ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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番外編⑪
休もう


 

 

 

 

 

今日、タクミはH.A.N.Dのビルまで足を運んでいた。

 

もちろん、遊びに来たわけではない。

 

 

ここへ来たのは──身体検査の為である。

 

 

オルフェノクになった事により、タクミの体には決して小さくはない変化が起きていた。

 

それを調べるため、タクミは身体検査を受けて欲しいと言われたのだ。

 

 

当たり前だが、解剖を行う訳ではない。

 

やるのはあくまで病院などで行うような検査だ。

 

 

午前中いっぱい時間を使い、その身体検査は何事もなく終了した。

 

 

「ご協力いただきありがとうございます、タクミくん。それと、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」

 

 

身体検査の間タクミと一緒にいた柳は彼に感謝と謝罪の言葉を伝える。

 

 

「謝る事ないですよ。こういう事なら喜んで協力しますから」

 

「……ありがとうございます」

 

 

昨日、電話で柳に身体検査の旨を伝えられたタクミは、一つ返事で了承。

 

そして今日の朝、柳に車でH.A.N.D本部まで連れられ、身体検査を受けることとなった。

 

 

ちなみに昨日は朱鳶に連れられ、オルフェノクの事やもう一人のタクミの事について、特務捜査班から詳しい事情聴取を受けていた。

 

その後はパフェを奢ってもらった。申し訳ない気持ちだったが、おいしかった。

 

 

「ちなみになんすけど……今の時点で何か分かった事ってありますか?」

 

「そうですね。現時点で言えることとしては……まず、普通の人間と明らかに違う点が複数ある事が分かりました。タクミくんも既に御存知かとは思いますが……」

 

 

一つ目は、体温。

 

タクミの体温は、普通の人間が持つ平均体温より、なんと十度も低くなっていた。

 

心臓が動いていない訳ではない。

 

普通なら生きていられないほどの体温。タクミが人間でなくなってしまった事を、一番わかりやすく示していた。

 

 

二つ目は視力。

 

人間の頃も別に視力は悪くなかったが、オルフェノクになってそれが格段に向上している。

 

数百メートル先で飛んでいる鳥の姿もはっきりと捉えることができ、やろうと思えば校庭の砂場でアリのコンタクトレンズを探す事だってできるだろう。

 

 

三つ目は聴力。

 

これも視力と同じく、オルフェノクとなってから格段に良くなった。

 

ファイズやカイザに変身しないと聞き取れなかった小さい音も、容易く聞き取る事ができる。

 

ただ、そのせいでルミナスクエアの喧騒が少しキツくなった。

 

 

このように、タクミは人間の範疇から大きく逸脱した体質になってしまっていた。

 

 

「後の事は、今日の検査結果と、乾さんが共有してくださった情報を照らし合わせながら調べてみないと分かりませんが……私からお伝えできるのはこれが全てです」

 

「……そうですか。ありがとう、ございます」

 

「?」

 

 

タクミは柳の顔を見た後、途端にソワソワし始めた。

 

 

「タクミくん、まだ気になる事があれば遠慮せずに」

 

「あ、いや……そうじゃないんすけど」

 

「……? 私の顔に、何かついていますか?」

 

「……その、ちょっと聞きたい事があって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──柳さん、最後に寝たのいつですか?」

 

「えっ」

 

 

タクミは今日柳に会ってから、ずっと気になっていた。

 

柳の目の下にあるクマ。

 

それが……いつもより濃くないかと、そう思っていたのだ。

 

 

だが私生活に口出しするわけにもいかず、ずっと言い出せずにいた。

 

 

「最後に寝た日……ですか? そうですね……先々月の──」

 

「えっ!?」

 

「冗談です」

 

 

良かった。

 

目の前にいる柳は過労によって生み出された幽霊なのかと一瞬思ってしまった。

 

 

「さすがにそこまで寝てない訳ではないですよ。大丈夫です、しっかり昨日寝ましたから」

 

「それって一時間ぐらいの仮眠ってオチじゃないですよね」

 

「…………」

 

「柳さん?」

 

 

眼鏡をかけ直し、明後日の方向を向く柳。

 

どうやら二、三徹ほどはしていそうだ。

 

 

仮眠したくらいではクマは消えるはずもない。

 

 

「……もしかして、俺がオルフェノクになった事と関係してますか? それで忙しくなって寝る暇がないとか……」

 

「それに関しては、貴方のせいではないと断言させてください。六課でのお仕事は基本激務の毎日ですので……眠れない日があるのはそう珍しくもありません」

 

「…………」

 

 

健康を維持するためには、やはりしっかり寝る事が大事。

 

タクミもそれに倣い、しっかり睡眠をとっているが……そういう訳にもいかない人だっている。

 

 

アストラのマネージャーであるイヴリンは、コーヒーを手放せない毎日が続いていると言っていた。

 

白祇重工のエンジニアであるグレースに至っては、コーヒー缶を手に持ったまま六分街で気絶していた。

 

 

人間誰しも休みは必要だ。

 

目の前にいる誰が見ても疲れ切った様子の柳にも、それが必要だろう。

 

 

「柳さん、この時期に言うのもあれなんですけど……有休とか取った方がいいんじゃ……?」

 

「心配してくれるのはありがたいのですが……現状、私がいない状態での六課オフィスの業務効率は、最早見るに堪えないものです」

 

 

修行。サボり。ごはん。

 

柳の遠い目が、彼女の心労具合を暗に現していた。

 

土日に休めてるならいいが、その二日はきっと蒼角の世話や、家事、買い出しなどで休む時間は少ししかないだろう。

 

 

「……やっぱ休むべきですって。土日休みだけじゃ疲れ取れませんよ」

 

「そうは、言っても……」

 

 

柳は虚空を見つめ思い悩む。

 

彼女自身も、本当は一日くらいゆっくり休みたいのだろう。

 

 

「……タクミくんの言う通りですね。たまには、浅羽隊員のように仮病か何かを使ってサボってみようと思います」

 

「えっ!? いや何もそこまでしろとは」

 

「冗談です。ちゃんと有休をとって休みますよ」

 

 

にこりと微笑む柳。

 

それを見てタクミは安心した。

 

きっと雅達も、その日くらいは業務を頑張ってくれるはずだ。

 

 

「有休を取るとして……何をすればいいでしょうか」

 

「家で思いっきり休むとか?」

 

「それもいいですが……やはりせっかくの有休なので、どこかに出かけたいですね。タクミくんはどこに行きたいですか?」

 

「そうですね俺は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

そして一週間後。

 

めでたく有休を取った柳は、ルミナモール内のファミレスに来ていた。

 

目の下にあったクマは、しっかり休んだのか消えている。

 

 

「タクミは何が食べたいですか? ……あ、この事は、蒼角には内緒にしてくださいね」

 

「あっ、はい」

 

 

……柳と一緒に、タクミもここに来ていた。

 

てっきり一人でゆっくり羽を伸ばすのかと思っていたが、柳は何故かタクミを誘った。

 

 

理由を聞いてみれば、『協力してくれたお礼がしたい』との事。

 

そう、『お礼』である。

 

 

「……柳さん、やっぱり俺が奢っていいですか? 誘ってもらった上に御馳走してもらうのはしのびないって言うか」

 

「それではお礼の意味がありません。私がしたくてしている事なので、タクミくんはお気になさらずに」

 

「……そう、ですか」

 

 

ちなみに、ここのファミレスを選んだのはタクミ。

 

最早どっちのための有休なのか。

 

朱鳶の時も同じ事を言ったがやんわりと、本当にやんわりと断られてしまった。

 

 

注文の品が来るまで待っていると、柳が口を開く。

 

 

「……タクミくん。前に貴方がオルフェノクの事を話した時……こう言いましたね。『化け物になった』と」

 

「……!」

 

「ですが、今の私には貴方が"人から恐れられる"化け物であるとは到底思えません。優しいタクミくんである事に、一ミリの違いもありませんから」

 

「……」

 

「……少し、手を出してもらってもいいですか?」

 

「?」

 

 

言われたとおりに、手を出す。

 

 

 

すると柳は、タクミの手を優しく握った。

 

 

「……今のあなたに私達が出来ることは、もしかしたらそれ程多くはないのかもしれません。ですが……こうして、貴方の手を温めることくらいならできます」

 

 

じんわりと、その手の暖かさが広がっていく。

 

 

「もし貴方を貶めたりするような人間がいるのなら……私達はそれを、決して許しはしません。だから、どうか安心してください」

 

「……柳さん」

 

「あ、お料理が来たみたいですよ。食べましょうか」

 

 

柳は手を放す。

 

触れた手の暖かさが、火傷のように残っている。

 

 

「いただきます」

 

「い、いただきます」

 

 

タクミは箸を取り、注文した唐揚げ定食を食べ始める。

 

 

 

 

 

……突然だが、ここで今のタクミの体質についておさらいしておこう。

 

タクミの体温は、人間の平均体温より十度低くなっている。

 

 

人間は手が冷えると、冷たい水がぬるま湯に感じたり、それ程熱くないお湯が非常に熱く感じたりする事がある。

 

 

何が言いたいかと言うと、タクミは常にその状態となっているのだ。

 

 

そのせいかは定かではないが──

 

 

「あっつぁあ!!」

 

「タクミくん!?」

 

「あっつ! あっつッ!! なんだコレ!!」

 

 

それ程熱くないはずのご飯がめちゃくちゃ熱く感じる。

 

 

 

そう。タクミの猫舌が、以前より悪化してしまっていたのだった。

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