ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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剣棺

 

 

 

 

 

「皆さん、助けていただき感謝する……!」

 

 

ミアズマの植物を排除し、無事に盤岳の弟子を助け出した一行。

 

助けられた青年──寧謙ねいけんは、リン達にお礼を言った。

 

 

お互いに軽く自己紹介をしたあと、寧謙は事のいきさつを話し始めた。

 

 

「今日の朝……鉱員の一人が道場を訪ねてきた。ホロウで大事なものを探したいから、用心棒を探していたと。だが、その時は折り悪く師範は用事から戻られていなくてな……」

 

 

そこで代わりに寧謙が用心棒として名乗りを上げたのだそう。

 

 

「だがその結果が……この有様だ。鉱員たちとはぐれた挙句、僕はあそこに閉じ込められてしまった。正直、力量を見誤っていたよ……」

 

「……ねえ、アナタの言う師範って、もしかして盤岳先生の事?」

 

「え? そうだが……」

 

「瞬ちゃん、盤岳先生と知り合いなの?」

 

「う、うん。小さいときにとっても世話になった人なの。ワタシとお兄ちゃんに武術を教えてくれた人でもあるのよ」

 

「皆さんどうやら、盤岳先生とは少なからず縁があるようだな……」

 

 

その盤岳とも、恐らくもうじき合流できるだろう。

 

……と、その時。

 

カイザはふとダイアリンが俯いたまま微動だにしていないに気が付いた。

 

 

「……ダイアリンさん? どうしたんすか?」

 

「頭が、痛い……この、声たちは」

 

「……!」

 

「ダイアリン?」

 

 

ダイアリンは眉間を抑え、目を伏せ、微かに震えている。

 

心なしか、顔色も悪くなっている気がする。

 

 

「……っ!!」

 

「わっ!?」

 

 

突然、物凄い勢いで後ろを向いた。

 

彼女が振り向いた、その視線の先には……

 

 

「此処におったか……皆の者、大事はないか」

 

「……! 盤岳先生!」

 

「師範……!」

 

 

鋼鉄の巨体を持つ知能構造体、盤岳の姿があった。

 

 

「おぬしらも救助にきておったのだな。助力、感謝する」

 

「盤岳先生もやっぱりホロウに来てたんだね」

 

「うむ。ホロウに迷い込んだ者たちは全員外へと送った。その後、付近からの話し声が耳に入り、ここへ駆けつけた次第である」

 

 

どうやら、ミアズマに閉じ込められた人達は全て救助できたようだ。

 

盤岳は次に、弟子の寧謙に視線を移す。

 

 

「……して、寧謙よ」

 

「! 申し訳ありません、師範。己の力量を見誤ったせいで、却って皆を危険に……」

 

「うむ……事のいきさつは鉱員たちから聞いておる。他者に手を差し伸べるその心意気はよい」

 

「……」

 

「だが、及ばぬ力、そして生半可な覚悟で差し伸べるその手は、時には溺れる者を水底へ引きずり込む石となりうる。それをしかと肝に銘じておけ」

 

「……分かりました、師範」

 

 

寧謙に厳しい言葉を投げかける盤岳。

 

普段、謙虚かつ人当たりの良い性格である盤岳だが、時には師範としてこうして弟子を厳しく指導する事もあるようだ。

 

 

「ねえ盤岳先生、ワタシの事覚えてる?」

 

「瞬光か。おぬしも変わらず壮健そうであるな。しかし、なにゆえおぬしがここにおるのだ? 儀玄が下山の許可を出したという事か」

 

「……えーと……」

 

「……あはは」

 

 

気まずそうに顔をそらす瞬光。

 

 

「……おぬし、もしや」

 

「だ、大丈夫よ盤岳先生! 師匠が作った剣棺があれば、よっぽどの事なんて起きないし、ちゃんと制御できるよう山で修行もしたんだから!」

 

「剣棺? それって瞬姐さんが背負ってる冷蔵庫みたいなやつか?」

 

「そうよ。師匠が青溟剣の代償を抑えるため、長年の研究の末に作り出したものなの」

 

『「「青溟剣!?」」』

 

 

アキラ、リン、タクミは同時に驚愕の声を出す。

 

 

「さ……三人とも、どうしたの?」

 

「しゅ、瞬姐さんが使ってるその剣って青溟剣なのか……!?」

 

「あれ? 知らなかったの?」

 

「聞いてねえ……!!」

 

「そ、そうなの……!? ごめんなさい、隠すつもりはなかったの! てっきりもう聞いてるものだとばかり……!」

 

 

青溟剣。

 

虚狩り並みの強大な力を発揮する代償として、剣を振るう者の五感、記憶、果てにはその命まで奪われてしまうという恐ろしい剣。

 

先代宗主であり、儀玄の姉である儀降も、その剣によって命を落とした。

 

今はどこにあるのかと思えば、まさか瞬光がその使い手であるとは知らなかった。

 

 

「だ、大丈夫なの……!? ここに入って結構その剣使っちゃってたけど……!!」

 

「わ、ワタシは大丈夫よ! さっきも言ったけど、剣棺のおかげ青溟剣の代償は全くと言っていいほどないの」

 

「そうなんだ……なら良かったけど、もし何かあったらちゃんと言ってね?」

 

「うむ。封印を破らぬ限り、その代償が瞬光に襲い掛かる事はないが……かと言って、用心は怠らぬに越したことはない」

 

「……と言うか、青溟剣の使ってらっしゃるという事は、瞬ちゃんさんはやっぱり雲嶽山の方なんですね~」

 

「あっ」

 

 

墓穴を掘った。

 

瞬光は汗をダラダラと流しながら……助けを求めるようにタクミにアイコンタクトを──

 

 

(いや無理だろ)

 

(そんなっ!?)

 

 

『そんなっ!?』ではない。

 

そもそもダイアリン達がいることを忘れて色々と喋りすぎた瞬光が悪い。

 

 

「み、皆……勝手なお願いだけど、ワタシがここにいること、師匠たちには内緒にしてっ!」

 

「おぬしという奴は……まあよい。……が、その青溟剣の扱いには、努々気を配る事だ。よいな?」

 

「あたしも別にいいですよ。でも瞬光さん、そんな冷蔵庫みたいなのを背負ってて近所の一般人は無理がありますよ~」

 

「これそんなに冷蔵庫に見える……?」

 

 

少なくともタクミは冷蔵庫に見えた。

 

節穴かよと言われれば否定はできない。

 

 

……!すいません皆さん、そろそろあたしはこの辺で失礼しますね。お呼び出しを食らっちゃったので~」

 

「そう? 今日はありがとうね、ダイアリン!」

 

「いえいえ~またお会いしましょう! ……っとと、その前に」

 

「?」

 

 

帰ろうとしていたダイアリンは踵を返し、カイザの元に向かう。

 

 

「今日、適当観までお伺いしようと思ってたんですが……その手間が省けたんで、もう今返しちゃいますね」

 

「……!」

 

 

ダイアリンが渡してきたのはアタッシュケース。

 

中には、ファイズギアが入っていた。

 

 

「傷は一つもついていませんよ。お貸しくださりありがとうございます!」

 

「もっと時間がかかるもんだと思ってたけど……もう返してくれるんすね」

 

「ええ、もうやる事は済ませましたので! それでは今度こそ失礼しまーす! よろしければ、レビューの高評価もお忘れずに~!」

 

 

そう言い残し、ダイアリンは去っていった。

 

 

「師範、被害者は全員助け出しましたし……そろそろ」

 

「うむ。早急にここを離れるとしよう」

 

 

もうここにいる理由もない。

 

まだ気になる事もあるが、一行はホロウを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ切った頃、ようやく澄輝坪へと戻ったリン達。

 

一緒に連れ出した讃頌会の残党から、引き続き情報を聞き出す。

 

 

「ねえ、さっきアナタが言ってた『栗毛の男』って、もしかして葉釈淵って名前じゃなかった?」

 

「! ああ、たしかにそんな名前だった! 奇妙な男だったよ……宗旨替えしてきた身の癖して、サラ様は彼を誰よりも信頼していたからな……」

 

「宗旨替え……? なんでそんな……」

 

「そんなの、始まりの主に謁見するためだろう」

 

「…………そっか。他にやってた事は?」

 

「そうだな……澄輝坪の市場から奇妙な本を持って帰られていたな。その後に『古の陣』なんてものを探せと命じられたんだ。それ以上のことは分からん」

 

「……」

 

 

瞬光達は顔を見合わせる。

 

 

「お兄ちゃんはどうして讃頌会に……サラはお兄ちゃんを信頼してるって言ってたし……」

 

「信頼か……サラの事だ、そんなの建前だろ」

 

「うん。サラはきっと、釈淵さんを利用するつもりなんだよ。多分釈淵さん自身もそれを分かってると思う」

 

「憶測の域を出ぬが……釈淵は讃頌会を討つべく、儀玄と密かに一計を案じておるのではあるまいか?」

 

「うーん……それなら、僕達にもその事を知らせるはずだ。ひょっとして、師匠にも知られてはいけない理由が……?」

 

 

いくら考えても、確かな答えは出ない。

 

残党からも、これ以上有益な情報は引き出せなさそうだ。

 

 

「ひとまずこの男は、僕が防衛軍に引き渡しておく。それと、明日も調査を続けるなら、僕も同行していいだろうか? 今日の事で、ぜひ恩返しがしたい。師範、よろしいですか?」

 

「……ふむ。まあよかろう」

 

「ありがとうございます。それでは皆さん、また明日」

 

「ありがとう寧謙さん! また明日ね!」

 

 

 

寧謙は残党の男を引き連れ、その場を後にした。

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