ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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料理

 

 

 

 

 

「──ようし、準備はいいか? タクミ!」

 

「潘さん……これは……!」

 

 

ルミナモール内のスーパー、お総菜コーナー。

 

タクミは目の前の光景を見て、戦慄した。

 

 

 

 

「あんたら、なんとしてでも勝ち取るよっ!」

 

「おうっ!!」

 

「財宝に等しいこの戦利品、勝ち取れなかったら死だと思え! 死!!」

 

「おうっ!!」

 

 

主婦のおばさま方が気合の入った声で返事をする。

 

その『覚悟』は、最早並大抵の人間には出せないほどのものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当観で掃除をしていたタクミは、潘に『買い出しに付き合って欲しい』と頼まれた。

 

向かった先はいつものルミナモール……なのだが、いつもと様子が違っていた。

 

 

潘たちと同じく夕飯の食材を買いに来ていた主婦たち。

 

その彼女たちの眼が……異様に殺気立っていたのだ。

 

 

その理由は、すぐに分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと五分ほどで、『タイムセール』が始まるからだ。

 

歴戦の戦士とも言えるその風格を纏った主婦たちは、『その時』を今か今かと待ちわびていたのだ。

 

潘はタクミに耳打ちをする。

 

 

「タクミ、作戦のおさらいだ。おれはタイムセールが始まったら、一直線に比較的人が少ないであろうコーナーに行って、出来る限り人を引き付ける」

 

 

『これがたったの○○ディニー!?』とあからさまに叫び、他の主婦の興味をそちらに向かせる。

 

 

「……その隙に、俺が今日買う食材を取るんすね?」

 

「その通りだ。おれたちが狙ってるものは、他と比べても倍率ってのが高い」

 

「倍率……」

 

「だから少しでも分散させられるよう、おれが彼女たちを引き付けるんだ。タクミもここに来て分かったと思うが、これは戦いだ」

 

 

それはもう辺りに漂う雰囲気で嫌と言う程感じている。

 

 

「タイムセールは数十分ほどあるが、実際は数分にも満たないと言っていい。そして、何より大事なのが……ライバルに気圧されない事だ!」

 

「わ、分かりました」

 

「……お、もうすぐタイムセールが始まるみたいだな。それじゃ、頼んだぞ!」

 

 

ホロウで戦っているわけでもないのに、それに等しい緊張感がタクミを襲う。

 

やがて──

 

 

 

 

『これより、タイムセールを開始します!!』

 

 

 

店員のアナウンスによる、開戦の合図。

 

戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは! お前さんに頼んで正解だったな!」

 

「マジで怖かった……」

 

 

澄輝坪への帰り道。

 

結果を言ってしまえば、今回の戦いは無事勝利に終わった。

 

タクミは主婦たちの喊声に内心ビビりながらも、めげずに目的のものを素早くゲット。

 

 

そしてこのタイムセール、勝者もいれば当然敗者もいる。

 

 

目当てのものを取れなかった主婦たちは、悔しさの感情をあらわにすると思いきや……そうでもなかった。

 

むしろ『次のタイムセール』の情報などを調べ、戦いの準備をしていたのだ。

 

 

負けてもくじけず、次に繋げようとするその姿勢は、まさに『歴戦の戦士』たる所以と言えた。

 

 

「今日は助かった! 夕飯は唐揚げとか色々作るから、楽しみにしといてくれ!」

 

「あ、潘さん。俺もなんか手伝いますよ」

 

「いやいや、わざわざこうして買い出しに付き合ってくれたんだ、タクミも疲れたろう? ゆっくり休んでてくれ」

 

「俺ならまだ全然大丈夫ですよ。一、二品くらいなら作れると思います」

 

「……ふうむ」

 

 

潘は少しの間考え込む。

 

基本適当観にて、台所に立つのは潘のみ。

 

 

一応タクミが料理ができるのは知っていたが、それでも潘は基本一人で料理を作っているのだ。

 

 

「余計なお世話なのは分かってるんすけど……今日ぐらいは潘さんの力になりたいです」

 

「……大事な弟弟子にそう頼まれちゃあ、ノーとも言えんな。分かった、今日は特別だ! ただ、分かってるとは思うが清潔さには十分気を配ってくれよ?」

 

「……! 分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日の夕方。

 

台所前を通りかかったアキラとリンは、野菜を切る音が聞こえてくるのに気が付いた。

 

 

潘がいつものように夕食の準備をしているのだろうと、入り口からこっそりその様子を覗いた。

 

 

 

 

 

「……あれ!? タクミ!?」

 

「ん?」

 

 

しかし台所に立っていたのは潘ではなく、エプロンを身に着けたタクミだった。

 

 

「今日はタクミがご飯を作ってるの?」

 

「そうだな。つっても、回鍋肉だけだけど」

 

「タクミが料理をするなんて珍しいな。最後に君が料理したのはいつだったかな……」

 

 

 

確か風邪を引いたクレタの為にうどんを作ったのが最後だったはずだ。

 

その前はビデオ屋に遊びに来た猫又に塩サバ定食を作った記憶がある。

 

 

いずれも、衛非地区に来る前の事だ。

 

 

「潘さんは?」

 

「潘さんは買い忘れた食材があるって言って急ぎで買いに行った。多分もうすぐ戻って来るんじゃねーか?」

 

「ふーん……てか、タクミのエプロン姿って新鮮だね」

 

「そうか? まあ、潘さんがいない時は二人が夕飯を作ってたし、俺が作る事は全く──」

 

「パシャリ、と」

 

「ん?」

 

 

突如聞こえるスマホのシャッター音。

 

見れば、スマホを構えたリンの姿が。

 

 

「!! 姉ちゃん、また勝手に……!」

 

「皆に送っちゃおーっと!」

 

「あっ、おい!」

 

 

どうしてこの姉は弟に対してはネットリテラシーというものがないのか。

 

SNSでネットの海に流されないだけまだマシなのだろうか。

 

苦笑するアキラを横目にため息をつくタクミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!? この回鍋肉、タクミくんがつくったんですかっ!?」

 

「そうだよー」

 

 

福福は食堂に出された料理を見て驚きの声を上げた。

 

 

「潘さんに比べたらアレだと思うけど、これでも自信作なんだ」

 

「わあ……わあっ……!!」

 

「珍しいな、潘。お前さんが自分以外の人間を台所に立たせるとは」

 

「今日は特例ってやつさ。ちなみにタクミの『自信作』、味は上々だったぞ!」

 

 

福福が回鍋肉を見てキラキラと目を輝かせている。

 

 

「いただきまーすっ!!」

 

「いただきます……ん? タクミ、どこに行くんだい?」

 

「食べないの?」

 

「いや、食べるよ。けどエプロンくらいは外さないとだろ。すぐ戻るから」

 

 

タクミは幸せそうに回鍋肉を頬張る福福を見ながら、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして適当観の裏口から外に出たタクミ。

 

エプロンを脱ぎ、畳む。

 

誰もいないことを確認した後……彼はとある名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「──瞬光先輩? いるんだろ?」

 

「……えっ!?」

 

 

物陰から、瞬光がおずおずと姿を現した。

 

 

「い、いつから気づいてたのよ……? 隠れてたのに……」

 

「台所にいた時、外から足音が聞こえたからな」

 

 

瞬光はちょくちょく、この適当観に足を運んでいる。

 

……運んでいるのだが、儀玄たちにはその事は伝えられていない。

 

 

そのため、お忍びと言う形で来ていたのだが、タクミだけはそれに気づいていた。

 

一応、瞬光はアキラとリンにも会っている。

 

弟・妹弟子が三人も増えたことに、彼女は大層喜んでいた。

 

 

「うう……その、いい匂いがしたから気になって」

 

「まあ、この時間帯にあの匂いを嗅いだら気にせずにはいられないよな」

 

「えっと……ごめんなさい、邪魔しちゃって……また会えて嬉しいけど、今日はもう帰るわね」

 

「あ待って。その前に……」

 

「?」

 

 

タクミは瞬光に、タッパーを差し出す。

 

 

中には、タクミが作った回鍋肉が入っていた。

 

タクミは自分が食べる分を、瞬光のためにこっそり分けていたのだ。

 

 

「おすそ分け。瞬光先輩の口に合えば良いけど」

 

「ええっ!? わ、悪いわよそんな……! ワタシ、こっそりここに来てるわけだし……」

 

「別にいいだろ、これくらい。それに──」

 

 

 

ぐううううう……

 

 

 

「…………」

 

「……その音も、台所にいた時聞こえてたからな」

 

「あ、アナタ耳良すぎない……!?」

 

 

この事がバレたら怒られるかもしれないが、このお腹の音を聞いて放ってはおけなかった。

 

顔を赤くしながら、瞬光はタッパーを受け取る。

 

 

「でも……ありがとう。今度、ワタシからもお返しさせて? 美味しいスイーツを作ってきてあげる!」

 

「スイーツ? なんの?」

 

「ふふん、それはヒミツ! 楽しみに待ってなさいよね!」

 

「それなら……楽しみにしとくよ」

 

「……あ、それから」

 

「うん?」

 

 

瞬光は両手の人差し指同士を合わせ、もじもじしだす。

 

心なしか、先ほどよりも顔が赤くなっている気がする。

 

 

「わ、ワタシの事はね……『瞬光先輩』じゃなくて……えっと」

 

「? うん」

 

「しゅ……しゅんね……さんって……」

 

「シュンネ?」

 

「ごっ、ごめん! やっぱりなんでもない!!」

 

「えっ」

 

 

瞬光は踵を返し、走り去っていく。

 

あっという間に、姿が見えなくなってしまった。

 

 

「…………??」

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