ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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「真実」

 

 

 

 

 

(よし……! 思った通りだ……!!)

 

 

オルフェノクの力を使えば、陣のミアズマを消し去る事が出来る。

 

ファイズの予想通り、その試みは無謀なものではなかった。

 

ぶっつけ本番のフィーリングでしかないが、確かに効果を感じられる。

 

 

「……! 陣を取り巻く渦が、小さくなってる……?」

 

「まさか上手くいくとは……タクミくん! 体は大丈夫ですか!? 侵蝕はされなくても、体に多少の負担はあるはずですよ!」

 

「そりゃあるけど……全然許容範囲です……!!」

 

 

ファイズは手をかざしながら、一歩、また一歩と、陣の中へ着実に近づいていく。

 

 

「……!」

 

 

陣の中から、鋼鉄の音と咆哮が聞こえてくる。

 

きっと今も、寧謙を守る為にその身が朽ちるまで戦い続けているのだろう。

 

 

(そんな事……させるか……!!)

 

 

ダイアリンの言う通り、ミアズマによる侵蝕は受けなくとも、力を使う事によるエネルギーの消費は確かにある。

 

だが、ここで止まってはいられない。

 

 

『陣のミアズマエネルギーの密度が、さらに低下』

 

「タクミ……!」

 

「…………」

 

 

ミアズマの中に入れば入るほど、後ろからの声は小さくなっていく。

 

それでも、立ち止まる事はしない。

 

 

(もう少しだ……!!)

 

 

自分でも、ミアズマの勢いが弱まっている事が感覚で分かる。

 

膝をつきそうになりながらも、ファイズはその手を下ろさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

「!! ミアズマが……!」

 

 

陣を取り巻いていた分厚いミアズマの壁が消えていく。

 

ファイズはついに、ミアズマの壁を取り払う事に成功した。

 

 

 

 

 

「……!! おぬし……」

 

「盤岳先生! 寧謙さん!」

 

 

中から、二人の姿が現れる。

 

案の定、盤岳はすでにボロボロの状態となっている。

 

 

 

 

 

「……よし……」

 

 

完全にミアズマを消し去ったファイズは、脱力し膝をつく。

 

 

「グァァアアアアア!!」

 

「……!」

 

 

だがこれ幸いと、陣の中に残っていたエーテリアスが、動けないファイズに襲い掛かる。

 

エーテルの爪が、ファイズを切り裂こうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

「はあっ!!」

 

 

盤岳が間に割って入り、その剛腕でエーテリアスを吹き飛ばした。

 

 

「タクミくん、お手柄ですよ! あとはあたし達に任せてください!」

 

「アナタは、ゆっくり休んでて!」

 

 

瞬光とダイアリンも盤岳に加勢。

 

十数体のエーテリアスを殲滅しに向かう。

 

 

「タクミ!」

 

「姉ちゃん……」

 

 

リンが立てないでいたファイズを支え、一緒に立ち上がる。

 

 

「大丈夫? 体は何ともない?」

 

「侵蝕なら大丈夫だ……けど、さすがに疲れたな……」

 

『ゆっくり休むといい。後は瞬光たちに任せておこう』

 

「そうだな……」

 

 

まるでフルマラソンを最後まで走り切ったかのような疲労感だ。

 

フルマラソンは走った事はないが。

 

 

 

「瞬光、ダイアリン殿……手出しは、無用……!」

 

「アホ抜かさないでください! あんた、自分が今間抜けな事してるって自覚ありますか!?」

 

 

エーテリアスを吹き飛ばしながら、ダイアリンは盤岳に訴えかける。

 

 

「己の身を犠牲にして罪を償う? 違う、あんたはただ敵の策に嵌って死に急いでるだけです! 普段の『盤岳先生』なら、そんな選択はしません。そうでしょう!」

 

「……」

 

 

彼女の言葉に、押し黙る盤岳。

 

そんな時、背後からまたしてもエーテリアスが襲い掛かる。

 

 

「我輩の罪は……かつての過ちは」

 

 

 

盤岳のボディが全てを焼き尽くすほどの熱を帯びる。

 

顔のパーツは変形し、まさしく『阿修羅』が如き様相となり──

 

 

「ハアアアアッ!!」

 

 

四本の腕とともに、圧倒的な力で敵を殲滅する。

 

満身創痍にも関わらず、その力はとどまる事を知らなかった。

 

 

 

 

そして、全てのエーテリアスを打ち倒した盤岳。

 

 

「…………」

 

「……師範」

 

 

盤岳は寧謙を一瞥した後、ダイアリンの方を向く。

 

彼は逃げる事はせず、そのまま座り込んだ。

 

 

胸部のパーツが開き、コアが露出する。

 

 

「……ダイアリン殿」

 

「!」

 

「我輩のコアだ。必要なものであると言うならば、持ってゆくがいい」

 

「……そうですね」

 

 

ダイアリンは盤岳のもとにゆっくりと歩み寄る。

 

 

「それもいいですが──」

 

 

そして彼のすぐ近くまで来た後、立ち止まる。

 

ダイアリンは手を伸ばすが、その先はコアではなく。

 

 

「自分の行き先を決めるのは、『真実』を聞いてからでも……遅くはないと思いますよ」

 

 

彼女がいつも携帯している、固定電話の受話器。

 

 

亡者の『真実』を聞き、生者の『嘘』を暴くのが彼女のやり方だったが……

 

 

「……それは」

 

「あんたが、かつて見殺しにしたという亡者の声です」

 

 

今回ばかりは、亡者の言葉で、生者に『真実』を示すやり方を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盤岳を呑み込んでいた、怨嗟の声。

 

それは確かに、少なからず存在していたものだったのだろう。

 

だが……それとは別に。

 

 

『……良かった。アイツ、遊びに行っていたんだね。大男さん……悪いんだけど、あのバカ弟を探しに行ってくれない?』

 

「この声は……姉ちゃん?」

 

 

受話器から聞こえてきたのは、寧謙の姉の声。

 

それは恨みや怒りがこもったものではなかった。

 

 

『あの子は頑固で融通が利かないとこがあるけど……あんたがいれば、きっと素敵な未来にたどり着ける。どうか私の代わりに……お願い』

 

「…………!」

 

 

そして今度は、別の声が聞こえてくる。

 

 

『もっと早く、あの術法を使っていればかったな……そうしたら、また一緒に暮らせたのかもしれない……』

 

『お願い、盤岳さん……! 瞬光と釈淵を連れて、どこか遠い所へ……!』

 

「!! お父さん、お母さん……!」

 

 

瞬光の両親の声。

 

自身の命が失われる直前でも、彼らの願いは自身の子供が生き延び、幸せに暮らすこと……ただそれだけだった。

 

 

『どうかあの子たちに、寂しい思いをさせないでやってください……』

 

『あの子たちが生きてさえいてくれれば……』

 

 

『大男さん……ありがとう。あの子を、よろしく頼むよ』

 

 

『盤岳さん、ありがとう……これでもう、心残りはない』

 

『もしあの子たちが戻ってくることがあったら、伝えてあげて……私たちは、笑顔で見送っていたと言うことを』

 

 

 

 

盤岳に向けて放たれた、最期の声。

 

それは……怨嗟ではなく、感謝の声だった。

 

ファイズはかつてダイアリンが言っていたことを思い出す。

 

 

 

(ダイアリンさんが聞いた『感謝の声』……あれは、盤岳先生に向けてのものだったのか)

 

 

瞬光は両親の声を聞き、多少の未練と決意のこもった表情で、空を見上げる。

 

 

「お父さん、お母さん……ワタシの決心、分かってくれるよね」

 

 

姉の声を聞いた寧謙の眼から、ボロボロと涙が零れ落ちる。

 

 

「くっ……うう……! 姉ちゃん……どうして……!! ただ恨むだけだったら、楽だったのに……!」

 

 

「…………」

 

「どうですか、盤岳先生。今聞こえたのは、あんたのせいで消えた声……そして、あんたのおかげで存在できてる声です。これが、『真実の重み』ってやつです」

 

「……我輩は」

 

「大勢の人がミアズマに呑まれたあの日……あんたのアルゴリズムは、生き残れる人はごくわずかだと判断しました。見殺しにしたのではなく、助かる人だけを全員助けた……と言う訳ですね」

 

 

瞬光や釈淵、そして寧謙。

 

未来に向けて、彼女たちの家族は……彼らの命を盤岳に託した。

 

 

確かにかつての盤岳は、コアの合理的な指令に従うだけの冷徹な兵器だったのかもしれない。

 

だが盤岳は今日この日、『危険を顧みず命を助ける』という、自らの意思でここへと来た。

 

 

「あんたはもう、アルゴリズムに従うだけの兵器じゃないってことですよ。そりゃ確かに、過去も罪も消える事はありません。けど、彼らの『約束』だって消えた訳じゃないでしょう?」

 

「……」

 

「罪を償いたいってんなら、あんたは生きるべきなんです。過去の行いを悔やみ、恨まれ、そして感謝されながら……そうやって、『約束』を果たせばいいんです。安っぽい自己犠牲じゃなくて、ね」

 

 

ダイアリンの言葉に、盤岳の『心』の枷が解かれていく。

 

呪いのような重圧が、消えてなくなっていく。

 

 

「てなわけで、以上が黒枝の裁決官としての『パージユニット・ゼロ』……あらため『盤岳』に対する最終的な裁定です」

 

 

その言葉は、盤岳に再び『歩むべき道』を示したのだった。

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