毎週、いつものようにビデオ屋の様子を見に六分街に戻ってくるタクミ。
トワやレムと一緒に過ごしながら、いつものようにビデオ屋の店番をした。
そしてその日の夜。
店じまいをしようとしていたところに、来客が訪れた。
「……どうやら間一髪、閉店までには間に合ったようであるな。タクミよ、夜分遅くに失礼する」
「!」
扉が開く音と共に、青衣がビデオ屋へと入って来た。
「青衣さん。こんな時間に来るなんて珍しいな……ビデオを借りに来たのか?」
「否。ぬしにはとある頼み事をしたくてな……急ではあるが、引き受けてはくれぬだろうか?」
「頼み事?」
「説明する前に、まずは場所を変えるとしよう。なに、ぬしにとっても馴染みのある場所だ」
「……? 分かった。トワ、ちょっと行ってくる」
「ンナナ!」
青衣の頼み事とやらがなんなのか、予想もつかないが……ひとまず着いて行くことにした。
そして青衣に連れられ来た場所は、予想外の場所だった。
「GOD FINGER……?」
「うむ。単刀直入に言うが、ぬしにはこれから……我の遊び相手になってもらいたいのだ」
「? それが頼み事?」
「そうだ。と言うのも──まあ説明は敢えて省くが、かいつまんで言えば我の安眠の手助けをして欲しいという事であるな」
玉偶である青衣も、人間のように眠くなる時がある。
そういう時、青衣はGOD FINGERでひたすら『眠りながら』ゲームをするという。
ゲームは難しければ難しいほどよく眠れるらしく、青衣は時々ここに訪れては『眠っている』。
「寝ながらゲームが出来るって……どういう仕組みなんだ……?」
「なに、ぬしが気にする事ではない。兎も角、ぬしには対戦ゲームで、ひたすら我の相手をして欲しい」
「それはいいけど……どんくらいやれば?」
「今回は……推定一時間と言ったところか。人間のように七、八時間もかかる訳ではない、安心せい」
良かった。
さすがに『GOD FINGER』の箇体の前で夜を明かすわけにもいかない。
青衣は対戦CPUを相手にひたすらゲームでボコボコにする時もあるようだが、あまり手応えはなく安眠とはいかないらしい
「だから、俺に対戦相手を?」
「然り。店長殿から聞いたぞ。ぬしもあの二人と同じく、ゲームの達人であるとな。前回は店長殿に手伝ってもらったが……今回も安眠を期待できそうだ」
「……そういう事なら、引き受ける。何のゲームをするんだ?」
「近頃の我の『とれんど』は──格闘ゲーム、フーディー・ファイターズだ」
『フーディー・ファイターズ』
十数人いるキャラから一人を選び、一対一で対戦をする格闘ゲーム。
今世間を賑わせている大人気のゲームシリーズと言えるだろう。
その最新作である『フーディーファイターズ6』は、タクミも家庭用ゲーム機版でよく遊んでいる。
青衣は今回、その『フー6』で遊びたいようだ。
「スリープ後は自動応対モードに入るが故、手加減は一切できぬが……構わぬな?」
「大丈夫。青衣さんがよく眠れるなら、出来る限りこっちも全力でやる」
「感謝する。……さて、早速店に入るとしよう」
眠そうにあくびをしながら、青衣は『GOD FINGER』の中へ入っていった。
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「あら、おいでやす〜」
GOD FINGERの店長であるアシャが二人を出迎える。
「こんばんは、アシャさん」
「はーいこんばん……は……?」
アシャはタクミを見るなり、目を丸くした。
「たっくん……その髪の毛、どないしたん……? なんか、えらい真っ白やないの」
「え? ……あっ」
「……」
オルフェノクとなったと同時に、何故か髪も白くなってしまったタクミ。
つい最近の事なので、自分の髪が白くなった事をすっかり忘れてしまった。
込み入った事情があるため、アシャにはそうなった理由を話していない。
「……もしかしてたっくん」
「えっと……その──」
「イメチェンしたん!? もー、せやったらお姉さんにも言うてくれたらええのに! よう似合っとるよ!」
「えっ……あ、ありがとうございます」
イメチェン。
傍から見たらそう見えるのだろう。
アシャには悪いが、そういう事にしておこう。
「えーと、それで青衣はんが来はったいう事は……そう言う事やんな?」
「うむ。不躾で悪いが、本日も頼めるだろうか? アシャ殿」
「かまへんよ! いつもお勤めご苦労さん!」
「感謝の至り。ではタクミ……早速始めるとしようか」
青衣は『フー6』の箇体の椅子に座る。
タクミも反対側の方に座り、ディニー硬貨を投入した。
「キャラは何にする?」
「ぬしと同じにしよう。ミラーマッチは純粋な実力勝負となる故、我の安眠にも多大な効果をもたらしてくれる」
「なるほど……」
タクミの選ぶキャラは『シュウ』。
フーディーファイターズシリーズの主人公であり、タクミがいつも使っているキャラでもある。
飛び道具、対空、突進技の一通りがそろっており、どんな状況にもそつなく対応できるいわゆる『オールラウンダー』タイプのキャラ。
弱点らしい弱点はなく、かと言って他キャラと違い突出した強みもない硬派なキャラとも言える。
青衣はキャラクターセレクトでシュウを選び、タクミも同じくシュウを選ぶ。
そしてその直後。
青衣はゆっくりと目を閉じ、自動応対モードに入った。
『FIGHT!』
箇体のスピーカーから聞こえる掛け声と共に、対戦が始まった。
(青衣さん……どんくらい強いんだ?)
タクミは青衣とは対戦したことがない。
その実力は未知数ではあるが、少なくとも対人戦の感覚で臨まないほうがいいのは確か。
青衣の操作するシュウは、様子見の為か中距離をウロウロしている。
(……)
タクミは牽制のため、コマンド入力をし飛び道具を出した。
──その飛び道具が発射されたと同時に、青衣の操作するシュウは前へとジャンプした。
「……!?」
牽制の飛び道具を超え、シュウ(タクミ)にジャンプ攻撃が当たる。
そのまま高火力のコンボを繋げられる。
(……な、なんだ今の……コマンド入力した瞬間に飛ばなかったか?)
気を取り直す。
コンボによりダウンし、画面端に追い込まれたシュウ(タクミ)は、切り返すために無敵技を出した。
……が、青衣は起き攻めはせず、タクミの出した無敵技をガードした。
ガードされ、隙だらけになったところにさらに高火力のコンボを叩き込まれる。
『PERFECT KO!!』
『ウワーーーッ』
そして為す術もなく、タクミの操作するシュウはパーフェクトKOされてしまった。
「…………」
「あらら……」
続く第二ラウンド。
今度は攻めっ気を強くしてみる。
とは言え、安易に前ジャンプしようものなら対空技であっさり撃ち落されてしまうだろう。
相手の出方に気を配りつつ、シュウ(タクミ)は前へと出た。
──その前移動と同時に、青衣の操作するシュウは対抗するように置き技を出した。
「……!?!?」
タイミングはほぼ同時。
前ステップを狩るように技を置かれ、さらにそこからゲージを使ったキャンセルダッシュでシュウ(青衣)のコンボが繰り出されていく。
またしても、画面端へと追い込まれてしまった。
そして再びやって来た起き攻めに対し、シュウ(タクミ)今度は慎重にガードに徹する。
投げ。投げ。投げ。投げ。
「今だッ無敵技ッッッ!!」
ガード。
そして叩き込まれる高火力のコンボ。
『PERFECT KO!!』
『ウワーーーッウワーーーッウワーーーッ……』
ダブルパーフェクト。
「……」
「ぼっこぼこやったねえ……でもしゃあないと思うわ。今の青衣はんはウチがギリ勝てるか勝てんかくらいの強さやもん」
あのアシャが苦戦を強いられるほどの強さ。
どうやら勝ち目はハナからないらしい。
(いや……違う!)
まだ一戦目。
闘いは、まだ始まったばかりなのだ。
諦めムードに入るのは、まだ早い。
「俺はなんとしても……青衣さんから一勝をもぎ取る!」
タクミはスティックを握り直す。
そして再戦に臨んだ。
「かかって来い!!」
全敗した。
「ふう……素晴らしい夢心地であったぞ──む? タクミよ、如何したか」
「……」
一時間ぶっ続けで、タクミは青衣に挑み続けた。
全部で七十戦くらいはしたと思う。
だがいずれの闘いも、タクミは完全敗北を喫した。
CPUやチートが生温く見えるほどの超反応と読めない行動パターン。
ちょっとは食らいつけるかと思ったらそんな事はなく、一方的な蹂躙が一時間行われていただけだった。
だが……それでもCPU戦よりは良かったらしく、青衣は大変満足気だった。
「……」
「……ふむ。ぬしのおかげで我の疲れは解消されたが、ぬしの方は却って疲れが溜まってしまったようであるな」
青衣はタクミの元に近づく。
「では今度は……我の方が、タクミが安眠できるよう手助けをするしよう」
「……え?」
青衣はくたびれたタクミを『Random Play』へと連れ帰る。
そして。
そのまま。
一緒に白湯を飲み、体が温まったタクミをベッドに寝かせた後、そのまま帰った。