ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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偶然の出会い

 

 

 

 

 

(おっかしいなあ……)

 

 

ルミナスクエアの人気のない路地裏。

 

タクミは辺りを見回しながら、忙しなく歩き回っていた。

 

 

(絶対ここら辺で落としたはずなんだよなぁ……)

 

 

あらゆる場所をくまなく探してみたが、見つからない。

 

 

 

先程から、タクミは何を探しているのか。

 

それは──

 

 

(くそ……俺の財布、どこ行った……!?)

 

 

 

 

 

 

今日、タクミはポカをやらかした。

 

衛非地区からリンと一緒に一時的に六分街へ帰って来たタクミ。

 

 

無性にティーミルクが飲みたかったので、ルミナスクエアの『リチャード・ティーミルク』に行きお気に入りのメニューを注文した。

 

 

ここまでは良かった。

 

ティーミルクを飲みながら『Random Play』へ帰る途中……気づいた。

 

 

 

 

 

───財布がねえ

 

 

 

 

 

 

最初はスられたのかと思ったが、そこまで人の多い場所は歩いた覚えはない。

 

それに今の彼ならスられた時点で気づく。

 

 

ならば帰る時に落としたのか、または置いてきたのかと……タクミは引き返してリチャードティーミルクに戻り、店員のココに財布の事を聞いてみた。

 

 

『ええっ、み……見てないよ、ごめんね……そ、そういえばずっと聞きたかったんだけど……君、どこかで会ったかな……? なんか、常連の子にすごく似てるような……』

 

 

『人違いです』という答えとお礼をココに言ったあと、タクミは通った道を辿り財布を探した。

 

 

(……ここら辺にないって事は、まさかもう誰かが拾ったのか……?)

 

 

最悪の可能性として、それもありうるだろう。

 

財布の中はそこまで大金が入っているわけではないが、だからと言って探すのをやめる訳には行かない。

 

 

(……Fairyに頼むしかねーな)

 

 

そんな事を考えていた時。

 

 

「ねえ君! どうしたの?」

 

「?」

 

 

後ろから声をかけられ、振り返るとピンク色の髪の少女が心配そうな目をして立っていた。

 

その少女の姿は、あまり他では見かけない稀有なものだった。

 

ツインテールで、白を基調とした何やら派手で可愛らしい服装。

 

さらに背中には小さな羽が生えていた。

 

 

「さっきから見てたんだけど……何か探し物?」

 

「ええとその……財布を落としちゃったんです。この辺に落ちてるはずなんすけど……」

 

「大変! じゃあ、私も探してあげるね!」

 

「えっ、いやそんな気を遣わなくても」

 

「気にしないで! 大丈夫、きっと見つけるから!」

 

 

そう言うとピンク髪の少女は辺りを見渡し始める。

 

 

「……?」

 

 

その瞬間、謎の駆動音のようなものが微かに聞こえた。

 

幻聴でなければ、その音は少女の方から聞こえた気がする。

 

 

(なんか、カメラのレンズみたいな音……? この子もしかして──いやそれより今は財布だ! ここになければもう諦めるしか──)

 

「見つけたよ!」

 

「そうっすか……それなら諦め──えっ?」

 

「お姉ちゃんが取り返してくるね!」

 

 

今、彼女は見つけたと言ったのだろうか。

 

先ほどまでただ見回していただけだった少女は、迷わず建物の裏の方へと突っ走る。

 

 

「……?」

 

 

タクミは訳も分からず、彼女の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こら、ダメだよ! それは人のなんだから、返してあげて!」

 

「にゃあ~!」

 

「!」

 

 

薄暗い建物の裏に行くと、ピンク髪の少女と一匹の猫の姿が見えた。

 

 

「……!! 財布!」

 

 

タクミが探していた財布は、なんとその猫が咥えていた。

 

見当たらないと思ったら、猫が持って行ってしまっていたのだ。

 

少女に追い詰められた猫は、財布を放り出し一目散に逃げていった。

 

 

少女は猫が置いていった財布を拾い、タクミに渡す。

 

 

「はい! 見つかって良かったね」

 

「すごいっすね……なんで建物の裏に、財布を持った猫がいるって分かったんすか?」

 

「え? えーっと……探し物は結構得意なんだよね」

 

「そうなんすね……とにかく、見つけてくれてありがとうございます。その、名前聞かせてもらっていいすか?」

 

「私はアリアだよ! ヤヌス区で、アイドルをやってるの! まだ駆け出しだけどね……」

 

 

ピンク髪の少女──アリアは、『妄想エンジェル』というアイドルグループのメインボーカルを担当しているらしい。

 

恐らく彼女の白い派手な服も、そういう事なのだろう。

 

 

「そういう君は、なんて名前なの?」

 

「タクミです。アリアさん、財布の事……ホント助かりました。良ければお礼させてください」

 

「お礼なんていいよ! タクミちゃんのお財布が見つかって、ホントに良かった!」

 

(タクミちゃん? ちゃん付けで呼ぶのか……変わった子だな)

 

 

にこりと微笑むアリアに、そんな事を思っていると。

 

 

「アリアちゃ~ん!!」

 

 

アリアとは別の声が、遠くから聞こえてくる。

 

その方向から、二人の少女が走って来た。

 

 

「あ、ちなっちゃん! ゆうちゃん!」

 

「ほんまごめん! 連絡してた時間よりごっつ遅くなってしもうた……!」

 

「ちなっちゃんがもっと早く走らないからだよ~」

 

「やかましいわ羽! 元はと言えばあんたのせいやろ、どの口が言うとんねん!」

 

「ごめんごめん冗談だって、そんな怒んないでよ~!」

 

 

ぷりぷりと怒る千夏を、羽と呼ばれた少女がどうどうとたしなめる。

 

羽は初対面だが、千夏の顔を見るのはこれで三回目だ。

 

一回目はファンタジィリゾートの時、二回目はビデオ屋に彼女が涼みに来た時だ。

 

 

「まあでもごめんね? ボクったら他の事は普通にできるのに、料理だけはてんでダメなんだよね~……あはは」

 

「笑いごとちゃうやろ! あと十秒うちが駆けつけるのが遅かったら、鍋から出た火で家が全焼してもうてたで!」

 

「あはは……」

 

「……あれ? アリアちゃん、その子は?」

 

「!」

 

 

羽と千夏は、タクミがいる事に気が付いた。

 

 

「この子はタクミちゃん。さっきまでこの子の財布を探してたの」

 

「あ、もしかして……アリアちゃんが言ってた『願いの妖精』さんってこの子?」

 

「え!? そうなの!?」

 

「なんでアリアちゃんが驚いとんねん……」

 

「ね、願いの妖精? なんすかそれ……」

 

 

そのような名前は聞いたことがない。

 

何かのハンドルネームだろうか。

 

 

「……違うみたいだね」

 

「『願いの妖精』って、アリアさんの友達っすか?」

 

「う……うん、そんなとこ……!」

 

「なんや、ただ偶然会っただけやんな。……ってあれ?」

 

 

千夏が眉をひそめながら、タクミの顔をまじまじと見つめる。

 

 

「きみ……どこかで会わへんかった?」

 

「え?」

 

「なんか雰囲気が……初めてって感じがせえへんくて──あ、ご……ごめんな、いきなり変な事聞いて!」

 

「ちなっちゃん……ナンパにしてはちょっとやり方が古くない?」

 

「ちゃうわアホ!」

 

 

千夏と羽の漫才のような応酬を見ながら、タクミは冷や汗を流す。

 

彼女の言う通り、タクミと千夏は初対面ではない。

 

会うのはこれで三回目だが、今のタクミは子供の姿。

 

 

訳あって小さくなったことが一般人である彼女たちに知られてはならない。

 

 

「……千夏さん、でしたっけ。多分初対面だと思います」

 

「せ……せやな。うちの気のせいやったわ。ごめんなタクミちゃん」

 

「(この子もちゃん付けするのか……)気にしないでいいですよ。それより、三人はなんか用事があるんじゃないすか?」

 

「あ、せや! 今日は三人で映画を見……て……」

 

「?」

 

「ちなっちゃん? どうしたの?」

 

 

千夏は真顔でバッグやらポケットやらをまさぐる。

 

……次第に顔が青ざめていく。

 

 

「……ちなっちゃん、もしかして……」

 

「さ、財布が……どこにもあらへん」

 

「財布、忘れちゃったの?」

 

「ちゃ、ちゃんと持ってきたで! さっきまであったもん!」

 

「え、じゃあ落としちゃったって事? もしくはスられたとか……」

 

「…………!!」

 

 

千夏の顔が、絶望に染まっていく。

 

やがてぺたりと座り込み、漫画のように体が真っ白になった。

 

 

「お……終わりや……うちのアイドル人生、もうここで終了や……」

 

「ちょっとちょっと、諦めムードになるのが早すぎるよちなっちゃん! 今から探せばまだ間に合うって!」

 

「そうだよ! みんなで一緒に探そう?」

 

 

財布を落としたと言うなら、恐らく先程のタクミのように千夏たちが来た道を行けば見つかるはずだ。

 

タクミは千夏の財布の特徴を聞こうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『へへ……ちょろいガキだぜ。たんまり入ってやがるな』

 

「…………!」

 

 

聞き間違いではない。

 

前方の遠くから、男の声がタクミには聞こえた。

 

 

ここから百五十メートルほど先に、その男の姿も見える。

 

他に人はいない。

 

オルフェノク特有の聴力で、声がその男から発せられたことが分かった。

 

 

「…………アイツ」

 

「タクミちゃん? どうかした?」

 

「すいません、ちょっと行ってきます」

 

 

アリアの問いにそう答えた後、タクミは男のいる方向へ走り出した。

 

 

「…………」

 

 

いきなり全速力で走る事はしない。

 

ジョギングをするよう見せかけながら、男へと近づく。

 

 

もし男が千夏の財布を持っていなかったら、走ってくるタクミに気づいても逃げる事はしない。

 

しかしもし財布を持っていたのなら、男はタクミが()()()()()()()と勘違いし、逃げ出すことだろう。

 

 

タクミはスピードを一定に保ちつつ、男へ近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

 

タクミの予想通り、男はタクミに気づくといきなり走り出した。

 

確信に至ったタクミは、全速力のスピードを出し始めた。

 

 

オルフェノク……ましてやホッパーオルフェノクの脚力に、ただの人間が敵うはずもなく。

 

 

「ふっ!!」

 

「うわあああっ!?」

 

 

一瞬で追いついたタクミは、男の背中に強烈なタックルをお見舞いした。

 

その拍子に、一つの財布が地面に転がる。

 

 

「あーーっ!! うちの財布!!」

 

 

アリアたちと一緒に追いかけてきた千夏が、スられた自分の財布を見て大声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんまおおきにタクミちゃん! うちの人生が終わるとこやったわ……!」

 

「いやいいんすよ。見つかって何よりです」

 

 

男を治安所に引き渡し、事情聴取等を受けた後……時刻は気づけば夕方になっていた。

 

 

「にしてもタクミちゃん、えげつない足の速さしてたねえ。陸上かなんかやってるの?」

 

「(この子もちゃん付けしてくるのかよ……!)陸上はやってないっすね……ただ人より足が速いだけです」

 

 

タクミの言う『人』とは、主に『人全般』を指す。

 

 

「そうなんや……あの足の速さ、アリアちゃんに負けへんくらい──ってそれより、せっかくやからなんかお礼させてや!」

 

「お礼? いや大丈夫っすよ……さっき逆に助けてもらったし」

 

「それじゃうちの気が済まんねん!」

 

「受け取っときなよ~。こういう時のちなっちゃんはテコでも動かないから──あ、ちなっちゃん! アレなんかいいんじゃない?」

 

「アレ……ってああ、アレだね!」

 

「アレを渡すんか……!? ええんかな……」

 

「?」

 

 

アレとはなんなのか。

 

それを聞く前に、千夏はタクミに一枚の紙を渡した。

 

 

「……チケット?」

 

「そう! ボクたちがアイドルをやってる事は、アリアちゃんから聞いたでしょ? もうすぐライブがあるんだけど、それはそのチケットなんだ!」

 

「私たち『妄想エンジェル』の初公演なの!」

 

「……くれるんすか? タダで?」

 

「今回は特別! ぜーったいガッカリさせないよ? キミもすぐに『モーソー族』の一人になること間違いなし!」

 

 

アリアと羽は自信満々な様子だが、後ろにいる千夏は自身がなさげである。

 

『妄想エンジェル』がなんなのかは、まだ全然知らないが……アカウントなどを今のうちに調べておいた方がいいかもしれない。

 

 

「……それじゃあ、有難く受け取っときます」

 

「ふふん! 楽しみにしててね、タクミちゃん!」

 

「……あの、一ついいすか」

 

「うん? 何?」

 

「なんでさっきからずっとちゃん付けなんですか?」

 

「へ? 女の子にちゃん付けするのは別に普通やろ?」

 

「いや俺男ですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

「え?」

 

 

何かずっと、おかしいなとは思っていた。

 

どうやらアリアと千夏は、髪の長さとリン似の顔が原因でタクミを女の子だと思っていたらしい。

 

 

ちなみに羽は最初から気づいていた。

 

気づいたうえで『タクミちゃん』などと呼んでいた。 

 

タクミは大声で『バーカ!!』と叫びたくなった。

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