ZZZ × 555   作:びぎなぁ

284 / 302
進化

 

 

 

 

 

『タクミ。お前さん、明日からホロウには入るな』

 

『えっ』

 

 

時は遡り、儀玄達が適当観を発つ前の日の夜。

 

タクミは彼女に、唐突にそう言われた。

 

 

『……何も二度と入るなと言っている訳ではない。少なくとも私が良いと言うまでの間、ホロウには立ち入るのを控えろ』

 

『理由を……聞いてもいいですか』

 

『……理由か』

 

 

儀玄はタクミの言葉に、少しの間押し黙る。

 

 

『……"理由など聞くな"と言ったら、お前さんはそのまま引き下がってくれるか?』

 

『…………』

 

『……無理そうだな。まあ、当然か』

 

『……すみません』

 

『謝る事はない。むしろ、お前さんの為にも今話しておくべきだな。……ただ、今から話す事は聞くのにそれ相応の覚悟はいるぞ』

 

『大丈夫です、師匠。どんな事実でも俺は受け入れます』

 

『……分かった。それなら、単刀直入に言う』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───お前さんの顔に、死相が浮かんでいる』

 

『……!』

 

 

儀玄から伝えられたその言葉。

 

普通の人ならば、少なからず動揺はするだろう。

 

 

しかし。

 

 

『……あまり驚いていないようだな』

 

『それは……その、師匠の言う"死相"って、普通の意味とは多分違いますよね』

 

『……やはり、お前さんも気づいていたか』

 

 

儀玄は目を伏せた後……再びタクミの顔に視線を合わせる。

 

彼女は、自分の弟子に待ち受ける未来を憂いていた。

 

 

『俺は……()()()()未来が来る事は、とっくに受け入れてます』

 

『そうだろうな、その目を見れば分かる。だが、"その未来"がやって来た時、お前さんの身に起こる事を……師として黙って観ている訳にもいかないんだ』

 

『……大丈夫です。"その未来"が来ても、俺は誰にも迷惑はかけないし、傷つけもしません。いざとなれば──』

 

『違う。私()が恐れているのは、お前さんに傷つけられる事じゃない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──お前さんが、私達の前からいなくなってしまう事だ』

 

『……』

 

 

儀玄は、タクミの手を握る。

 

……やけに、その体温が温かく感じる。

 

 

『お前さんは優しい奴だ。家族や友人のためとあらば……傷つくことはおろか、孤独になる事さえ受け入れようとするだろう。だが……そうはなって欲しくない』

 

『……師匠』

 

『もし……お前さんが運命を受け入れると言うのなら、一つ……約束して欲しい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どんな姿になっても……必ずここに帰って来ると』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクミは戦う。

 

家族を守る為に。友達を守る為に。

 

 

タクミは戦う。

 

家族を悲しませない為に。友達を悲しませない為に。

 

 

 

 

 

 

 

だが、悲しませないためには、ただ戦うだけでいいのか?

 

その命尽きても、孤独となっても、戦いさえすれば望んでいた笑顔が見られるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う。

 

 

タクミが死んでしまえば、いなくなってしまえば、家族は悲しむ。

 

タクミが死んでしまえば、いなくなってしまえば、友達は悲しむ。

 

 

タクミにとって皆が大切な人であると同時に。

 

皆にとってもタクミは大切な人なのだ。

 

 

そんな彼らを……悲しませたくはない。

 

 

 

 

タクミは生きる。

 

家族を守る為に。友達を守る為に。

 

 

タクミは生きる。

 

家族を悲しませない為に。友達を悲しませない為に。

 

 

タクミは生きる。

 

家族と一緒に。友達と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その『生』への渇望が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屍を、『進化』へと導いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

『Fairy……今、なんて』

 

『……二つの追跡対象の内、一つの生体反応が消失しました。幾度にわたり再スキャンを行いましたが、その結果は変わりませんでした』

 

「しょう、しつ? ……死んだって、事?」

 

『はい。消失した片方の生体反応についてですが……バイタルが著しく低下しており、出血による衰弱状態だったことが推測されます。故に、死亡したのは──』

 

『いい』

 

 

アキラがFairyの言葉を遮る。

 

 

『これ以上は……言わなくていい。早く……リンを探しに行こう』

 

 

あくまでも冷静に、本当に最悪の事態を引き起こさないために、次の行動を起こそうとする。

 

 

だが……

 

 

「……たくみ、なんで……? やくそく、したのに……!」

 

「こんな結末……あんまりだわ……どうして…… わたしは、きみも一緒に……」

 

 

タクミが死んだ今、次はリンが危ない。

 

そう思い、動こうとしても、認めたくない事実が重くのしかかり、足が鈍る。

 

 

「……オレは認めねぇぞ」

 

 

真斗の拳から、血が滲む。

 

怒りと絶望。

 

悲しみに暮れている暇はないと言うのに、まるで金縛りを受けたかのように、その体は動かなかった。

 

 

『……皆。今は、悲しんでいる時じゃない』

 

「!」

 

 

泣き叫びたい感情を押し殺し、アキラは皆に呼びかける。

 

 

『まだ、生体反応のひとつは残っている。タクミは最期までずっと、リンを守ってくれていた。それを無駄にする訳にはいかない』

 

「……アキラ」

 

『さあ、行こう。今から急げば、まだ──』

 

 

ドゴォォオオオンッ!

 

 

「っ!?」

 

 

突如、ホロウ中に響き渡る轟音。

 

アキラ達は思わず耳を塞いでしまう。

 

 

「なんだ……!? 今のは……!!」

 

『っ!!』

 

「! アキラくん!」

 

 

音を聞いたアキラは、イアスの姿にもかかわらず、なりふり構わず走り出した。

 

 

(今の音は……リン達がいる方向だ……!!)

 

 

真斗達も、突き動かされるように走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその途中。

 

奇妙な光景を目にした。

 

 

「ガァ……ァ……」

 

 

『……? これは……』

 

 

灰色の体をしたホオジロザメが、壁にめり込みながら呻き声をあげていたのだ。

 

まるで『誰かに吹き飛ばされた後』のような、そんな光景だった。

 

 

 

「!!」

 

 

やがてその身体から青い炎が出始める。

 

そしてその炎とともに……ホオジロザメは灰と化し、消滅してしまった。

 

 

(これは……オルフェノク? さっきの音は、コレが壁に叩きつけられた音だったのか)

 

 

誰にやられたのだろうか。

 

タクミもリンも、オルフェノクに対抗できる力は無かったはずだ。

 

 

 

『マスター。追跡対象まで、のこり十数メートルです』

 

『!』

 

 

走っていく途中で、Fairyがそう告げる。

 

考え事をしている暇はない。

 

 

リンだけは、なんとしても助けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてアキラ達は、リンがいる広場へと辿り着いた。

 

 

『リン……!』

 

 

辺りは土煙が立ち込めており、周りが見えない。

 

この場所で何かがあった。それだけは確実だった。

 

 

「! あそこに……何かいるよ!」

 

 

リュシアが指差す先。

 

土煙の向こうから、影が見える。

 

 

 

 

やがて煙は消え、視界がクリアになり……影の正体が明らかになる。

 

 

 

 

 

丁寧に抱きかかえられ、傷一つなく眠っているリン。

 

だが……彼女を抱きかかえているのは、タクミではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクミの代わりにいたのは、()()()の姿をしたオルフェノク。

 

リンを両手で抱え、こちらを見つめ、静かに佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中。

 

リンはいつ覚めるかも分からない夢の中で、必死に走る。

 

 

「はぁ、はぁ……!!」

 

 

リンの眼に映るのは……兄と同じくらい大切な、たった一人の弟の背中。

 

どこかへ歩いていく彼の姿は、血にまみれていた。

 

 

足取りもおぼつかない。

 

 

走ればすぐに追いつけるほどのスピード。

 

 

「タクミ……! 待ってよ……!!」

 

 

それなのに、どれだけ足を動かしても、彼の背中が大きくなることはなかった。

 

声をかけても、彼は振り向かない。

 

それどころか、次第に小さくなっていく。

 

 

 

彼の姿が見えなくなっていく。

 

どこかへ消えていく。

 

 

つまづいて転んでも、擦り傷だらけになろうとも、リンは足を止めない。

 

ただ必死に、彼の名前を叫ぶ。

 

 

「お願い……止まって……! 止まってよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにも……行かないでよ……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「!」

 

 

歩いていたタクミが、足を止める。

 

そして、ゆっくりと後ろにいるリンの方を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、リンの視界が真っ白になった。

 

 

「……あ」

 

 

 

タクミの姿が見えなくなる。

 

それと同時に、体がまるで抱えられているかのような感覚になった。

 

 

 

 

温度は何も感じない。

 

 

 

だが、暖かい。

 

思わず笑みがこぼれるほど、暖かった。

 

 

 

 

だが、少しすると抱えられていた感覚が消え、感じていた暖かさも消えてしまった。

 

 

 

 

 

惜しむ間もなく、彼女の意識は現実に引き戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───ン!』

 

 

『──リン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リンッ!!』

 

「!!」

 

 

聞き慣れた声で、リンは目を開ける。

 

まず視界に入って来たのは、アキラの声を出すイアスの姿。

 

 

「……おにい、ちゃん」

 

『リン! よかった……!!』

 

「リン!」

 

「リンちゃん!!」

 

 

次々と、聞き慣れた声が耳に入ってくる。

 

真斗、リュシア、イドリー。

 

 

「みんな……」

 

 

だが、あと一人。あと一人いない。

 

暗闇でずっと追いかけていた、ずっと聞きたかったあの声が聞こえない。

 

 

 

 

『タクミは、どこ?』

 

 

 

 

 

 

そう聞く前に……もう一人の姿が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

それは……おおよそ人間とは思えない異形の姿。

 

バッタのオルフェノクが、リンを見ていた。

 

 

 

普通ならば目にした途端逃げ出す事だろう。

 

だが、不思議にも……リンはそれを『恐い』と感じる事はなかった。

 

 

「お兄ちゃん……アレは」

 

『あのオルフェノクは……さっきまで君を抱えていたんだ。その後、すぐに君をこっちに引き渡してくれた』

 

「……」

 

 

リンはゆっくりと立ち上がる。

 

そしてそのまま、オルフェノクの元へ歩き出す。

 

 

「……!」

 

 

アキラは彼女を引き留めようとしたが……何故かその気になれなかった。

 

目の前にいる謎のオルフェノク。味方だと言う保証はどこにもない。

 

それなのに、どうにも敵だと思えなかったのだ。

 

 

「……」

 

 

近付いてくるリンに対し、バッタのオルフェノクは逃げるように後ろに下がる。

 

敵意をこれっぽっちも感じない。

 

それどころか、こちらに対し『怯え』の感情すらあるように見える。

 

 

リンはオルフェノクと至近距離まで、近づいた後……その手を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのオルフェノクから、体温は感じない。

 

だが……身を預けたくなるような暖かさが、そこにはあった。

 

このオルフェノクは──

 

 

「…………タクミ?」

 

「!!」

 

『なっ……!?』

 

 

リンがつぶやいたその名前。

 

アキラ達はもちろん、オルフェノク自身もその名前を聞いて動揺した。

 

 

「ま、マジか……! オマエなのか、タクミ……!?」

 

「……っ」

 

 

真斗の問いに対し、声こそ出さないが、明らかに慌てたような素振りをするオルフェノク。

 

明らかに、今まで出会ったオルフェノクとは違っていた。

 

 

 

「タクミ、だよね。大丈夫……私だよ。タクミの、お姉ちゃんだよ」

 

「…………」

 

 

オルフェノクは無意識に、リンの手を握り返す。

 

その瞬間、オルフェノクの体が白い光を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姉ちゃん」

 

 

その光の中から姿を現したのは……タクミ。

 

胴着は、血だらけでボロボロ。

 

しかし、先ほどまで重傷だったのが嘘かのように、その傷は完治している。

 

 

 

さらにオルフェノクになってしまった影響か、その髪は色を失い、真っ白になっていた。

 

 

 

 

『タクミ……! 本当に、君なんだな……!!』

 

「……兄ちゃん」

 

 

だがそれでも……その顔は、タクミそのものだった。

 

 

「……なんで、分かったんだ?」

 

「……分かるよ。だって……タクミの手って、あったかいもん」

 

 

目にに涙を浮かべ、タクミを抱きしめるリン。

 

 

「……タクミ」

 

「!」

 

「約束して……? 何処にも……行かないって」

 

「……うん、分かった。約束す──」

 

「タクミだぁぁああああうわああああああ!!!」

 

「ウワァーーーーッ!?」

 

 

大号泣状態のリュシアからファールバウティ顔負けの突進を食らうタクミ。

 

次にアキラ、イドリー、そして真斗がこちらにやって来る。

 

 

しばらく、タクミが解放される事はなかった。




次回か次次回で四章終わりです!
そしてついにあの子も出てきます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。