「チェック」
[Exceed Charge]
「ガァアッ……!」
ポインターモードのデルタフォンから、白いポインティングマーカーが射出される。
そして動きが封じられたオルフェノクの前に、一つの人影が空へと飛び出した。
「たぁぁぁぁあああっ!!」
その人影──デルタはオルフェノクに向け右足を伸ばし、渾身の『ルシファーズハンマー』をオルフェノクへと繰り出す。
オルフェノクは赤い炎を出し、そのまま灰と化した。
今、乾は零号ホロウへと足を運んでいる。
と言うのも、現在零号ホロウではオルフェノクが異常発生しているのだ。
それらは言葉を話さない、人間としての意識がない、まるでエーテリアスのようなオルフェノクばかり。
なぜこのような事が起こっているかは不明だが、乾と対ホロウ六課は緊急で対応に当たることにした。
すでに十数体のオルフェノクを討伐している。
一体一体は大した強さではないが、大勢で襲い掛かられれば骨も折れるというもの。
「……そろそろ片付いたか?」
「いーや、まだだね」
乾と共に行動していた悠真は、とある方向を指差す。
「…………」
そこにはもう一体、オルフェノクがいた。
そのオルフェノクは女性のような体つきで、大きくも美しい羽を背中に生やしている。
その羽の形は……まるで蝶のようだった。
「やれやれ……まだ残業終わんない感じ? このままじゃ過労で死にそう……死んで僕もオルフェノクになりそう」
「縁起でもねえこと言うな」
軽口を叩きながら、二人は再び武器を構える。
「……!!」
蝶のオルフェノクは、乾と悠真を視認する。
彼女は背中の羽を大きく広げると──
「……え?」
予想外の行動に、二人は肩透かしを食らう。
「どういう事だ? 今アイツ、俺達を見て逃げたのか?」
「んー変だなあ。さっきまでいたオルフェノクは、僕達を見るなり一直線に襲い掛かって来たのに」
既に蝶のオルフェノクの姿はない。
乾と悠真は、灰まみれのホロウの中にポツンと佇んでいた。
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一方その頃。
「出ていけと言うとるだろうがっ!!」
「うわっ!?」
老人は怒り心頭と言った感じで、タクミに乱暴にその辺にあった紙を投げつけ、追い返そうとする。
なぜこうなったのか。
サラがどこからか手に入れたという謎の古書。
寧謙が今朝それについて聞き込みに行ったところ、どうやら標という老人がその古書の修復の仕事を受けていたらしい。
リンとタクミは標に古書とサラの事について聞きに行ったのだが……
「標さん、落ち着いてください……私達はちょっと聞きたい事があるだけで……」
「知らんと言っただろう! 俺に構うんじゃない、さっさと帰れ!」
何かしらトラブルに巻き込まれたからか、彼はひどく機嫌を損ねていた。
タクミは先程彼に投げつけられた紙を拾う。それはTOPSから送られた催告状だった。
なんでも彼はこれまでの人生で集めてきた財産とも呼べる古書や骨董品等を、TOPSの事業計画のために手放さなければならなくなったらしい。
とにかく今の状況では、聞き込みなどできる状態ではない。
二人は諦めて、瞬光たちの元へ戻った。
「リン、タクミ……どうだった?」
「やっぱりだめ……取り付く島もないって感じだったよ……」
先程、瞬光も同じく標の元に行ったのだが、同じく追い返されてしまった。
「今は何を言っても聞く耳は持ってくれなさそうだな……どうするべきか……」
「おや? 皆さん奇遇ですねぇ、どうしたんですか?」
「あれ、ダイアリン?」
聞き慣れた声がしたと思えば、いつの間にか近くにダイアリンがいた。
「また何かのクレーム対応っすか?」
「そうなんですよ~! またしても理不尽な言いがかりの嵐ですよ! ま、こんな事で弱音を吐いてたら職場内競争であっという間に置いてかれますし、やるしかないんですけどね~」
「か、カスタマーサポートってそんなに大変なのね……」
「ところで皆さんお揃いで何を? 心なしか憂鬱そうにみえますが……」
「実はンナンナしかじかで、それで俺たちちょっと困ってて」
「おお~! だとしたら皆さん、今日はラッキーですねぇ! その事なら、あたしも今日同じ件で来たんですよ!」
「ホント!?」
ここに来て思いがけぬ幸運が舞い込んできた。
TOPS関係者のダイアリンなら、この状況をなんとかできるかもしれない。
「標さんの所には、あたしがお伺いしてきます。皆さんは少しお待ちを~」
そう言ってダイアリンは先程タクミ達が行った場所へと向かう。
そして数分もしないうちに、彼女は戻って来た。
……なんと、古びた本を片手に。
「……! ダイアリン、それってもしかして……!」
「ふふん、お察しの通りです!」
「まさか標さん、複製を作ってたのか?」
「いえいえ、こちらは修復された後の本物ですよ! 彼、オリジナルを手放すのが惜しくて、サラにはコピーの方を渡したみたいなんです。ちゃっかりしてますよね~」
何にせよ、古書そのものが手に入った事はかなりツイていると言えるだろう。
「ありがとう、ダイアリン! アナタが来てなければ、途方に暮れてたかも……!」
「輝大侠の事と言い、ダイアリン達には色々助けられてるね」
「うむ。この恩、如何にして報いるべきか……」
「そーんな気を遣わなくてもいいですって! お礼なんてあくまで気が向いたら『高評価をポチッ』ってするだけでいいんですから! こちらも色々助けてもらってますから……ね!」
一瞬だけダイアリンはタクミの方に視線を移す。
ダイアリンが言ってるのは、恐らく前に貸したファイズギアの事だろう。
結局、なぜファイズギアを借りたのかはまだ教えてもらっていないが。
(そういや、ダイアリンさんが前に言ってた『いい事』ってなんだ……? まだ口外禁止なのか?)
「あ、もしどうしてもと仰るなら……いま皆様がやってる面白~い事に、あたしも混ぜてくれませんか?」
「面白い事……とは言えないけど、ダイアリンが良ければ、全然いいよ。ていうか、それだけでいいの?」
「あたしは多くを望まない謙虚な小市民ですので~。とにかく、これで交渉成立ですね! それで早速なんですが……この古書について、ざっくり聞いた内容をお伝えしますね」
彼女は古書を開き、中身を見せる。
「標さんが仰るには……この古書は大変珍しいものなんだとか。書かれているのは、『神聖なる浄化』に関する事とか、ミアズマを吸収し災いや邪気を払う陣法とか……眉唾かもしれないですけどね」
「……!」
「ふむ……どうやらこの書物については今一度適当観に戻り、紐解く必要があるようだ。ダイアリン殿、手間をかけた」
「いえいえ~。なんか助けがあったらまた呼んでください。あたしはあたしの方で色々聞き込みしとくんで!」
ダイアリンは盤岳に古書を手渡すと、その場を後にした。
「ミアズマを吸収し災いや邪気を払う……か。前に師匠が似たような事をやってたけど、あれとは別物か?」
「……みんな。ワタシ、この陣法を聞いたことがあるわ」
「え、本当?」
「うん。まだ小さかった頃に、両親……から、少しだけ聞いた記憶があるの」
両親。
この言葉を口にした時、瞬光の表情に微かに影が差したのは、きっと気のせいではないだろう。
(…………)