ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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ホッパーオルフェノク

 

 

 

 

 

 

「……あな、たは……」

 

 

サラの腹部を貫く、血に染まった腕。

 

彼女は血を吐きながら、ゆっくりと後ろを見る。

 

 

「ダメじゃんか、サラさん。抜け駆けするなんてひどいよ?」

 

 

そこには、満面の笑みを浮かべた「タクミ」がいた。

 

 

「あれが……もう一人のタクミくんですか」

 

「な、なんで……!? サラとアイツは、仲間だったんじゃ……」

 

「…………」

 

 

突然の事態に全員が戸惑う中、ファイズはフォンブラスターを下ろす事はなかった。

 

その銃口は、最初から彼に向けられていた。

 

 

「……なぜ……気配も、なく……」

 

「大丈夫だよサラさん。始まりの主にはちゃんと会えるよ。ただその前に、ちょーっと手伝って欲しい事があるだけだから……ねっ!」

 

「く……っ! う……」

 

 

「タクミ」は言葉と同時に腕を、勢いよく引き抜く。

 

腹部を貫かれたサラはそのまま地面に崩れ落ち、やがて動かなくなった。

 

 

「……お前、何のつもりだ」

 

「あ、仲間割れしたと思った? 違うよ、ちょっと至急手伝って欲しい事ができただけだから。それに……」

 

 

口角を上げ、醜悪な笑みを浮かべる。

 

 

「タクミ。そろそろ、君自身にも働いてもらおうと思って」

 

「……!!」

 

 

「タクミ」の言葉を聞いたダイアリンと瞬光は、ファイズを庇うように立つ。

 

 

「タクミくんの顔でそんな気持ち悪い顔しないでくれますか? ただでさえ、あんたから聞こえてくる『声』でこっちはノイローゼになりそうなんですから」

 

「声? ……ああ、そっちの裁決官さんは『亡者の声』が聞こえるんだっけ? てことは僕の場合は、僕が今まで殺した人たちの声が聞こえるわけだ」

 

「…………っ」

 

 

ダイアリンは心底不快な顔をする。

 

そのリアクションを見るに、その『声』の数は今までの比ではないようだ。

 

 

「タクミ……あいつはワタシ達が相手するから、アナタは逃げて!」

 

「瞬姐さん……でも」

 

「ワタシなら大丈夫……だから任せて」

 

「無駄だよ、葉瞬光」

 

「!」

 

「そいつは僕から逃げることはできない。ホロウの外に出たとしてもね。本人もそれは分かってるはずさ」

 

「…………」

 

 

タクミはその言葉を否定はせず、沈黙を貫く。

 

彼の言葉は正しい。だからこそ、ファイズはホロウから出ようとは考えなかった。

 

 

「むしろ、ホロウの外なんかに出ちゃったら……今度は罪のない一般人が被害を被るかもしれないよ?」

 

「そんな嘘に、乗せられるもんですか!」

 

「……いや、瞬姐さん……あいつの言う事は正しい」

 

「!? ……えっ……?」

 

「認めたくはねえが、あの野郎の言う通りだ。俺とあいつは同じ……だから、逃げることはできない」

 

 

今まで、時折感じていた謎の視線。

 

「タクミ」はずっと、タクミを『視て』いたのだ。

 

 

物理的に距離を取る程度では、逃れることはできない。

 

 

「…………」

 

 

ファイズは、ファイズフォンを取り出すと……通話終了ボタンを押す。

 

ファイズは赤い光に包まれ、変身を解除した。

 

元の姿に戻ったタクミはそのまま着けていたベルトを取り外し、リンに渡す。

 

 

「姉ちゃん、これ……取られないように持っててくれ。失くすなよ」

 

「! タクミ、何を……!」

 

「……あいつから逃げることはできない。けどな、俺は逃げるつもりなんてない。それに──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がすつもりだってねえんだよ」

 

 

 

 

瞬間、タクミの顔に浮かび上がる模様。

 

 

「……!!」

 

 

タクミの体が白い光に包まれる。

 

 

「……変身」

 

 

身体は変化し、見慣れた胴着姿は形を変え──

 

 

「タクミ……!」

 

「……ハハ」

 

 

()()姿()を見た「タクミ」は、再び笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで、このホロウで……俺はお前を潰す」

 

 

緑色の複眼、赤いスカーフ。

 

タクミはホッパーオルフェノクへと『変身』した。

 

 

「フッ!!」

 

「!!」

 

 

有無すら言わさず、そして一切の躊躇なく。

 

ホッパーオルフェノクは「タクミ」のいる場所へ跳躍し、そのまま彼を蹴り飛ばした。

 

 

「タクミ!!」

 

 

飛んでいく寸前、後ろからリンの声が聞こえたが、最早構う事もない。

 

吹き飛んでいく「タクミ」にホッパーオルフェノクは脚力だけで追いつき、怒涛の追撃を加えていく。

 

 

攻撃を加えられている最中でも、「タクミ」は笑みを崩さない。

 

 

「ハハハハハ!! いいよ、すごくいい! その力、その殺意!! 今のお前、化け物そのものだよ!!」

 

「……ッ!!」

 

 

蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。

 

ファイズ以上の威力を誇るその蹴りを、一切の手加減なく、全力で「タクミ」へ叩き込む。

 

 

「オラアッ!!」

 

 

怒りを込めた咆哮と共に、ホッパーオルフェノクは「タクミ」を壁へと蹴り飛ばした。

 

 

「…………」

 

 

これほどまでの攻撃、常人ならばまず命はない。

 

だが……

 

 

「ほんっと強くなったねえ。レベルが前と段違いだ」

 

 

それでも「タクミ」には、軽傷以下だった。

 

 

「今のレベルなら、僕の片割れとしてもやってけるんじゃなかいかな?」

 

「片割れは地獄で探せ」

 

 

ホッパーオルフェノクは明確な殺意を持ち、「タクミ」の元へ歩いていく。

 

 

 

この男だけは、殺さなければならない。

 

再び対峙した時に頭に浮かんだのは、最早それしかなかった。

 

まるで、そう()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「…………」

 

 

叩きつけられ、壁に寄りかかったまま動かない「タクミ」に、ホッパーオルフェノクはとどめを刺すべく、脚部に力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもさ」

 

 

しかしそれでも。

 

 

「今の君なら……もっと強くなれるはずだよ?」

 

「……!」

 

 

すべては、彼の想定通りだった。

 

 

倒れた状態から、まるでだるまのように体を起こした「タクミ」。

 

 

「『陣』を使って吸収したミアズマがあれば、パワーアップができる。きっとね」

 

「……そのミアズマなら、悪いが俺がほとんど消した」

 

「消した? 本当にそう思ってるの?」

 

 

まるで先程の攻撃などなかったかのように、「タクミ」は何事もなく歩き出す。

 

 

「……確かに、君は陣に吸収されるはずだったミアズマをその場から消した。でも、正確に言えばそれは違うんだ」

 

「……?」

 

「君は……ミアズマを消したんじゃない。吸収したんだ」

 

「……何を」

 

「ミアズマは……エーテルは、この世界のオルフェノクの力の源と言ってもいい。今まで器として空っぽだった君は、その力の源を取り込んだんだ」

 

 

自分では消したと思い込んでいても、無意識にそのミアズマを体内に吸収する事を選んだ。

 

 

「…………」

 

「信じられない、って顔をしてるね。なら、せっかくだし証明してあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からね」

 

 

 

 

「…………ッ!!」

 

 

「タクミ」が手をかざした、その瞬間。

 

ホッパーオルフェノクの体内から、()()()()()()()エネルギーが湧き出してきた。

 

めまいを起こすほどの、強大なパワー。

 

 

「これで、分かった? 君が感じている力……それ全部君がさっき吸収したミアズマなんだよ?」

 

「…………こ、れ……は……」

 

「あ~でも、ちょっと吸収しすぎちゃったみたいだね。()()()だと、扱いきれないかも」

 

「……が……あ……」

 

「でもいい機会だね。これで、力の扱い方でも学んできたら? ほら、サンドバッグも来たみたいだしさ」

 

「!!」

 

 

「タクミ」が指を差す方向。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!! タクミ!!」

 

 

ホッパーオルフェノクを追っていたリン達がこの場に現れた。

 

現れてしまった。

 

 

「…………ア」

 

「……タクミ! 力に呑み込まれてはならぬ!!」

 

 

盤岳がそう叫び、彼に呼びかけるが……遅かった。

 

 

「ッ!!」

 

 

ホッパーオルフェノクと「タクミ」の周りに、巨大なミアズマの渦が出現。

 

その渦に呑まれ、二人の姿は見えなくなる。

 

 

「タクミ! タクミ!!」

 

「リンさん、近づいちゃダメです!!」

 

「……!!」

 

 

名を叫び、必死に呼びかける。

 

だが、返事は返ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なミアズマの渦の中。

 

 

意識が、理性が力に呑み込まれていくホッパーオルフェノクに、「タクミ」は静かに語りかける。

 

 

「あ……そうだ。僕これから、ちょっとした大仕事をしなきゃいけないんだよね」

 

 

「タクミ」はホッパーオルフェノクの体に触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の身体じゃ、ちょっと骨が折れるから……少しの間、君の体を『何割』か借りるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

リン達はミアズマの渦をどうにかして消そうと、苦心していた。

 

 

瞬光は渦に呑まれたタクミを助けるため、覚悟を決める。

 

 

「もうこうなったら……使うしかない……!!」

 

「! おぬし、まさか……早まるな!」

 

 

剣棺に手をかける瞬光。

 

青溟剣の()()()が解放されようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォオオオン!!

 

 

「!!」

 

 

響く轟音と共に、ミアズマの渦が()()()()消し飛ばされた。

 

 

「…………え?」

 

 

消し飛ばされたミアズマの中から、何かが姿を現す。

 

 

 

 

 

「…………嘘、だよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………タクミ?」

 

 

そこにいたのは、タクミではなかった。

 

 

 

 

「グォオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

中から現れたのは、灰色の体をした巨大なバッタ。

 

 

 

 

ホッパーオルフェノク、その激情態だった。

 

 

 

 

その場にいた、全員の思考が停止する。

 

 

『マスター、前方のオルフェノクから過去最高のエーテル濃度を検知。直ちにその場から避難する事をお勧めいたします』

 

「……できるわけ、ないでしょ……! タクミを、助けないと……」

 

「リン殿、ここは退くのだ。ここは我輩たちに任せておけ」

 

「…………!」

 

 

死んだわけではない。

 

どうにかして、助け出せる方法があるはずだ。

 

 

「…………タク、ミ」

 

 

「ガァァァアアアアッ!!」

 

 

「っ、やばい、来ますよ!!」

 

 

咆哮とともに、ホッパーオルフェノクは襲い掛かる。

 

その狙いは……瞬光だった。

 

 

「瞬光ちゃん! 避けてください!」

 

「……ワタシ」

 

 

 

 

記憶の中の、彼の顔がよぎる度、その手は震えを増していく。

 

 

これから、戦わなければならないのか。

 

タクミを、傷つけなければならないのか。

 

 

突如突きつけられた、あまりに残酷な『選択』。

 

 

 

「…………そんなの」

 

 

牙をむくホッパーオルフェノクを眼前に。

 

 

「……でき、ないわよ」

 

 

彼女は、動き出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

「フッ!!」

 

 

瞬光の前に、何者かが割って入った。

 

 

「……え?」

 

 

その人物は、手に持った剣でホッパーオルフェノクの突進を弾き飛ばす。

 

 

瞬光は、その背中を見て目を見開いた。

 

 

「……この場にいる全員、戦う必要などありません。無論、あなたもです……タクミくん」

 

 

 

黒い髪。黒い装束。

 

見慣れない姿ではあったが、瞬光は彼が誰か一目でわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄……ちゃん?」

 

 

その人物は、釈淵本人だった。

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