ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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寂れた町

 

 

 

 

 

「……まさか本当に十秒で終わらせるとは……」

 

 

寧謙は今しがた起こった光景に息をのみそう言った。

 

アクセルフォームに変身したファイズは、文字通りあっという間に瓦礫を次々とどかしていき、見事に全撤去を完了させたのだった。

 

このようなアクセルフォームの使い方をするのはタクミくらいだろう。

 

 

『何はともあれ、これで橋を通れるようになった。この橋の向こうが目的地……瞬光がかつて住んでいた居住区だ』

 

「懐かしいわ……小さい頃、お兄ちゃんに橋の真ん中まで一緒に行って、どっちが石を遠くまで投げられるか……なんて競争をしていたわ。十年前のあの日も、大きくて頼もしい影が、ワタシとお兄ちゃんを抱えてこの橋を駆け抜けて行ったの」

 

「その人が瞬光と釈淵さんを助けてくれたんだな」

 

「うん。誰だったかは、もう思い出せないけど……ワタシ達を抱えてたあの腕は、冷たくて、とても暖かかった」

 

「…………」

 

 

瞬光は橋の向こうに見える寂れた建物に目を向ける。

 

 

「……さあ、行きましょう。ちょっと怖いけど……みんながいるから大丈夫」

 

「そうだね、瞬光。私たちがついてる!」

 

 

瞬光はリンの言葉に頷き、共に歩き始める。

 

そして数十メートルは距離がある橋に、足を踏み入れた。

 

 

「いい眺めですね~……」

 

「……ん?」

 

「どうしたの、タクミ?」

 

「いや、あそこ……」

 

 

ファイズが指を差す先。

 

橋の右手に見える景色の中に、一つ異様なものがあった。

 

 

「あそこに、浮いてるデカい岩がある」

 

「え? ……うわホントだ。というか、前にもラマニアンホロウで同じようなのを見たような……」

 

 

山の上にある、大きさ数十メートルはありそうな巨大な岩。

 

まるで山から切り離されたように、何の支えもなく浮いていた。

 

 

「まあ、ホロウの中なんでそういうラピュタみたいなのがあっても不思議じゃないですよ。……それよりもあの岩、落ちたら大惨事になるデカさじゃないですか?」

 

「確かに……山一つ壊せるくらいのデカさだぞ……」

 

 

どうかあの岩が後々災厄を引き起こさないようにと願いながら、一行はついに橋を渡り終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに広がっていた光景。

 

かつて賑わっていた鉱区の居住区は、エーテリアスの住処となり、ひどく殺風景なものとなっていた。

 

 

そんな中で一際目立つ、白く巨大な花。

 

 

「あの白い花……すげえ数が咲いてるな……」

 

「うん。それになんか、奥に行くほど増えてるような……」

 

「! あの石獅子……」

 

 

瞬光が指差す先にある、二体の石像。

 

十年の月日が経ったからか、侵蝕され、ボロボロになってしまっていた。

 

 

「あの石像、昔は住民の皆が毎日磨いていたの」

 

「時の流れと言うのは残酷だな……今は辛うじて石像だと認識できるくらいか……」

 

「ねえ皆、ワタシ……一人で見て回ってもいい?」

 

「……ま、どの道手分けした方が得策ですね。そう言えば盤岳先生は、ここでお手伝いされていらしたんですよね? 何か思い出したこととかあったりしますか?」

 

「…………」

 

「……盤岳先生?」

 

 

ダイアリンの言葉が聞こえていないのか、盤岳は石像を見ながらじっと佇み、動かなくなってしまっていた。

 

 

「師範はホロウに入ってから、驚くほど無口になられた……きっと彼も彼で、思うところがあるのかもしれない」

 

「盤岳せんせー! あたし達ここら辺を色々と探してきますので、なんかあったら呼んでくださいね」

 

「……! しょ、承知いたした」

 

 

ダイアリンの声に、ようやく盤岳が返事をした。

 

 

一行はひとまず居住区を調査をしていく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイズは居住区の、遊具がある場所に足を運んでいた。

 

 

「……静かだな」

 

 

遊具で遊んでいたエーテリアスを倒した後、残っていたのは不気味なほどの静寂さ。

 

鉄棒、シーソー、ブランコ、平行棒……

 

 

他の一般的な公園と同じく、様々な遊具があった。

 

しかし聞こえるのは子供の楽しげな声ではなく、風で微かに揺れ動くブランコの音だけ。

 

 

「…………」

 

 

ファイズは鉄棒に手をかける。

 

侵蝕でボロボロになった鉄棒から、錆がボロボロと零れ落ちる。

 

 

(当たり前だけど……とても遊べる状態じゃねえな。ちょっと力を入れたら、簡単に曲が──)

 

 

ぐしゃり。

 

 

(…………)

 

 

妙な感触。

 

ファイズは自身の手元を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄棒が、ひしゃげてしまっていた。

 

 

「…………」

 

 

仮面の下で、冷や汗がダラダラと流れ落ちる。

 

そのつもりはなかったのに、ちょっと力を込めただけなのに、いともあっさりぐにゃってしまった。

 

 

だが、今のタクミの力を考えれば至極当然の事である。

 

問題はそれをタクミがすっかり忘れてしまっていた事だ。

 

 

(や、やばい……どうしよう、いくらもう使われなくなったっつってもこんなにしちゃダメだろ……! ごめん瞬姐さん、ごめん住民の人……!!)

 

 

心の中で謝りながら、ファイズは周りを見る。

 

リン達は他の場所におり、鉄棒を曲げたところは誰も見ていない。

 

誰かが来る前に、元に戻さなければならない。

 

 

(……! そうだ、さっきみたいに力を込めて真っ直ぐにすれば……!!)

 

 

ファイズは逆方向に力を入れ、飴細工のようになんとか元に戻そうとする。

 

力の入れ具合を間違えてはいけない。

 

 

(よし……あともう少し──ああ違う曲げすぎ!! ここをこうして……あっやばい鉄棒が折れそう!!)

 

 

ファイズはこれまでにないほど焦っていた。

 

 

 

 

 

そうしていくうちに……

 

 

「…………」

 

 

なんとか鉄棒を真っ直ぐにしたファイズ。

 

心の中で安堵のため息を吐いた。

 

 

(よし……もう下手にいじるのはやめるか)

 

 

これからは力の制御も学んでいかなければならない。

 

そう思っていると……

 

 

「タクミくん、あんまあちこちベタベタ触んない方がいいですよ。ミアズマが引いたって言っても、何があるかは分かんないんですから」

 

「あっダイアリンさん」

 

 

タクミの元にダイアリンがやって来た。

 

 

「いや……触ってないっスよ。ホントに」

 

「? そうですか。それより、そちらはなんか見つかりましたか?」

 

「……いえなにも」

 

 

鉄棒を治すのに苦心していたとは口が裂けても言えない。

 

こんな時にあんな間抜けな状況に陥るのは後にも先にもタクミだけだろう。

 

 

ダイアリンは冷や汗を流しているファイズをよそに、ブランコに腰を掛ける。

 

 

「あたしも今のところは収穫なしですね……手がかりが『聞こえてくるか』と思ったけど案の定そんな事はなかったですし」

 

 

ダイアリンがブランコをキー、キー、と漕ぐ。

 

 

「! ……?」

 

 

……とその時、気の抜けていたダイアリンの表情が、急に真剣なものとなった。

 

 

「……タクミくん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

 

「なんすか?」

 

「『自分を殺した相手に感謝をする時』って……どういう状況だと思いますか?」

 

「……え?」

 

 

ダイアリンの奇妙な質問に、一瞬理解が遅れた。

 

 

「まあ、そんな真面目に考えなくてもいいんですよ。ちょっと気になっただけなので」

 

「そう言われても……」

 

 

ファイズは俯き、考えてみる。

 

 

「…………」

 

 

タクミが誰かに殺されることになった時、その誰かに対し感謝の気持ちを抱く。

 

そんな状況があるとするならば……

 

 

 

 

「……もし、俺が意図せず誰かを傷つけてしまうような時。そんな時に俺を殺して止めてくれた人には、感謝するかもしれないです」

 

「…………それは、なんともユニークな答えですね。すみません、個人的に気になる事ができたので、もう一つ聞いてもいいですか?」

 

「?」

 

「もしも、逆の立場だったらどうしますか? 例えば……そうですね。タクミくんの……ご家族が、誰かを意図せず傷つけてしまいそうになっているとします」

 

「……」

 

「その人がタクミくんに『殺してくれ』と頼んだとして、さらにそれしか方法がなかったとしたら……どうしますか?」

 

 

 

ファイズはダイアリンの問いに、しばらく考え……やがて口を開く。

 

 

「……俺は、誰にも傷ついてほしくない。けど、傷つけて欲しくもない。相手がそれを望んで、それしか道がないってのなら──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が、殺す」

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