「瞬姐さん……なのか?」
「見ればわかるでしょう? アタシは葉瞬光……アナタの事がだ~い好きな姉弟子よ。待ってたわよ、たっくん♪」
双子の姉妹でも、ましてや夢縋りでもない。
本当に、瞬光本人であるようだ。
しかし、この変わりようは何なのだろうか。
顔や背丈こそ同じだが、服や髪の色、さらには性格までまるっきり変わってしまっている。
「……別人格ってことか?」
「う~ん、まあそういうことにしといてあげる。アタシは、優等生な『この子』が今までひた隠しにしてきた、真実のひとかけら」
「ひとかけら?」
「そう。この子が光なら、アタシは影。この子が高い所に飾られた偶像なら、アタシは地べたを這いずり回る付き人……」
真っ白になっている大きな尻尾を揺らしながら、白い瞬光は続ける。
「この子は『英雄』の仮面を被って、大切な仲間から取るに足らない人間まで、余すことなく救うつもりなの。忌々しい、青溟剣の力を使ってね」
「……アンタは違うのか?」
「ぜ~んぜん。そんな事の為に命を懸けるなんてまっぴらごめんだもの。自分を助けられないのに、どうやって他人なんか救うの? それでも皆を安心させたくて、この子はずっと見栄を張ってる。アナタも、気づいてるでしょう?」
「……まあ、そうだな。瞬姐さんには皆を助けたいって気持ちと同時に、青溟剣の使い手なんてクソ堅苦しい重荷は背負いたくはない……そんな気持ちもあるんだと思う」
「…………」
「だから、一人で思い詰めるような真似はして欲しくない。もし瞬姐さんが戦うってんなら、俺は一緒に戦いたい」
瞬光の誰かの為に戦いたいという選択を、タクミは否定する気はない。
しかし、『英雄』だと持て囃されようと、期待されようと、彼女を一人で戦わせるつもりは毛頭なかった。
「……みんながみんな、アナタみたいな考え方なら良かったんだけど。でも残念、現実は違うの。アナタは知ってる? 『英雄』だと持て囃す人達の、醜い本音を」
『英雄』など誰でもいい。
ただ、自分の安全さえ保障されれば。
その英雄が力尽き、倒れても……心から悲しむ人はいない。
「『英雄』も、心臓一つの人間一人だって事を理解してないの。この子の『傷』を気にかける人が、『弱音』を吐く事を許す人が、この世界にどれくらいいるかしら?」
「…………」
タクミは瞬光の言葉に、押し黙ってしまう。
彼の友人たちは全員、『英雄』である事を強いる人間ではない。それは確信を持って言える。
しかし、
英雄の苦悩も知らぬまま、ただ救ってくれることを一方的に期待し続ける……そんな人間が大半かもしれない。
「アタシは、『英雄』になんてなるつもりはない。知らない人の為に命を捧げるなんて……とても耐えられなるものじゃないもの」
彼女のその言葉は、切実な願望のように感じられた。
普段の瞬光ならば、きっと心で思っていても、口にする事はないのだろう。
「……ふふ、怖がらせちゃった? 安心して、アタシは息抜きをしに出てきただけだから。この子ももうすぐ帰って来るわよ」
「! ちょっと待て、まだ色々聞きたい事が……」
「大丈夫よ、アタシともまた会えるわ。……そうだ、最後に聞きたいことがあるの。この服……アタシがこの子に選んであげたんだけど、どう思う?」
「そうなのか? ……いや、どうって言われても」
普段から見慣れた瞬光の道着。
一つ言えるのは『とても似合っている』という事くらいだが……それ以上言うべきことは今更見つからない。
そんな事を考えている間に、瞬光は再び急接近してきた。
「ん~? 本当に何も感じないのかしら? 思った事を正直に言っていいのよ?」
「…………」
健全な一般男児なら、恐らく似通った感想が出てくることだろう。
だが、こちらにいるのはナニのナも知らない、無知極まるクソボケ男児である。
なんとか必死に感想を絞り出した末、出てきた答えは……
「……何で髪の色と一緒に服の色まで変わってるんだ?」
「…………ぷっ、あははは!」
あまりにも間抜けな疑問。
盛大に笑われた。
「ふふふっ……ホント面白い子。『今』の姿の方が、なんだか年相応に見えるわよ? ……それじゃあね、たっくん♪」
なんだか最後にとんでもない悪口を言われた気がする。
問い詰める間もなく、瞬光の髪の毛や尻尾はいつもの栗色に戻ってしまった。
それから少しもしないうちに、元の人格の瞬光が目を覚ます。
「んぅ……あれ? ワタシ、なんでこんなとこで寝て──あれ、タクミ? アナタもいたのね」
「……」
瞬光は眼を擦りながら、不思議そうな顔で周りを見渡す。
「……? どうしたの、タクミ」
「……今さっきまで、白い瞬姐さんがいたんだけど」
「白い、ワタシ……? 何のこと?」
どうやら先程までの事は一切覚えていないらしい。
そもそも、白い瞬光のことは何一つ知らないようだった。
「とりあえず、部屋に戻って寝るわね。おやすみなさい」
「あ、ああ……お休み」
小走りで自分の部屋に帰っていく瞬光。
ひとまず、明日他の誰かにも聞いてみるしかない。
タクミも部屋に戻り、眠りについた。
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「……白い瞬光?」
「ああ」
次の日の朝。
タクミはアキラとリンに、ゆうべの事を話す事にした。
「……その瞬姐さんは、オルフェノクの力が暴走した時に夢の中で出てきた姿と同じだった。ただ、瞬姐さん自身はその自覚がないらしくて」
「ふむ……ゆうべの事も夢だった、と言う訳ではなさそうだね」
「その白い瞬光ってどんな性格なの?」
「いつものと結構違ってたけど……これ言っていいやつかな」
白い瞬光曰く、自身の性格は『瞬光が今まで隠してきた一部分』。
つまり本来は誰にも知られたくなかったものと言う訳で、それを本人の許可なしに明かしてもいいものなのか、判断に迷う。
と言うかそもそも、なぜタクミの前にその姿を現したのだろうか。
「というか、なんで暴走した時の夢に出てきたんだろ?」
「それは俺も思ってたんだけど、聞こうとする前に消えちゃったんだよな……」
そんな事を話していた、その時。
「……あれ? アナタは……」
「今の、瞬光の声? ……なんだろ、お客さんかな?」
「行ってみるか」
正門前まで来た二人。
そこには瞬光の他に、何やら見覚えのある顔がいた。
「初めましてだねえ。キミがウワサの瞬光ちゃん、だねえ」
「は、初めまして……アナタは?」
「『クランプスの黒枝』から来た、ザオちゃんだよお。……お、そっちの二人は久しぶりだね」
「あ、照じゃん。ここに来るのは夢縋りの件以来だね」
TOPSの内部監査組織である『クランプスの黒枝』。
その社員の一人である照が、適当観に訪れていた。
「そう言えば二人は知ってる? 瞬光ちゃんが、次の『虚狩り』になるんじゃないかってお話」
「え!? そうなの瞬光?」
「ちょ、ちょっと待って! ワタシも今聞いたんだけど! というかワタシ、そんな大層な実力は……」
「謙遜しなくてもいいのに~。キミの実力と才能は確かだもん」
「そういや、照さんはここに何の用でここに来たんすか?」
「ふふん、今日はみんなの為にプレゼントを持ってきたんだあ。……なんと、あの葉釈淵の最新情報もあったりして!」
「!! お兄ちゃんの!?」
その言葉に、瞬光は真っ先に食いつく。
「もしかして、お兄ちゃんの居場所が分かったの!?」
「分かったというより、情報を手に入れた感じかなあ。教えてあげてもいいけど……それ相応のものが欲しいかなあ」
「相応のもの?」
「そう。 ビジネスのキホンは『等価交換』……ザオちゃんがキミに欲しいものをあげる代わりに、キミの方もザオちゃんに欲しいものを渡すの」
「照は何をして欲しいの?」
「えっとね、それに関してはザオちゃんが今日ここに来た理由でもあるんだけど──」
「ラマニアンホロウで、未知のエリアが見つかったから……それを調べに行きたいの」