ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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蝶よ花よと

 

 

 

 

 

陸が去った後、瞬光は緊張の糸が切れたのか、深くため息を吐いた。

 

 

「……ごめんねタクミ、変な空気にしちゃって。あの人も、悪気がある訳ではないの。ただ、雲嶽山の名誉を誰よりも重んじてるってだけだから……」

 

「あの人は雲嶽山のどういう立ち位置なんだ?」

 

「陸老師は雲嶽山の……古株ね。師匠が居ない時は、代わりにあの人が取り仕切ってるの」

 

「古株……か。旧都陥落以前からいた人なのか」

 

「そう。あの人は戦う人ではなく、弟子たちの家族を避難させる役割を担ってたの」

 

 

儀降が宗主だった頃の雲嶽山の門下生は、ほとんどが旧都陥落が原因で亡くなってしまったが、陸はその中で数少ない生き残りだった。

 

 

「……にしても、陸老師は瞬姐さんが青溟剣を使う事に関してはなんか肯定的な感じだったな。師匠たちとは正反対だ」

 

「……そう、ね」

 

 

今回はあくまで封印を解かずに白い花を駆除したわけだが、儀玄はそれすらも快くは思わなさそうだ。

 

 

「タクミ! 瞬光! そろそろ帰ろ!」

 

「あ、うん……分かった!」

 

 

リンの呼ぶ声で気づいたが、気づけば時刻は夜の十時を回っていた。

 

明日は色々と忙しくなりそうだ。

 

 

「あ、そうだ。また機会があったら……金木犀のケーキ、また作るわね!」

 

「本当!? 楽しみにしてるね!」

 

「砂糖の調整は……そうね、好みも分かったし、皆に合ったものを……」

 

 

そんな約束事をしながら、適当観へと帰る雲嶽山の一行。

 

 

 

その道中。

 

 

「……タクミくんっ!」

 

「ん? どうした、福福先輩」

 

「えっと、適当観に帰ってからで良いんですけど……少しお願いしたいことがあって。いいですか?」

 

「……? ああ、いいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

予定通り、集まりの時間を迎えた。

 

雲嶽山のメンバーと、以前の件で深く関わったダイアリンと盤岳が同席。

 

 

儀玄は諸事情により、リモートでの参加となる。

 

 

「今回、お集まりいただいたのは他でもない。各関係者から情報を集め、現状を整理したうえで……讃頌会と結託していた葉釈淵の処遇について話し合うためだ。……それでは、宗主」

 

『ああ。今回は事情が事情なんでな……このような形で参加させてもらう。本当はそちらに戻るつもりだったが、折悪くメイフラワーから緊急の頼みがあってな』

 

 

なんでも零号ホロウで異常事態が発生したらしく、現在対ホロウ六課と協力し鎮圧にあたっているのだそう。

 

確か乾は以前に、零号ホロウにオルフェノクが大量発生したと言っていた。

 

恐らくメイフラワーの頼みとは、その件もあるのだろう。

 

その為、しばらくはまだ適当観には帰れそうにないとの事だ。

 

 

 

すでに儀玄たちに対し、大方の事情は説明しているが……改めて話すことにした。

 

 

「まあ簡潔にお話ししますと……讃頌会のサラが起こした一連の行動は、『始まりの主』を召喚、そして呼び覚ますという目的に沿ったものでした」

 

『……しかしその道中、"もう一人"の手によってサラは殺害されたと』

 

「そうです。それで、その"もう一人"は瞬く間に恐ろしいオルフェノクへと変化し、あたしたちに襲い掛かりました」

 

「その最中、活路を開いたのは突如現れた釈淵であった。オルフェノクを『陣』の元へ導き、これを弱体化……無事、撃退に至ったのである」

 

「…………」

 

 

すでにお気づきだろうが、この『事実』は一部分脚色されている。

 

しかし儀玄やメイフラワー市長には前もって包み隠さず、すべてを話している。

 

 

つまりこの場で『本当の事実』を知らないのは陸のみになる。

 

もちろん、タクミがオルフェノクである事も知らせていない。

 

いや、知らせる必要がないと言うべきか。

 

 

タクミとしては普通に話しても良かったのだが……リン達がそれに強く反対した。

 

 

そもそも今回の暴走は、敵によって引き起こされたと言っても過言ではないものだった。

 

 

わざわざ処遇を決めるまでもないと言う結論になり、その事実の一部分は伏せられることになった。

 

儀玄やメイフラワーにはちゃんと話しているので、話さないで困る事はない……はずだ。

 

 

「結局、釈淵さんの真の狙いは未だ不明だけど……一つ分かったことがあるの。それは襲ってきた例のオルフェノクから、おぞましいエネルギーを感じたんだよね」

 

「十中八九、『始まりの主』のものだろうと結論付けました。釈淵さんがあそこで駆け付けた理由は、その力を消し去るためってのもあったんじゃないか……と、個人的には思ってます」

 

『……そうか。皆、情報共有感謝する……して、瞬光』

 

「!」

 

 

急に名前を呼ばれた瞬光は、僅かながら身をすくめる。

 

 

『念の為、聞いておくが……お前さん、その時青溟剣は抜いたか?』

 

「……ううん、()()()抜かなかったわ」

 

『……そうか、ならいい。皆の者、何か補足事項はあるか』

 

「オルフェノクを退けた後、釈淵は忽然と姿を消した。行方は未だつかめぬ」

 

「そうだな……あいつの居所は、私の方で引き続き追っておく」

 

「宗主、お言葉だが」

 

 

ここで陸が儀玄に物申す。

 

 

「葉釈淵は少なからず、讃頌会と結託したという事実がある。まだ彼奴の真の目的もつかめていない状況だ。引き続き追うなど、そのような悠長な事を言っていて良いのだろうか」

 

『……「雲嶽山を裏切った」という事に関しては、まだ疑問の余地がある。以前、釈淵を探すために青溟鳥を遣わしたことがあったが……運悪く讃頌会に捕まってしまってな』

 

 

『どうにか』帰って来た青溟鳥を検めていると、何やら釈淵が儀玄にメッセージを送ろうとしていた跡があったらしい。

 

その肝心の内容は伝え損ねたようだが。

 

 

『……つまり真実は、あいつを見つけ直接聞いた方が確かだという事だ』

 

「お兄ちゃんは、雲嶽山を裏切った訳じゃないと思うわ……! あの時確かに、ワタシ達を助けてくれたもの!」

 

「……事情がどうであれ、裏切ったか否かは当人に聞くまで分からん。宗主の言う通り、直接彼奴から聞くしかあるまい」

 

 

ひとまず、釈淵の処遇に関しては保留と言う事になった。

 

 

『「始まりの主」に関しては、メイフラワーの方で独自に調査を進めるつもりらしい。私たちはしばらく手を出すべきではないだろう』

 

「師匠! ワタシに、何かやれる事は……」

 

『ない。静養に専念しておけ……それと今後、青溟剣の反動を避けるため、関わりそうな危険がある場所には一切近づくな』

 

「……で、でも……青溟剣は結局使わなかったから、今はなんともないわよ? 怪我だってしてないし……」

 

『……だからこそ、そうしておくべきなんだ。何かあってからでは遅い……いかなる理由があっても、決して近づくな。いいな?』

 

「……っ」

 

 

儀玄の言葉に、瞬光は唇を噛む。

 

 

『異存がないようなら、私はこれで切る。また何か進展があれば連絡する』

 

 

そう言うと、儀玄は返事を待たずリモートを切った。

 

瞬光は立ち尽くし、静かに俯いている。

 

 

「…………」

 

「だ、大丈夫だよ! 師匠は瞬光の事を大切に思ってるだけだから!」

 

「お弟子ちゃんの言う通りですっ! 今はゆっくり休みましょう?」

 

「ああ、どの道おれ達の出る幕はないんだ。ここはお師さんと市長に任せて、ゆっくり休もうじゃないか」

 

「うん……分かってる。皆、ありがとう」

 

 

瞬光は笑顔を見せたあと、自分の部屋へと戻る。

 

その背中には、もはや顔に浮かべる表情よりも多くの悲哀を表していた。

 

 

「瞬光……」

 

「師匠も、瞬光の気持ちは理解できているはずだ。青溟剣の代償さえなければ、きっと肩を並べて戦う事も……」

 

「……ん?」

 

 

瞬光の背中を見送るタクミは、とある違和感に気づいた。

 

 

「あれ? 今瞬姐さん……」

 

「タクミ?」

 

 

タクミは瞬光の後を追うため、中庭へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……瞬姐さん、入るぞ」

 

「……タクミ?」

 

 

『一応』断りを入れ、瞬光が入った部屋に入る。

 

瞬光はベッドにうつ伏せに倒れて込んでいた。

 

相当へこんでいるようだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「心配してくれるの? ありがとう……でも、ワタシは大丈夫だから」

 

「とてもそうには見えねーぞ」

 

「……? な、なんで?」

 

「なんでって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞬姐さん部屋間違えてるし」

 

「えっ……あっ、あれ!?

 

 

ここは瞬光の部屋ではなく、タクミの部屋。

 

顔を真っ赤にし、ベッドから起き上がる瞬光。

 

どうやらわざとではなく本当にうっかり入ってしまったようだった。

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