ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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暴走

 

 

 

 

 

ずっと捜していた実の兄と、思いがけぬところで再会した瞬光。

 

だが彼はいつもの見慣れた姿ではなく、黒い髪に黒い装束。

 

眼鏡もなく、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 

 

「お、お兄ちゃん! 今まで、どこに……!? それにその格好──」

 

「然る時が来たら、すべて教えよう。それより今は──」

 

 

「グォオオオアアアア!!」

 

 

釈淵に向け、耳をつんざくような咆哮を放つ、激情態ホッパーオルフェノク。

 

その姿はまさにバッタそのものであり、人の形をすでに失っている。

 

 

「──彼をどうにかするのが先決だ」

 

「……っ、うん」

 

「釈淵さん! 『戦う必要はない』って、どういう事? タクミを元に戻す方法があるって事?」

 

「ええ。それは考えうる方法のなかで、一番安全かつ、穏便に済ませられるもの──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『陣法』を起動し、彼の中にあるミアズマを吸収するんです」

 

「……!!」

 

 

釈淵は襲い掛かるホッパーオルフェノクの攻撃をいなしながら、説明をする。

 

 

「今のタクミくんは、膨大なエーテルエネルギーを体内に吸収し、暴走をしてしまっている状況です」

 

『……! そのエーテルエネルギーを封じ込めれば、タクミを元に戻せるんだね?』

 

『はい。今から『陣』がある場所に戻ります。お弟子さんはお手数ですが、その場所まで最短ルートで案内をお願いします』

 

『分かった……って、ちょっと待ってくれ! もしや釈淵さん……』

 

「そうです。僕が彼を陣のもとまで誘い込み……そのまま陣法を起動します」

 

 

盤岳にはもうミアズマを封じ込めるだけのエネルギーは残っていない。

 

現時点で『鍵』にうってつけなのは、釈淵しかいないだろう。

 

 

「ちょっと待ってください釈淵さん! それって生贄になるって事ですよ!」

 

「ご安心を。僕は『生贄』になるつもりはありません」

 

「……お兄ちゃん」

 

「大丈夫だ、瞬光。僕にはまだやる事がある……ここで死ぬつもりはない」

 

「……っ」

 

 

「グァァアアアアア!!」

 

 

「……ゆっくりはしていられません。お弟子さん、お願いします」

 

『……! 分かった!』

 

 

釈淵はイアス姿のアキラを担ぎ、ホッパーオルフェノクに向け、手招きをする。

 

それを見たホッパーオルフェノクは、まるで闘牛のように釈淵に向かって突進する。

 

 

『釈淵さん! この先五十メートル先に、陣がある場所に通じる裂け目がある!』

 

「心得ました!」

 

 

ホッパーオルフェノクから逃げながら、釈淵はそのままイアスとともに走り去っていった。

 

 

「怒涛の急展開ですね……まさかここで彼が来るとは」

 

「我輩らも後を追おう! リン殿、頼んだ!」

 

「うん……!」

 

 

残された一行も、彼らを追うべく先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫を飛び越え、釈淵は駆け抜けていく。

 

行く先に立ちはだかるエーテリアスを瞬殺し、陣の元まで急ぐ。

 

 

ホッパーオルフェノクも障害物を軽々と越え、崖を飛び移りながら釈淵を追いかける。

 

 

『……! ここだ釈淵さん! 陣がある場所に到着した!』

 

「分かりました……ここからは僕に任せてください。お弟子さんは安全な場所へ」

 

 

抱えていたイアスを降ろし、釈淵は追いかけてくるホッパーオルフェノクの方に向き直る。

 

 

 

(……やはり感じる。彼の中から、ミアズマとは別に恐ろしい力が蠢いているのを……これは、まさしく……)

 

 

 

釈淵は構えを取り、陣の起動の準備を整える。

 

そしてホッパーオルフェノクがその陣に入って来た、その瞬間──

 

 

「起っ!!」

 

 

 

釈淵は、陣を起動させた。

 

 

地面の紋様が輝き──

 

 

「グゥ……ウ……!!」

 

『釈淵さん!』

 

「……!」

 

 

ホッパーオルフェノクの体から、大量のミアズマが飛び出す。

 

動きを止めたかと思ったが……最後のあがきにと、ホッパーオルフェノクは牙を剥き、爪を振りかざし暴れまわる。

 

 

 

「……!! あそこ……」

 

「釈淵さん、陣を起動させて……」

 

 

追いついた瞬光たちは、再び巻き起こるミアズマの渦を目にする。

 

今出来る事は何もない。

 

 

「お兄ちゃん……タクミ……」

 

 

ただ、釈淵とタクミの無事を祈るばかりだった。

 

 

 

 

「グウウウ……アアアア!!」

 

 

まるでもがき苦しむかのように暴れまわるホッパーオルフェノク。

 

最早湧き出るエーテリアスなど脅威にもならない。

 

 

エーテリアスを蹴散らすホッパーオルフェノクを前に、釈淵は攻撃をできるだけ防ぎながら、陣でミアズマを吸収していった。

 

 

「グウウウ……ウウ……!!」

 

 

 

そしてその効果は、如実に表れ始めた。

 

非常に強い濃度のミアズマが、陣の中に吸収され……暴れていたホッパーオルフェノクも、徐々に動きを鈍らせていく。

 

 

「ガアアア……!!」

 

 

釈淵はだめ押しに、陣に最後のエネルギーをつぎ込んだ。

 

ホッパーオルフェノクの体が白く光りだし、恐ろしい巨大な体は徐々に小さくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

「!!」

 

 

ミアズマの渦が晴れ……それと同時に、ホッパーオルフェノクが人型へと戻った。

 

 

「タクミ!!」

 

 

それを見たリン達は、彼の元へと駆け寄る。

 

 

「グゥ……ウ……アア……!」

 

 

人型にこそ戻ったが、ホッパーオルフェノクはふらふらと足取りがおぼつかず、苦しそうにうなっていた。

 

 

「タクミ……! しっかりして!」

 

 

瞬光が倒れそうになるホッパーオルフェノクの体を支える。

 

 

「グ……ウ……」

 

 

先程のようなどう猛さはもう残っていないが、それでも彼は正気を取り戻したわけではない。

 

 

「…………」

 

 

リン達が見守るなか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣棺が、白く光りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世のどこでもない、暗い海の中。

 

 

「…………」

 

 

タクミは手も足も動かす事が出来ず、ただ沈んでいく。

 

徐々に遠ざかる水面を見つめる。

 

 

タクミに出来るのは、ただ底に沈むことを受け入れる事のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時。

 

 

「……?」

 

 

彼が呆然と見つめていた水面から、誰かが姿を現した。

 

 

その人影は、徐々にこちらへと向かっていく。

 

 

そして姿が見えたその人影は、タクミにとって『知らない』とは言えないもの。

 

 

 

 

「……瞬姐さん」

 

 

タクミは彼女の名を呟くが、どうもおかしい所がある。

 

 

彼女の顔、背丈、服装……それらはいつもの瞬光と変わりはなかった。

 

だが一つだけ。

 

いつもとは大きく違うところがあった。

 

 

 

 

 

(……髪が、白い……? なんだ……?)

 

 

栗毛だった彼女の髪は真っ白になっており、片方の横髪は赤色になっている。

 

いつもの瞬光ではない。

 

一体誰なのかと考えているうちに、その白い瞬光はタクミの目の前まで近づいてきた。

 

 

 

「…………」

 

 

彼女は沈んでいくタクミの手を取り──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふ♪」

 

 

彼女らしからぬ、妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! タクミ!」

 

 

同時刻。

 

もがき苦しんでいたホッパーオルフェノクの体がやがて完全に動きが止まった、その直後。

 

変化が起きた。

 

 

再び彼の体が白く輝きだす。

 

 

「これは……!」

 

 

やがてその光は鳴りを潜め───いつもの見慣れた姿が現れた。

 

 

「た、タクミ……!! 良かっ──え?」

 

「えっ……え?」

 

「なんと……これは……」

 

 

しかし元に戻ったタクミの姿を見て。

 

リンや盤岳、ダイアリンはもちろん。

 

タクミを支えていた瞬光も、驚きを隠せなかった。

 

 

「…………」

 

 

当のタクミは……瞬光の腕の中で呑気に寝息を立て、眠っている。

 

この様子を見るに、タクミは確かに元に戻ったのだろう。

 

傷一つついておらず、侵蝕の跡もない。

 

 

だが、以前と違いタクミの体には『無視できない変化』が起こっていた。

 

その『変化』に瞬光は狼狽える。

 

 

「……り、リン、アキラ! わ、ワタシ……どうすればいい!? まさかタクミが、こんな……!」

 

「お、落ち着いて瞬光! とにかく今は、一刻も早く適当観に戻ろ? 釈淵さんも一緒に……ってあれ?」

 

 

リン達は周りを見渡す。

 

 

「お兄ちゃん……?」

 

 

先ほどまでいたが、見当たらない。

 

釈淵はいつの間にか、どこかへと姿を消してしまっていた。

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