ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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暇なので②

 

 

 

 

 

幸いにも、数分後に雷は鳴らなくなった。

 

しかし、雨は依然として降り続けている。

 

 

「まだ止まないわね……」

 

「……仕方ない、折角だしもう一本映画を観よう」

 

「いいわね! あ、じゃあ今度はタクミが選んで!」

 

「そうか? なら遠慮なく」

 

 

お言葉に甘えて、持ってきたビデオテープからタクミは観たいと思うものを選ぶ事にする。

 

その途中、机に置かれた数本のパッケージの中のとあるものが、瞬光の目に入る。

 

 

「……ねえ、この『スターライトナイト』って言うの……タクミが変身するファイズに結構似てるわね」

 

「ん? ああ……確かにちょっと似てるかもな」

 

 

瞬光はパッケージを手に取り、裏を見る。

 

 

「……特撮ヒーローもの……? よく分からないけど、このパッケージに描かれてるスターライトナイトはヒーローなのね」

 

「そうだな。俺の友達がその『スターライトナイト』に四六時中熱中しててよ。たまにだけどそれも観たりするんだ」

 

「そうなのね……ヒーローってとこも、なんだかタクミそっくりね!」

 

「俺がヒーロー? ……まさか」

 

 

タクミはやや自嘲気味に肩をすくめる。

 

 

「俺はヒーローなんてガラじゃないし、その肩書を背負えるほど大層な人間でもない」

 

「え? ……でも、タクミは衛非地区の人の為に今まで戦ったんでしょ? タクミのおかげで助かった人もいるって聞いたわよ」

 

「結果としてそうなったってだけだ。俺は見知らぬ誰かの為に無条件で命を懸けるみたいな……そんな覚悟はない」

 

 

タクミがファイズとして戦うのは、終始一貫して『自身の大切な人のため』だけ。

 

その動機で行動したうえで、『救えるかもしれない命』が自身の手の届く範囲に来た時だけ……タクミはそれを救うために戦う。

 

 

タクミは、一度も『人助けをしに行こう』とは考えた事はない。

 

すべては成り行き。たまたま『救える命』が近くにいたから、救うと言うだけ。

 

 

ヒーローと呼ばれる資格がある人間……それをハッキリと定義するのは難しいが、少なくとも自身は違うとタクミは考えている。

 

 

「それに、ヒーローって肩書なら……瞬姐さんの方がずっと相応しいと思うけどな」

 

「え? そ、そう?」

 

「ああ。そもそも瞬姐さんがシシオと一緒に衛非地区に下山したのは『人助けがしたい』からだっただろ? その時点で、俺とは大きく違う」

 

「…………」

 

「師匠や福福先輩もそうだ。何の事件がなくても、積極的に人の助けになろうとしてる……まあ、俺もたまには手伝ってるけど」

 

 

アキラとリンも、プロキシの仕事とは別で誰かを助けたりしていると聞く。

 

職業さえに目を瞑れば、二人もヒーローと言えるのかもしれない。

 

 

「見た目はヒーローっぽくても、中身は違う。ただの一般人だ」

 

「……そんな事、ないと思うわ」

 

「?」

 

「確かに、大衆にとってのヒーローじゃないかもしれないけど……少なくともタクミは、ワタシにとってのヒーローだもの」

 

「……!」

 

「一緒に悩んでくれたり、一緒に戦ってくれたり……まだワタシ達が出会って日は浅いけど、その短い間でも、アナタからたくさん勇気を貰ったりもしたわ。だからアナタは、ワタシにとってのヒーローなの」

 

「…………」

 

 

タクミは目を見開いた後……瞬光から顔を逸らし、テレビの方を向く。

 

 

「……さて、観たい映画も決まったし観るか」

 

「タクミ? ……もしかして照れてる?」

 

「照れてない」

 

「照れてるわよね?」

 

「照れてない」

 

「嘘、絶対照れてるじゃない~! このこの~!」

 

「照れてねえっての! 良いから映画観るぞ!」

 

 

タクミはやけくそ気味に『劇場版スターライトナイト』のパッケージからビデオテープを取り出し、再生機器に突っ込む。

 

 

 

 

 

 

 

……この時、タクミはビデオテープのラベルをしっかりと確認すべきだった。

 

 

「……?」

 

 

再生ボタンを押し、映画が始まったが……何かがおかしい。

 

 

「……なんだか、始まり方がおどろおどろしいわね」

 

 

流れ始めた音楽は、スターライトナイトのテーマソングではなく。

 

ピアノ範奏の、身の毛がよだつ様な恐ろしいBGMだった。

 

 

「……おかしいな。スターライトナイトってこんな怖いBGM流れないんだけど。ていうかこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホラー映画じゃねえか!!」

 

 

どうやら何かの手違いで、劇場版スタナイのパッケージにホラー映画が入ってしまっていたらしい。

 

せっかくホラー映画を避けてラインナップを決めたと言うのに、これでは意味がない。

 

 

「何かと入れ替わったか……? 仕方ねえ、一回再生を停止して──」

 

「待って!」

 

 

再生停止しようとしたが、瞬光に止められてしまう。

 

 

「……しゅ、瞬姐さん? なんで止めるんだ?」

 

「折角だし、このまま観ちゃいましょうよ。ワタシ、ホラー映画を観るのも初めてなの!」

 

「えっ」

 

「お願い! いいでしょ?」

 

 

すごく観たくない。

 

タクミは、すごく観たくなかった。

 

 

 

なんとか理由をつけてこの場から離れようと思ったが……瞬光の上目遣いを見て、何も言えなくなってしまう。

 

恐らく彼女の兄釈淵も、この上目遣いには勝てないのだろう。

 

 

ならもう正直に話すしかない。

 

 

「……瞬姐さん、この際だからもう正直に言うけど……俺ホラー映画は苦手なんだ。すごく」

 

「うん、知ってるわよ?」

 

「そっか知ってたか~~~」

 

「リンが前に教えてくれたの!」

 

 

あの姉には、今一度守秘義務のなんたるかを教えなければならない。

 

 

「だからワタシ、興味があるのよね……ホラー映画がどれだけ怖いのか!」

 

「…………」

 

「だから一緒に観ましょう? 大丈夫、姉弟子のワタシがいるんだから怖くても平気よ!」

 

「…………」

 

 

仕方ないので、タクミは諦めて観る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鑑賞終了。

 

 

「…………」

 

「はあ……や、やっと終わったか……」

 

 

もはやお約束だが、タクミは終始ビビりっぱなしだった。

 

無意識に……そう、無意識に瞬光の腕を掴み、画面から目を逸らしたり逸らさなかったりしていた。

 

 

……今日、情けない姿ばかり見せている気がする。

 

 

「瞬姐さん、どうだった? 初めてのホラー映画は」

 

「……途中から、内容は覚えてないかも」

 

「うん、それが普通の反応だな。あんなん見て平然としてられるわけないんだ」

 

「え、映画のせいじゃないわよ……もう!」

 

「??」

 

 

何故か顔を赤くしながらぷりぷりと怒る瞬光。

 

 

彼のなけなしの名誉の為に説明しておくが、タクミはホラー映画を観る時は近くの何かに『無意識に』掴まる癖があると言うだけ。

 

下心はない。残念ながら。

 

 

 

 

 

 

「……ん? あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「見ろ瞬姐さん、雨がもう止んでるぞ」

 

「え? ……ホントだ、すっかり晴れてるわね!」

 

 

ホラー映画にビビっていて気が付かなかったが、曇天模様から一転、いつの間にか窓から太陽の光が差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

二人は適当観を出て、水たまりに気を付けつつ広場へ向かう。

 

 

そこで二人は目にした。

 

 

「わあ……! すごく綺麗……!」

 

 

空には、鮮やかな虹の架け橋が浮かんでいた。

 

 

「すげーな……こんなにハッキリ虹が見えるの久しぶりに見たかもしれない」

 

「ワタシも、お兄ちゃんと一緒に一回見たっきりだったなあ……」

 

 

周りの人達も、空に浮かぶ虹に釘付けになっている。

 

写真を撮る女子高生、思い出話をする老夫婦、大はしゃぎする子供たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

その虹は、数分するとすぐに消えてしまった。

 

 

「なんだか……夢のような時間だったわね」

 

「そうだな。あんなのは滅多にないからな……」

 

「……また、見れるかな?」

 

「いつかは分からないけど、必ず見れるはずだ」

 

「……ねえ、タクミ」

 

 

空を見上げていた瞬光は、タクミの方を向く。

 

 

「タクミって、六分街から来たんでしょ? その……適当観には、これからもずっといるわけじゃないのよね……?」

 

「! ……そうだな」

 

 

元々はラマニアンホロウの異変の調査のため、リン達は六分街から衛非地区へとやって来て、それから雲嶽山に弟子入りをした。

 

だが衛非地区には引っ越してきたわけではないため、いつかはまた六分街に帰る事になるのだろう。

 

 

それがいつなのかはタクミには決められない。

 

決まったとしてそれを取り消すこともできない。

 

 

「大丈夫。もし六分街に帰っても、永遠にさよならって訳じゃない。衛非地区には時々戻って来るし、なんなら瞬姐さんが六分街に遊びに来てもいい」

 

「……いいの?」

 

「もちろんだ。六分街にも俺の友達がいる。きっと仲良くなれるはずだ」

 

「……そう、よね! うん、タクミ達が帰っちゃっても、ワタシの方から来ればいいのよね!」

 

 

それに、今の所六分街に帰る予定はまだない。

 

問題は山積みなので、恐らくもう少し先になるだろう。

 

 

「さ、部屋に戻ってアイスでも食べよう。俺がびしょ濡れになって手に入れた美味しいアイスだ」

 

「ふふっ……うん!」

 

 

二人は適当観に戻る。

 

 

今も増え続ける、暖かく失いがたい記憶。

 

そしてその記憶と共にある、かけがえのない大切な人、場所。

 

 

それらを全て守りたいという強い気持ち。

 

瞬光の中でその気持ちは、彼女自身でも気づかないうちに大きなものとなっていた。




次回からいよいよ第六章です!
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