「……『殺す』、ですか」
ダイアリンはタクミが出した答えに、何か変わった反応を示す事はなかった。
肯定しているとも否定しているともとれない、彼女の表情。
自分の言葉を聞いてダイアリンが何を思うかなど、エスパーでもないタクミには分からない。
「仮にそうしたとして、誰かから恨まれてしまったとしても、ですか? もしかしたら最期の最期で、殺された当人からも、不当に恨み言を吐かれるかもしれませんよ。それでも……手を汚すことを選ぶと?」
「…………」
ダイアリンの問いに、ファイズは黙って頷いた。
「……」
「……まあ、あくまでも最悪の場合です。他に方法があるならそっちを選びますから。俺が殺される場合だったにしても」
「……ま、そうですよね」
ブランコから降りた後、ダイアリンは背伸びをする。
「でも、タクミくんも酷ですねえ。もしあんたがオルフェノクとして暴走しちゃったら、誰に手を汚させるつもりですか?」
「それなら、多分大丈夫です。多分誰も手を汚すことはないと思いますよ。俺の周りには、俺より強い人がたくさんいますから」
きっと彼女たちなら、殺さずともタクミを止める事が出来るだろう。
その辺の心配はそこまでしていない。
「そうですか……ま、タクミくんがそう言うなら大丈夫ですね。……にしても、『殺した相手に感謝する』場面と言えば、タクミくんが今言った事が答えでしょうか」
「……まだあるんじゃないですか? 例えば、『自分が犠牲になる事で自分の大切な人が生き延びられる』……とか」
「…………」
ファイズの言葉を聞き、ダイアリンは黙って考え込む様子を見せる。
「……てか、なんで急にそんな事を聞いたんですか?」
「さっきも言いましたがなんとなくですよ。完成済みのジグソーパズルに、違うパズルのピースが一つが混じってたら誰だって気になるでしょ? 『声』だって同じ事ですよ」
「声……? どういう事ですか」
「ん? 照ちゃん先輩から何も聞いてないんですか? あたし達の事」
「……いや、何も」
「そうなんですか? なら教えますとですね──」
「あたし、ホロウの中で亡者の『最期の声』を聴く事が出来るんです」
「……モウジャノサイゴノコエ」
ダイアリンが打ち明けた事実に、ファイズは固まる。
「あれ、どうしたんですかタクミくん」
「ななななんでもないっす」
「声震えてますよ?」
「きっ、気のせいじゃねっすか──ゲホッゲホッ」
「なんでむせてんですか……」
亡者の最期の声。
それはいわゆる、あれなのだろうか。
「ダイアリンさん……その声って、幽霊的なアレですか」
「んー厳密には違いますね。ホロウの中で一つの命が尽きる時、その死に際に放たれる声……それが、残留思念みたいな感じで聞こえるんです」
「残留思念……」
「そうです。あたしは黒枝の裁決官として、その『声』から真実を探り、審査し……そして対象者に裁定を下すんです。あくまであたしのやり方では、ですけどね」
生気を振り絞り、放たれたその最期の声は、嘘偽りのない本心の言葉。
ダイアリンはその死者の声を聞き、真実を見極めるのだそうだ。
ただ、声の主は『幽霊』ではなく『死者』であるため、話をしようとしても返事が帰って来る事はない。
「つまり……今も聞こえてるって事っすか?」
「バリッバリ聞こえてますよ~。まあ場所が場所なので、仕方ないですね。絶え間なく断末魔にも近い声を聞かされて、ノイローゼにならないあたしってスゴ腕オペレーターだと思いませんか?」
確かに、タクミなら間違いなく二度とホロウには行かなくなるだろう。
オペレーターというもう一つの職業も、ある意味ダイアリンにとっては天職なのかもしれない。
「……つかその能力のこと、話しても大丈夫なんすか?」
「あんたとプロキシさんお二人は、黒枝にとってはお友達と言っても差し支えないですから、いいんじゃないですか?」
「そんな親しくなってたんすか俺ら……」
「一回協力した仲じゃないですか~。あたし達もうツーカーですよツーカー」
ニヤニヤし、肘でファイズを小突きながらそんな事を言うダイアリン。
かつて預けたファイズドライバーはしっかり返って来たので、信頼はできるかもしれない。
「……っと、名残惜しいですが、おしゃべりはここまでにしましょう。ここには何もなかったんで、プロキシさん達のとこに行きましょうか」
「あ、そうっすね……」
ファイズは歩き出すダイアリンに着いて行く。
ふと、考えが浮かぶ。
(『殺した相手に感謝する』、か。ダイアリンさんは、亡者の『感謝』の声が聞こえたって事か? 誰に、感謝してたんだ……?)
……今は気にしても仕方がないだろう。
ファイズは頭の中の疑問を外に追いだした。
───────────────────────
公園を出て、ダイアリンとタクミは鉄格子の門がある場所まで向かう。
そこには、すでにリン達が揃っていた。
「皆さん、何をしてらっしゃるんですか?」
「ダイアリン、タクミ! さっきここの門の向こうに、お兄ちゃんとサラの姿が見えたの!」
「え、本当か?」
「うん。ミアズマの幻で、二人の姿が出てきたの。二人も前に、ここに来てたの。会話の内容から察するに、あの門の向こうに『陣』があるみたい」
サラと釈淵は既に、門の向こうに行ってしまったらしい。
「門の向こうへと行けば、件の『陣』を見つける事が出来よう。しかし、ここから先は更に用心せねばなるまい。尋常ならざるミアズマの気配、そして──」
「ちょくちょく流れてくる変な声、ですよね?」
「! ダイアリン殿も聞こえておったのか」
「ええ。ホロウに入ると、自分に似た声が頭の中に絶え間なく聞こえてくるんです。『いつもの』とは違う、奇妙な声。誰がやってんのかは知りませんが、腹が立つったらありゃしません」
「自分の声……?」
ダイアリン達の話を聞き、リン達は顔を見合わせる。
「……あれ、皆さんは聞こえませんでしたか?」
「ワタシは何も……」
「俺も特には聞こえなかったな……」
「おかしいですね……てことはあたしと盤岳先生だけ──」
『───傾聴せよ』
「「!!」」
真っ先に振り向いたのは、盤岳とダイアリンだった。
居住区の広場から聞こえる、女性の声。
……だが、そこにいたのは人間ではない。
『始まりの主の声を……受け入れなさい』
「コイツは……!!」
まるで天使のような巨大な羽を生やし、広場に降り立つ怪物の影がひとつ。
「あれは……サクリファイス!?」
「あの気配……そうと見て間違いないであろう」
まさかサラ達がこちらに気づき、けしかけたのだろうか。
サクリファイス──コヴェナント・ガーディアンはその刃のような大きな羽を広げ……こちらに襲い掛かる。
「ッ!!」
一行は四方に分散し、攻撃を避ける。
『全てを受け入れ……全てを捧げよ……!!』
「……っ! まーたスピリチュアルなお客様がおいでなさいましたね!」
「皆の者、用心せよ!」
ダイアリン達は戦闘態勢に入る。
(……こうなったら、出し惜しみはなしだ……!!)
ファイズはファイズブラスターを取り出し、コードを入力する。
[5・5・5][Standing by…]
そしてバックルからファイズフォンを取り出し──ファイズブラスターにセットした。
[Awakening]
その体は、瞬く間に赤い光に包まれる。
そしてファイズは……ブラスターフォームへと変身した。
[1・4・3][Blade Mode]
ファイズブラスターをフォトンブレイカーに変形させ、ファイズも戦闘態勢に入る。
『……聞きなさい。始まりの主の、その声を……!!』
まるで電話から出ているような声と共に、コヴェナント・ガーディアンは白銀の刃を構える。
そしていの一番に、ダイアリンへと襲い掛かった。
「!!」
「うおっと!? いきなりこっち来るんですかぁ!?」