ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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魔の手

 

 

 

 

 

盤岳は寧謙と瞬光を見る。

 

もう助からなかった命とは言え、彼らの家族を見捨ててしまった自責の念は、今も盤岳の心の中に根強く残っている。

 

どのように非難されようとも、受け入れるつもりだった。

 

 

「……寧謙、瞬光。我輩は──」

 

「ううん、いいの。実はね、ワタシ……あの時の事、もう思い出したの。盤岳先生が、ワタシとお兄ちゃんを助けてくれた、あの日の事」

 

「……! それは真か」

 

「うん。だから少なくともワタシの中には、感謝こそすれど、恨む気持ちなんてこれっぽっちもないわ。ワタシの両親も同じ気持ちだって事も、ダイアリンのおかげで今分かったし」

 

「…………」

 

「もし、助けられなかった事を悔やむ気持ちが消えないなら……助けらなかった分以上に、色々な人を助けていきましょ。過去は変えられないけど、未来なら自分で決められるから」

 

 

きっとそれは、贖罪にもなり、自分自身の未来への道ともなるだろう。

 

瞬光の言葉に、盤岳は何も言わずに頷いた。

 

 

「し、師範……!」

 

「! 寧謙……」

 

「僕、今まで間違っていました……! あなたは姉ちゃんを、見殺しにしていたわけじゃなかった……見当違いの恨みを、ぶつけてしまっていた……」

 

「……我輩をホロウの奥で見つけ、鉱区へと連れてきたのは……他でもない、おぬしの姉君だ。その恩人を救う事の出来なかった悔い、そして彼女との約束は……一刻たりとも忘れた事はない」

 

 

盤岳は瞬光と釈淵を救出したあと、すぐに寧謙を探しに行ったが……その時は見つかる事はなかった。

 

しかし数年後……盤岳が営む道場に、彼が現れた。

 

 

「眼を見て、すぐに彼女の弟だと分かった。おぬしが我輩に強い恨みを抱いておったことも……すべて知っていた」

 

「……知っていらしたのに、そんな僕を道場に迎え入れてくれただけでなく、何一つ惜しむことなくご指導を……?」

 

 

寧謙の中の彼に対する恨みはとうに消え、今度は彼らへの罪悪感が募っていく。

 

そして耐え切れなくなった寧謙は、吐き出すように懺悔する。

 

 

「皆さん、申し訳ない……! 僕が、讃頌会のサラと組み……盤岳先生に陣法を起動するよう仕向けたんです……陣法はミアズマを吸収するものだと聞いたから、人々は救えるし、僕も復讐を果たせるから、一石二鳥だと思っていたんだ」

 

「やはり寧謙さんはサラに、まんまと利用されてしまったわけですね……ミアズマに関しては、さっきタクミくんが八割くらいは消してくれましたが……」

 

 

完全に消し去る、と言う訳にはいかなかった。

 

残りのミアズマは、ファイズの手が届く前に『陣』に吸収されてしまったようだ。

 

 

「皆さん、本当にありがとう。僕の誤解のせいで、いらない手間をかけさせてしまった」

 

「我輩からも礼を言おう。皆が命を賭し救いに来た事……決して忘れはせぬ」

 

「気にしないで。二人の命が助かったんなら何より……って、あれ?」

 

「? どうしたの?」

 

「上に飛んでる黒いの……あれ青溟鳥じゃない?」

 

「え?」

 

 

リンが指を差す先。

 

ホロウの空を、小さい青溟鳥がパタパタとどこかへ飛んでいくのが見える。

 

よく見てみると、青溟鳥の体にミアズマの跡のようなものが付着している。

 

 

「! あ、あれは……間違いない、釈淵先生が言っていた『黒い鳥』だ……! あんなところにいたのか!」

 

「え、お兄ちゃんが? 寧謙さん、あの鳥がどうかしたの?」

 

「実は一昨日、密かに釈淵先生に会ったんだ。その時の彼は、まだ僕が彼女と組んでいる事を知らなかったのか、僕にとある頼み事をした」

 

 

 

『盤岳師範の弟子なら、"黒い鳥"を探せ』

 

 

 

「……その黒い鳥が、さっきの青溟鳥って事は、師匠は釈淵さんと連絡を取ってたって事? 伝書鳩みたいに……」

 

「? それだとなんかおかしくないですか? そのお二人の連絡が交わされたのが一昨日の事なら、どうして今になって青溟鳥が飛んでったんですか?」

 

「……いや、ちょっと待て。さっきの青溟鳥、体にミアズマの跡が着いてた……まさかさっきまで、ミアズマに囚われてたんじゃ?」

 

「つまり、ミアズマに囚われてたから青溟鳥は釈淵さんの元に行けなくて……それを不自然に思った釈淵さんが、寧謙さんに捜索を頼んだって事?」

 

「それなら辻褄は合いそうですけど……じゃあ青溟鳥はどうやってミアズマから脱出したんでしょうか?」

 

 

自力で脱出したのか、もしくはどこかの誰かに助けられたのか。

 

いずれにせよ、重要な問題がある。

 

 

それは『青溟鳥がミアズマに囚われていた』と言う事だ。

 

基本青溟鳥の力では、ミアズマを脱出することくらい訳無い。

 

しかし先程の青溟鳥を見るに、仮にミアズマに囚われていたと仮定するなら、その脱出には相当な時間を要したことが伺える。

 

 

「師匠の青溟鳥を動けなくしちゃうほどのミアズマ……それができるのは──」

 

「始まりの主、でしょうね。となるともう釈淵さんはサラに、儀玄先生とこっそり連絡を取ってたのがもうバレてるかもしれません」

 

「……瞬光、寧謙。この地は危険だ。おぬしらの状態を鑑みれば、ここは即刻退くのが吉であろう。適当観に戻り、儀玄の支援を待つべきだ」

 

「そうですね……ここから先は、僕は足手まといになってしまいますし……儀玄宗主が見えたら、すぐに状況を伝えておきます」

 

 

盤岳は寧謙の言葉に頷いた後、ファイズの方を向く。

 

 

「おぬしもだ、タクミ。無傷ではあれど、体力の消耗はかなりのものであろう。決して無理はするでない」

 

「…………」

 

「……む? 如何したか。何か申すことでも……」

 

「タクミくんは『人の事言える立場じゃないだろ』ってツッコみたいんですよ」

 

「そんな失礼な感じじゃないですけど」

 

「『ボロボロの鉄くず風情が、てめぇの体見てから言えってんだ!』って言いたいんですよ」

 

「そこまで言おうとしてねぇよ! どんだけ礼儀知らずだ俺は!」

 

 

だが、言いたい事は合っている。ニュアンスはともかく。

 

と言うのもダイアリンの言う通り、盤岳が一番ボロボロだからだ。

 

 

「その損傷具合じゃ、いくら盤岳先生でも本当に鉄くずになっちゃいますよ」

 

「むう……しかし」

 

「盤岳先生……ここは、ワタシに任せて!」

 

「!」

 

 

瞬光は強い意志を込めた眼差しで、盤岳を見る。

 

青溟剣が収めてある剣棺が淡い光を放ち、微かに震えている。

 

 

「ここに来る前、タクミと話したの。もう、誰かの後ろで守られ続けることはしないって。大切な人がホロウで危険な目に遭っているのを、見過ごしたりなんかしない!」

 

「……瞬光。おぬしは……」

 

「ここは瞬光ちゃんの意思を尊重してあげましょうよ。だいいち、実の兄が生きてるかも分からない状況で待てって言うのは……あまりに酷じゃないですか?」

 

「ダイアリンさんの言う通りです、盤岳先生。瞬姐さんだって強い。きっと、釈淵さんを助けられるはずです」

 

「…………」

 

 

盤岳はしばし俯く。

 

十年前のあの日から、長年面倒を見てきた大切な教え子。

 

 

 

……やがて、顔を上げる。

 

 

「……よかろう。ならば、我輩も止めはせぬ。だが、心して先へ進むのだ」

 

「ありがとう、盤岳先生。タクミは、適当観で待ってて? お兄ちゃんと一緒に、絶対に帰って来るから」

 

「分かってるよ。皆気をつけてな」

 

 

さすがに今の状態で同行すれば、足を引っ張ってしまうだろう。

 

ここは皆を信じ、朗報を待つことに──

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

その瞬間だった。

 

ファイズは仮面の中で血相を変える。

 

躊躇なくフォンブラスターの銃口を()()へと向け、引き金を引いた。

 

 

「……!? た、タクミ……?」

 

「…………」

 

 

フォンブラスターの銃口の先。

 

高台の影から、一人の女性が姿を現した。

 

 

その姿を目にした一行は、一斉にに警戒をあらわにした。

 

 

「あらあら……オルフェノクになって、さらに嗅覚が増したようね」

 

「……!」

 

「……おや、どなたかと思えば……自称『元対ホロウ行動部所属』の、サラ・フローレンさんじゃないですか」

 

「へえ……私の事を調べたの?」

 

「ご自身は痕跡を消したと思い込んでるみたいですが、データベースにはバッチリ名前が載ってましたよ」

 

 

サラ・フローレン。

 

どうやら黒枝のほうで、彼女の身元は調査済みだったらしい。

 

 

「今更調べたところで、どうにもならないわ。あなた達の手を借り、そこにいる機械仕掛けの獅子を主にささげようと思っていたのだけど……どうやら上手くはいかなかったみたいね」

 

「……なんのために」

 

「莫大なエーテルエネルギーを使い、主がミアズマを浄化するのに消耗された力を補うためよ。妨害はあれど、この場所の浄化はほとんど完了したわ」

 

 

相変わらず意図の読めない笑みを浮かべるサラ。

 

 

「サラ! お兄ちゃんはどこに行ったの!?」

 

「ふふ、その姿……まさに彼の悪夢に出てきた通りね。真っ白、天真爛漫、そして無知……」

 

「誤魔化さないで! どこにいるのか教えなさい!」

 

「そんなに慌てなくても、きっとすぐに再会できるわ……主が思い描く、理想の世界で……ね」

 

「……!」

 

「もうその時は近い。この世界にあの方を降臨させるための門……それを開くのは、私ただ一人……!」

 

 

サラは天を仰ぎ、両腕を広げる。

 

 

「すべてが終わり、すべてが始まる……! 私の悲願も、達成される……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だめだよ?」

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

「…………っ?」

 

 

突如響き渡る、肉をえぐるような鈍い音。

 

 

「……え?」

 

「な……」

 

 

今起きた出来事に、瞬光たちはもちろん。

 

 

当のサラでさえも、理解が及ばなかった。

 

 

 

「…………こ、れは……」

 

 

サラは下を見る。

 

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