道端に咲く、白くて背の高い花。
本来花など咲くはずのないホロウの中で、その花は一際大きく、異質な存在感を放っていた。
「見た感じ、侵蝕も受けてないみたい……」
『そう言えば貫さんは、ラマニアンのミアズマが"引き潮"になっていると言っていたね……これはその兆候と言う事なんだろうか』
「花が咲く程、ミアズマの濃度が下がったって事か? ……てかこのデカい花、ホロウの外でも見た事ないぞ……」
高さ二メートルは超えていそうな巨大な花。
ミアズマの構造物というわけではなさそうだが……
「うーん……ワタシはこの花、前に何処かで見たことがある気が──」
「助けてくれーーっ!!」
「!!」
瞬光の声を遮るようにこだまする、男性の悲鳴。
「今のは……!」
「すぐ近くね! 急ぎましょう!」
瞬光たちは悲鳴が聞こえた場所へ急いで向かった。
そして急ぎ向かったその場所で目にしたのは、スーツ姿の男性がエーテリアスに襲われている光景。
「ひぃぃい……!!」
「……! タクミ、行こう!」
「ああ……」
[Ready]
瞬光とカイザはそれぞれ武器を構え、エーテリアスの元へと走る。
「はぁっ!!」
黄色の刀身を振りかざし、エーテリアスを切り裂く。
数は十数体ほど。
だが一体一体は大した強さではないので、二人ならすぐ終わるはずだ。
「ガァアア!!」
「タクミ!」
「!」
突然、後ろからエーテリアスが飛び掛かってきた。
カイザブレイガンを構え、迎撃しようとしたその時だった。
カイザに襲い掛かろうとしていたエーテリアスは、派手に吹き飛ばされる。
「……!?」
「い、今のは……」
「はいはーい! お二方、あとはあたしにお任せくださーい!」
直後聞こえる、明朗快活な少女の声。
その声には聞き覚えがあった。
声が聞こえてきた方向を振り返る間もなく──
「危ないですよー!」
「おわあっ!?」
今度は背後から巨大な手が。
まるでハエたたきのように、エーテリアスを叩き潰す。
ようやく見えた、声の主の少女。
そこにいたのは白黒の髪の少女、ダイアリンだった。
「はい、あんたはこっち……ですっ!」
「うわああああ!?」
ダイアリンはチャクラムの輪を使い、今先程も目にした巨大な腕を顕現させる。
そのままスーツの男性の首根っこを掴み、強引に自分の近くまで引きずり込んだ。
何が起きたのかを全く理解できず、混乱する男性。
「な、何が起きた!? お前は──」
「あー、無駄口をたたいてる暇があったら……ぜひ星5評価の程、よろしくお願いしますね~?」
ダイアリンは意地の悪い笑みを浮かべ、男性にそう言った。
襲っていたエーテリアスを全滅させ、男性もようやく落ち着きを取り戻した。
……取り戻したと思ったら、助けてくれたダイアリンに対し、クレームをつけ始めた。
「お前! さっきのはどういうつもりだ! まるで物みたいに俺を引きずり回しやがって……もし俺の身に何かあったらどう責任を──」
「はいはい、今こうして助かったんだから黙ってもらっていいですか? てかあんた、ドのつくアホか何かですか?」
「何……!?」
「だってそうでしょ。わざわざこんな危ない所に逃げ込むなんて……ここがどういう場所か、いくら未発達な頭脳でも理解できないわけじゃないですよね?」
「ぐ……!!」
この男性も、鉱夫たちと一緒に閉じ込められた人間なのだろう。
恰好からして、彼はポーセルメックスのマネージャーにあたる人物。
貫の証言が本当なら、彼は鉱区跡地エリアに閉じ込められた原因の一つ。
「ま、クレームに対して迅速かつ丁寧に解決策を見つけ出すことこそ、あたし達『TOPS部署横断型カスタマーサポート』の役目ですからね~。お客様のあんたは安心して、ホロウから出られることを安心して良いんでちゅからねえ~」
「おっ、お前……!!」
先程から気になっていたが、ダイアリンの挑発っぷりがえげつない。
おおよそ客にする態度ではない。
「えーとそれで? 適当観のお二方は何故ここに? 見慣れないお顔の方もいらっしゃるみたいですが……」
「私達は、ここのミアズマに閉じ込められた人達を救出しに来たの」
「はえ~そうなんですね」
「……てかダイアリンさん、『TOPS部署横断型カスタマーサポート』ってなんすか? 前会った時は黒枝の──」
「おおっと手が滑ったぁ!!」
「いてぇ!?」
「タクミ!?」
カイザが『黒枝』と言いかけたと同時に後頭部に走った痛み。
いつの間にか背後に現れた巨大な手が、カイザに向けて『デコピン』ならぬ『後頭部ピン』がお見舞いしていたのだった。
「それに関してはお口チャックですよ、タクミくん。人生ってのは選択肢が多くてナンボですから。あたしがカスタマーサポートに身を置いても、別に不自然なところはないでしょ?」
「そうっすね……でも何もデコピンしなくても──」
「そんな事より皆さん、人命救助をしているって仰いましたね? よろしければこのダイアリン、お力になりますよ!」
「ホントに!? ありがとう!」
「いえいえ~! ただその代わり、この件が終わったら高評価をお忘れなく~!」
ダイアリンも戦力として加わり、引き続き救助を進めていく。
「そういえば聞きそびれていましたが……こちらの栗毛のお方は?」
「ワタシは……瞬光。タクミやリンとは近所で、結構仲が良くて……」
「そうだったんですね~。あたしてっきり雲嶽山の方かと思ってましたよ。何せ一般住民らしからぬ身のこなしをしているもんですから」
「あ、あはは……ソノ……ケンカハケッコウツヨクテ……」
「ほうほう、なるほど~」
「「…………」」
多分だが、ダイアリンには既にバレているかもしれない。
というか瞬光の誤魔化し方が下手過ぎて、他の人にバレるのも時間の問題かもしれない。
「おーい! こっちだ!」
ホロウでエーテリアスに襲われていた鉱員たちを救出していく中で、リン達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「はいはい、もう大丈夫ですよ。無能上司のせいでとんだとばっちりでしたね~。他に要救助の方はいますか?」
「あ、ああ。俺以外に、あと一人いる! そこの崖下に、盤岳先生の弟子が閉じ込められちまったんだ!」
鉱員曰く、その弟子は人命救助のため、ミアズマの瘴気を放つ植物に閉じ込められてしまったらしい。
「そこまで深い傾斜じゃないから、彼の元に行くこと自体はできる……だがあのミアズマの植物がある限り、出ることも入る事もできない……!」
「分かった。私達に任せて! なんとか、あれを消す方法を探してみるから……先に避難してて!」
「恩に着るよ……それじゃあ、武運を祈ってる!」
鉱員は一足先にホロウの外へと避難した。
「…………」
崖下を見れば、確かに青い胴着を着た青年がいる。
いまは侵蝕にやられているのか、ぐったりしていた。
カイザは植物の方に視線を移す。
あれほどの大きさ、リンの持つ『覚感の術』でも手を焼くサイズだろう。
(……オルフェノクの力で、どうにかならないか?)
オルフェノクにはエーテルを操る力がある。
エーテルを跡形もなく消すことだってできる。
前に『解悩水』のミアズマに侵された人を救出した時、タクミにもその力が働いた。
オーガとの戦いの時も、その力で『ミアズマ兵士』を一掃した。
だが……いずれもそれは
「…………」
「? タクミ、何してるの?」
カイザは植物に向けて、ゆっくり手をかざしてみる。
あの力を再び出すには、どうするのが正解か──
「動くな!!」
「!」
考えていたその時、背後から男の声が響く。
「愚か者どもが……始まりの主の御命に置いて、貴様らを罰する!!」
「な……讃頌会!?」
オカルトチックな服を来た讃頌会の導師が、サクリファイスとともに襲い掛かって来た。