくる『数え歌』。
「これ……探せって事か?」
「……だと思う。あたし、ランタンベアラー見つけてみるよ!」
こうしてなし崩し的に、ランタンベアラーとのかくれんぼが始まった。
どこへ隠れたのか、見当もつかないが……ひとまず歌が聞こえる方へ進むことにした。
「あっちから聞こえる……」
リュシアは一行の先頭に立ち、くまなく周りを探している。
「リュシア、気を付けてね。ランタンベアラーを見つけた瞬間、ワンダリングハンターが襲ってくる……なんて事もあり得るから」
「うん、分かってる」
歌声に近づく感覚は今のところない。
そもそも歌声が聞こえる方向にランタンベアラーがいるとも限らないが、それでも分かりやすい指標とはなるだろう。
「……あら?」
「? どうしたの、イドちゃん」
「前の方に……幻が見えるわ。あれは……防衛軍?」
イドリーが指を差すと同時に現れる、複数の人影。
幻として現れた男たちは、イドリーの言う通り防衛軍の制服を着込んでいた。
『皆、慎重に進むんだ。この先に何が待ち受けているか……』
先頭を歩く男が、武器を構えながら後ろにいる人間にそう告げる。
彼らは恐らく過去にこのホロウに入った分隊なのだろう。
「あの制服……確か旧都陥落前のものだったよな?」
『という事は、あの幻はその時のものか……十年以上誰もこのエリアに立ち入って来なかった事を鑑みるに、間違いないだろうね』
「……この声。顔は見えないけど、聞き覚えが……」
「……それって」
「うん。マインドリーダー……かな? もしかしたら、見つけられるかも!」
「…………」
「……タクミ、あたしは大丈夫だよ。それに、『一緒に探す』って……言ってくれたもんね?」
「……ああ。一緒に見つけよう」
引き続き先を進むと、再び兵士達の幻が姿を現す。
『くっ……エーテリアスの数が多すぎる! 捌ききれない!』
『分隊長! このままでは……』
『慌てるな! もうじき増援が来るはずだ……それまで持ちこたえろ!』
会話を聞くに、恐らくエーテリアスと交戦中なのだろう。
かなり切羽詰まっている事が分かる。
「……っ」
兵士の声を聞いたリュシアの顔に、焦燥の色が浮かぶ。
やがて、兵士の幻は消え去った。
「んー……」
「イドリー? どこか具合が悪いの?」
「いえ、そうじゃないわ……だんだんと、幻を再現するのが難しくなってる。力が……衰えてきてるんだわ」
イドリーは苦い顔をしながらそう言う。
確かに、先ほどの幻は……少し『薄かった』ような気がする。
「暴走しなくなったって事? 良かったじゃん!」
「確かに、もう迷惑をかけないで済むのは良い事だけど……この力が役に立つかもって思った矢先に、残念だわ」
「大丈夫だよイドちゃん。もう十分役に立ってるし、その力のおかげでいろんな人を助けられたんだから!」
「……ありがとう、リュシアちゃん。ならせめて、ここを出るまでは役に立たせて。この物語の結末を……しっかりきみに見せたいから」
「……うん」
(……ん?)
二人の会話を聞いていたカイザは、とある違和感に気づく。
(数え歌が……聞こえなくなってる? いつの間に──)
「ねえ!」
「うわっ!?」
いきなり大きな声が後ろから聞こえたので振り向いてみれば、いつの間にかランタンベアラーが立っていた。
彼女は頬を膨らませ、プリプリと怒っている。
「かくれんぼするんでしょ? なんで途中でやめちゃうの! ズルはダメだよ!」
「あ、待って! 君にお願いしたいことがあって……あたし達さ、お友達にならない? もちろん、ワンダリングハンターも一緒に!」
「? どうしてエーテリアスとお友達になりたいの?」
「それは……上手くは説明できないんだけど……あたし達の関わり方って、本当に『戦う』ことしかないのかな……なんて」
リュシアの言葉に、ランタンベアラーはきょとんと首をかしげる。
「だって……それが普通でしょ? そうやって普通と違う事ばっかりしてると、お友達がいなくなっちゃうよ」
「お友達ならいるよ。あたしが変な事しても、見放さずに着いて来てくれる……大事なお友達が」
「……そのお友達がいるなら、リュシア達がお友達になる必要なんてないよ。あんまり欲しい欲しいしてると、そのお友達だっていなくなっちゃうんだから」
「え? ……あっ、待ってよ!」
ランタンベアラーはまたしても姿を消した。
そして、再び聞こえ始める『数え歌』。
「……っ!」
「あ、おい待てリュシア!」
リュシアは目に見えて焦った様子で、歌の聞こえる方へ走って行ってしまった。
「なんだ……? アイツ、何をそんなに慌ててやがんだ?」
「とにかく、追いかけよう!」
あっという間に姿が見えなくなったリュシアを追うため、リン達も先を急ぐ。
───────────────────────
数え歌は、次第に大きくなっていく。
ランタンベアラーを追うリュシアを追いながら、リン達は『結末』がもうそこまで来ている事を直感する。
「! また幻が……」
イドリーは再び自身が見た幻を現像する。
またしても、その幻は防衛軍のものだったが……兵士は一人しかいなかった。
『隊は……全滅か。エーテリアスを撒けたはいいが、侵蝕症状もかなり悪化してしまっているな……』
おぼつかない足取りでも、冷静に自己分析をする兵士。
『だが……なんとしても帰らなければ。まだあの子とは……かくれんぼの最中なんだ』
『──リュシアに……まだ見つけてもらっていないんだ』
「……!!」
カイザは、弱った兵士の小さい呟きが聞こえた。
リュシアの反応で予想はしていたが……彼はやはり──
『みんな! あそこにリュシアが!』
「ホントだ……! リュシア!」
リン達は立ち止まっているリュシアの元へ走る。
「あ、みんな。ここに来たら……『数え歌』が止まったの」
「『数え歌』? さっきまで聞こえてたアレか?」
「うん。小さい頃、おとうとかくれんぼする時によくってたから」
「……ここにも、過去の幻が」
イドリーはリュシアを見る。
それに対し、彼女は何も言わずにこくりと頷いた。
「……それじゃあ、再現するわね」
イドリーがそう言った数秒後……ミアズマの人影が浮かび上がる。
先程は一人しかいなかったが……今度は二人いた。
一人は兵士で……もう一人は小さな少女だった。
『おとう、エーテリアスになっちゃうの?』
『! リュシア……!? なぜここに……もしや、侵蝕が見せる幻覚と言うやつか。幻になっても、君はかわいいな……』
『おとうは……もうやり残したことはないの?』
『もちろん、あるとも……まだあの子とのかくれんぼが──いや、かくれんぼだけじゃない。あの子とやれていない事が、まだ沢山あるんだ』
『ふーん。じゃあ、リュシアとかくれんぼする? どんな姿になっても、おとうはずっとあたしの傍にいてね!』
『……ああ、いいよ。それじゃあ遊ぼうか』
『──願わくば、あの子ともう一度……』
「……そっか。そうだったんだね」
消える幻を見つめ、リュシアは呟く。
「ランタンベアラーは……あたしの夢縋りなんかじゃなかった。……あの子は……あのこは……っ、おとう、の……!」
「リュシアちゃん……」
「……っ、ごめんね、いどちゃん。こんなとこにいたんだね……マインドリーダー」
涙をぬぐい、顔を上げる。
「おとうは……ずっと待っててくれたんだね。ずっと……あたしが見つけるのを」
「……行くのか、リュシア」
「……うん。今からあたし、おとうに会いに行く。かくれんぼ、そろそろ終わらせなきゃね」
「わたしも行くわ。きみと一緒に……結末を見届けたいの」
「ああ。ここまで来て、やっぱりやめたなんて言うつもりはねぇよ」
「……みんな、ありがと」
涙で目を腫らしつつも、笑顔を見せるリュシア。
一行は前方にある、数え歌が聞こえてくる扉の方へと進んで行った。
「…………かくれんぼか。いいね、悪くない遊びだ」