ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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奴、再び

 

 

 

 

 

輝磁工芸品店、『奇々怪々』にて。

 

 

「ゆーずちゃーん! 遊びに来たよ~! ……ってあれ?」

 

「……ん?」

 

 

珍しく昼間に柚葉の元に遊びに来たリュシアは、そこで意外な顔を目撃した。

 

 

「タクミ? どうしてここに?」

 

「リュシアか。なんてことねーよ、ただの手伝いだ」

 

 

『奇々怪々』従業員専用のエプロンを身に着けているタクミ。

 

 

「たまにだけど、柚葉にはビデオ屋の手伝いをしてもらってるからな。だからそのお礼に、『奇々怪々』の方も手伝う事にしたんだよ」

 

 

と言っても、やる事はレジだったり店の掃除くらい。

 

売り込みに関しては全面的に柚葉がやっている。

 

 

「なるほどねえ……そう言えば、その柚ちゃんはどこ?」

 

「急用で今店にはいない。帰って来るまでの間、店番を任されたんだ」

 

 

その店番について、タクミは少し不安があった。

 

普段柚葉は工芸品を売るための手法として、その品に工芸品にまつわる『物語』を組み込んでいる。

 

 

それが柚葉なりに商品の魅力を伝えるやり方なのだが、タクミにも同じ事が出来るか怪しい。

 

今は客は来ていないが、もし来たらどうしようかと悩んでいたのだ。

 

 

「あ、それならあたしもお手伝いするよ! 売り込みなら任せて!」

 

「できるのか?」

 

「ふふん、なんてったってあたしは『夜魔の語り部』だからね! 柚ちゃんが普段やってるやり方なら、あたしも心得があるんだ~!」

 

 

確かに、リュシアに任せておけば自分がやるより幾分か安心かもしれない。

 

 

「じゃあ、よろしく頼んだ」

 

「おっけー、頼まれたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして柚葉から店番を任され、三十分が経ったが……まだ客が来る様子はない。

 

その間、タクミは店内を掃除をする事にした。

 

しかし、その掃除もすぐに終わるかもしれない。

 

 

(店の中、なんか普通にきれいだな……工芸品は埃一つ被ってないし)

 

 

普段から清潔さには気を遣っているのだろう。

 

売っている品の魅力を損なわない為には、必要な事だ。

 

 

(六分街のビデオ屋も、トワとレムがいるから掃除については安心しても──)

 

「ぎえーーーーっ!!」

 

「!?」

 

 

店の入り口の方から、リュシアの悲鳴が聞こえた。

 

緊急事態と受け取ったタクミは、掃除を中断しリュシアの元へ急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュシア、どうした! 何があっ──」

 

「うわああタクミ!! そっちに飛んでくるよ!!」

 

「えっ」

 

 

 

それは、一秒にも満たない間の出来事だった。

 

反射神経は良い方だった。だが、『奴』の襲来は予測できず、対応できなかった。

 

 

ブブブブと、鼓膜を震わす鈍い羽音。

 

 

それが『奴』のものであると脳が認識する前に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒く小さな影が、()()()()()()()()()()()()

 

 

「!!!」

 

「……?」

 

 

遅れて、自身の身に何が起きたのか、今顔に張りついたものが何なのかを理解し──

 

 

「───ア」

 

 

「タクミーーーッ!!」

 

 

静かに、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、衛非地区の生活用品店にて。

 

 

「あれ、柚葉。ここで会うなんて奇遇だね」

 

「あ、リンちゃん!」

 

 

タクミに店番を任せ、買い出しに来ていた柚葉は、同じく買い物に来ていたリンと会った。

 

リンは、柚葉が持っている買い物かごの中身を見る。

 

 

「それ、殺虫剤?」

 

「うん。切らしてたのを思い出したから、ついでに買っとこうかなって」

 

「やっぱ柚葉のお店にも出るんだ、アイツ……」

 

「まあここ一年は見てないけどね〜。でもいつ出るかは分かんないし、買っとくに越したことはないじゃん?」

 

「…………」

 

 

リンは柚葉の話を聞き、去年『Random Play』で起きた悲劇を思い出した。

 

 

「そう言えばリンちゃんってGは平気なの?」

 

「私もタクミも大の苦手だよ~……適当観に来てからは一度も見てないけど、もし出てきたらどうしよう……」

 

「…………」

 

「? 柚葉どうしたの、急にニヤニヤしだして……」

 

「あっううん、なんでもな~い……」

 

 

タクミへの『プレゼント』のために、買うものが一つ増えた柚葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はっ!!」

 

「あ、タクミ!」

 

 

Gの襲来から五分後。

 

気絶していたタクミは目を覚ました。

 

見下ろすリュシアの顔と店の天井が視界に映る。

 

 

どうやら気絶している間、リュシアが膝枕をしていたらしい。

 

 

「介抱してくれたのか、ありがとう……さっきは何が起きたんだ」

 

「アイツが現れたんだよ……黒くてすばしっこい、アイツが!」

 

「!!」

 

 

店内は綺麗だったので、出る事はないと思っていたが……やはり出る時は出るものだ。

 

久しぶりに出くわしてしまった。

 

 

「柚葉はまだ帰って来てないか……Gは今どこに……?」

 

「タクミが気絶した後、見失っちゃった……外には逃げてないと思うけど」

 

「そうか……ひとまず、殺虫剤を装備しとかないと」

 

「……その事なんだけどね、タクミ」

 

「?」

 

 

リュシアはタクミに、とある事実を告げる。

 

 

「──殺虫剤が、切れてる……!?」

 

「うん。見つけはしたんだけど、既に空だったんだ……やばい、どうしよう……!」

 

 

これでは仮にGが見つかっても対処しようがない。

 

前の時もそうだったが、こういう時にタクミは運に恵まれていない。

 

なぜこの肝心な時に殺虫剤が手元にないのか。

 

 

(どうする……? そうだ、こっから適当観はすぐ近くだ! 今から適当観に殺虫剤を取りに行けば……)

 

 

さすがに適当観の殺虫剤も切らしてました、などと言う事は起こらないはずだ。

 

 

「リュシア、今から適当観に戻って殺虫剤取ってくる。適当観にはあるはずだ」

 

「……ううん、その必要はないよ」

 

「え? なんで……」

 

「よくよく考えてみたら……店の中で殺虫剤を使うのは危険だと思うの。工芸品もいっぱいあるし、匂いがついちゃう」

 

「あ、確かに……」

 

 

Gの出現で、冷静さを失っていた。

 

だが、それならどうすればよいのだろうか。

 

 

「ここはあたしに任せて! あんなブラストスパイダーから可愛さを抜いたような気味悪い虫なんて、ちゃちゃーっと片付けるから」

 

「その例えはともかく……どうするんだ?」

 

「ふふん、とっておきの作戦があるよ。安心してお姉ちゃんに任しときなさい!」

 

「……分かった、それなら任せる。あとリュシア、ずっと言いたかったんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでさっきから頭撫でてるんだ」

 

「え? ……あっ」

 

 

タクミが気絶してから今まで、ずっとタクミの頭をなでていたリュシア。

 

慌てて手を放す。

 

 

「えっと、ごめんね? なんか子供の姿になったタクミを見ると、むしょーーに撫でたくなるんだよね……」

 

「なんか前にも柚葉たちに同じ事されたけどさ……俺の事犬やら猫だと思ってるんじゃねーだろうな……」

 

「そんなんじゃないよ! でもなんか、凄く撫でたくなるの! 分かんない?」

 

「分かんねーよ……」

 

 

 

 

 

気を取り直し、G討滅作戦に取り掛かる。

 

 

「それで、とっておきの作戦っていうのは?」

 

「ズバリ、秘密兵器を使うの! Gって雑食で何でも食べるでしょ? だからこれ!」

 

「それは……」

 

 

リュシアが取り出したのは……ペットボトルに入った、ジンジャー糖水だった。

 

 

「あんまりエーテリアスとかを探す以外にこれを使いたくはなかったんだけど……背に腹は代えられない! これを使ってアイツを誘き出すよ!」

 

「出来るのか……!? なんかすげえ不安なんだけど!」

 

「だーいじょうぶだって! 今にも匂いに誘き寄せられて……ほら出たぁ!!

 

「!!」

 

 

リュシアが指を差す先。

 

壁の方に、隠れていたGが姿を現した。

 

 

「あたしたちは隠れよう! 隙を見て、ペットボトルに入ったアイツを外に出せれば……!」

 

「ごめんください……あら、タクミ? リュシアちゃん? 何をしてるの?」

 

「!」

 

「い、イドちゃん!?」

 

 

間の悪い事に、イドリーが奇々怪々にやって来てしまった。

 

物陰に隠れている二人を見て、イドリーはきょとんとする。

 

 

「きみたちは……どうして隠れてるの?」

 

「それは色々と訳があって──あっやばい、イドリーさん!!」

 

「?」

 

 

壁に留まっていたGが羽を広げ、跳び始める。

 

その先は──よりにもよってイドリーだった。

 

 

「あら……?」

 

 

イドリーは飛んでくるGを目にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ふっ!!」

 

「え?」

 

 

Gを見た彼女が次にとった行動は──タクミとリュシアの予想を大きく裏切るものだった。

 

 

飛んでくるGを、イドリーはあろうことか()()()()()

 

 

「森へ……おかえりっ!」

 

 

なんとそのまま流れるように扉の外へGを投げ飛ばした。

 

 

「「…………」」

 

 

この光景は幻だろうか。

 

壮絶なものとなるはずだったこの戦いは、いともあっさり決着がついた。

 

 

「あ……うっかり触っちゃったわ。ごめんなさい、お手洗いをお借りしてもいいかしら?」

 

「あ、どうぞ……」

 

「ありがとう~」

 

 

イドリーはお礼を言うと、そのまま店の奥へと行ってしまった。

 

 

「…………」

 

 

予想外の形とは言え、なんとか危機が去った事にタクミは胸をなでおろす。

 

しかし今から十五分後、帰って来た柚葉が購入したGのイタズラグッズで悲鳴を上げることになるとは、この時の彼は知る由もなかった。

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