謎の依頼
とある日の事。リンとタクミはアキラに呼び出された。
「来たね二人とも。実は今日、話したい事が二つあるんだ」
「話したい事?」
「ああ。まず一つ目、うちの今月の収支について……」
「う゛っ」
「?」
急にリンが呻き声を上げる。その顔には冷や汗が流れている。
「ち、違うのお兄ちゃん!確かにカプセルトイは回したけど、あれは……」
「カプセルトイ?何のことだい?こっちは真面目な話をしているんだ、まずは聞いて貰っていいかな」
「……」
「……姉ちゃん」
完全に墓穴を掘ったリン。『やらかした』と苦い表情をする彼女をタクミは冷たい目で見る。
アキラは話を続ける。
「ビデオ屋の経営に関して特筆すべき事はないかな。今月の収入は、いつもと対して変わらなかったからね。変化が大きいのは、僕達のプロキシ事業の方だ」
例のハッカーによりアカウントを捨てる羽目になり、パエトーンはインターノットで新しくアカウントを作成した。
しかしアカウントがまだ無名だからか、稼げる依頼がなかなか来ず、今月の収入は以前の三分の一にも満たなかったそうだ。
「補足。現時点で受けられる依頼の中から、私が最も収益の高いものを選出した事で、貴方様の収入を32.21%アップさせることに成功しています。その収入金額は、インターノットにおける既存ユーザーのうち47%を超えるものです」
「……手柄をアピールするのはまだ早いよFairy。今から君の話をするんだ」
心なしか冷ややかな目でそう答えるアキラ。
「実はFairyが原因で、今月の電気代が以前より五倍も上がったんだ」
「ごっ──」
五倍。今月は一体いくらかかったのか。知りたくもない。
「Fairy、どういう事かちゃんと説明して!」
「すみません。よく分かりませんでした」
シラを切るAI。アキラは思わず溜め息を吐く。
「……こういう時に限って『人工無能』のふりかい?君がH.D.Dを制御できるのをいい事に、ほぼ24時間フル稼働させたからこうなったんだ」
「おいちょっと待て、24時間ってお前……俺らが寝てる間まで稼働させる必要なんかねーだろ」
「否定。皆様の安全、及びRandom Play本店での犯罪防止のため、24時間常に稼働させておく必要があります」
「今月分のローン、払えるかな……」
「そうだね……でもこういう時ほど、お金に目がくらまないように気をつけないと……まさにこれが、二つ目の話なんだ」
アキラは先程インターノットを介して来た高額の指名依頼について話す。
アキラ曰く、その依頼に具体的な内容は示されておらず、依頼人はその詳細をDMで話すと言っていたらしい。
「僕達のアカウントはまだレベルが低いし、これと言った実績もない。そんな僕達をこっそり指名するなんて、普通じゃないだろう……依頼人には、何か企みがあるのかもしれない」
「いっそ誰だか分かれば良いけど、そんなの無理だもんね……」
「異議あり。この指名依頼には、依頼人の身分に関する隠された情報がある可能性があります」
「情報?」
どうやら依頼元のインターノットアカウントは、投稿の前日に新規作成されたものであり、アイコンもユーザー本人が撮影したものであろう画像が使われていたらしい。
「画像解析の結果、この写真に写っている場所は、ヤヌス区の教会に位置する現『旧都地下鉄改修プロジェクト』の工事現場と一致しました」
「……依頼人はプロジェクトの関係者って事か?まさかヴィジョンの奴が……」
「待ってタクミ。そういえば、地下鉄改修プロジェクトの競争入札は、あの件以降仕切り直しになっていた。今回の請負を勝ち取ったのは、確か『白祇重工』だったはずだ」
「つまり、依頼を出したのは白祇重工の人って事?」
「マスター。現在、とあるチャンネルのテレビ番組にて、白祇重工の関係者がゲストとして出演しています」
それを聞いたアキラは、テレビの電源をつけ、番組をやっているチャンネルに切り替えた。
番組名は『ボンプは知っている』。
そのゲストには、白祇重工の社員、アンドーが出演していた。
番組のテーマは白祇重工とヴィジョン、どちらの地下鉄改修プランがより優れているのか、というものだった。
白祇重工の改修プランは、本社で独自開発された『ホロウ用知能重工業機械』により、ホロウ内の古い地下鉄を再利用するというもの。
この知能機械はエーテル侵蝕耐性が高く、またそれにより爆破作業を行う必要もないため、ヴィジョンよりも低コストを実現している。
『白祇重工の方が優れてる?くくっ、それはどうガオ?』
ライオンの着ぐるみを着た司会者がそれに反論をする。
彼曰く、白祇重工の改修プランは膨大な時間がかかるという欠点があるらしく、ヴィジョンの方が安全かつ合理的なプランを持っていると言った。
さらにその司会者は、白祇重工には『社長が大金を持ち逃げした』黒歴史があると言った──。
「……なんつー番組だよ。教育番組の皮を被ったガチガチの討論番組じゃねーか」
「けど意外だな。白祇重工は世間からの評判も良いのに、未だに黒歴史を掘り起こされるなんて」
「マスター、指名のあった依頼人からDMが届きました。」
「なんて書いてあるの?」
DMにはこう書かれていた。
『パエトーン、力を貸してくれ!恥を忍んで言うが……オレらは今、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。力を貸してくれ。頼れる相手は、お前しかいねぇんだ!』
『事情が事情なんでな。依頼内容をここに書けば、一発でこっちの正体がバレちまう。つうことで、ここは一つサシで会おうや。明日の朝五時に、六分街の交差点に来てくれ!頼む!』
DMを読んだアキラは一つ不審な点に気づく。
「……待てよ、このアカウントでパエトーンと名乗った事は一度も無いはずだ。どうしてこの人は知っているんだ?」
すると依頼人からもう一通のDMが届いた。
『報酬の20%を前金として振り込んだ。こいつは心ばかりの誠意ってやつだ。マジに頼んだからな!』
「マスター。インターノットのアカウントに依頼人からの振り込みを確認」
「……リン。面会と言うのは罠かもしれない。この依頼は断っておかないか?『お金か命か』なんて二択を、天秤にかけるのはやめよう」
「かしこまりました。振り込まれた金額は、先月のインターノットにおける総収入の1.1倍に相当します。本当に返金しますか?」
それを聞いてリンはしばらく悩んだ後、こう言った。
「……お兄ちゃん、やっぱり私が行って来よっか?だってほら……ね?」
「そうは言うけどね、リン……」
「大丈夫だって!いざって時のためにタクミと一緒に行けばいいし!」
「兄ちゃん、俺も姉ちゃんと同意見だ。つっても依頼が罠かどうかはちゃんと警戒する」
「……分かったよ。それなら明日ランニングするフリでもして、こっそり様子を見に行ったらどうかな」
依頼人は『サシで会おう』とは言っていたが、リンの安全のために同行する事にする。関係者だと言えば、おそらく許してくれるだろう。
というわけでひとまずは依頼人がどういう人物かを見定めようという結論に至った。