数え歌を頼りに、先を進んでいた一行。
ついに歌声の主であるランタンベアラーを見つけ、追い詰める事が出来た。
「おお……! すごい、リュシアもう隠れるとこなくなっちゃった!」
「……」
敵意などこれっぽっちも見せず、素直に拍手をしながらリュシア達を褒めるランタンベアラー。
ワンダリングハンターは……今のところ出てくる気配すらない。
「……ねえ」
「うん?」
「やっぱりあたし……君達と戦うことはしたくない。確かに、お友達にはなれないかもだけどさ……敵同士にだってならなくても良いと思うんだ」
「リュシア……」
「ね、そうでしょ皆!」
リュシアはリン達の方を向いてそう言う。
「……そうだな。戦わずに済むなら、それに越した事はない」
「うん。リュシアちゃんがそう望むなら、わたしもそれでいいわ」
「オレも、ワンダリングハンターが鉱員たちに手ぇださねぇってんなら、別にいいぜ」
元よりここに来た理由はサラを追うためであり、ワンダリングハンターを退治するためではない。
ランタンベアラーが『かくれんぼ』に満足したなら、それでいいだろう。
「んー……リュシア、ホントはもっと遊びたいけど……もうくたくた。これが終わったら、おとうと一緒に帰って、おねんねする」
「え……帰っ、ちゃうの?」
「うん。皆がここに来る前……ずっと『白いエーテリアス』とかくれんぼで遊んでたんだ。だからもう、疲れちゃった」
「……そっか」
(……白い、エーテリアス?)
カイザは、ランタンベアラーが言ったその言葉に引っかかる。
「……寂しいの? でも大丈夫だよ。エーテリアスは死なない、消えた後はエーテルになって、エーテルの海に帰っていく。そしたら──」
「夢を通して、エーテルの海を通してに繋がって……遠くに行った大切な人と会える……だったよね。おばあが言ってた事、忘れてないよ」
「そうそう。だからおとうやあたしが『帰った』としても、また夢で会える。寂しくなんかないよ」
「……そう、だね!」
ランタンベアラーはにこりと笑う。
「はい、もう行っていいよ。早くおとうを見つけないと、時間切れになっちゃうよ?」
「え?」
「かくれんぼはまだ終わってないもん。おとうを見つけられたら、本当の意味であたし達に勝った事になるんだから!」
「……分かったよ。せっかくだもん、やるからには最後までやんないとね!」
リュシアがそう言った瞬間、辺りに赤い霧が立ち込める。
ランタンベアラーは霧と共に姿を消し……同時に鈴の音が鳴り響く。
「っ!」
「リュシア!」
リュシアは迷わず走り出す。
(おとうはかくれんぼの達人だったけど……)
視界を確保する事がままならない霧の中でも、足を止めない。
(見つけられなかった事なんて、なかったんだから!)
───ひとつ 星を
『リュシア、すごいなあ……! お父さん見つけられなかったよ』
障害物に躓きそうになりながらも、彼女は進み続ける。
───ふたつ 星を
『今度はリュシアが鬼だね。見つけられるかな?』
「はぁっ、はぁっ……!」
息を切らしながらも、「おとう」を見つけるため、進み続けた。
『……君も、寂しいのかい? それなら、かくれんぼをしよう。今回はリュシアが鬼だ』
『……! うん、わかった!』
『おとうの事、ぜーったい見つけてみせるからね!』
───みっつめは どこでしょう
「……!!」
立ち込めていた霧が晴れる。
「…………お、とう」
「…………」
そこにいたのは……ワンダリングハンター。
リュシアの目の前で、静かに佇んでいた。
今の彼に、『おとう』の面影はどこにもない。
しかし──
「……ここに、いたんだね」
リュシアは持っていた杖とスケッチブックを地面に置き……ゆっくりと歩く。
「おとう」
ワンダリングハンターの元へ、一歩ずつ近づいていく。
そして……その手と手が触れ合う。
───みいつけた
「みつけたよ」
『……リュシア』
「……え?」
幻聴か、耳鳴りか。
確かに今、声が聞こえた気がした。
ずっと聞きたかった、あの声が。
その時、ランタンベアラーがどこからともなく現れる。
「すごい! おとうも見つかっちゃった! リュシアの勝ちだね!」
「……」
「……おとうがね、言ってたよ。『そばにいてやれなくてごめんよ』って。それと──」
──大きくなったねって
「───おとう……おとう……!!」
抑えていた感情が、再び決壊する。
堪えようとしても堪えきれないほどの涙が、溢れ出る。
「おとう……! あた、し……っ、大きく、なったよ……! お友達だって、できた……! ずっと……ずっと、あいたかった……!!」
「…………」
「こんど、おはなししよう……! ゆめのなかで、いろんなおはなし……っ!」
彼女の声に、ワンダリングハンターは応えない。
既に、その体は消滅しかけていた。
「リュシア!」
後ろから、リュシアを追いかけていたリン達が走ってやってきた。
「……リュシア、お前」
「……」
そして、同じく体が消えかけているランタンベアラーが手をぱたぱたと振る。
「リュシア!」
「……!」
「
「……っ、うん! また!!」
ワンダリングハンターの巨大な手に触れる。
だが、それもエーテルの粒子となり消える。
「……また、ね」
ワンダリングハンターとランタンベアラーは、共にエーテルの海へと帰っていった。
「……『おとう』の事、見つけたみたいだな」
「うん……皆のおかげだよ。ちょっと寂しいけど……大丈夫」
リュシアは笑顔を見せる。
大事なものを失った傷は、癒える事はない。
癒える事がないからこそ、彼女たちは前に進むことができる。
少しした後、無事気持ちも落ち着いたリュシア。
一行は、引き続き先へ進む。
「……! リン、見て」
「どうしたの?」
「あそこの道端に……サラの幻が見えるわ」
「本当?」
「ええ。それにサラ以外に、もう一人誰かいるみたい。あれは──」
「やあ」
「っ!!」
後ろの方から聞こえる
リン達は、その声に対し本能的に危険を感じ取った。
その姿に、カイザは悪態をつく。
「……てめえ」
「やあ。また会ったね」
「もう一人の……タクミ」
リンのつぶやくような声に、「タクミ」はにこりと笑う。
「僕の事は知ってるみたいだね。そっちの僕が話してくれたのかな?」
「……タクミ。コイツが……」
「ああ。前に話してた奴だ」
カイザは「タクミ」を睨む。
「……あなたは、何者なの?」
「僕? さっきも言ったじゃん、本物の『タクミ』だって」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねえ。テメェの言う本物は今オレたちの隣にいるコイツだけだ」
「そうだよ! それに本物のタクミは『僕』って言わないし!」
「……」
「ふうん? まあ、別に君たちがそう言うなら勝手にしていいけど。ただ、僕がドッペルや夢縋りの類じゃないって事はもう証明されてるよね?」
『……マスター、前方にいる自称タクミからエーテル反応を検知できません』
Fairyの言葉に、カイザは再び悪態をつく。
目の前にいる「タクミ」は本物の人間。
『……君は、何が目的なんだ? 君は讃頌会と行動しているんだろう? サラは今どこに──』
「まあまあまあ落ち着いて。そんなの後ですぐに分かる事だからさ。それよりもさ、今はやりたい事があるんだよね」
「……やりたい事?」
「そう! 僕、かくれんぼをしたいんだ」
「!!」
まるで年相応の子どものように、無邪気な笑顔のままそう言う。
「……おちょくってんのか、テメェは」
「そう怒んないでよ。実はさっきまで君達の事、見てたんだ。そしたら僕も、ムショーにかくれんぼで遊びたくなってさ」
「……誰がするかよ、そんな事。それより、一緒に来てもらうぞ。お前には色々聞きたい事がある」
「んーそっか。じゃあ仕方ない」
「じゃあ、別のヒトに鬼になってもらおう」
そう言うと同時に、彼の隣にエーテルの裂け目が現れる。
「タクミ」はくいっと指を振る。
するとその裂け目が、
「なっ……!!」
あまりに突然の出来事に、カイザは反応が遅れてしまう。
カイザだけではない。周りにいる全員、このイレギュラーに対応が出来なかった。
「っ、タクミ!!」
リンが半ば反射的に、カイザの元に駆け寄る。
そして彼を攻撃から守るように抱きしめた。
『リン! タクミ!』
二人は為す術もなく『襲い掛かる』裂け目に吞まれ、その姿を消してしまう。
裂け目が消えた後……残されたのは、地面に落ちたカイザドライバーのみだった。