ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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姉弟子が来た

 

 

 

 

 

「人助け?」

 

「そう!」

 

 

住人たちが去った後。

 

タクミは瞬光になぜここにいるのかと尋ねたら、得意げにそう答えた。

 

 

「ボンプのシシオとの山での修行がひと段落した後、ちょうど師匠たちが市内に行ったって知らせを聞いたの。これはもう、大チャンスだと思って!」

 

「それで、シシオと一緒に人助けをしようと?」

 

「そうよ! ここ数日、またこっそり下山して色んな事をしたの。お兄ちゃん達にバレたら、すぐさま連れ戻されちゃうから……やるなら今しかないでしょ?」

 

(お兄ちゃん、か……)

 

 

瞬光の言葉に、タクミは微かに眉をしかめる。

 

彼女の兄である釈淵は……今は行方不明となっている。

 

 

何処に行ったのかは未だ掴めないままだが、一つだけ明らかになった事がある。

 

 

 

 

それは釈淵が、サラと接触していたということだ。

 

 

 

以前の事。

 

ラマニアンホロウの航空宇宙試験場エリアにて、イドリーは自身の能力でサラと釈淵が会話していた痕跡をミアズマの幻として現像させた。

 

 

 

あの時は空間が不安定だったこともあり、裂け目から二人を追う事はできなかったが……Fairyによれば現在は通過可能となっており、その裂け目は『鉱区跡地エリア』につながっているとの事。

 

あそこに行けば、サラと釈淵の行方に関する手がかりが掴めるかもしれない。

 

 

そして釈淵が行方不明だという事についてだが、瞬光はまだその事を知らない。

 

 

(兄ちゃん達からは言うなって言われてるけど……もういっそ予め伝えとくべきか? いやでも、まだ手がかりは何もつかめてないしな……そんな状況で言うのもただ混乱させるだけか……)

 

「それとね、衛非地区にいたシシオを通じて、アナタ達の事もたくさん聞いたの! 讃頌会の野望を打ち砕いたとか、恐ろしい怪物と戦ったとか……!」

 

「……ん? じゃあ、俺がファイズだって事も知ってるのか?」

 

「もちろん! 聞いた時は驚いたわよ? まさかあのファイズがアナタだったなんて」

 

 

前に少しだけシシオが適当観を訪れていた事があった。

 

きっとその時に、オシシからファイズの事を聞いたのかもしれない。

 

 

「話を聞いてるうちに、ワタシも人の役に立つ何かがしたくなってきちゃって! ……ただ今は、ちょっとした壁にぶつかっちゃってるの」

 

 

瞬光は気まずそうに顔をそらす。

 

 

「師匠たちが出かけたって聞いた後、すぐここに来たから……資金がもう底をつきかけてるのよね……冒険半ばで、リタイア寸前……!」

 

「……帰るお金がないって事か?」

 

「うん……けど、そんな時にアナタが現れたお陰で助かったわ! お願い! 少しの間だけでいいから、ワタシとシシオを適当観に泊めて!」

 

「泊めるも何も、瞬光先輩は雲嶽山の一員だろ? 実家みたいな感覚でここに来てもいいんじゃないか? ちょうど姉ちゃんたちと一緒に、使ってない客室を掃除してるとこだったしな」

 

「ホント!? ありがとう!」

 

 

まあ儀玄たちにバレてしまえば連れ戻されてしまうので、こっそりという形にはなるかもしれない。

 

 

「あ……それとねタクミ。ちょっとした、お願いなんだけど……い、嫌なら嫌って言ってくれてもいいから!」

 

「なんだ?」

 

「え、えっと……わたっ、ワタシを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゅ、瞬姐さんって、呼んで欲しいの!!」

 

 

テンパっているのか、声を上ずらせながら瞬光はそう言った。

 

昼寝中の朔の耳が、ピクリと動いた気がする。

 

 

「え……?」

 

「えと……ほ、ホラ! 適当観の他の弟子たちに、ワタシの事がバレるとマズいじゃない!? だから先輩って呼ぶよりそう呼んだ方が近所の知り合いみたいな感じの関係に見えて幾分か自然かなって! あ、何もそう呼んでほしかったからじゃないわよ!? 弟みたいな子が欲しかったとかでもないわよ!? 今までお兄ちゃんたちにずっと末っ子扱いされてたからって──」

 

「わ、分かったよ分かったから……瞬姐さん。これでいいか?」

 

「~~~~!!」

 

 

『瞬姐さん』と呼ばれ、テンション爆上げの姉弟子。

 

と、そんな時……アキラとリンがやって来た。

 

 

「タクミ~、誰か来たの……って!」

 

「おや、瞬光先輩じゃないか。来ていたのは君だったんだね」

 

「あ、リン! アキラ!」

 

「この間ぶりだね! もしかして、下山の許可が下りたの?」

 

「ううん……実はまだで……」

 

「瞬姐さんは師匠たちが出かけたタイミングを見計らって、シシオと一緒にこっそりここに来たんだってさ」

 

「へえ~そうなん──ん? ちょっと待って」

 

 

急に待ったをかけるリン。

 

アキラも今のタクミの言葉に目を丸くしていた。

 

 

「タクミ……今瞬光先輩の事、『瞬姐さん』って呼んだ?」

 

「ん? ああ……姉妹弟子の関係なことが他の弟子の人達にバレるとマズいからって。だからその呼び方で呼んでくれって」

 

「その呼び方でも姉弟子だってバレちゃうんじゃ……?」

 

 

それはタクミもそう思わなかった訳ではない。

 

ただの近所付き合いと言う設定だとしても、それで『姐さん』呼びする間柄などないだろう。

 

 

「だ、大丈夫よ!『ねえさん』って二つの漢字があるもん! 言葉聞いただけじゃどっちかなんて分かんないわ! 『瞬姉さん』って意味で捉えられるかもしれないし!」

 

「なんだその理論……」

 

「ふーん……? 瞬光先輩、ホントはただ瞬姐さんって呼ばれたいだけじゃ──」

 

「姉弟子チョーップ!」

 

「あいたああっ!?」

 

 

なんか急にわちゃわちゃしだしたリンと瞬光。

 

止めるのもめんどくさいのでただただ眺めていると──

 

 

「ごめんくださーい!」

 

「ん?」

 

 

正門の方から、男性の声が聞こえてきた。

 

作業着を着た男性が、リン達を呼んでいる。

 

 

 

「どうしましたか?」

 

「雲嶽山の先生がた、いらしたんだな! 俺はこの辺りで鉱夫をやってる貫ってモンだ。実は、ホロウの鉱区跡地でトラブルがあってな。力を貸していただきたいんだ!」

 

「鉱区跡地? あそこで何かあったの?」

 

「鉱夫の仲間たちと、盤岳先生んとこの弟子が……ミアズマに閉じ込められちまったんだ!」

 

「……! 盤岳先生……」

 

 

タクミは瞬光が何かつぶやいたのが聞こえた……が、今は気にしない事にする。

 

 

「え、ちょっと待って? 鉱員たちが閉じ込められたって……ポーセルメックスが仕切ってる生産エリアは、今操業停止命令が下りてるはずでしょ?」

 

「皆が閉じ込められた鉱区跡地は、生産エリアじゃない。何せあそこは十年前に放棄された、古い鉱山だからな」

 

 

貫曰く、鉱区跡地エリアは十年前に起きたミアズマの大量発生により、多くの民の命が失われてしまったらしい。

 

そのためそのエリアは完全封鎖され、以後人が立ち入る事はなかったのだが……

 

 

「──最近、その大量発生してたミアズマが沈静化したって噂を聞いたんだ。まるで引き潮みたいに、辺り一帯にあったミアズマが消え去ったらしい」

 

「……それを確かめるために、鉱区跡地エリアに行ったと?」

 

「そうだ。上の人間は状況をろくに確かめもせず、俺たち鉱夫に調査を命じた。十年前の事故を生き延びた奴の中には、『思い出になるものを持ち帰りたい』なんて言うやつもいた」

 

「それで……今の状況になっているという訳か」

 

「ああ。用心棒だった盤岳先生の弟子も、帰って来れていない……盤岳先生にも連絡はつかず、どうすればいいか困っていたんだ」

 

 

鉱区跡地エリア。

 

そこには釈淵とサラの手掛かりもあるはずだ。

 

だが……迂闊にそこへ向かうのも考え物だろう。

 

 

「安心して、貫さん! それならワタシ達が一緒に行くわ!」

 

「おお、本当か! 恩に着るよ!」

 

 

貫は座標に関する情報を伝えた後、救助の手伝いに戻って行った。

 

 

「さーてタクミ! ワタシ達二人の初仕事よ! ワタシは今から準備するから、アナタはパエトーンと連絡を取ってくれる?」

 

「ああ、でもその前に──ん?」

 

「えっ?」

 

「……うん? みんな、どうしたの?」

 

「瞬光先輩、今『パエトーンに連絡を』……と言ったのかい?」

 

「え? だって、タクミはファイズなんでしょ? 人命救助だもの、方法は選んでられないわ。それに、伝説のプロキシの力があれば百人力よ!」

 

「……」

 

 

三人は顔を見合わせる。

 

きっと儀玄は瞬光には何も伝えていないのだろう。

 

シシオネットワークで知れたのは、『タクミがファイズである』という事だけだったようだ。

 

 

「……瞬姐さん。実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ!? アキラとリンがあの"パエトーン"なの!?」

 

 

事実を知った瞬光は驚きの表情を浮かべる。

 

"タクミがファイズであるという事は、その兄と姉はパエトーンである"

 

この発想に至る人は、思ったより少ないようだ。

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