ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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2-6章:この身に「希望」を灯すとき
白い花


 

 

 

 

 

零号ホロウの深部。

 

H.A.N.Dの目すら届かないその場所にて、二つの人影──「タクミ」とサラが歩いていた。

 

 

「……もうすぐだ」

 

 

「タクミ」は独り言のようにつぶやく。

 

 

「もうすぐ、最初の計画を実行に移す事が出来る。楽しみだね、サラさん」

 

「…………」

 

 

サラは何も喋らない。

 

ペースを一ミリも狂わせる事なく、黙って「タクミ」の後ろを歩いていた。

 

 

「貴方にはこれから、()()をまとめてもらわなければならない。大丈夫、君の悲願もきっと叶うだろうさ」

 

 

エーテリアス一匹すらいない静かな空間に響く、二つの足音。

 

そして。

 

 

「さあ、着いたよ。彼らが待っている」

 

「…………」

 

 

二人が訪れた場所。

 

音はない。しかし確かな、そして恐ろしい気配がそこにはある。

 

 

 

 

 

「どう? 彼らは、()()()()()だよ」

 

 

「タクミ」とサラの前には、静かにその場に佇む同胞───オルフェノク。

 

その数は、なんと五十体以上にも及んでいた。

 

一体一体が要警戒エーテリアスを容易くねじ伏せる程の強さを持つ、数こそ劣るもののオブシディアン大隊にも匹敵する程の戦力。

 

 

 

「…………」

 

 

サラは前に出る。

 

兵士のように整列しているオルフェノク達を一瞥し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その顔に、模様が浮かび上がる。

 

 

人間だったサラの肉体は瞬く間に変化し……とある動物を模したオルフェノクへと変化した。

 

 

「……その姿、懐かしいなあ。でも、ちょっと苦い思い出でもあるかな」

 

 

「タクミ」は醜悪な笑みを浮かべる。

 

 

「『転送』の準備が完了したら……もう僕たちの計画は成功したようなものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──侵攻の時は……近い……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~美味しい!」

 

 

一方その頃、適当観にて。

 

リン達は、瞬光が作った金木犀のケーキを味わっていた。

 

 

「瞬光のケーキ、美味しいな」

 

「良かった……なんか、変な味とかしない?」

 

「しないよ? まあ強いて言えば……普通のよりちょっと甘いかな?」

 

「そ、そう? 味見した時はちょうどいいと思ってたんだけど……」

 

「瞬光は甘党なんだね。それで言ったらタクミも──」

 

「三人とも、何してんだ?」

 

「あ、タクミ!」

 

 

瞬光は、部屋に入って来たタクミにケーキを乗せた皿を持って駆け寄る。

 

 

「さっき、金木犀のケーキ作ってみたの! 良ければタクミも食べる?」

 

「お、マジ? ありがとう」

 

 

タクミは皿を受け取り、『いただきます』と一言言った後に、ケーキを一切れ口に運んだ。

 

 

「美味いな~」

 

「タクミはどう? ケーキ、甘すぎたりしない?」

 

「ちょうどいい甘さだぞ」

 

 

タクミはケーキを頬張りながら答える。

 

それを見て、瞬光は胸をなでおろした。

 

 

「そう言えば聞きたかったんだけど……瞬光はどうして金木犀のケーキが好きなんだい?」

 

「えっとね……ケーキと言うよりは、金木犀の香りが好きなの。ワタシが、まだ鉱区にいた頃だったかな……怪我で入院したお父さんのお見舞いに、都内の病院に行ったことがあって」

 

 

どうやらそこで食べた金木犀のケーキが、とても美味しかったらしい。

 

その後、すっかり金木犀のケーキを気に入った瞬光。

 

雲嶽山に入門したばかりの頃、その金木犀のケーキが衛非地区で食べられる事を知り、しょっちゅう買っては食べていたのだが……

 

 

「なぜか食べるたびに、お腹が痛くなっちゃって。お兄ちゃんにも禁止されちゃったんだけど……」

 

「買えないなら、自分で作っちゃえばいい……ってなったんだね」

 

「うん。お菓子作りって、分量さえ間違えなければ簡単だし、自分好みにアレンジもできるから!」

 

「…………」

 

 

タクミは瞬光の話を、ケーキを食べながら黙って聞いていた。

 

すると。

 

 

「タクミくん達、ここにいたんですねっ!」

 

「あ、福姐さん! 戻って来たのね!」

 

「ただいま帰ってきました! 皆さん、緊急事態──」

 

 

そう言いかけた時、なぜか動きが止まる。

 

福福は小さくなっているタクミを見て、大きく目を見開いた。

 

 

「た、タクミくん……お話は聞いてましたが、本当に小さくなっちゃってたんですね……」

 

「ん? ああ、原因はまだ不明だけどな……」

 

 

少なくとも儀玄が帰って来るまでは、元に戻す方法を探すこともできない。

 

福福はタクミを見てやたらソワソワしている。

 

 

「それで……緊急事態って?」

 

「……あ、そうそう! 泅瓏囲で、何やら『ヘンなもの』が現れたって情報があったんですっ!」

 

「ヘンな……もの?」

 

「実際に見た方が早いです! 皆さん、泅瓏囲に行きますよっ!」

 

 

そう言うと福福は部屋の外へ出る。

 

タクミ達も後を追い、泅瓏囲へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして泅瓏囲にやって来た一行。

 

そこにあったのは……

 

 

「ねえ、これ……見間違いじゃなければ、鉱区跡地で見たあの白い花だよね……」

 

「うん……覚えてるわ。どうしてホロウの外にこんなのが……」

 

「師匠は何か知ってるかもしれないけど、まだ戻って来てないんだよな?」

 

「はい。お師匠さまは例の件で、まだ色々と忙しくて……」

 

 

泅瓏囲には、住人達や取材に来たテレビ局、潘を始めとした雲嶽山の人間の姿も見られる。

 

……だが、儀玄の姿はない。

 

 

「……凄く、嫌な予感がするわ。それになんか……青溟剣が反応してるような」

 

「葉瞬光。おぬしも来たか」

 

「?」

 

 

聞き慣れない声がしたので振り返ると、そこには雲嶽山の道着を着た老人が一人。

 

 

「……! 陸老師!」

 

「既に耳に入れてはおるだろうが……今回澄輝坪で起こった件は、もはや一事件で片付けられるようなものではない。その中でも、おぬしの兄がしでかした事はいっとう重いぞ」

 

 

陸老師、と呼ばれる老人は厳かな目で瞬光を見る。

 

 

「もはやあやつとおぬしの道は分かたれた。青溟剣の使い手として、おぬしは己が使命を果たす義務がある……分かっておるな?」

 

「…………」

 

「……瞬姐さん。この人は?」

 

「えっと、この人は雲嶽山の──」

 

陸衡舟りくこうしゅうだ。おぬしの事は知っておる。儀玄が取った新弟子だな……しかし」

 

 

陸はタクミを見る。

 

何故か若干憐れむような眼で。

 

 

「災難であったな。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「儀玄から聞いたぞ。調査の途中、突如異常発生したミアズマにやられたとな」

 

「?? ……あっ」

 

 

どうやら儀玄は、体が小さくなったタクミの事をそう説明したらしい。

 

確かにオルフェノクの事など、彼に色々と知られるのはまずい気がする。

 

彼女に感謝だ。

 

 

「とは言え、それはおぬしの未熟さが招いた事故だ。次回からは、より一層気を引き締めるべきと心得よ」

 

「き、気を付けます」

 

「分かっておるなら良い。して、この花だが……葉瞬光、おぬしは今しがた『嫌な予感がする』と申しておったな。あの花から、何かを感じ取ったのか?」

 

「あの花は、ラマニアンホロウの深部に咲いてるのを見たの。近づくと侵蝕が和らぐような感覚もあって……とにかく、放ってはおけないわ!」

 

「そうなのか? ……であれば、念の為一掃しておくべきか。葉瞬光、おぬしに任せてもよいな」

 

「え、ええ……やってみるわ」

 

 

瞬光は周りの人達を下がらせた後、剣を掲げ一振り。

 

 

「!」

 

 

すると白い花は文字通り瞬く間に消え失せ、灰となる。

 

 

「むう……確かに、間違いなく植物の類ではないな」

 

「うん。このまま放っておけば、間違いなく悪い事が起こる……そんな気がするの」

 

「……よかろう。それでは明日の夕方、関係する者を適当観に集めさせる。花の件はもちろん……葉釈淵の処遇についても、最終的な判断を下さねばならん」

 

「……! お、お兄ちゃんは……」

 

「雲嶽山の弟子たち全員に、責任を持って説明するのだ。自分が何者なのか、なぜ雲嶽山に身を置いているのか……それを、片時も忘れるでないぞ」

 

「……分かったわ」

 

 

陸は瞬光の返事に頷いた後、この場を立ち去る。

 

そしてタクミとすれ違う際に──

 

 

 

 

 

「……おぬしの存在が、あの子にとって良いものとなるならば、それで良い。重荷ではなく……な」

 

 

タクミにしか聞こえないような小さな声で、そう言い残した。

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